きみに会うためのデスゲーム

 2階から降りてきた蓮は、再び舞台袖へと僕を連れた。
「調理室に行くんじゃないの?」
「罠かもしれない」
「罠?」
「梶本は人間かもしれない」
 壁にもたれてふたりで座る。
「ロボットである確証も、人間である確証もない。あいつの言うことを鵜呑みにはできない」
 それに、と蓮は続けた。
「あいつはロボットを『集めよう』と言った。それが引っかかる」
「そう……かな」
「自分がロボットなら、『集まろう』と言うはずだ」
 考えすぎな気もしたが、反論する理由はなかった。
 みんなの集まる場所へ行くより、僕は蓮と一緒にいたい。この試験ができるだけ長引けばいい。
「僕は……蓮と一緒なら、どこでもいいよ」
 兄の自覚がないからか、自分の声が甘かった。
「綾人……」
 蓮の両手が、僕の頬を挟んだ。
「俺たちが生きていればこの試験は終わらない。ずっと逃げ続けよう」
 僕は頷いた。それを待ってから、蓮は僕にキスをした。
 興奮した手が、僕のシャツを脱がそうとボタンに伸びた。僕の肩は銀色の内部が剥き出しになっていて、一目でロボットとわかる。すでに見られているとは言え、完全にシャツを脱ぐのは躊躇われて、拒むように彼の手を掴む。
「いや?」
 蓮が甘えるように言って、僕の唇にキスをした。
「人間じゃない」
「綾人は人間だ」
 怒りが込み上げて、僕は声を荒げた。
「これのどこがっ……人間なんだっ……」
 蓮の手を本気で拒む。でも敵わなかった。彼は器用に僕の手を避けながら、僕のシャツを脱がしていく。
「綺麗だ……」
 僕の体を見て、蓮は言った。あの日と全く同じ、ため息のような声だった。
「どこが……僕は、ロボットだ」
 ロボット。なんて、陳腐な響き。
「不気味な、ロボットだ……」
 声が裏返った。僕はロボット。誰とも血のつながらない、人工物。
「綾人には家族がいる。あの人に会いに行けばいい」
 シャツやブレザーを下に敷いて、その上に僕を押し倒すと、蓮は僕の耳……ピアスごと耳たぶを軽く噛んだ。
「このピアスをつけたあの人は、綾人を息子と認めるはずだ」
「……やめてくれ……」
「どうして?」
「……そんなに言われたら……会いたくなる」
「会いに行けばいい」
「無理だっ……」
「無理じゃない」
「わかってるのかっ……蓮……」
 僕が勝つということがどういうことか。
「わかってるさ」
 蓮は体を起こして、自らシャツのボタンを外していく。火傷や根性焼き、残酷な虐待の痕跡が、皮膚一面に広がっている。
「綾人は、この醜い体を見て、俺たちは兄弟だと言ってくれた」
 蓮の手が僕の手を掴んで、僕の手は彼の火傷に触れた。
 戸惑う僕の反応を見て、彼は満足そうに微笑んだ。
「手を引っ込めようともしない。こんな体に、触れてくれる」
「だって……蓮の体だ」
「でもみんな怖がって、俺を拒んだ。綾人のおかげで箸が持てるようになっても、姿勢が良くなっても、みんな、俺の醜い体を拒絶した。見るのも悍ましいというふうにね。
綾人だけが俺に触れることを許してくれた。綾人だけが……」
 蓮の両目からツウっと涙がこぼれた。
「だから……僕のために……死ぬっていうの?」
「でも、また会える」
 僕は怪訝に眉根を寄せた。
「きっと俺には次がある」