きみに会うためのデスゲーム

 この日も調理室には4組の大島美奈がいた。
「大島さーん!」
 窓から吉田寛太が呼びかけた。
「あ、みんな」
 オーブン前にいた大島が振り返って微笑んだ。
「今日はなに作ってんの?」
 と梶本俊介。
「クッキー。あと3分で焼き上がるよ」
「やった!」
 ここへ来れば大島のお菓子が食べられる。
 そう知ってから、いつからかここに集まるのが日課となった。大島はいつも何か作ってくれていて、俺たちはそれに甘えている。
「大島さん、いつもごめんね」
 俺は小声で言った。ここへ来るようになったのも、元は俺が大島と話していたからだ。
「迷惑……じゃない?」
「ぜんっぜん。私、すごく楽しいよ。お菓子作りは得意だし、どうせならみんなに食べてもらいたい」
「そう……ならいいんだけど」
 俺は調理室を見渡した。調理室には、梶本の恋人や、桐谷を狙っている女子もいて、男女比は同じくらいだ。
「本当に大丈夫?」
 女子の甲高い笑い声が響く。あまりに賑やかで、俺はもう一度聞いた。
「もう、心配しすぎ。大丈夫だよ。一人で食べるより、みんなで食べたほうが絶対美味しいし。みんなが来なきゃ、私のお菓子はカラス行き」
 オーブンがピピピと鳴った。
「あ、できたよ」
 大島がオーブンを開け、鉄板ごと焼きたてのクッキーを取り出す。
「ごめん、そこ退いてくれる?」
 大島が調理台に寄りかかっていたふたり組に言う。ふたりは桐谷狙いの他クラスの女子で、スカートが短く、巻き髪で、化粧をした派手な生徒だ。
「あ、ごめーん」
 と言って避けた時、大島を見る目が鋭かった。明らかに敵意がこもっていて、嫌な感じだ。
「うまそー!」
「食っていい!?」
「どうぞ」
 と大島が言うと、みんなの手が、一斉にクッキーに伸ばされた。
「ゴホッ」
 まず口に入れたのは芦屋裕樹だった。
「なんだこれ……」
 と言って、クッキーを口から吐き出す。蛇口を開け、水道水を口に含んだ。
「え……」
 と大島。慌てたようにクッキーを口に入れる。
「うわ、まっず……」
 と、梶本の恋人、南条みのりが言った。
「あ、ごめん……」
 大島は賢明な笑顔で、「ううん」と首を横に振った。
「私こそごめんね。分量間違えちゃったみたい」
 大島の声は震えていた。
 ふと、派手な女子ふたり組が目に入った。愉快そうに口角をあげている。
 まさか……あのふたりが生地に手を加えたんだろうか。冷蔵庫で生地を寝かせている間なら、できなくもない。
「お前ら大袈裟なんだよ」
 不愉快げに、桐谷が言った。桐谷はクッキーをふたくちで食べると、「うまいよ」と言って、大島に笑いかけた。
「うわっ……マジかよ」
 芦屋が言い、桐谷が芦屋をキッと睨んだ。
「俺も……別に変な味がするとは思わなかったけどな」
 と言って、梶本が2枚目のクッキーに手を伸ばす。
 梶本の恋人、南条みのりは「えっ」と狼狽えた。
「やめなよっ! これっ、絶対体に悪いって!」
「言い過ぎだろ」
 梶本は呆れたように言った。
「せっかく作ってくれたのにさ、みんな感じ悪くない?」
「うん。俺はうまいと思うよ」
 と吉田寛太。桐谷と特に仲がいいふたりは、大島が傷つかないように、平気な顔でクッキーを食べている。
 大島の目には涙が滲んでいた。
 俺は馨を見た。まだ馨はクッキーを食べていなかった。みんなの反応に戸惑いつつ、彼はクッキーを口に運んだ。
「なんだ……うまいじゃん」
 馨は不思議そうに言った。
 大島が不安げに俺を見る。俺は掴んでいたクッキーを口に運んだ。
 口に入れた瞬間、強烈な苦味と塩気が口いっぱいに広がった。
 信じられなかった。このまずいクッキーを、桐谷や馨は平気な顔で食べた……
 彼らと友達でいたい。大島を傷つけたくない。俺は手に持っていたクッキーを口の中に詰め込んだ。
 強烈な苦味と塩気が口に広がる。鼻の奥がツンとした。とても「おいしい」とは言えない味だった。みんなすごい。桐谷も、梶本も、吉田も、三崎も……
 大島と目が合う。
「おいしいよ。すごくおいしい」
 苦いクッキーを飲み込んで、俺は言った。