「本屋の店員は胸が小さい」
高橋は表情を変えずにそう言った。しかし、それを聞いた俺と山口の顔は引きつっていた。心の中に寒風が吹き抜ける。
俺は誰かに聞かれたかどうかが気になり、ちらりと周囲を窺った。誰も気にしている素振りはなかった。ここは男子校だ。そもそも、そんなことを気にする必要はないのかもしれない。
それにしても、高橋が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。
休み時間。俺、山口、高橋のいつもの三人は、他愛のない話題で盛り上がっていた。今日は「あるある」ネタだ。それは「電車でつい端の席に座る」とか、「テスト勉強してないアピールするやつの点数が高い」とかの、本当に取るに足らない話。
第三者が聞けばきっと大層つまらなく、動画だったら即ブラウザバックされてしまうような話題。でも、俺はこういう時間が嫌いじゃない。
ところが、高橋は突然ぶっ込んできた。全く共感できない、少し性的な話題を。
急な話題のギャップのせいか、なんだか歯茎がモゾモゾと痒い。少し気まずい空気が流れる。
「なにそれ?」
山口は呆れた顔で訊き返した。
一方の俺は呆れよりも、理解が追いつかないという困惑が勝っていた。本屋の店員の? 胸が?
しかし高橋は、何でもないような様子で答えた。
「最近思ってたんだよね。本屋のレジにいる人って、みんな胸が平らだなって」
「はあ」
思わず気の抜けた声が出る。何言ってんのコイツ。やっぱり共感できない。
まず本屋なんて、俺の生活の定義域にない。ましてや店員のことなんて、今までほんの少しだって考えたことはない。書店員の姿を頭に描こうとするが、どんな服装なのか、少しも思い浮かばなかった。
「なにそれ? 意味わかんねー。でも、高橋もそういうのに興味あるんだな、意外だわ」
山口は笑いながら言った。そうなのだ、この話題は高橋らしくない。
テーマパークを愛し、全身にキャラクターグッズを身に着け、着ぐるみと写真を撮ることに命をかけている高橋が、女性の身体的特徴に興味があるとは思えなかった。
机の横に掛けられた高橋の鞄には、キャラクターの小さなぬいぐるみが付いていて、季節ごとに新しくなる。ピンクの衣装を纏ったぬいぐるみは、教室の壁の方を見つめていた。
「別に、興味とかじゃねーよ。ただの個人的な見解だよ」
ぶっきらぼうに答える高橋の耳は少し赤い。ようやくこの話題に気恥ずかしさを感じたようだ。このマイペースな様子から、ようやくいつもの高橋らしさを感じて安心する。
その後、チャイムが鳴ったので、俺と山口は席に戻った。少し苦手な化学の授業を前に、心の中で小さくため息をつく。
さっきの心底どうでもいい会話の内容は、授業が始まるまでもなく、すぐに忘れてしまった。
忘れてしまった、はずだったのに。
高橋は表情を変えずにそう言った。しかし、それを聞いた俺と山口の顔は引きつっていた。心の中に寒風が吹き抜ける。
俺は誰かに聞かれたかどうかが気になり、ちらりと周囲を窺った。誰も気にしている素振りはなかった。ここは男子校だ。そもそも、そんなことを気にする必要はないのかもしれない。
それにしても、高橋が何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。
休み時間。俺、山口、高橋のいつもの三人は、他愛のない話題で盛り上がっていた。今日は「あるある」ネタだ。それは「電車でつい端の席に座る」とか、「テスト勉強してないアピールするやつの点数が高い」とかの、本当に取るに足らない話。
第三者が聞けばきっと大層つまらなく、動画だったら即ブラウザバックされてしまうような話題。でも、俺はこういう時間が嫌いじゃない。
ところが、高橋は突然ぶっ込んできた。全く共感できない、少し性的な話題を。
急な話題のギャップのせいか、なんだか歯茎がモゾモゾと痒い。少し気まずい空気が流れる。
「なにそれ?」
山口は呆れた顔で訊き返した。
一方の俺は呆れよりも、理解が追いつかないという困惑が勝っていた。本屋の店員の? 胸が?
しかし高橋は、何でもないような様子で答えた。
「最近思ってたんだよね。本屋のレジにいる人って、みんな胸が平らだなって」
「はあ」
思わず気の抜けた声が出る。何言ってんのコイツ。やっぱり共感できない。
まず本屋なんて、俺の生活の定義域にない。ましてや店員のことなんて、今までほんの少しだって考えたことはない。書店員の姿を頭に描こうとするが、どんな服装なのか、少しも思い浮かばなかった。
「なにそれ? 意味わかんねー。でも、高橋もそういうのに興味あるんだな、意外だわ」
山口は笑いながら言った。そうなのだ、この話題は高橋らしくない。
テーマパークを愛し、全身にキャラクターグッズを身に着け、着ぐるみと写真を撮ることに命をかけている高橋が、女性の身体的特徴に興味があるとは思えなかった。
机の横に掛けられた高橋の鞄には、キャラクターの小さなぬいぐるみが付いていて、季節ごとに新しくなる。ピンクの衣装を纏ったぬいぐるみは、教室の壁の方を見つめていた。
「別に、興味とかじゃねーよ。ただの個人的な見解だよ」
ぶっきらぼうに答える高橋の耳は少し赤い。ようやくこの話題に気恥ずかしさを感じたようだ。このマイペースな様子から、ようやくいつもの高橋らしさを感じて安心する。
その後、チャイムが鳴ったので、俺と山口は席に戻った。少し苦手な化学の授業を前に、心の中で小さくため息をつく。
さっきの心底どうでもいい会話の内容は、授業が始まるまでもなく、すぐに忘れてしまった。
忘れてしまった、はずだったのに。
