校舎の中はもっと悲惨だった。
廊下にはポタポタと血痕が続き、それに誰かが足を滑らせた形跡がある。
死体や、肉片はない。人間の痕跡は、あくまでも血液だけ。でもその量が凄まじい。
ガラス片も落ちていた。点いている照明が少ないのは、照明が割れているからだ。
「拳銃でも支給されるのかな」
僕の隣で蓮が言った。
「お、おい……お前ら、教室、行かないのかよ……?」
少し前を歩いていた梶本俊介が言った。
「先生」
蓮は答えず、先生に問い合わせた。腕に巻かれたリストバンドがチカチカと点滅する。
「試験開始は9時からですよね? あと何分ありますか?」
『現時刻、8時、50、2分、試験開始、まで、あと、8分、です。教室、へ、移動、してください』
「まだ8分ある」
「いやいや、早く行こうって!」
「ヒントがあるかもしれない」
蓮が言った。
「ヒント?」
「4組は早く終わっただろ。きっとどこかに」
「4組にはっ……や、やる気満々のサイコパスがいたってことだろっ……」
「まだデスゲームと決まったわけじゃない」
「こんなのっ……デスゲームしかありえないだろっ!」
「だとしても、生き残りがひとりってことはない。4組はたったの6時間で終わったんだ。そんな短時間でひとりが決まるとは思えない」
蓮はそう言って靴箱に引き返した。僕も後を追う。
スチール製の靴箱がズラリと並んでいる。視線を走らせ、血が付着した靴箱を見つけた。
そこへ蓮が行く。
蓮は靴箱を開けた。何もない。適当にその周囲の靴箱も開けていくが、特に何も出てこない。
「卒業試験の時間にバラツキがあるのは、試験に対する積極性、理解度、実行力が違うからだ。4組は試験に積極的かつ、ルールの理解が速く、実行力に長けていた」
「そんなのっ……今考えなくたって良いだろっ!」
蓮は構わず靴箱を開けていく。
ヒント…………そんなもの、あるんだろうか。
「お、俺は教室行ってるからなっ!」
梶本が去っていった。
僕も靴箱を開けた。何もない。開けた。何もない。反対側の靴箱を振り返った。こちらにも血が付着したロッカーがいくつかあった。
「ん……?」
血が付着した靴箱は、パッと見ただけでも10個以上。どれも同じ血のつき方で、違和感を覚えた。母印のような血の痕は、何かのサインだろうか。殺された人間? いや、そんなの記す必要はない。印をつける必要があるとしたら……
「要注意人物?」
僕は血のついた靴箱を開けた。何もない。次も、次も、何もない。
開けた。何かがあった。
僕は手を突っ込んだ。硬くて小さな……
「ネジ?」
ネジだった。ヒントと呼べるような代物じゃない。こんなのは、ガラス片と一緒だ。
でもなぜだろう。目が離せない。ネジ一本に胸がざわつく。
「綾人? 何かあった?」
蓮が聞いた。
「ネジが……」
「ネジ……どこに使われてたものだろう……」
僕は後退り、靴箱全体を見渡した。このサインは一体誰が、なんのために付けたのか。
『教室、へ、移動、してください』
先生が言い、「そろそろ行こうか」と蓮が僕の手を取った。
僕はネジをズボンのポケットにしまった。階段へ向かう。ここも照明が割れていた。窓がないため、廊下よりも薄暗い。
「綾人、大丈夫だよ。ひとりだけ生き残るわけじゃない」
「うん……」
踊り場には、乾き切っていない血溜まりがあった。4組の学生のものだろう。
4組の卒業試験はたったの5時間で終わった。ひとりになるまで殺し合うわけじゃない。
でも、校舎は血に塗れている。ひとりとは言わずとも、卒業試験を終わらせるには、相当な数の犠牲が必要なのは間違いない。
パッと頭に浮かんだのは、
「人狼……?」
人狼ゲームは村人と狼の心理戦だ。村人と狼に割り振られ、殺し合わされる……なくもないが、クラスによってそれほど大きな時間差が生まれるとは思えない。
他のクラスが見つけられなかった攻略法を、4組は見つけた。
こんな状況なのに、僕はほとんど恐怖を感じていなかった。
それよりもこの試験を乗り切らなければという使命感が強かった。
廊下にはポタポタと血痕が続き、それに誰かが足を滑らせた形跡がある。
死体や、肉片はない。人間の痕跡は、あくまでも血液だけ。でもその量が凄まじい。
ガラス片も落ちていた。点いている照明が少ないのは、照明が割れているからだ。
「拳銃でも支給されるのかな」
僕の隣で蓮が言った。
「お、おい……お前ら、教室、行かないのかよ……?」
少し前を歩いていた梶本俊介が言った。
「先生」
蓮は答えず、先生に問い合わせた。腕に巻かれたリストバンドがチカチカと点滅する。
「試験開始は9時からですよね? あと何分ありますか?」
『現時刻、8時、50、2分、試験開始、まで、あと、8分、です。教室、へ、移動、してください』
「まだ8分ある」
「いやいや、早く行こうって!」
「ヒントがあるかもしれない」
蓮が言った。
「ヒント?」
「4組は早く終わっただろ。きっとどこかに」
「4組にはっ……や、やる気満々のサイコパスがいたってことだろっ……」
「まだデスゲームと決まったわけじゃない」
「こんなのっ……デスゲームしかありえないだろっ!」
「だとしても、生き残りがひとりってことはない。4組はたったの6時間で終わったんだ。そんな短時間でひとりが決まるとは思えない」
蓮はそう言って靴箱に引き返した。僕も後を追う。
スチール製の靴箱がズラリと並んでいる。視線を走らせ、血が付着した靴箱を見つけた。
そこへ蓮が行く。
蓮は靴箱を開けた。何もない。適当にその周囲の靴箱も開けていくが、特に何も出てこない。
「卒業試験の時間にバラツキがあるのは、試験に対する積極性、理解度、実行力が違うからだ。4組は試験に積極的かつ、ルールの理解が速く、実行力に長けていた」
「そんなのっ……今考えなくたって良いだろっ!」
蓮は構わず靴箱を開けていく。
ヒント…………そんなもの、あるんだろうか。
「お、俺は教室行ってるからなっ!」
梶本が去っていった。
僕も靴箱を開けた。何もない。開けた。何もない。反対側の靴箱を振り返った。こちらにも血が付着したロッカーがいくつかあった。
「ん……?」
血が付着した靴箱は、パッと見ただけでも10個以上。どれも同じ血のつき方で、違和感を覚えた。母印のような血の痕は、何かのサインだろうか。殺された人間? いや、そんなの記す必要はない。印をつける必要があるとしたら……
「要注意人物?」
僕は血のついた靴箱を開けた。何もない。次も、次も、何もない。
開けた。何かがあった。
僕は手を突っ込んだ。硬くて小さな……
「ネジ?」
ネジだった。ヒントと呼べるような代物じゃない。こんなのは、ガラス片と一緒だ。
でもなぜだろう。目が離せない。ネジ一本に胸がざわつく。
「綾人? 何かあった?」
蓮が聞いた。
「ネジが……」
「ネジ……どこに使われてたものだろう……」
僕は後退り、靴箱全体を見渡した。このサインは一体誰が、なんのために付けたのか。
『教室、へ、移動、してください』
先生が言い、「そろそろ行こうか」と蓮が僕の手を取った。
僕はネジをズボンのポケットにしまった。階段へ向かう。ここも照明が割れていた。窓がないため、廊下よりも薄暗い。
「綾人、大丈夫だよ。ひとりだけ生き残るわけじゃない」
「うん……」
踊り場には、乾き切っていない血溜まりがあった。4組の学生のものだろう。
4組の卒業試験はたったの5時間で終わった。ひとりになるまで殺し合うわけじゃない。
でも、校舎は血に塗れている。ひとりとは言わずとも、卒業試験を終わらせるには、相当な数の犠牲が必要なのは間違いない。
パッと頭に浮かんだのは、
「人狼……?」
人狼ゲームは村人と狼の心理戦だ。村人と狼に割り振られ、殺し合わされる……なくもないが、クラスによってそれほど大きな時間差が生まれるとは思えない。
他のクラスが見つけられなかった攻略法を、4組は見つけた。
こんな状況なのに、僕はほとんど恐怖を感じていなかった。
それよりもこの試験を乗り切らなければという使命感が強かった。


