調理室には甘い匂いが充満していた。
調理台には色とりどりのタルトと焼きたてのパウンドケーキが置かれている。
「大島さんのお菓子が食べられるのも今日で最後かあ」
吉田寛太が言った。
明日から卒業試験が始まる。1組から順にこの学校で行い、終わり次第、学生は江場村を去る。
卒業試験を行う間、他のクラスは寮で待機。そのため僕たち5組の生徒は、4組の卒業試験が終わるまで、もうここへは来れないし、1組の大島美奈と会うこともない。
「たくさん食べて」
大島が微笑む。
「うまっ! これ、めちゃくちゃうまいっ!」
梶本俊介が言った。
「この一年でまた上達したね。最初からすごくおいしかったけど」
タルトを食べながら三崎馨が言った。
「未来のパティシエですから」
大島はえっへん、と腕を組んだ。
「店出したら教えてね」
蓮が言うと、大島は分かりやすく頬を染め、モゴモゴと言った。
「お店出せるようになるには……まだまだ先だと思うけど……」
「俺たちにも教えてくれよな」
桐谷嵐士が言った。
「もちろんっ!」
大島は威勢よく言った。
「でもさあ、卒業試験って何やるんだろうな」
梶本が言った。
「ただの筆記試験だったら、わざわざクラスごとにやる必要ないもんね」
と大島。
「デスゲームとか?」
吉田が言った。
「俺たちで?」
三崎が肩を揺する。
「バトルロワイアルはひとりになるまで。5組だったら誰が生き残るかな?」
梶本が言った。
みんなの視線が一斉に、桐谷嵐士に向かった。
「俺か?」
桐谷は苦笑した。
「パワーで考えたらお前一択だろ。剣道有段者で足も速い。クラスと言わず、全校生徒で殺し合ってもお前が勝つよ」
吉田が言った。
「お前らなあ、肝心なことを忘れてねえか?」
桐谷が呆れたように言った。
「なんだよ?」
と梶本。
「俺は、情が熱い男だ」
桐谷はそう言って、厚い胸板を拳で叩いた。
「人間を殺すなんてできねえよ」
「ははっ、その視点があったか」
梶本が笑った。
「じゃあ誰?」
「家族がいる人間」
蓮が言って、皆の視線が蓮に集まった。
「結局、家族がいる人間が生き残るんじゃないかな。死ぬわけにはいかないって気持ちが強いから」
「誰がいんの」
吉田が卑屈に笑った。
「俺たち全員、天涯孤独のみなしごじゃないか」
重い空気が流れた。吉田は両親が離婚して、どちらも彼を引き取らなかったからアースの児童養護施設に入所したと言っていた。
「マジに考えるなって。デスゲームなんてありえないんだから」
三崎が場を取り直すように言った。
「俺たちってさ、アースの商品開発のためにここに来たわけだろ?」
僕は入学式の日のことを思い出した。
『この一年、皆様には、我が社の商品開発に協力していただきます。情報漏洩を防ぐため、あらゆる通信、外出を禁止させていただきます』
学校はフルオートメーションで、僕たち以外人間はいない。最新ロボットのマージと、装着を義務付けられた「先生」……確かにこの学校生活は実験的だった。
「だから卒業試験も、商品開発に関係してると思うんだよ」
「なるほど……」
大島が顎に手を当て、考えるポーズをした。
「ダメだ……さっぱりわからない」
僕はチラリと蓮を見た。
蓮はどうしてあんなことを言ったんだろう。僕たちは兄弟……家族だ。でも「たったひとりしか生き残れない」というルールでは、どちらかが死ぬ。
だから「家族がいる人間が生き残る」という彼の意見は僕たちには適応外だ。
でも……僕にはどうしてもそれが、僕らを指していると思えてならなかった。
調理台には色とりどりのタルトと焼きたてのパウンドケーキが置かれている。
「大島さんのお菓子が食べられるのも今日で最後かあ」
吉田寛太が言った。
明日から卒業試験が始まる。1組から順にこの学校で行い、終わり次第、学生は江場村を去る。
卒業試験を行う間、他のクラスは寮で待機。そのため僕たち5組の生徒は、4組の卒業試験が終わるまで、もうここへは来れないし、1組の大島美奈と会うこともない。
「たくさん食べて」
大島が微笑む。
「うまっ! これ、めちゃくちゃうまいっ!」
梶本俊介が言った。
「この一年でまた上達したね。最初からすごくおいしかったけど」
タルトを食べながら三崎馨が言った。
「未来のパティシエですから」
大島はえっへん、と腕を組んだ。
「店出したら教えてね」
蓮が言うと、大島は分かりやすく頬を染め、モゴモゴと言った。
「お店出せるようになるには……まだまだ先だと思うけど……」
「俺たちにも教えてくれよな」
桐谷嵐士が言った。
「もちろんっ!」
大島は威勢よく言った。
「でもさあ、卒業試験って何やるんだろうな」
梶本が言った。
「ただの筆記試験だったら、わざわざクラスごとにやる必要ないもんね」
と大島。
「デスゲームとか?」
吉田が言った。
「俺たちで?」
三崎が肩を揺する。
「バトルロワイアルはひとりになるまで。5組だったら誰が生き残るかな?」
梶本が言った。
みんなの視線が一斉に、桐谷嵐士に向かった。
「俺か?」
桐谷は苦笑した。
「パワーで考えたらお前一択だろ。剣道有段者で足も速い。クラスと言わず、全校生徒で殺し合ってもお前が勝つよ」
吉田が言った。
「お前らなあ、肝心なことを忘れてねえか?」
桐谷が呆れたように言った。
「なんだよ?」
と梶本。
「俺は、情が熱い男だ」
桐谷はそう言って、厚い胸板を拳で叩いた。
「人間を殺すなんてできねえよ」
「ははっ、その視点があったか」
梶本が笑った。
「じゃあ誰?」
「家族がいる人間」
蓮が言って、皆の視線が蓮に集まった。
「結局、家族がいる人間が生き残るんじゃないかな。死ぬわけにはいかないって気持ちが強いから」
「誰がいんの」
吉田が卑屈に笑った。
「俺たち全員、天涯孤独のみなしごじゃないか」
重い空気が流れた。吉田は両親が離婚して、どちらも彼を引き取らなかったからアースの児童養護施設に入所したと言っていた。
「マジに考えるなって。デスゲームなんてありえないんだから」
三崎が場を取り直すように言った。
「俺たちってさ、アースの商品開発のためにここに来たわけだろ?」
僕は入学式の日のことを思い出した。
『この一年、皆様には、我が社の商品開発に協力していただきます。情報漏洩を防ぐため、あらゆる通信、外出を禁止させていただきます』
学校はフルオートメーションで、僕たち以外人間はいない。最新ロボットのマージと、装着を義務付けられた「先生」……確かにこの学校生活は実験的だった。
「だから卒業試験も、商品開発に関係してると思うんだよ」
「なるほど……」
大島が顎に手を当て、考えるポーズをした。
「ダメだ……さっぱりわからない」
僕はチラリと蓮を見た。
蓮はどうしてあんなことを言ったんだろう。僕たちは兄弟……家族だ。でも「たったひとりしか生き残れない」というルールでは、どちらかが死ぬ。
だから「家族がいる人間が生き残る」という彼の意見は僕たちには適応外だ。
でも……僕にはどうしてもそれが、僕らを指していると思えてならなかった。


