佳太は今日の投稿を完了した。
『今日のヘアアレ。オシャレでしょ? 明日これで学校行こっかな?
片側を耳に掛けて編み込んだのだ。
我ながらかわいい!』
すぐに匿名くんからコメントがついた。
『僕も似合うならばそんなかわいい髪型がしたい! 羨ましいな』
次の日、佳太は面食らった。
歩夢が佳太と同じ髪型で教室にいたのだ。
歩夢は佳太の方を見た。佳太は思いっきり目を逸らしてしまった。
「あれ〜佳太と歩夢の髪型被ってんじゃん?! 二人ともかわいい!」
みんなは褒めてくれた。けれど、佳太は嬉しくなかった。
こんなに心が狭かっただろうか?
最近あまり色んなことが許容出来なくなってきている。
──自分に自信がなくなってきている。
全部中里(四季)と、西山(歩夢)、あの二人のせいだ。
そもそもこの髪型も歩夢の方が似合っている……
あいつの方が圧倒的にかわいいのだから……
佳太はトイレの鏡の前に立ち、髪を解いた。
──────
「よっ、けーちゃん。今日はけーちゃんの好きなチョコ持ってきてやったよ。高いやつ」
「ゔぅ〜けーちゃんって呼ぶなぁ! バカ聡一郎! ちゃんと先輩付けろ!」
「はいはい、けーちゃん。今日は学校どうだった? あ、弁当ちょうだいね。けーちゃんのうまいから。俺の食べていいよ」
「あっ!! 僕のから揚げとったぁ!! 酷い〜!!
……いつも通りあんまり楽しくなかった。
今日はあの西山歩夢が僕と同じヘアアレをしてきたから……
悔しいけど、あいつの方がかわいいから……僕解いちゃった」
「けーちゃん、世界一かわいいんだからさぁ、そんな心配せずに堂々とやりなよ? な? 俺にも見せて! 今やって!」
佳太は照れながら髪を編み込むと聡一郎に向かって見せた。
「──うわ。やばい……」
「え? え? やっぱりかわいくない? 変?」
「かわいすぎる……抱きしめて良い?」
「やだよっ!! 馴れ馴れしいっ!!」
聡一郎は佳太に対して恋愛感情を包み隠さずアピールしているつもりだ。
だが佳太本人には全く伝わらない。
──────
午後教室に戻るとまた西山歩夢が佳太を見ている。
今度は不服そうに見られている気がする。
ああ、居心地が悪い。
あろうことかその日は同じ学習班になってしまった。
元々あまり友達もおらず、ずば抜けて明るい方でもない佳太は俯いていた。
そこへ歩夢が嫌味ったらしく声を掛けた。
「ねえ、あんたもちゃんと意見言ってよ。黙ってたらみんなのお荷物なんだけど」
……何でいつもこうだろう。
自分の何がいけないんだろう……?
佳太は俯いたまま涙をこぼした。
「え? 佳太何泣いてんの? どうかした? もしかして僕のせい?」
は? 自覚なし? いつもいじめてくんのは西山くん、あんたじゃん?
「うぇ……ん……ひっ……く……ぼく……なにも……してな……のに……ひぇっ……んっく……」
「ああ、もう!! 佳太、行くよっ!! 先生〜細貝くん保健室連れていきまーす」
歩夢は佳太を保健室まで手を引いて連れて行った。
先生はおらず、二人はベッドに腰掛けた。
「落ち着いた? ねぇ、何で泣いたの? ゆっくりで良いから教えて……?」
「──君、いつも僕のこと睨んでる。僕が何か言ったら僕が泣くまで言い返してくる。……僕よりかわいい。あとただ単にムカつくし、あんたが嫌い」
「えぇ? 僕のこと嫌いなの……? そっか……そうなんだ……」
「はぁ? 逆にどうやったら好かれてると思うんだよ? お前って前から思ってたけどお調子者の馬鹿だよな?! かわいいからって調子乗ってる」
「ひどっ?! ──僕は佳太とずっと仲良くしたいと思ってるよ? けど、僕が四季と仲良いからって、僕のこと敵視してるし……
ねえ……矢田のことまだ好きなの?」
「?! どうでも良いでしょ? あんたなんかに関係ないよ。あんたも中里も大っ嫌い!!」
「──はぁ、みんなして『矢田』『矢田』ってちょっと頭おかしいんじゃない?
逆にあんなやつの何が良いの? 聞かせてよ」
「え? えっと……入学式で2年生に絡まれてたら助けてくれた。それからずっと好き。
だから、中里みたいにただの一目惚れとかとは訳が違う……のに……僕……矢田くんからも……誰からも好きになってもらえない」
「そんなこと言わないでよ!! それに一目惚れも大事な恋の始まりなんだよ?!
僕も入学式の日に一目惚れした人がいるんだ……
告白はするつもりなんだけど、その人には好きな人がいるから……もう少し待つつもり。
でも絶対に僕が手に入れるんだから!!」
「プラス思考だね、西山くんって」
「もー! 硬いなあ。歩夢って呼んで? ね? 佳太? とにかく、僕は君に攻撃してる訳でも何でもないし、睨んでもないよ。だから、気軽に話そ?
佳太……髪、解いちゃったんだね?
もしかして、僕のせい……?
せっかくかわいいのに……僕がやったげるよ。
ね? おそろしよ? ほらあっち向いて!」
──────
それから佳太は歩夢と少しずつ話すことに慣れてきた。歩夢から沢山話しかけてくれる。
意地悪にならない様に優しい言葉を選んでくれているように感じる。ほんとは良い奴なのだ。
四季とも少し話せるようになった。歩夢のおかげだ。
……ひとつ気になることと言えば、相変わらず歩夢は佳太をじっと見ることをやめない。
──────
最近はあの1年、聡一郎と(不本意ながら)お弁当を取っ替えっこをする事態になっている。佳太のお弁当は佳太自身が可愛く作っているのだ。
んー? 今日のインスタ何にしよ……?
あ、取っ替えっこした弁当アップしよ!
あいつの弁当も彩り綺麗だもんね!
聡一郎のお母さんセンス良いよな〜
『今日のお弁当! 友達と取っ替えっこ! 僕の作ったのも可愛いでしょ?』
これに対し、匿名くんの反応は良くなかった。
『お弁当綺麗ですね』
この一言だけだ……うそお?
いつもすごく喜んでくれるのに?
佳太は落ち込んだ。
次の日、明らかにしょげている佳太に聡一郎は尋ねた。
「けーちゃん、どうしたの? お弁当も食べないで……」
「──昨日インスタにアップした写真の反応があんまり良くなかったんだぁ。
お弁当だったんだけど、いつも褒めてくれる人が全然褒めてくれなくて……
ふっっ……ふぇーーん……ひっく……えーーん……」
「もう……嘘だろ? けーちゃん……そんなことで泣くなよ……
コメントもたまたまだって。急いでコメントしたかもしれないじゃん。コメントくれただけましだって」
「そっか……くれただけまし、だね。
プラス思考、プラス思考!!
ありがとう、聡一郎」
佳太はかわいらしく聡一郎に笑いかけた。
聡一郎は顔が熱くなるのを自分でも感じた。
──────
昼休みを終えて教室に戻り、授業の準備をしていると、歩夢は佳太に話しかけた。
「──佳太ってさ、昼ごはんどこで食べてんの?」
「? 校舎裏の木の下。僕入学してからずっとそこだよ」
「誰かと食べてるの? そうだよね?」
「ああ、今年から偶然会った1年生の子と、成り行きでね。どうかしたの?」
「へえ……いつも弁当持ってきてんの?」
「え……? うん……大体は……ねぇ、ほんとにどうしたの?」
「それ、僕も明日から毎日一緒に食べて良い?
どうせ僕も一人で食べてたし。
構わないよね?」
「? うん? もちろん良いに決まってる!! じゃあ、明日から一緒に行こうか!」
──────
次の日も、いつも通り木の下では聡一郎が佳太を待っていた。
「あ、聡一郎! 今日歩夢連れてきたよ!」
聡一郎は顔を歪めた。正直嫌だった。邪魔者だ。
それに……何でよりにもよって佳太をいじめていた歩夢?
誤解は解けたらしいが、関わり合いにはなりたくない。
これ以上佳太にも関わって欲しくなかった。
「はじめまして、聡一郎くん。歩夢です。佳太が君に僕のことなんか言ってるの?」
歩夢はじっと聡一郎を見つめた。
佳太は不思議に思った。
歩夢は自分のこともじっと見つめる。
今は聡一郎のことを真剣に見据えている。
人を見つめるのが癖だろうか?
それにしては聡一郎に対する値踏みのような……
「ああ、聞いてますよ。あんたが、けーちゃんいじめてたって」
「聡一郎っ!! あんた失礼すぎっ!! ごめんね、歩夢と仲良くなる前のことだったし、僕ここでいつも泣いちゃってたから……恥ずかしいけど」
「『けーちゃん』……? そんなふうに呼ばせてるんだ……ふーん」
「あ……ちょうど僕今日お弁当多めに作ってきてるんだ。みんなで分けっこしようよ!
聡一郎のお母さんのお弁当もきれいなんだよ?」
歩夢はボソッと呟いた。
「……知ってるし」
──────
「あ〜! 佳太の手作り美味しかった〜これからは聡一郎くんばっかりには食べさせてあげないよ?
僕、これからもここに来るから。よろしく。
じゃあね、聡一郎くん? さあ、佳太教室戻ろ?」
歩夢は聡一郎にヒラヒラと手を振ると、佳太の肩を抱いて校舎へ向かって歩き出した。
「あーーーー!! 匿名くんからコメントきてる! 嬉しい!」
『すっごくかわいいですね! お友達のお弁当も綺麗で食べるのが勿体無いくらい! 佳太くんのお弁当が食べれるなんて羨ましい!
これからもお弁当シリーズ投稿してください!』
「えー? 佳太どうしたの? 何かあったの?」
「んーと、言うの少し恥ずかしいんだけど、僕、1年生の時からインスタ投稿してて……ちょっと高校デビュー的なとこもあったから……ふふん。
それでいつもコメントくれる人からお弁当にもコメントくれてすごく嬉しくって!」
「ふーん……佳太はその人からのコメント嬉しいの?」
「え? うん……匿名だけど、全部同じ人だってわかるし、いつも褒めてくれる。
僕のことかわいいって言ってくれる。
僕の大切な人……かな?」
「……そうなんだ。そういうのいいね。僕も始めてみよっかなぁ」
「歩夢が始めたら僕がいっぱい書き込むよ!!」
「〜佳太、このかわいい奴めっ!!」
歩夢は佳太に飛びつき頭をワシワシと撫でた。
二人はどんどん親密さを増していった。
聡一郎は機嫌が悪かった。
ここ最近、あの歩夢の野郎のせいでほとんど佳太と話せていない。佳太不足だ。
──────
「けーちゃん、毎日会うから気にしてなかったけど、LINE教えて。二人で話したいこともある」
「へ? 教えてなかった? ああ、ごめん。でも僕LINEあんまり使わないからインスタでも良い?」
歩夢が慌てて叫んだ。
「インスタはダメっ!! あ……きちんと連絡取れるのはLINEの方だからそっちにしときなって」
「え? ああ、うん。じゃLINEね」
それから聡一郎は特に用事がなくとも佳太に
『おはよう』
『おやすみ』
だけは欠かさずに送った。
それからも三人は一緒に弁当を食べている。
相変わらず邪魔をされて、聡一郎は日に日に機嫌が悪くなるようだが……
──────
──やはり感じる。歩夢の聡一郎に対する意味ありげな視線を。
佳太はその視線が少し怖かった。
もしも歩夢が聡一郎を好きになったら……
歩夢の方が可愛いし、性格もハキハキしていて明るい。
聡一郎はきっと歩夢と付き合い始めて、この関係性も崩れるだろう。
自分はそれを応援できるだろうか?
歩夢とは付き合わせたくない。
え……? 今どっちにヤキモチ妬いた?
「佳太? どうしたの? また俯いてるよ? 何かあったらすぐに僕に言いな?」
佳太は無理して笑顔を貼り付けた。
「ううん。太陽、眩しくって。良い天気だね」
──────
教室で感じる、聡一郎に向けられるものとは異質の……自分に向けられる歩夢からの視線。
それに気付いたのはいつ頃からだったろうか?
僕、歩夢に逆(?)ギレしちゃって喧嘩売ったもんな……今年の初め辺りからかな?
もしかすると、今は聡一郎のことが好きで、僕のことが嫌で見ているのかもしれないし……うーん……今、視線の理由は本人には聞きにくい。
──────
梅雨に入り、外ではお弁当を食べられない日が続いた。
蒼士と亮司、玲は文系の四季たちのクラスに集合していた。
「おう、お前らも一緒に食べねえ? 玲ちゃんの弁当、最高だよ?」
亮司は佳太と歩夢の二人を誘った。
「あー!! 佳太の弁当も負けてないんだからっ!!」
歩夢は言い返した。
「てか、細貝といつ仲良くなったん? 四季」
「ああ……歩夢と話してるの見て、いつのまにか……ねー? 佳太」
「はっ、恥ずかしいから……その辺りの話、詳しくはしないで……中里くん」
四季と仲良くなった今となっては、蒼士のことで四季に喧嘩を売ったなんて恥ずかしい。
「あんたたち、うるさい。早く食べるよ? から揚げいる人??」
「玲くんテキパキしてるっ!! から揚げいるーーーー!!」
わいわい……がやがや……
佳太は今まで友達と賑やかに過ごしたことがなかった。とても嬉しすぎて涙が出た。
「あっ! 佳太、また感動して泣いてる! ちょーかわいんだから」
歩夢は佳太に飛び付き頭をわしゃわしゃした。
「うっさいな! もう。……みんな、ありがと」
──聡一郎はこの様子を教室の外から眺めているしかなかった。
──────
外は生憎の雨だが、歩夢が佳太を誘った。
「ねぇ、帰りに美味しくって映えるって噂のシェイクがあるらしいんだけど、行ってみない?
日本初上陸らしいよ!!」
「マジ?? 行く行く!! そんなんインスタに上げるしかないでしょ??」
雨の中1時間ほど並び、やっと注文まで漕ぎ着けた。
「レインボーのチョコソースがけ、タピオカ入りで!」
「僕も同じのにしまーす」
店員さんは親切で、サービス精神旺盛だった。
「あ、タピオカは無料で多めにできるよ! そして、サービスでヨーグルトトッピングしとくね! 裏メニューで、可愛い子だけの特別サービス」
「わーい! ありがとうございます」
雨も上がり、空には大きな虹がかかった。
「わあ! 大きい虹だよ! 虹も一緒に写るかなっ?
ねぇ、今日は歩夢も一緒に撮って良い? 顔出ししても良い?」
「ん〜でもこれ、佳太のインスタだから。
僕の顔で邪魔したくない。佳太の可愛い顔自慢したい(笑)だから僕は顔出しなしでいこう!」
「えー? 歩夢のがかわいいのに……オッケ、はい撮るよー! よし、んで、加工してアップ!!」
『友達と噂のシェイク飲みにきたよ!! さすが日本初上陸! 色が日本じゃない(笑)レインボーにしました』
「……あれぇ……いつもなら匿名くん、すぐにコメントくれるのに……」
「そんなの、仕事とか、学校とかかもしれないよ? せっかちだね〜今夜には絶対くるって!」
「……うん。そだね」
佳太は肩を落とし、落胆した。
「前も聞いたけど、そんなに大事? その人のコメント」
「……うん。僕の今の好きな人……かな。実際に会っても絶対に好きになる。気持ち変わらないと思う。こんなに優しくて、楽しい人そうそういないよ」
「そうなんだ……いつか会えると良いね。
それにしても、このチョコソースとヨーグルトのコラボヤバくない? めっちゃ合う! 僕次からもこれだな」
──────
その夜、コメントがついた。
匿名くんだ!
『そこのシェイク僕も飲みました! トッピング多くてもはや食べ物ですよね(笑)僕もそれと同じトッピングして、上のヨーグルト気に入りました! 意外とチョコソースに合って驚きでしたよね』
──え?
僕トッピングの話もヨーグルトの話もしてない。チョコソースは写真で見えるけど、ヨーグルトなんて……全然写ってない。
え……?
このセリフ……歩夢の言ったまんまだ……どういうこと?
佳太は一晩中考えて眠れなかった。
え……歩夢は匿名くん? でも……だったら何で言ってくれないんだろう。わからない、どういうつもりかは歩夢に聞かないと。でも本人に聞くの? 何て?
──────
「おはよ、佳太。匿名くんからコメントきた?」
「ん……きたよ。沢山コメントくれた。
やっぱり大好きだなあ。──僕やっぱり会ってみたい」
……さあ、歩夢の反応が見たい。
「そっか、会えると良いね」
歩夢の返事はあっさりしていた。
その日から佳太は歩夢からずっと目が離せなくなった。
歩夢も佳太を見据える。
先に佳太が視線を外してしまう。
「──最近、よく目が合うのに、すぐに逸らしちゃうよね? 佳太」
佳太はギクリとしてまた逸らす。
「あ……そうだっけ? ごめんね? そんなつもりは……」
「まあ、いいけど。今日はお弁当外で食べる? 久しぶりに晴れてるよ」
「そうだね。そうしよう。気持ち良さそうだね」
そう言うと佳太は大きく背伸びした。
「あ、僕ちょっと先生んとこ寄って行くから、佳太先に行ってて!」
久しぶりに木の下へ行くと聡一郎が待っていた。木陰は随分気持ちよさそうだ。
「今日、歩夢さんは?」
「後でくるよ。先に食べてても良いと思うけど……」
聡一郎は佳太の手首を掴み自分の胸に引き寄せた。
「けーちゃん、好きだ。初めて会ってからずっと好きだった。
俺、歩夢さんに邪魔されて焦ってるんだ。
けーちゃんを独り占めしたい」
「あ……あの? 聡一郎、やだっ、ちょっと離して……」
「おい! 聡一郎! お前何してる? 佳太を離せ」
「歩夢さんに何の関係があるんですか? 俺はけーちゃんと大事な話の最中です。空気読んでくれませんかね?」
歩夢はカッとなった。
「……佳太には好きな奴がいるんだよ? お前には無理だよ? さっさと諦めろ」
「ああ、名乗りでる事もしない匿名の卑怯な奴ですよね? そんな奴に負ける気はしないんですが……」
聡一郎は歩夢を見据えてニヤッとした。
「……っつ。くそっ。佳太っ、僕そこで待ってる。聡一郎の話が終わったらもう教室帰ろ?」
「う、うん……聡一郎、僕歩夢の言った通り好きな人がいるんだ。最近その人のこと、どんどん好きになってる。いつでもあの人のコメントを待ってる。
……名乗り出てはくれないけど……それでも構わない。
聡一郎の気持ちは嬉しいけど応えられないよ。」
「……わかった。今はそれで良い。でも応えてくれるのを待ってる」
「うん……」
──────
佳太は最近歩夢のことしか考えられない。
歩夢が匿名くんだったならば、どういうつもりで正体を隠しているのか……そもそも歩夢が匿名くんなのか? 確かめたい。
──歩夢に嘘をつくことにした。
「歩夢、この髪型かわいい? 先に聡一郎に見せちゃった。かわいいって喜んでくれたんだ。歩夢はどう思う?」
「そう。普通じゃない? 前のがかわいかったよ」
……ちょーそっけない。え……ちょっと傷ついたし。
さあ、歩夢は匿名くんなのか? そうじゃないのか……?
『今日の、ヘアアレンジ。どうかな?
前回好評だったから、今回も好評だと良いんだけど……』
匿名くんからコメントだ!
『めちゃくちゃかわいいと思うよ! けど僕が一番に見たかったな……なんて我儘だよね。佳太くん困らせちゃうようなこと言ってごめんね。ほんっと圭太くんかわいい!! 僕もまた参考にしようっと』
──歩夢……なのか?
確かにわざと聡一郎に見せたと嘘をついた。
やはり、このことを気にしているのか?……わからない。
次の日、歩夢も同じヘアアレをしてきた。
歩夢は佳太に駆け寄ってきた。
「佳太、可愛い? 佳太に似合うなら僕にも似合うよね、僕かわいい(笑)うんうん! きゃはっ! あ、僕って軽く失礼?」
「ううん。すごく歩夢かわいいから僕より似合うよ」
「? どうしたの? 何で最近元気ないの? 匿名くんからもちゃんとコメントくるんでしょ?」
「……僕、やっぱり会いたいんだ。性格はとっくの昔に好きになってるし。
……顔はどうでも良い。
匿名くんだったら誰でも大丈夫」
「言ってたね、顔だけの一目惚れはしないって。佳太は自分に正直だよ。純粋だね。よしよし」
そういうと歩夢は佳太を抱きしめた。
『ドキッ……』
え? 何で今歩夢にドキッとしたの?
匿名くんかもって疑ってるから?
まだ確定じゃないのに。ダメダメ!
──────
それからも匿名くんとのやり取りは続き、歩夢である可能性は拭えなかった。
歩夢が匿名くんかもしれないから気になるのか? それとも純粋に歩夢だから……?
佳太たちは、木の下で聡一郎を交えて三人でお昼ごはんを食べ続けている。
聡一郎は歩夢の前でもお構いなしに佳太を口説いた。
「まだ匿名野郎のこと待ってるの? 卑怯な奴だから絶対名乗り出ないよ? 俺の方がけーちゃん大事に出来る」
「──名乗り出てくれなくても良い。顔が見えなくてもそれでも好きでいるだけだから。
もう、聡一郎しつこいよ? 僕はきみの告白は断ったよね?」
「そうだよ!! お前しつこいと余計に嫌われる。
ていうか、元々好かれてない」
聡一郎は佳太に聞こえないように吐き捨てた。
「自分は卑怯者の癖に……」
──────
教室で顔を上げるといつも歩夢と目が合う。前よりも恥ずかしさを感じてすぐに俯いてしまう。
「ね……顔を上げてよ? どうしていつも逸らすの?」
「はっ、恥ずかしくって……歩夢は何でいつも見てるの?」
「ん? 佳太可愛いもん。僕も佳太みたいにかわいくなりたくて」
「はあ? 歩夢の方がかわいいじゃん?! マジムカつく〜」
「あは、元気出たね佳太」
歩夢は佳太を抱きしめた。
少し前までは何とも思わなかったこの行為……最近では胸がはち切れそうだ。
歩夢は人の気も知らないでスキンシップ過多だ。
顔が近くにあればドキドキが止まらないし、
抱き寄せられれば鼓動が外まで聞こえそうだ。
でも自分は匿名くんが好きなはずだ。歩夢が匿名くんじゃなかったら落胆してしまう。
これ以上歩夢のことを考えて期待してはダメだ。
──────
歩夢が理系の男子に告白された。いかにもモテそうな雰囲気の長身のイケメンだ。つまり、小さくて可愛い系の佳太や歩夢とは真逆のタイプだ。
佳太は教室で歩夢を待った。心配することなんて何もない。大丈夫……
「あ……歩夢……告白の返事どうしたの……? 何て答えたの?」
「ん? 考えさせてって言った。付き合うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もう少し知り合ってから決めようと思う」
この返事に、圭太は足元が崩れそうだった。
「あ……あ……そうなんだ? あ……僕……ちょっとごめん」
「あっ! 佳太ちょっと待って!」
佳太は、歩夢が必ず断ってくれるものだと思っていた。佳太は自分が恥ずかしい。
当たり前にいつも守ってくれて、優しくしてくれて、大事にしてくれて……
ただの傲りだ。
佳太は木の下まで走り、転んだ。そして泣き出した。
「あゆ……いゃだぁ……ぼくのだ……あゆむ……ふぇーん」
自分でも正直驚いた。本音がでた。いつの間にか歩夢のことが好き……でもいつから?
多分最初にケンカしてからずっと存在を気にしてた。
キラキラ輝いている歩夢が眩しかった。
友達になりたかった。
木の下に、そこにいつも寝ている人物が……
「うっさいなあ。けーちゃん、今頃気付いたの? けーちゃん歩夢さんのことずっと好きでしょ? 俺でも気付くくらい、いつも歩夢さんのこと目線で追って、気にして……あいつもあいつだけど、けーちゃんもけーちゃんだよ……全く。茶番」
「あ……でも僕には好きな人が……」
「例の匿名くん? あぁ……そうか……匿名くんときちんと話した方が良い。それが出来なければそんな卑怯な奴も、歩夢さんのこともスッパリ諦めろよ。良い加減振り回されんなよ」
「ふぅ……ぇ……あゆむ……あいた……い、でも……あゆむ……ひっく……ほかの……ひと……ひっく……つきあうかも……も、ぼく……ぐちゃぐちゃになっちゃった……ひぃっく……」
聡一郎は佳太を優しく抱きしめると言った。
「大丈夫、大丈夫だから……」
──────
聡一郎はその足で歩夢の教室に行った。
「歩夢さん、あんたに話しがあんだけどさ」
「──何? 特にあんたとは話しないけど」
「いつまでとぼける気だよ? この卑怯者。けーちゃん、相当参ってるぞ? さっき授業来なかっただろ? 木の下であんたのこと呼びながら大泣きしてた」
「は? 匿名くんの間違いでしょう? 僕のことなんて呼ばないよ」
「いい加減にしろよ!! この際どっちでも良い。けど、はっきりしてやれ。曖昧な態度や、わざと気を引いて弄ぶのはやめろ。これ以上傷つけるな。……多分そろそろけーちゃん教室帰ってくると思うけど、無神経なことするなよ?」
「──僕だって悩んでるんだ……」
歩夢は消え入りそうな声で言った。
──────
「佳太、おかえり。さっきどこ行ってたの? 保健室?」
「あ、うん……あのね、歩夢、僕……」
「佳太、先に言わせて。僕さっきの男子とは絶対付き合ったりしないよ。佳太からかっただけ。面白いかな〜(笑)と思ったんだけど、タチの悪い冗談になったみたいだね。本当にごめん」
佳太は歩夢の首に腕を回して抱きつくと泣き始めた。
「ゔ〜酷いよ! 歩夢のアホ!……歩夢取られるかと思った……良かった」
──────
放課後になり、佳太は歩夢を誘った。
「歩夢、今日買い物して帰らない? 僕欲しいものがあるんだ〜」
「ふーん? 放課後にぶらつくなんて、佳太にしては珍しいね? 良いよ。何買うの?」
「──アクセ。ブレスレットかな」
「……ふーん」
──────
「歩夢、これどう?」
佳太はカジュアルなデザインで、普段から付けられるような物を探している。
「んー? 佳太にはこのピンクの模様の皮のが似合うよ?」
「……そっか、こっちのオレンジ色の方は歩夢に似合うね。二人で色違いのお揃いでしたい。ねえ? ダメ?」
「えっ?! もちろん、良いよ!! どうしたの? 突然……」
「僕……ふぇ……歩夢が好き……ぐす……ぐす……お揃いが欲しい……」
佳太は泣き出し、歩夢にしがみ付いた。
歩夢は焦った。
「わかった、わかったから泣かないで……けど、匿名くんは……? そいつが好きなんでしょ? 僕は佳太が好きって言ってくれるの、もちろん嬉しいけど……そんな状態の佳太には……僕もきちんと返事できないよ? 心の整理つけないと……ゆっくりで良いから……ね?」
「大丈夫だよ。ちゃんとする」
涙を拭いながら言った。
そして続け様につぶやいた。歩夢には聞こえないように。
「……もう僕の心は決まってるよ」
──────
二人はお揃いのブレスレットを付けて画像を投稿した。
『大好きな人とのお揃いのアクセだよ。イロチで、僕にも好きな人にも似合うデザインにこだわったんだ〜』
夜にはいつも通り……匿名でコメントが来た。
『大好きな人がいるの? 妬けちゃうな……僕のコメントはもう必要なくなっちゃうのかな……? さみしい気がするけど、佳太くんにはいいことだね。がんばれ!』
佳太はコメントにただ一言返信した。
『放課後、木の下にいます』
──────
このコメントは聡一郎も見ていた。
余談だが、四季たちも見ていた。
次の日、迷惑にもわちゃわちゃと校舎の陰から大勢で木の下を覗いていた。
「ちょっと、先輩たち、押さないでくれませんか?」
「蒼士、僕見えないからおんぶ!」
「よし来い! 四季!」
「玲ちゃん、おんぶしようか?」
「亮司くん、みんなも、うるさい」
佳太は木の下で匿名くんが来てくれるのを待った。
──来てくれないかもしれない……とにかく待った。
ザクっ……ザクっ……
佳太の背後で足音がした。
「本当に僕に会いたかったの?……心の整理はついたの? 歩夢とどっちが好き?」
佳太は声のする方を振り返ると大粒の涙を溢し(こぼし)ながら駆け寄って飛び付いた。
「どっちもっ! どっちも大好き! 二人とも同じ歩夢でしょ?!
大好き……わーん! わぁーん!」
歩夢は佳太をギュッと抱きしめた。そして囁いた。
「傷付けてごめん、意地悪したいわけじゃなかったんだ。見つけてくれてありがとう……僕、佳太を入学式で見つけてから、ずっとずっと好きだった。こんなに可愛い子出会ったことなかったから……ずっとインスタでも追ってた。目が離せなかった。大好き」
歩夢は佳太の頬にそっと触れると、唇に優しく触れるだけのキスをした。
覗いていた面々は飛び出して行った。
「おめでとう! 佳太と歩夢!」
「俺ヒヤヒヤしたぜ。」
「僕は大丈夫だと思っていたよ? 本当におめでとう!!」
「しかし、この学校の誇るかわい子ちゃんたち二人がくっついちゃったけど、どうすんだ? かなりの数の男子が泣くぞ(笑)」
「先輩たち……良かったですね。俺は大人しく引き下がりますよ。けーちゃん、良かったね?」
──────
歩夢と佳太は木の下に寝そべっていた。
「いつから僕が『匿名くん』だってわかってたの……?」
「ん……シェイクのコメントで疑い始めたかな……?
でもその前から歩夢のことが気になり始めてて……
もし二人が同一人物だったら? 違ったら?
考えるうちにぐじゃぐじゃになった。
二人の人を、同時に好きになるなんていけないとも悩んだけど……
同じ人だから惹きつけられたんだね。歩夢を見つけ出せて本当に良かった」
「佳太は一目惚れを否定したけど、僕は佳太に一目惚れだよ? こんなにかわいい子初めて見た。僕は勘が良いんだ。だからこの恋は本物。
ずっとずっと好きだった。これから先も僕と一緒にいてね?」
「うん……ずっと一緒」
二人はそっとキスをした。
『今日のヘアアレ。オシャレでしょ? 明日これで学校行こっかな?
片側を耳に掛けて編み込んだのだ。
我ながらかわいい!』
すぐに匿名くんからコメントがついた。
『僕も似合うならばそんなかわいい髪型がしたい! 羨ましいな』
次の日、佳太は面食らった。
歩夢が佳太と同じ髪型で教室にいたのだ。
歩夢は佳太の方を見た。佳太は思いっきり目を逸らしてしまった。
「あれ〜佳太と歩夢の髪型被ってんじゃん?! 二人ともかわいい!」
みんなは褒めてくれた。けれど、佳太は嬉しくなかった。
こんなに心が狭かっただろうか?
最近あまり色んなことが許容出来なくなってきている。
──自分に自信がなくなってきている。
全部中里(四季)と、西山(歩夢)、あの二人のせいだ。
そもそもこの髪型も歩夢の方が似合っている……
あいつの方が圧倒的にかわいいのだから……
佳太はトイレの鏡の前に立ち、髪を解いた。
──────
「よっ、けーちゃん。今日はけーちゃんの好きなチョコ持ってきてやったよ。高いやつ」
「ゔぅ〜けーちゃんって呼ぶなぁ! バカ聡一郎! ちゃんと先輩付けろ!」
「はいはい、けーちゃん。今日は学校どうだった? あ、弁当ちょうだいね。けーちゃんのうまいから。俺の食べていいよ」
「あっ!! 僕のから揚げとったぁ!! 酷い〜!!
……いつも通りあんまり楽しくなかった。
今日はあの西山歩夢が僕と同じヘアアレをしてきたから……
悔しいけど、あいつの方がかわいいから……僕解いちゃった」
「けーちゃん、世界一かわいいんだからさぁ、そんな心配せずに堂々とやりなよ? な? 俺にも見せて! 今やって!」
佳太は照れながら髪を編み込むと聡一郎に向かって見せた。
「──うわ。やばい……」
「え? え? やっぱりかわいくない? 変?」
「かわいすぎる……抱きしめて良い?」
「やだよっ!! 馴れ馴れしいっ!!」
聡一郎は佳太に対して恋愛感情を包み隠さずアピールしているつもりだ。
だが佳太本人には全く伝わらない。
──────
午後教室に戻るとまた西山歩夢が佳太を見ている。
今度は不服そうに見られている気がする。
ああ、居心地が悪い。
あろうことかその日は同じ学習班になってしまった。
元々あまり友達もおらず、ずば抜けて明るい方でもない佳太は俯いていた。
そこへ歩夢が嫌味ったらしく声を掛けた。
「ねえ、あんたもちゃんと意見言ってよ。黙ってたらみんなのお荷物なんだけど」
……何でいつもこうだろう。
自分の何がいけないんだろう……?
佳太は俯いたまま涙をこぼした。
「え? 佳太何泣いてんの? どうかした? もしかして僕のせい?」
は? 自覚なし? いつもいじめてくんのは西山くん、あんたじゃん?
「うぇ……ん……ひっ……く……ぼく……なにも……してな……のに……ひぇっ……んっく……」
「ああ、もう!! 佳太、行くよっ!! 先生〜細貝くん保健室連れていきまーす」
歩夢は佳太を保健室まで手を引いて連れて行った。
先生はおらず、二人はベッドに腰掛けた。
「落ち着いた? ねぇ、何で泣いたの? ゆっくりで良いから教えて……?」
「──君、いつも僕のこと睨んでる。僕が何か言ったら僕が泣くまで言い返してくる。……僕よりかわいい。あとただ単にムカつくし、あんたが嫌い」
「えぇ? 僕のこと嫌いなの……? そっか……そうなんだ……」
「はぁ? 逆にどうやったら好かれてると思うんだよ? お前って前から思ってたけどお調子者の馬鹿だよな?! かわいいからって調子乗ってる」
「ひどっ?! ──僕は佳太とずっと仲良くしたいと思ってるよ? けど、僕が四季と仲良いからって、僕のこと敵視してるし……
ねえ……矢田のことまだ好きなの?」
「?! どうでも良いでしょ? あんたなんかに関係ないよ。あんたも中里も大っ嫌い!!」
「──はぁ、みんなして『矢田』『矢田』ってちょっと頭おかしいんじゃない?
逆にあんなやつの何が良いの? 聞かせてよ」
「え? えっと……入学式で2年生に絡まれてたら助けてくれた。それからずっと好き。
だから、中里みたいにただの一目惚れとかとは訳が違う……のに……僕……矢田くんからも……誰からも好きになってもらえない」
「そんなこと言わないでよ!! それに一目惚れも大事な恋の始まりなんだよ?!
僕も入学式の日に一目惚れした人がいるんだ……
告白はするつもりなんだけど、その人には好きな人がいるから……もう少し待つつもり。
でも絶対に僕が手に入れるんだから!!」
「プラス思考だね、西山くんって」
「もー! 硬いなあ。歩夢って呼んで? ね? 佳太? とにかく、僕は君に攻撃してる訳でも何でもないし、睨んでもないよ。だから、気軽に話そ?
佳太……髪、解いちゃったんだね?
もしかして、僕のせい……?
せっかくかわいいのに……僕がやったげるよ。
ね? おそろしよ? ほらあっち向いて!」
──────
それから佳太は歩夢と少しずつ話すことに慣れてきた。歩夢から沢山話しかけてくれる。
意地悪にならない様に優しい言葉を選んでくれているように感じる。ほんとは良い奴なのだ。
四季とも少し話せるようになった。歩夢のおかげだ。
……ひとつ気になることと言えば、相変わらず歩夢は佳太をじっと見ることをやめない。
──────
最近はあの1年、聡一郎と(不本意ながら)お弁当を取っ替えっこをする事態になっている。佳太のお弁当は佳太自身が可愛く作っているのだ。
んー? 今日のインスタ何にしよ……?
あ、取っ替えっこした弁当アップしよ!
あいつの弁当も彩り綺麗だもんね!
聡一郎のお母さんセンス良いよな〜
『今日のお弁当! 友達と取っ替えっこ! 僕の作ったのも可愛いでしょ?』
これに対し、匿名くんの反応は良くなかった。
『お弁当綺麗ですね』
この一言だけだ……うそお?
いつもすごく喜んでくれるのに?
佳太は落ち込んだ。
次の日、明らかにしょげている佳太に聡一郎は尋ねた。
「けーちゃん、どうしたの? お弁当も食べないで……」
「──昨日インスタにアップした写真の反応があんまり良くなかったんだぁ。
お弁当だったんだけど、いつも褒めてくれる人が全然褒めてくれなくて……
ふっっ……ふぇーーん……ひっく……えーーん……」
「もう……嘘だろ? けーちゃん……そんなことで泣くなよ……
コメントもたまたまだって。急いでコメントしたかもしれないじゃん。コメントくれただけましだって」
「そっか……くれただけまし、だね。
プラス思考、プラス思考!!
ありがとう、聡一郎」
佳太はかわいらしく聡一郎に笑いかけた。
聡一郎は顔が熱くなるのを自分でも感じた。
──────
昼休みを終えて教室に戻り、授業の準備をしていると、歩夢は佳太に話しかけた。
「──佳太ってさ、昼ごはんどこで食べてんの?」
「? 校舎裏の木の下。僕入学してからずっとそこだよ」
「誰かと食べてるの? そうだよね?」
「ああ、今年から偶然会った1年生の子と、成り行きでね。どうかしたの?」
「へえ……いつも弁当持ってきてんの?」
「え……? うん……大体は……ねぇ、ほんとにどうしたの?」
「それ、僕も明日から毎日一緒に食べて良い?
どうせ僕も一人で食べてたし。
構わないよね?」
「? うん? もちろん良いに決まってる!! じゃあ、明日から一緒に行こうか!」
──────
次の日も、いつも通り木の下では聡一郎が佳太を待っていた。
「あ、聡一郎! 今日歩夢連れてきたよ!」
聡一郎は顔を歪めた。正直嫌だった。邪魔者だ。
それに……何でよりにもよって佳太をいじめていた歩夢?
誤解は解けたらしいが、関わり合いにはなりたくない。
これ以上佳太にも関わって欲しくなかった。
「はじめまして、聡一郎くん。歩夢です。佳太が君に僕のことなんか言ってるの?」
歩夢はじっと聡一郎を見つめた。
佳太は不思議に思った。
歩夢は自分のこともじっと見つめる。
今は聡一郎のことを真剣に見据えている。
人を見つめるのが癖だろうか?
それにしては聡一郎に対する値踏みのような……
「ああ、聞いてますよ。あんたが、けーちゃんいじめてたって」
「聡一郎っ!! あんた失礼すぎっ!! ごめんね、歩夢と仲良くなる前のことだったし、僕ここでいつも泣いちゃってたから……恥ずかしいけど」
「『けーちゃん』……? そんなふうに呼ばせてるんだ……ふーん」
「あ……ちょうど僕今日お弁当多めに作ってきてるんだ。みんなで分けっこしようよ!
聡一郎のお母さんのお弁当もきれいなんだよ?」
歩夢はボソッと呟いた。
「……知ってるし」
──────
「あ〜! 佳太の手作り美味しかった〜これからは聡一郎くんばっかりには食べさせてあげないよ?
僕、これからもここに来るから。よろしく。
じゃあね、聡一郎くん? さあ、佳太教室戻ろ?」
歩夢は聡一郎にヒラヒラと手を振ると、佳太の肩を抱いて校舎へ向かって歩き出した。
「あーーーー!! 匿名くんからコメントきてる! 嬉しい!」
『すっごくかわいいですね! お友達のお弁当も綺麗で食べるのが勿体無いくらい! 佳太くんのお弁当が食べれるなんて羨ましい!
これからもお弁当シリーズ投稿してください!』
「えー? 佳太どうしたの? 何かあったの?」
「んーと、言うの少し恥ずかしいんだけど、僕、1年生の時からインスタ投稿してて……ちょっと高校デビュー的なとこもあったから……ふふん。
それでいつもコメントくれる人からお弁当にもコメントくれてすごく嬉しくって!」
「ふーん……佳太はその人からのコメント嬉しいの?」
「え? うん……匿名だけど、全部同じ人だってわかるし、いつも褒めてくれる。
僕のことかわいいって言ってくれる。
僕の大切な人……かな?」
「……そうなんだ。そういうのいいね。僕も始めてみよっかなぁ」
「歩夢が始めたら僕がいっぱい書き込むよ!!」
「〜佳太、このかわいい奴めっ!!」
歩夢は佳太に飛びつき頭をワシワシと撫でた。
二人はどんどん親密さを増していった。
聡一郎は機嫌が悪かった。
ここ最近、あの歩夢の野郎のせいでほとんど佳太と話せていない。佳太不足だ。
──────
「けーちゃん、毎日会うから気にしてなかったけど、LINE教えて。二人で話したいこともある」
「へ? 教えてなかった? ああ、ごめん。でも僕LINEあんまり使わないからインスタでも良い?」
歩夢が慌てて叫んだ。
「インスタはダメっ!! あ……きちんと連絡取れるのはLINEの方だからそっちにしときなって」
「え? ああ、うん。じゃLINEね」
それから聡一郎は特に用事がなくとも佳太に
『おはよう』
『おやすみ』
だけは欠かさずに送った。
それからも三人は一緒に弁当を食べている。
相変わらず邪魔をされて、聡一郎は日に日に機嫌が悪くなるようだが……
──────
──やはり感じる。歩夢の聡一郎に対する意味ありげな視線を。
佳太はその視線が少し怖かった。
もしも歩夢が聡一郎を好きになったら……
歩夢の方が可愛いし、性格もハキハキしていて明るい。
聡一郎はきっと歩夢と付き合い始めて、この関係性も崩れるだろう。
自分はそれを応援できるだろうか?
歩夢とは付き合わせたくない。
え……? 今どっちにヤキモチ妬いた?
「佳太? どうしたの? また俯いてるよ? 何かあったらすぐに僕に言いな?」
佳太は無理して笑顔を貼り付けた。
「ううん。太陽、眩しくって。良い天気だね」
──────
教室で感じる、聡一郎に向けられるものとは異質の……自分に向けられる歩夢からの視線。
それに気付いたのはいつ頃からだったろうか?
僕、歩夢に逆(?)ギレしちゃって喧嘩売ったもんな……今年の初め辺りからかな?
もしかすると、今は聡一郎のことが好きで、僕のことが嫌で見ているのかもしれないし……うーん……今、視線の理由は本人には聞きにくい。
──────
梅雨に入り、外ではお弁当を食べられない日が続いた。
蒼士と亮司、玲は文系の四季たちのクラスに集合していた。
「おう、お前らも一緒に食べねえ? 玲ちゃんの弁当、最高だよ?」
亮司は佳太と歩夢の二人を誘った。
「あー!! 佳太の弁当も負けてないんだからっ!!」
歩夢は言い返した。
「てか、細貝といつ仲良くなったん? 四季」
「ああ……歩夢と話してるの見て、いつのまにか……ねー? 佳太」
「はっ、恥ずかしいから……その辺りの話、詳しくはしないで……中里くん」
四季と仲良くなった今となっては、蒼士のことで四季に喧嘩を売ったなんて恥ずかしい。
「あんたたち、うるさい。早く食べるよ? から揚げいる人??」
「玲くんテキパキしてるっ!! から揚げいるーーーー!!」
わいわい……がやがや……
佳太は今まで友達と賑やかに過ごしたことがなかった。とても嬉しすぎて涙が出た。
「あっ! 佳太、また感動して泣いてる! ちょーかわいんだから」
歩夢は佳太に飛び付き頭をわしゃわしゃした。
「うっさいな! もう。……みんな、ありがと」
──聡一郎はこの様子を教室の外から眺めているしかなかった。
──────
外は生憎の雨だが、歩夢が佳太を誘った。
「ねぇ、帰りに美味しくって映えるって噂のシェイクがあるらしいんだけど、行ってみない?
日本初上陸らしいよ!!」
「マジ?? 行く行く!! そんなんインスタに上げるしかないでしょ??」
雨の中1時間ほど並び、やっと注文まで漕ぎ着けた。
「レインボーのチョコソースがけ、タピオカ入りで!」
「僕も同じのにしまーす」
店員さんは親切で、サービス精神旺盛だった。
「あ、タピオカは無料で多めにできるよ! そして、サービスでヨーグルトトッピングしとくね! 裏メニューで、可愛い子だけの特別サービス」
「わーい! ありがとうございます」
雨も上がり、空には大きな虹がかかった。
「わあ! 大きい虹だよ! 虹も一緒に写るかなっ?
ねぇ、今日は歩夢も一緒に撮って良い? 顔出ししても良い?」
「ん〜でもこれ、佳太のインスタだから。
僕の顔で邪魔したくない。佳太の可愛い顔自慢したい(笑)だから僕は顔出しなしでいこう!」
「えー? 歩夢のがかわいいのに……オッケ、はい撮るよー! よし、んで、加工してアップ!!」
『友達と噂のシェイク飲みにきたよ!! さすが日本初上陸! 色が日本じゃない(笑)レインボーにしました』
「……あれぇ……いつもなら匿名くん、すぐにコメントくれるのに……」
「そんなの、仕事とか、学校とかかもしれないよ? せっかちだね〜今夜には絶対くるって!」
「……うん。そだね」
佳太は肩を落とし、落胆した。
「前も聞いたけど、そんなに大事? その人のコメント」
「……うん。僕の今の好きな人……かな。実際に会っても絶対に好きになる。気持ち変わらないと思う。こんなに優しくて、楽しい人そうそういないよ」
「そうなんだ……いつか会えると良いね。
それにしても、このチョコソースとヨーグルトのコラボヤバくない? めっちゃ合う! 僕次からもこれだな」
──────
その夜、コメントがついた。
匿名くんだ!
『そこのシェイク僕も飲みました! トッピング多くてもはや食べ物ですよね(笑)僕もそれと同じトッピングして、上のヨーグルト気に入りました! 意外とチョコソースに合って驚きでしたよね』
──え?
僕トッピングの話もヨーグルトの話もしてない。チョコソースは写真で見えるけど、ヨーグルトなんて……全然写ってない。
え……?
このセリフ……歩夢の言ったまんまだ……どういうこと?
佳太は一晩中考えて眠れなかった。
え……歩夢は匿名くん? でも……だったら何で言ってくれないんだろう。わからない、どういうつもりかは歩夢に聞かないと。でも本人に聞くの? 何て?
──────
「おはよ、佳太。匿名くんからコメントきた?」
「ん……きたよ。沢山コメントくれた。
やっぱり大好きだなあ。──僕やっぱり会ってみたい」
……さあ、歩夢の反応が見たい。
「そっか、会えると良いね」
歩夢の返事はあっさりしていた。
その日から佳太は歩夢からずっと目が離せなくなった。
歩夢も佳太を見据える。
先に佳太が視線を外してしまう。
「──最近、よく目が合うのに、すぐに逸らしちゃうよね? 佳太」
佳太はギクリとしてまた逸らす。
「あ……そうだっけ? ごめんね? そんなつもりは……」
「まあ、いいけど。今日はお弁当外で食べる? 久しぶりに晴れてるよ」
「そうだね。そうしよう。気持ち良さそうだね」
そう言うと佳太は大きく背伸びした。
「あ、僕ちょっと先生んとこ寄って行くから、佳太先に行ってて!」
久しぶりに木の下へ行くと聡一郎が待っていた。木陰は随分気持ちよさそうだ。
「今日、歩夢さんは?」
「後でくるよ。先に食べてても良いと思うけど……」
聡一郎は佳太の手首を掴み自分の胸に引き寄せた。
「けーちゃん、好きだ。初めて会ってからずっと好きだった。
俺、歩夢さんに邪魔されて焦ってるんだ。
けーちゃんを独り占めしたい」
「あ……あの? 聡一郎、やだっ、ちょっと離して……」
「おい! 聡一郎! お前何してる? 佳太を離せ」
「歩夢さんに何の関係があるんですか? 俺はけーちゃんと大事な話の最中です。空気読んでくれませんかね?」
歩夢はカッとなった。
「……佳太には好きな奴がいるんだよ? お前には無理だよ? さっさと諦めろ」
「ああ、名乗りでる事もしない匿名の卑怯な奴ですよね? そんな奴に負ける気はしないんですが……」
聡一郎は歩夢を見据えてニヤッとした。
「……っつ。くそっ。佳太っ、僕そこで待ってる。聡一郎の話が終わったらもう教室帰ろ?」
「う、うん……聡一郎、僕歩夢の言った通り好きな人がいるんだ。最近その人のこと、どんどん好きになってる。いつでもあの人のコメントを待ってる。
……名乗り出てはくれないけど……それでも構わない。
聡一郎の気持ちは嬉しいけど応えられないよ。」
「……わかった。今はそれで良い。でも応えてくれるのを待ってる」
「うん……」
──────
佳太は最近歩夢のことしか考えられない。
歩夢が匿名くんだったならば、どういうつもりで正体を隠しているのか……そもそも歩夢が匿名くんなのか? 確かめたい。
──歩夢に嘘をつくことにした。
「歩夢、この髪型かわいい? 先に聡一郎に見せちゃった。かわいいって喜んでくれたんだ。歩夢はどう思う?」
「そう。普通じゃない? 前のがかわいかったよ」
……ちょーそっけない。え……ちょっと傷ついたし。
さあ、歩夢は匿名くんなのか? そうじゃないのか……?
『今日の、ヘアアレンジ。どうかな?
前回好評だったから、今回も好評だと良いんだけど……』
匿名くんからコメントだ!
『めちゃくちゃかわいいと思うよ! けど僕が一番に見たかったな……なんて我儘だよね。佳太くん困らせちゃうようなこと言ってごめんね。ほんっと圭太くんかわいい!! 僕もまた参考にしようっと』
──歩夢……なのか?
確かにわざと聡一郎に見せたと嘘をついた。
やはり、このことを気にしているのか?……わからない。
次の日、歩夢も同じヘアアレをしてきた。
歩夢は佳太に駆け寄ってきた。
「佳太、可愛い? 佳太に似合うなら僕にも似合うよね、僕かわいい(笑)うんうん! きゃはっ! あ、僕って軽く失礼?」
「ううん。すごく歩夢かわいいから僕より似合うよ」
「? どうしたの? 何で最近元気ないの? 匿名くんからもちゃんとコメントくるんでしょ?」
「……僕、やっぱり会いたいんだ。性格はとっくの昔に好きになってるし。
……顔はどうでも良い。
匿名くんだったら誰でも大丈夫」
「言ってたね、顔だけの一目惚れはしないって。佳太は自分に正直だよ。純粋だね。よしよし」
そういうと歩夢は佳太を抱きしめた。
『ドキッ……』
え? 何で今歩夢にドキッとしたの?
匿名くんかもって疑ってるから?
まだ確定じゃないのに。ダメダメ!
──────
それからも匿名くんとのやり取りは続き、歩夢である可能性は拭えなかった。
歩夢が匿名くんかもしれないから気になるのか? それとも純粋に歩夢だから……?
佳太たちは、木の下で聡一郎を交えて三人でお昼ごはんを食べ続けている。
聡一郎は歩夢の前でもお構いなしに佳太を口説いた。
「まだ匿名野郎のこと待ってるの? 卑怯な奴だから絶対名乗り出ないよ? 俺の方がけーちゃん大事に出来る」
「──名乗り出てくれなくても良い。顔が見えなくてもそれでも好きでいるだけだから。
もう、聡一郎しつこいよ? 僕はきみの告白は断ったよね?」
「そうだよ!! お前しつこいと余計に嫌われる。
ていうか、元々好かれてない」
聡一郎は佳太に聞こえないように吐き捨てた。
「自分は卑怯者の癖に……」
──────
教室で顔を上げるといつも歩夢と目が合う。前よりも恥ずかしさを感じてすぐに俯いてしまう。
「ね……顔を上げてよ? どうしていつも逸らすの?」
「はっ、恥ずかしくって……歩夢は何でいつも見てるの?」
「ん? 佳太可愛いもん。僕も佳太みたいにかわいくなりたくて」
「はあ? 歩夢の方がかわいいじゃん?! マジムカつく〜」
「あは、元気出たね佳太」
歩夢は佳太を抱きしめた。
少し前までは何とも思わなかったこの行為……最近では胸がはち切れそうだ。
歩夢は人の気も知らないでスキンシップ過多だ。
顔が近くにあればドキドキが止まらないし、
抱き寄せられれば鼓動が外まで聞こえそうだ。
でも自分は匿名くんが好きなはずだ。歩夢が匿名くんじゃなかったら落胆してしまう。
これ以上歩夢のことを考えて期待してはダメだ。
──────
歩夢が理系の男子に告白された。いかにもモテそうな雰囲気の長身のイケメンだ。つまり、小さくて可愛い系の佳太や歩夢とは真逆のタイプだ。
佳太は教室で歩夢を待った。心配することなんて何もない。大丈夫……
「あ……歩夢……告白の返事どうしたの……? 何て答えたの?」
「ん? 考えさせてって言った。付き合うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もう少し知り合ってから決めようと思う」
この返事に、圭太は足元が崩れそうだった。
「あ……あ……そうなんだ? あ……僕……ちょっとごめん」
「あっ! 佳太ちょっと待って!」
佳太は、歩夢が必ず断ってくれるものだと思っていた。佳太は自分が恥ずかしい。
当たり前にいつも守ってくれて、優しくしてくれて、大事にしてくれて……
ただの傲りだ。
佳太は木の下まで走り、転んだ。そして泣き出した。
「あゆ……いゃだぁ……ぼくのだ……あゆむ……ふぇーん」
自分でも正直驚いた。本音がでた。いつの間にか歩夢のことが好き……でもいつから?
多分最初にケンカしてからずっと存在を気にしてた。
キラキラ輝いている歩夢が眩しかった。
友達になりたかった。
木の下に、そこにいつも寝ている人物が……
「うっさいなあ。けーちゃん、今頃気付いたの? けーちゃん歩夢さんのことずっと好きでしょ? 俺でも気付くくらい、いつも歩夢さんのこと目線で追って、気にして……あいつもあいつだけど、けーちゃんもけーちゃんだよ……全く。茶番」
「あ……でも僕には好きな人が……」
「例の匿名くん? あぁ……そうか……匿名くんときちんと話した方が良い。それが出来なければそんな卑怯な奴も、歩夢さんのこともスッパリ諦めろよ。良い加減振り回されんなよ」
「ふぅ……ぇ……あゆむ……あいた……い、でも……あゆむ……ひっく……ほかの……ひと……ひっく……つきあうかも……も、ぼく……ぐちゃぐちゃになっちゃった……ひぃっく……」
聡一郎は佳太を優しく抱きしめると言った。
「大丈夫、大丈夫だから……」
──────
聡一郎はその足で歩夢の教室に行った。
「歩夢さん、あんたに話しがあんだけどさ」
「──何? 特にあんたとは話しないけど」
「いつまでとぼける気だよ? この卑怯者。けーちゃん、相当参ってるぞ? さっき授業来なかっただろ? 木の下であんたのこと呼びながら大泣きしてた」
「は? 匿名くんの間違いでしょう? 僕のことなんて呼ばないよ」
「いい加減にしろよ!! この際どっちでも良い。けど、はっきりしてやれ。曖昧な態度や、わざと気を引いて弄ぶのはやめろ。これ以上傷つけるな。……多分そろそろけーちゃん教室帰ってくると思うけど、無神経なことするなよ?」
「──僕だって悩んでるんだ……」
歩夢は消え入りそうな声で言った。
──────
「佳太、おかえり。さっきどこ行ってたの? 保健室?」
「あ、うん……あのね、歩夢、僕……」
「佳太、先に言わせて。僕さっきの男子とは絶対付き合ったりしないよ。佳太からかっただけ。面白いかな〜(笑)と思ったんだけど、タチの悪い冗談になったみたいだね。本当にごめん」
佳太は歩夢の首に腕を回して抱きつくと泣き始めた。
「ゔ〜酷いよ! 歩夢のアホ!……歩夢取られるかと思った……良かった」
──────
放課後になり、佳太は歩夢を誘った。
「歩夢、今日買い物して帰らない? 僕欲しいものがあるんだ〜」
「ふーん? 放課後にぶらつくなんて、佳太にしては珍しいね? 良いよ。何買うの?」
「──アクセ。ブレスレットかな」
「……ふーん」
──────
「歩夢、これどう?」
佳太はカジュアルなデザインで、普段から付けられるような物を探している。
「んー? 佳太にはこのピンクの模様の皮のが似合うよ?」
「……そっか、こっちのオレンジ色の方は歩夢に似合うね。二人で色違いのお揃いでしたい。ねえ? ダメ?」
「えっ?! もちろん、良いよ!! どうしたの? 突然……」
「僕……ふぇ……歩夢が好き……ぐす……ぐす……お揃いが欲しい……」
佳太は泣き出し、歩夢にしがみ付いた。
歩夢は焦った。
「わかった、わかったから泣かないで……けど、匿名くんは……? そいつが好きなんでしょ? 僕は佳太が好きって言ってくれるの、もちろん嬉しいけど……そんな状態の佳太には……僕もきちんと返事できないよ? 心の整理つけないと……ゆっくりで良いから……ね?」
「大丈夫だよ。ちゃんとする」
涙を拭いながら言った。
そして続け様につぶやいた。歩夢には聞こえないように。
「……もう僕の心は決まってるよ」
──────
二人はお揃いのブレスレットを付けて画像を投稿した。
『大好きな人とのお揃いのアクセだよ。イロチで、僕にも好きな人にも似合うデザインにこだわったんだ〜』
夜にはいつも通り……匿名でコメントが来た。
『大好きな人がいるの? 妬けちゃうな……僕のコメントはもう必要なくなっちゃうのかな……? さみしい気がするけど、佳太くんにはいいことだね。がんばれ!』
佳太はコメントにただ一言返信した。
『放課後、木の下にいます』
──────
このコメントは聡一郎も見ていた。
余談だが、四季たちも見ていた。
次の日、迷惑にもわちゃわちゃと校舎の陰から大勢で木の下を覗いていた。
「ちょっと、先輩たち、押さないでくれませんか?」
「蒼士、僕見えないからおんぶ!」
「よし来い! 四季!」
「玲ちゃん、おんぶしようか?」
「亮司くん、みんなも、うるさい」
佳太は木の下で匿名くんが来てくれるのを待った。
──来てくれないかもしれない……とにかく待った。
ザクっ……ザクっ……
佳太の背後で足音がした。
「本当に僕に会いたかったの?……心の整理はついたの? 歩夢とどっちが好き?」
佳太は声のする方を振り返ると大粒の涙を溢し(こぼし)ながら駆け寄って飛び付いた。
「どっちもっ! どっちも大好き! 二人とも同じ歩夢でしょ?!
大好き……わーん! わぁーん!」
歩夢は佳太をギュッと抱きしめた。そして囁いた。
「傷付けてごめん、意地悪したいわけじゃなかったんだ。見つけてくれてありがとう……僕、佳太を入学式で見つけてから、ずっとずっと好きだった。こんなに可愛い子出会ったことなかったから……ずっとインスタでも追ってた。目が離せなかった。大好き」
歩夢は佳太の頬にそっと触れると、唇に優しく触れるだけのキスをした。
覗いていた面々は飛び出して行った。
「おめでとう! 佳太と歩夢!」
「俺ヒヤヒヤしたぜ。」
「僕は大丈夫だと思っていたよ? 本当におめでとう!!」
「しかし、この学校の誇るかわい子ちゃんたち二人がくっついちゃったけど、どうすんだ? かなりの数の男子が泣くぞ(笑)」
「先輩たち……良かったですね。俺は大人しく引き下がりますよ。けーちゃん、良かったね?」
──────
歩夢と佳太は木の下に寝そべっていた。
「いつから僕が『匿名くん』だってわかってたの……?」
「ん……シェイクのコメントで疑い始めたかな……?
でもその前から歩夢のことが気になり始めてて……
もし二人が同一人物だったら? 違ったら?
考えるうちにぐじゃぐじゃになった。
二人の人を、同時に好きになるなんていけないとも悩んだけど……
同じ人だから惹きつけられたんだね。歩夢を見つけ出せて本当に良かった」
「佳太は一目惚れを否定したけど、僕は佳太に一目惚れだよ? こんなにかわいい子初めて見た。僕は勘が良いんだ。だからこの恋は本物。
ずっとずっと好きだった。これから先も僕と一緒にいてね?」
「うん……ずっと一緒」
二人はそっとキスをした。
