俺と馨は屋上にいた。
屋上にはドーム型の貯水タンクがあり、俺たちはその下で雨をしのいでいた。
「嵐士と俺は……ずっと養護施設で一緒だった……」
馨はうずくまるようにして頭を抱えながら言った。
ガラス片で切りつけた俺の指には、ぷっくりと赤い血が浮き出ている。馨の目に触れないよう、俺はポケットにその手を入れた。
「あいつがロボットなんて……あ、ありえない……っ……だって……だって……俺たちは一緒に成長したんだっ……あいつが血を流すのだって見たっ! 俺は見たんだっ!」
「俺も、怪我をした記憶がある」
馨が俺を見た。
「でも……ロボットだ」
と言って、俺は切りつけた指を彼に見せた。
馨の目が大きく見開かれる。その目で俺を見た。
文字が乱れてごめんなさい。実は目を閉じて書いてるの。私の目を通して、アースの関係者が手紙を読むかもしれないから。
大島美奈の文字が脳裏に浮かんだ。
馨は……まだ馨は自分がロボットか確かめていない。でもロボットなら、この瞳の奥にはアースの関係者がいるかもしれない……
「仁……お前……も?」
火事で両親を失ったあの日、俺は左手の人差し指と親指を失った。アースの補装具のおかげでそこは、本物の指のように違和感がない。
でも、もちろん、ガラス片で切りつけて血が出ることはない。
馨がロボットかどうか定かではない状況で、俺はロボットだと嘘をついた。
「そうみたいだ」
と、俺は彼の目を見て言った。
「っ……」
馨の喉が上下に動く。
「馨、お前は?」
「おっ、俺は人間だっ!」
「だったら……どっちかが死ななきゃならない」
鼓動が加速する。なんのために俺はこんな嘘をついているんだろう。
人間とロボット、どちらかが全滅しなければこの試験は終わらない。
俺は馨のために命を投げ出そうとしているのか?
その覚悟ができているのか?
違う。俺はただ……ただ、馨と一緒にいたい。この試験を長引かせて、できるだけ長引かせて、最後のことを考えずに、ただ一緒にいたい。そのためにロボットだと嘘をついた。
馨はまだ、自分がロボットだと気づいていない。
ロボットじゃないかもしれない。それならいい。俺も「本当は人間だ」と打ち開ければいいのだから。
でも大島の言った通り、ロボットには味覚がなく、馨がロボットだったら……
人間であるとバレるわけにはいかない……
「俺、死ねるよ」
馨は呼吸を整えて、ひどく冷静な声色で言った。
「仁のためなら死んでもいい」
「っ……」
「なんて顔するんだよ」
馨は微笑んで、俺の頬をスッと撫でた。
「お前をこの世に繋ぎ止めるためなら死んでもいい」
「……」
「恩着せがましいかな。でも、俺のこと覚えておいて欲しいから」
忘れるわけがない。初めてのキスだって。
「先生」
馨は先生に問いかけた。
「ロボットが勝ったクラスは?」
『ロボット、が、勝った、クラス、は、2組、と、4組、です』
先生が答えた。
2組と4組はロボットが勝った……
大島美奈は4組だ。4組は5時間という速さで卒業試験を終わらせた……
大島美奈が、事前に試験内容を把握していたから。
「大丈夫、これは、ロボットも勝てる試験だ」
大丈夫、大丈夫、と馨は繰り返し続けた。
屋上にはドーム型の貯水タンクがあり、俺たちはその下で雨をしのいでいた。
「嵐士と俺は……ずっと養護施設で一緒だった……」
馨はうずくまるようにして頭を抱えながら言った。
ガラス片で切りつけた俺の指には、ぷっくりと赤い血が浮き出ている。馨の目に触れないよう、俺はポケットにその手を入れた。
「あいつがロボットなんて……あ、ありえない……っ……だって……だって……俺たちは一緒に成長したんだっ……あいつが血を流すのだって見たっ! 俺は見たんだっ!」
「俺も、怪我をした記憶がある」
馨が俺を見た。
「でも……ロボットだ」
と言って、俺は切りつけた指を彼に見せた。
馨の目が大きく見開かれる。その目で俺を見た。
文字が乱れてごめんなさい。実は目を閉じて書いてるの。私の目を通して、アースの関係者が手紙を読むかもしれないから。
大島美奈の文字が脳裏に浮かんだ。
馨は……まだ馨は自分がロボットか確かめていない。でもロボットなら、この瞳の奥にはアースの関係者がいるかもしれない……
「仁……お前……も?」
火事で両親を失ったあの日、俺は左手の人差し指と親指を失った。アースの補装具のおかげでそこは、本物の指のように違和感がない。
でも、もちろん、ガラス片で切りつけて血が出ることはない。
馨がロボットかどうか定かではない状況で、俺はロボットだと嘘をついた。
「そうみたいだ」
と、俺は彼の目を見て言った。
「っ……」
馨の喉が上下に動く。
「馨、お前は?」
「おっ、俺は人間だっ!」
「だったら……どっちかが死ななきゃならない」
鼓動が加速する。なんのために俺はこんな嘘をついているんだろう。
人間とロボット、どちらかが全滅しなければこの試験は終わらない。
俺は馨のために命を投げ出そうとしているのか?
その覚悟ができているのか?
違う。俺はただ……ただ、馨と一緒にいたい。この試験を長引かせて、できるだけ長引かせて、最後のことを考えずに、ただ一緒にいたい。そのためにロボットだと嘘をついた。
馨はまだ、自分がロボットだと気づいていない。
ロボットじゃないかもしれない。それならいい。俺も「本当は人間だ」と打ち開ければいいのだから。
でも大島の言った通り、ロボットには味覚がなく、馨がロボットだったら……
人間であるとバレるわけにはいかない……
「俺、死ねるよ」
馨は呼吸を整えて、ひどく冷静な声色で言った。
「仁のためなら死んでもいい」
「っ……」
「なんて顔するんだよ」
馨は微笑んで、俺の頬をスッと撫でた。
「お前をこの世に繋ぎ止めるためなら死んでもいい」
「……」
「恩着せがましいかな。でも、俺のこと覚えておいて欲しいから」
忘れるわけがない。初めてのキスだって。
「先生」
馨は先生に問いかけた。
「ロボットが勝ったクラスは?」
『ロボット、が、勝った、クラス、は、2組、と、4組、です』
先生が答えた。
2組と4組はロボットが勝った……
大島美奈は4組だ。4組は5時間という速さで卒業試験を終わらせた……
大島美奈が、事前に試験内容を把握していたから。
「大丈夫、これは、ロボットも勝てる試験だ」
大丈夫、大丈夫、と馨は繰り返し続けた。


