きみに会うためのデスゲーム

 授業中、体調不良を訴えて、蓮が教室を出て行った。
 授業が終わるなり、僕は一階の保健室へ向かった。
 ドアを開ける。3つ並んだベッドのうち、奥のベッドだけカーテンが閉まっていた。一歩踏み出した時、
 カーテンの隙間から、女子生徒が飛び出してきた。まるで強姦に遭ったような身なりで、胸元が大きくはだけている。
「っ……」
 女子生徒は僕を見て、驚いたように目を見開いた。気まずそうに行こうとするから、僕は咄嗟にその手を掴んだ。
「大丈夫?」
 僕が言うと、彼女はコクンと頷いた。
「本当に?」
 ドクドクと心臓が波打った。蓮が……無理矢理そういうことをしようとしたのだろうか……
「……蓮、だよね?」
「蓮くんは悪くないのっ!」
 彼女は悲鳴のように言った。
「蓮くんのせいじゃないのっ……これは……私の問題だから……っ」
 彼女はそう言って、保健室を出て行った。
「…………」
 会話を聞いていたはずなのに、蓮は一向に出てこない。
 僕は足早にカーテンの方へと向かった。シャッと勢いよくカーテンを開ける。
「っ……」
 蓮は、枕を向いて、ぺたんと座り込んでいた。上半身は裸だった。彼の背中には、びっしりと暴虐の跡が残っている。
 見た瞬間、全てを察した。引かれたのだ。ここで、そういう雰囲気になって、いざ事に及ぼうとして、けれど服を脱いだ蓮を見て、彼女は怖気付いた。
「蓮っ……」
 僕は蓮を後ろから抱きしめた。
「綾人は優しいな。こんな醜い体に触れてくれる」
 蓮はぽつりと言った。諦めたようなその声が切なかった。
「醜くない……醜くなんかないっ……僕のために背負った痛みじゃないか……」
 強く強く彼を抱きしめた。腹の深いところから、嵐のような激しい感情が溢れてくる。
「蓮……」
 蓮、蓮、蓮……と、何度も彼の名前を呼んだ。
 家族が欲しかったのだ、と僕は気づいた。
 施設で、何不自由ない暮らしをベストだと思いながらも、でも本当は親の顔が知りたかったし、家族に……血縁に強く憧れていた。
「蓮……」
 可哀想な蓮。愛しい蓮。彼のためならなんでもできる気がした。同じ苦しみを受けることも、兄弟でしてはいけないことも。
「僕としよう」
 蓮の体がビクッと跳ねた。
「なに……を……?」
「さっきの子としようとしてたこと。僕が、蓮は醜くないって証明する」
「っ……俺たちは……」
「兄弟」
 だからこそ。もっと深いところで繋がりたい。
「でも、世の中には兄弟でそういうことをしている人たちもいる」
 突然だった。あの日と同じ。僕の体は蓮によってベッドに押し倒された。
「自分がっ……何を言ってるのか分かってんのかっ……」
 蓮の切長の目には涙が溜まっていた。
「分かってるよ。あの日の続きをしよう」
 蓮は怒ったような顔をした。細めた目から涙が溢れた。「はあっ」とため息をついて、彼はゴシゴシと目を擦った。
 そして天井を見上げると、「ははっ」と力なく笑った。
「できるわけ……ないじゃないか……」