きみに会うためのデスゲーム

 馨はとっくに寮に帰っていた。告白の返事が気になって、俺は馨の部屋を訪ねた。
 ガチャリとドアが開いて、髪の乱れた馨が現れた。
「ごめん……寝てた?」
「うん。でも風呂行かないとだし、ちょうどよかった」
 風呂は時間制で、5組の使用時間が迫っていた。
「あの……入っていい?」
「どうぞ」
 縦長の4畳間にはベッドとクローゼットと勉強机が置かれている。俺の部屋と配置は同じだが、物が多いせいか狭く感じた。壁には映画やロックバンドのポスターが貼り付けられている。
「今日、告白されてたよね?」
「ははっ、見てたんだ」
「グラウンドからね」
「俺も見てた。お前、サッカーうまいんだな」
「……返事は?」
「……気になるか?」
「実は学校中探し回った。馨が寮に戻ってると思わなくて」
「ははっ、そりゃ悪かったな」
「……返事は?」
「断ったよ」
「そっか……」
 よかった。
「でも、やっぱりオッケーしようかなって……悩んでる」
「えっ?」
「どうしたって、好きなやつと付き合える道筋が見えないんだ」
「好きなやつって……桐谷?」
 馨は力なく笑った。
「やっぱバレてた?」
「うん」
「……でも、あいつは俺の気持ちを本気にしない」
 驚いた。てっきり馨は、自分の気持ちがバレないように、必死に隠していると思っていた。
「馨は……勇気あるね」
「ふふっ、だろ? でもあいつは分かってくれないんだよ。すげー勇気出して告ったのに、『冗談よせ』だって。俺、ゲイだって公言してんだぜ? 冗談なわけないのにな」
 馨は苦しげに笑った。
「きっと友達でいたいんだよ」
「俺は友達でいられなくなる覚悟で告ったのにな……」
「……」
「あいつに告っても、俺の気持ちは跳ね返される。だったらもう……俺を好きだってやつとくっついたほうが楽なのかなって……俺だって男だ。キスだってセックスだってしてみたい」
 ボッと顔が熱くなった。馨が俺の顔を覗き込んできて、俺はたまらず目を逸らした。それでも視線を感じて、ギュッと固く目を閉じた。
「……馨は、そういうことができれば、誰でもいいの?」
「……ああ」
「なら……お……」
 大きく息を吸って吐く。固く閉じた目を開けた。
「俺じゃ……ダメかな……?」
「なに、お前」
 馨はうっすらと笑って、俺の頬に手を添えた。
「俺とそういうことしたいわけ?」
 張り詰めていたものが解けて、ふっと頬が緩んだ。でも目の奥が熱い。
「したい」
 答えると、すぐさま「俺も」と返ってきた。このスピードは優しさの成せる技だと思った。馨は俺の緊張と不安を察して、すぐに答えてくれたのだ。
 馨の端正な顔が迫った。
 キスなんて一生できないと思っていた。ましてや男となんて。
 唇が重なる。このキスを、きっと俺は生涯忘れないだろう。