リィンの警告は、ハルの胸に鋭い楔を打ち込んだ。
「あなたの人生は、誰かに書かれた脚本だ」
その言葉が、深夜の寄宿舎で何度もリフレインする。ハルは、自分の掌を見つめた。この掌が掴んできた勝利は、果たして自分の演算の結果なのか、それとも「観客」が差し出した配給品なのか。
翌朝、ハルは一つの実験を試みた。
「……もし、僕が『死』を選ぼうとしたら?」
彼は演習の最中、飛来する魔弾を避ける素振りも見せず、ただじっと立ち尽くした。
本来なら、彼の頭部を粉砕するはずの一撃。
だが、その瞬間。
魔弾は、まるで見えない壁に弾かれたように軌道を変え、ハルの耳元を掠めて背後の壁を砕いた。ハルの意志ではない。物理法則の気紛れでもない。ただ、世界が「彼の死」という結末を拒絶したのだ。
「……はは、そうか」
ハルの内側で、何かが音を立てて壊れた。
恐怖は、一瞬にして歪んだ悦楽へと変わった。
「僕が死のうとしても、世界は許さない。……なら、僕は神が望む以上の『狂気』を演じてやればいい」
ハルは、自分を縛る「脚本」を逆手に取ることを決めた。
神が僕を愛し、僕の物語を「面白く」したいと願うなら、その愛を骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。
彼はこれまで積み上げてきた緻密な計算式を、ゴミのように捨て去った。
「解析などいらない。……ただ、なれ」
彼がそう願えば、指先から放たれる魔力は、本来の数倍の密度で敵を圧殺した。彼が「進め」と命じれば、進軍を阻む大河は一晩で干上がった。
私は、その様子を特等席から、身を乗り出すようにして眺めていた。
「いいぞ、ハル。その開き直り、実に見応えがある」
主役が自分の特権に気づき、それを「神への嫌がらせ」として使い始める。物語としては、これ以上ないほど贅沢な展開だ。私は彼の傲慢さをさらに煽るべく、よりいっそう因果律の糸を緩め、彼に「万能の夢」を見せ続けた。
ハルは、かつてリィンと共に調べた「禁忌記録」を自らの手で焼き払い、灰を空に撒いた。
「リィン、ゼクス。もう怯える必要はない。僕がこの世界の『ルール』そのものになったんだ」
ハルの瞳から、かつての探究者の光が消え、底知れない支配欲が宿る。
彼は学院を去り、自らの「帝国」を築くための玉座へと歩みを進めた。
背後の視線に怯えるのではなく、その視線を「自分の力を誇示するためのスポットライト」として利用し始めたのだ。
こうして、ハルは「神の愛玩物」から「神をも支配する暴君」を自称する怪物へと成り下がっていった。
それが、取り返しのつかない破滅への最短ルートであるとも知らずに。
「あなたの人生は、誰かに書かれた脚本だ」
その言葉が、深夜の寄宿舎で何度もリフレインする。ハルは、自分の掌を見つめた。この掌が掴んできた勝利は、果たして自分の演算の結果なのか、それとも「観客」が差し出した配給品なのか。
翌朝、ハルは一つの実験を試みた。
「……もし、僕が『死』を選ぼうとしたら?」
彼は演習の最中、飛来する魔弾を避ける素振りも見せず、ただじっと立ち尽くした。
本来なら、彼の頭部を粉砕するはずの一撃。
だが、その瞬間。
魔弾は、まるで見えない壁に弾かれたように軌道を変え、ハルの耳元を掠めて背後の壁を砕いた。ハルの意志ではない。物理法則の気紛れでもない。ただ、世界が「彼の死」という結末を拒絶したのだ。
「……はは、そうか」
ハルの内側で、何かが音を立てて壊れた。
恐怖は、一瞬にして歪んだ悦楽へと変わった。
「僕が死のうとしても、世界は許さない。……なら、僕は神が望む以上の『狂気』を演じてやればいい」
ハルは、自分を縛る「脚本」を逆手に取ることを決めた。
神が僕を愛し、僕の物語を「面白く」したいと願うなら、その愛を骨の髄までしゃぶり尽くしてやる。
彼はこれまで積み上げてきた緻密な計算式を、ゴミのように捨て去った。
「解析などいらない。……ただ、なれ」
彼がそう願えば、指先から放たれる魔力は、本来の数倍の密度で敵を圧殺した。彼が「進め」と命じれば、進軍を阻む大河は一晩で干上がった。
私は、その様子を特等席から、身を乗り出すようにして眺めていた。
「いいぞ、ハル。その開き直り、実に見応えがある」
主役が自分の特権に気づき、それを「神への嫌がらせ」として使い始める。物語としては、これ以上ないほど贅沢な展開だ。私は彼の傲慢さをさらに煽るべく、よりいっそう因果律の糸を緩め、彼に「万能の夢」を見せ続けた。
ハルは、かつてリィンと共に調べた「禁忌記録」を自らの手で焼き払い、灰を空に撒いた。
「リィン、ゼクス。もう怯える必要はない。僕がこの世界の『ルール』そのものになったんだ」
ハルの瞳から、かつての探究者の光が消え、底知れない支配欲が宿る。
彼は学院を去り、自らの「帝国」を築くための玉座へと歩みを進めた。
背後の視線に怯えるのではなく、その視線を「自分の力を誇示するためのスポットライト」として利用し始めたのだ。
こうして、ハルは「神の愛玩物」から「神をも支配する暴君」を自称する怪物へと成り下がっていった。
それが、取り返しのつかない破滅への最短ルートであるとも知らずに。
