Re:BRAVE・ZERO

「では、これより卒業試験を始める――呼ばれた者は、魔法実技室に来る様に――尚、課題は動物変身魔法とする」
「(ガーン)…(よりにもよって、俺が一番苦手な魔法じゃねぇか)」

英雄アカデミーの魔法実技室に呼ばれた、勇樹(ゆうき)少年が、卒業試験の試験官である、ランスロット先生とニール先生の前に立つ。

「(だけど、だけどな?――やってやる!)」
「光と闇の精霊よ、我が呼び声に応えよ、幻影の祝福にて、我が姿を獣と化っ…」
「…(あ、舌噛んだ)…」
「変身魔法、動物擬態(アニマルミミック)!」

 杖を構え、深呼吸をし、自分自身を落ち着かせる。
 全身の血管に魔力を循環しているイメージをして、集中して詠唱を始める。
 詠唱を終えたタイミングで、体を自然に生きる動物へと変身する。

「ん?」
「こ、これは?」

 勇樹(ゆうき)少年が変身したのは、馬の姿になろうとして、首から上だけ人間で、身体は馬、尻尾が犬の姿に変身してしまった。

「…(あ、あれー?――こんな筈じゃ)…」
「うーん…」
「ランスロット先生、彼は身のこなしやスタミナは優秀ですし――身体の一部ですが動物に変身出来ています――合格にしてあげても?」
「はあぁぁ(期待の眼差し)」

 勇樹(ゆうき)少年の動物変身魔法のミスや失敗をあえて責めず、さりげなくフォローするニール先生こと、英雄アカデミーの教師のニール・ガウェイン先生。
 生徒思いで心優しく、他の生徒や同僚の先生や教職員からも、信頼されて、尊敬される人。
 指導者の模範になるのに相応しいと、他の生徒の親御さんや国王陛下からも言われている男。

「ニール先生、みんな最低でも動物の姿に完全に変身しているんです――でも勇樹(ゆうき)は、動物の姿になれていませんし、今回の課題をクリアしたとは言えないので、合格とは認められません」
「くっ…」

 両手に目一杯力を込めた握り拳を作って、体が震わせ、顔と拳に悔しさを滲ませながら、少年は俯(うつむ)く。

「随分(ずいぶん)と厳しいですね――ランスロット先生?――生徒の中には、剣術や体術といった――魔法の才に恵まれ無かった者や、魔法以外の道しか出来ない生徒も、一部ですが居ます――そういった生徒に対しても、今、勇樹(ゆうき)君に言った事をそのままを伝える事は出来ますか?」
「ニール先生、試験中ですよ?」
「いえ、ただ気になった物で――」

 ニール先生からの問いに、冷静に現状の目の前の事に戻る様に言う。
 ニール先生を横目で見ながらも、その問いに対して、冷静に自分の意見を話し始めた。

「そうですね――仮にですが、もし目の前の生徒が、魔法が使えない者であれば、恐らくですが別の形で試験を行いますね」
「別の形とは?」
「例えば、その生徒が得意な剣術や体術で難しいとされる技を披露させるとかでしょうか?――あらかじめ生徒が魔法が使えない事を知っていれば、そういった対応も可能です」

 ランスロット先生の返答に対して、すかさず次の話を話し始めたニール先生。

「それでも例外が無い訳ではありませんよ、ランスロット先生?――これは去年や一昨年ですが、英雄アカデミーの卒業試験の最中に、魔法が使えない事が、試験中に発覚した事例がありました――その際には、国王陛下に対して直訴や陳情(ちんじょう)して――後日改めて、別の形での再試験となった実例があります」
「まあ、確かに――私もそれは存じ上げていますが…何を仰りたいのですか?ニール先生?」

「つまり、今回の件に関しては、勇樹(ゆうき)君が変身魔法が苦手、または出来ない可能性がある以上、国王陛下に対して直訴や陳情(ちんじょう)するべきだと意見しています――この国の法律でも、国民全てが皆平等にとなっているので可能ですよ?」
「しかし、今回の試験課題は――」

「ランスロット先生?――今の発言だと、現役の騎士団、近衛兵、冒険者を敵に回しかねませんよ?」
「という訳だから、勇樹(ゆうき)君、今から国王陛下の居る、王宮ヴィクトリアキャッスルへ行こうか?」

 お昼休み明けに、英雄都市ヴィクトリアマジェスティの王宮ヴィクトリアキャッスルにて、

「――という訳が、ありまして――国王陛下に陳情(ちんじょう)を申し立てしに、ここに参上した次第です」
「うーん…」
「よりによって、あのイタズラ小僧にか?」
「あの者は、あの黒竜が――」

 王宮ヴィクトリアキャッスルの国王陛下の謁見の間に、ニール先生、ランスロット先生、勇樹(ゆうき)の3人と、玉座に座る国王陛下、宰相、その部下や宮廷近衛兵や騎士達が居た。
 英雄アカデミーにて、勇樹(ゆうき)少年が動物変身魔法が使えない、または苦手な事が試験中に発覚した為、後日改めて別の魔法や技術試験に変更して、再度行えないかという申し立てであった。
 その陳情(ちんじょう)に対しては、国王陛下以外の宰相やその部下やご意見番の老師達からは、反対意見や野次が飛んでいた。
 そんな時、2人の男が国王陛下の謁見の間に入って来た。

「ほー?――中々面白い話をしているな?」
「我らもその陳情(ちんじょう)やらに混ぜて貰うのも、一興か?」

 一人は、黄金都市ゴールディーバルクの主君にして、この世にある、ありとあらゆる富と武具を手中に治める、強欲と傲慢の王――力と武の覇者にして、その強さは神と呼ばれ恐れられる男、アロガンス・フォース・ビルガメス。

 もう一人は、征服帝国ストロングエストエンペラーの主君にして、この世のどの国よりも、強固で強靭、国民一人一人の強さが、上級冒険者クラスの強さがあり、兵士一人一人の強さが勇者か、それ以上の強さが平均値が普通、世界最強の武装国家の王――国王自身もその強さは、神にも引けを取らず――国民と自身の部下との絆こそが宝と称す男、アレクサンドロス・マイティー・インヴィンサブル。

 はたして、少年、勇樹(ゆうき)の運命は。