この不健全な関係はもう三ヶ月ほど続いている。
亮司は男は嫌いだと言う。
しかし玲のことを抱きしめて可愛いと言ってくれる。
玲は素直に嬉しかった。亮司は少なくとも玲に対しては好意的だ。
玲はいつか来る終わりに怯えながら、それでも、亮司の隣にいた。
──────
「あっ、玲くん! おつー! こっち来てケーキ食べよ? 蒼士の手作りだよー!!」
玲が亮司のクラスに通うようになり、四季は何かと玲にかまう。玲は玲で満更でもなさそうだ。
「何で僕があんたなんかと……矢田くんの手作りか……食べてみたい」
「「何で蒼士に反応するの?!」」
亮司と四季はハモって叫んだ。
「え? 坂田くん? 蒼士にやきもちー?
大丈夫だよ〜玲くんは坂田くん一筋じゃん……
ってそうだよね? 玲くん? 蒼士なんかに興味ないよね?!」
「蒼士なんかって……酷いな……四季」
亮司は自分の言動が信じられなかった。
玲が蒼士に対してまだ少しでも気持ちがあるとしたら……そう思うだけでもイラついた。
玲に対する所有欲が芽生えている。
せっかく自分にだけ懐いていたのに……
なんだ? この考え……
別に玲が誰を好きだろうと……
亮司は、ぷんぷん怒りながらも楽しそうにケーキを食べる玲を見つめた。
──────
そのうちに、玲は亮司に弁当を作ってくるようになった。
「亮司くん、行こう? 中庭でお花見ながら食べよ?」
「ふぁ〜ねむ。はいはい。玲ちゃん、今日の弁当は何かなっと」
亮司の玲に対する呼び方が『三枝』から『玲ちゃん』に変わった。
「ふふっ。今日はとんかつだよ! 亮司くん揚げ物好きだから」
「お前……朝から頑張りすぎ……もっと簡単で良いんだぜ? 卵とウインナーとか……」
「坂田くん、それでも玲くんに作らせるんだー(笑)
いつも美味しそうだもんね。僕も食べてみたい〜」
「……仕方ないから、あんたにも今度作ってやるよっ!」
「うっわ!! 玲くんがデレた……まじ貴重」
「なっ?! そんなこと言うなら作らない!!」
玲と四季はワイワイやっていた。
亮司はそこに割って入った。
「──玲ちゃん、行くぞ」
亮司は玲の肩を抱き寄せて行ってしまった。
「……あれ、今の坂田くん絶対やきもちだよね?」
「お、おう。俺もそう思う」
「玲くん! 頑張れ! これはいけるよ! あと一推し!」
──────
亮司は面白くない。
この前まで自分にしか慣れてなかった玲が、四季や蒼士に懐いてきている。
「なぁ、玲ちゃん……?」
「? なぁに? さっきからどうしたの? 変だよ? 亮司くん……」
「今日のハグ、してないよ?」
「あ……でも僕は……別れ際にした方が、亮司くんに会えない間、次に会うまでの力になるっていうか……」
「なら、二回すればいいよ」
亮司は玲をぎゅっと抱きしめた。
「亮司……くん?」
「──さっ、弁当食べようか! すっげー楽しみ!」
二人は他愛も無い話しを始めた。
「あのね、この前植えたマリーゴールドとサルビアがそろそろ咲きそうだよ? 楽しみだねー!」
亮司と玲は放課後に花壇の手入れをしてから帰るのが日課だ。
「もう少し花の種類増やしたいかなー。
でも二人だし、手が回んないかもな……他の委員、サボりまくってるからなー」
「あと一種類くらいなら何とかなりそう。
ねぇ、今度の春先にチューリップなんてどうかな?」
「それ良いな。今度球根買いに行くぞ」
「デートみたいだね……」
──────
「じゃあな、玲ちゃん、また明日。ん……」
亮司は玲に向かって両手を広げる。玲はその腕の中に吸い込まれていく。
「亮司くん……好き、大好き」
最近、亮司は言ってしまいそうになる。
『俺も好き。玲ちゃんが大好き』
言ってはダメだ。自分はきっと女に浮気する。女が好きなのだ。
どんなに玲がきれいでも、どんなに可愛く感じようとも、……どんなに大切だろうとも玲は男だ。
自分は女を選ぶ。玲には残酷すぎる。
……離れるならば、早い方が良い。
───────
次の日、亮司は玲の呼び出しに応じなかった。
「? 亮司くん? ご飯食べよ? 外が嫌なら教室でも良いよ?」
「……もうお前と一緒には食わねぇ。
俺、他校に彼女出来た。お前みたいなきれいな奴といると勘違いされる。もう話しかけんな」
「なに……? そんなこと昨日まで何も……昨日も帰り道はずっと一緒で、抱きしめてくれたじゃん?!」
四季と蒼士は叫んだ。
「だっ?! 抱きしめ……?! そんなことしてたの……? 坂田くん……玲くんかわいそうだよ」
「気を持たせるようなことしたお前が悪いだろ?
坂田。三枝がお前のこと好きなのは知ってただろ?」
「……だから、だよ。三枝、俺最初に言ったよな? こんなことしてたらお前が辛いことになるって。
俺は男は嫌いだ。気持ち悪い。ホモなんて真っ平だ。
蒼士、お前らのことじゃない。自分には当てはまらないってことだ。
だから、三枝、もううちのクラス来んな。弁当もいらない。お前とは話さない。委員会は俺が辞める」
蒼士たちは身構えた。
きっと玲が大声で喚き散らすだろう……
……しかし、玲は目からハラハラと涙を零して、静かに歩き出した。
「坂田くん! 追いかけなよっ!!
坂田くんも玲くんのこと好きでしょ?!
何であんな酷いこと言うのさ?!」
「俺、あいつと付き合ったとしても多分女に目移りする。
あいつのことは可愛いと思ってる。
一緒にいて楽しいし……他の誰とも仲良くしてほしくない。
けど、駄目なんだ。男は恋愛対象じゃない」
「そんな……坂田くん、もっとちゃんと考えた方が良いよ? 玲くん凄いモテるんだから。特に最近、誰かさんのお陰で優しくなったし、笑顔が増えて可愛いって、大人気なんだから。
上級生も、下級生も狙ってる。
坂田くんには言わなかっただろうけど、あの氷の女王が、前とは違って告白も全部優しく丁寧に断ってたみたいなんだよ?
坂田くんが氷を溶かしたの!! 坂田くんのおかげでいつも笑顔で楽しそうだったのに……」
──────
玲が亮司のクラスに通わなくなってから、亮司は機嫌が悪い。何にでも当たり散らす。
「何だよくそっ。お前らこっち見てんなよ?!」
「……おいおい、坂田落ち着けよ……荒れすぎだし、八つ当たり酷いぞ? 周り迷惑だろ?」
周囲はみな、亮司と玲は付き合っていると思っていた。それも仕方がない。
亮司は『氷の女王』を笑顔にした、言わば王子様なのだ。
もちろん氷が溶けて美しくなった女王は今まで以上にモテる。
さらに、亮司と別れたという噂が広まれば尚更だ。
──────
「三枝玲さん、話があるんですけど……中庭に来てもらえませんか?」
昼休み、1年生の長身でイケメンの男に玲は呼び出された。
正直、玲は亮司との思い出の多すぎる中庭には行きたくなかった。
「三枝玲さん、俺、入学してからずっと貴方を見てました。
好きだと気付いてから、すぐに行動を起こせば良かった……後悔しました。
坂田さんとは別れたんですよね?ならば俺と付き合ってくれませんか?
俺、坂田さんより良い男ですよ?」
「ぷっ……あはは。なんでみんなそんなに強気なの??
確かに君、かっこいいし、少しはまともそう。
けど……ごめんね。
僕は好きな人とじゃなきゃ付き合わない。
それにもっと可愛い子たくさんいるでしょ? 僕、でかいし、可愛くないし、性格悪いし」
「玲さん、手に入れ甲斐がありますね。
俺はあなたみたいに美しくて可愛らしい人見たことないですけど。
必ず手に入れます。
早速なんですけど俺、今日弁当作ってきてます。ここで一緒に食べませんか?」
「君が? ……それくらいなら、良いよ。でも、それ以上はないから。」
1階にある蒼士たちのクラスからは中庭が丸見えだ。蒼士が騒いだ。
「坂田っ!! あれやばいって!! 三枝、他の奴と飯食ってるぞ?!
良いのかよ、お前? しかもあいつ1年のすげーモテる奴だぞ?
おいっ! 坂田聞いてる?」
亮司は窓の外に目をやって、その光景が信じられなかった。
玲が笑顔で楽しそうに他の男と話しながらお弁当を広げている。中庭のベンチで。
違う!! そこは俺と玲の場所だ!!
亮司は目の前が真っ白になると、窓を開けて中庭へ飛び出した。教室はざわついた。
「何? どうしたの?」
「坂田くんが窓から飛び出たみたい……」
「あー、あれ見て! 三枝くんが他の男と話してる」
「え? でも確か坂田くんが振ったんだよね? 三枝くんのこと……往生際わる〜い」
──────
「おいっ! 玲ちゃんっっ! 何してるんだ?! 早くこっちに来いっ!」
玲はピクっとしてその声がする方を振り返った。
「え? なに? 亮司くん……? 何か用……うわあ!」
亮司は玲の側まで行くと、思いっきり抱き寄せた。
「まだ、今日のハグしてない。──なにあんな奴と楽しそうにしてんの?」
「あ……の……ごめん、亮司くん……君が言った通り、僕もうこういうことやめるから、放して。
だいたい僕が誰と仲良くしようが、亮司くんには関係ないでしょ?」
「お前、本気で言ってんのか? 俺のこと好きだろ?」
「ううん。違う。もう大丈夫。知ってると思うけど、僕諦め早い方だから。
亮司くんはちゃんと彼女大事にしてあげて。
今まで邪魔しちゃってごめんね。
あ、ちゃんとお花世話してるから、心配しないで。それじゃあ」
玲は振り返ると走り出した。
亮司には見えていなかったが、玲の目には涙が溢れて(あふれて)いた。
「玲さん、待って!」
その一年、川口秀平は玲の腕を掴んだ。玲は声を出して泣き始めた。
「玲さん、あんな奴の為に泣かないで。俺は付き合えなくても良い。側にいさせてください」
──────
それから毎日昼休み、玲と秀平は一緒に過ごす。
1年生の秀平が2年生の教室に来ると皆騒ぐ。こいつも相当なイケメンだ。理系男子にだってモテるだろう。
──玲はもう亮司のクラスにはやって来ない。代わりに秀平が玲の教室に入り浸った。
「ねぇ、坂田くーん。本当にこれでいいの? 玲くんのこと……坂田くんのこと吹っ切れたなんて、あんなの嘘だよ?
まだ好きだよ……そんなに簡単じゃないよ……」
「三枝意思強そうだけどさ、弱ってんだから、あの一年に絆されちまうかもよ?」
亮司は答えた。
「──まずいよなぁ。俺……玲ちゃんのこと本気で好きみたい。もう認めるしかない。でもあいつ、男なんだよ……俺はゲイじゃない」
「坂田くんってばかぁ? 僕だってゲイじゃないよっ! 蒼士だってそうでしょ? 僕だって可愛い女の子が好きだし、何なら蒼士の妹さんが好み! でも蒼士好きになったからしょうがないのっ!」
「えっ?! やっぱ実紅のが好きなん?!」
「うるさい! 蒼士は黙って! 坂田くんの心にはいつも誰がいるの? 早く素直にならないと、他の人に攫われちゃうんだからねっ?!」
亮司は頭が真っ白になった。
立ち上がると体が勝手に走り出していた。
「坂田くんがんばれっ!」
「しーきー……実紅が好きなの……女の子がいーのー?」
「蒼士、空気読めないね……
蒼士が好きに決まってるでしょ!
ほら、僕のこと抱っこして!
……坂田くんたち上手くいくと良いけど……」
──────
玲の教室には玲と、秀平二人きりになった。他の生徒はもう下校した後だ。
「玲さん、そろそろ俺と付き合ってくださいよ。大切にしますよ?」
「うん……もう良いのかな。僕、君に甘えても」
「もちろんですっ! 玲さん、抱きしめても良いですか?」
『ガタガターーーーン!!』
「ストーップ!! 玲ちゃん! こっち来い! 今日のハグ!」
玲は亮司の声のする方を振り返った。
目には涙が溢れて(あふれて)きた。
「あっち行ってよ! 亮司くん、一体何しに来たの? 僕はもう良いって言ったよね? 君のこと好きじゃないって……帰って!」
「じゃあ、何で泣いてんだよ? 俺のこと好きだろ?
──ん……ハグして」
亮司は玲に向かって手を広げた。
「玲ちゃん、今までごめんなさい。酷く扱った。
好きじゃないって言ったのに思わせぶりな態度とったり……
──玲ちゃんがこの世で一番可愛い。俺、玲ちゃんが好きだ。やっとわかったんだよ。
男とか女とかにこだわるなんてバカらしいって。玲ちゃんは男でも女でも玲ちゃんだよ。
女に浮気なんてしない。日和ってたんだ。保険かけたんだ。最低だな俺……
……とにかく、玲ちゃんが好きです。二度と離れたくない。一緒にいてください」
玲は困ったような顔をしてオロオロした。
そして秀平や走ってきた四季の方をチラッと見た。
二人はやれやれといった顔をして言った。
「良かったですね? 玲さん」
「おめでとう、玲くん」
玲は顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いて、亮司の胸の中へ飛び込んだ。
「おかえり……俺の玲ちゃん。毎日ハグが出来なくて寂しかった」
「ふぇ……亮司くん……亮司くん……」
「ハァハァハァ……
四季、足マジではぇぇー、さすが俺がリレーで勝てなかっただけのことはあるぜ……
んで、坂田、どうなった?」
「ん、玲ちゃん無事にゲットした。
お前らにも心配かけてごめんな。
もう玲ちゃん絶対に離さないからな?
後、そこの一年、もう玲ちゃん狙うなよ? 俺んだからな!!」
「後一歩だったんですよ? 残念。ですけど、玲さんが幸せなら、それで良いです」
「秀平くん、ありがとう。君に沢山救われたよ。僕友達いないから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」
亮司は喚いた(わめいた)。
「駄目っ!! それは許さないっ!! 中里ちゃんと仲良くするのも許せないのにっ!!」
四季と蒼士は眉間に手を当てた。
『ちょー束縛男』 爆誕……
「玲ちゃん、俺の許可なく他の奴と話しちゃ駄目だから……後、他の奴から……ぶつぶつぶつぶつ……」
「玲くん嬉しそうで良かったよ、ね? 蒼士」
亮司は男は嫌いだと言う。
しかし玲のことを抱きしめて可愛いと言ってくれる。
玲は素直に嬉しかった。亮司は少なくとも玲に対しては好意的だ。
玲はいつか来る終わりに怯えながら、それでも、亮司の隣にいた。
──────
「あっ、玲くん! おつー! こっち来てケーキ食べよ? 蒼士の手作りだよー!!」
玲が亮司のクラスに通うようになり、四季は何かと玲にかまう。玲は玲で満更でもなさそうだ。
「何で僕があんたなんかと……矢田くんの手作りか……食べてみたい」
「「何で蒼士に反応するの?!」」
亮司と四季はハモって叫んだ。
「え? 坂田くん? 蒼士にやきもちー?
大丈夫だよ〜玲くんは坂田くん一筋じゃん……
ってそうだよね? 玲くん? 蒼士なんかに興味ないよね?!」
「蒼士なんかって……酷いな……四季」
亮司は自分の言動が信じられなかった。
玲が蒼士に対してまだ少しでも気持ちがあるとしたら……そう思うだけでもイラついた。
玲に対する所有欲が芽生えている。
せっかく自分にだけ懐いていたのに……
なんだ? この考え……
別に玲が誰を好きだろうと……
亮司は、ぷんぷん怒りながらも楽しそうにケーキを食べる玲を見つめた。
──────
そのうちに、玲は亮司に弁当を作ってくるようになった。
「亮司くん、行こう? 中庭でお花見ながら食べよ?」
「ふぁ〜ねむ。はいはい。玲ちゃん、今日の弁当は何かなっと」
亮司の玲に対する呼び方が『三枝』から『玲ちゃん』に変わった。
「ふふっ。今日はとんかつだよ! 亮司くん揚げ物好きだから」
「お前……朝から頑張りすぎ……もっと簡単で良いんだぜ? 卵とウインナーとか……」
「坂田くん、それでも玲くんに作らせるんだー(笑)
いつも美味しそうだもんね。僕も食べてみたい〜」
「……仕方ないから、あんたにも今度作ってやるよっ!」
「うっわ!! 玲くんがデレた……まじ貴重」
「なっ?! そんなこと言うなら作らない!!」
玲と四季はワイワイやっていた。
亮司はそこに割って入った。
「──玲ちゃん、行くぞ」
亮司は玲の肩を抱き寄せて行ってしまった。
「……あれ、今の坂田くん絶対やきもちだよね?」
「お、おう。俺もそう思う」
「玲くん! 頑張れ! これはいけるよ! あと一推し!」
──────
亮司は面白くない。
この前まで自分にしか慣れてなかった玲が、四季や蒼士に懐いてきている。
「なぁ、玲ちゃん……?」
「? なぁに? さっきからどうしたの? 変だよ? 亮司くん……」
「今日のハグ、してないよ?」
「あ……でも僕は……別れ際にした方が、亮司くんに会えない間、次に会うまでの力になるっていうか……」
「なら、二回すればいいよ」
亮司は玲をぎゅっと抱きしめた。
「亮司……くん?」
「──さっ、弁当食べようか! すっげー楽しみ!」
二人は他愛も無い話しを始めた。
「あのね、この前植えたマリーゴールドとサルビアがそろそろ咲きそうだよ? 楽しみだねー!」
亮司と玲は放課後に花壇の手入れをしてから帰るのが日課だ。
「もう少し花の種類増やしたいかなー。
でも二人だし、手が回んないかもな……他の委員、サボりまくってるからなー」
「あと一種類くらいなら何とかなりそう。
ねぇ、今度の春先にチューリップなんてどうかな?」
「それ良いな。今度球根買いに行くぞ」
「デートみたいだね……」
──────
「じゃあな、玲ちゃん、また明日。ん……」
亮司は玲に向かって両手を広げる。玲はその腕の中に吸い込まれていく。
「亮司くん……好き、大好き」
最近、亮司は言ってしまいそうになる。
『俺も好き。玲ちゃんが大好き』
言ってはダメだ。自分はきっと女に浮気する。女が好きなのだ。
どんなに玲がきれいでも、どんなに可愛く感じようとも、……どんなに大切だろうとも玲は男だ。
自分は女を選ぶ。玲には残酷すぎる。
……離れるならば、早い方が良い。
───────
次の日、亮司は玲の呼び出しに応じなかった。
「? 亮司くん? ご飯食べよ? 外が嫌なら教室でも良いよ?」
「……もうお前と一緒には食わねぇ。
俺、他校に彼女出来た。お前みたいなきれいな奴といると勘違いされる。もう話しかけんな」
「なに……? そんなこと昨日まで何も……昨日も帰り道はずっと一緒で、抱きしめてくれたじゃん?!」
四季と蒼士は叫んだ。
「だっ?! 抱きしめ……?! そんなことしてたの……? 坂田くん……玲くんかわいそうだよ」
「気を持たせるようなことしたお前が悪いだろ?
坂田。三枝がお前のこと好きなのは知ってただろ?」
「……だから、だよ。三枝、俺最初に言ったよな? こんなことしてたらお前が辛いことになるって。
俺は男は嫌いだ。気持ち悪い。ホモなんて真っ平だ。
蒼士、お前らのことじゃない。自分には当てはまらないってことだ。
だから、三枝、もううちのクラス来んな。弁当もいらない。お前とは話さない。委員会は俺が辞める」
蒼士たちは身構えた。
きっと玲が大声で喚き散らすだろう……
……しかし、玲は目からハラハラと涙を零して、静かに歩き出した。
「坂田くん! 追いかけなよっ!!
坂田くんも玲くんのこと好きでしょ?!
何であんな酷いこと言うのさ?!」
「俺、あいつと付き合ったとしても多分女に目移りする。
あいつのことは可愛いと思ってる。
一緒にいて楽しいし……他の誰とも仲良くしてほしくない。
けど、駄目なんだ。男は恋愛対象じゃない」
「そんな……坂田くん、もっとちゃんと考えた方が良いよ? 玲くん凄いモテるんだから。特に最近、誰かさんのお陰で優しくなったし、笑顔が増えて可愛いって、大人気なんだから。
上級生も、下級生も狙ってる。
坂田くんには言わなかっただろうけど、あの氷の女王が、前とは違って告白も全部優しく丁寧に断ってたみたいなんだよ?
坂田くんが氷を溶かしたの!! 坂田くんのおかげでいつも笑顔で楽しそうだったのに……」
──────
玲が亮司のクラスに通わなくなってから、亮司は機嫌が悪い。何にでも当たり散らす。
「何だよくそっ。お前らこっち見てんなよ?!」
「……おいおい、坂田落ち着けよ……荒れすぎだし、八つ当たり酷いぞ? 周り迷惑だろ?」
周囲はみな、亮司と玲は付き合っていると思っていた。それも仕方がない。
亮司は『氷の女王』を笑顔にした、言わば王子様なのだ。
もちろん氷が溶けて美しくなった女王は今まで以上にモテる。
さらに、亮司と別れたという噂が広まれば尚更だ。
──────
「三枝玲さん、話があるんですけど……中庭に来てもらえませんか?」
昼休み、1年生の長身でイケメンの男に玲は呼び出された。
正直、玲は亮司との思い出の多すぎる中庭には行きたくなかった。
「三枝玲さん、俺、入学してからずっと貴方を見てました。
好きだと気付いてから、すぐに行動を起こせば良かった……後悔しました。
坂田さんとは別れたんですよね?ならば俺と付き合ってくれませんか?
俺、坂田さんより良い男ですよ?」
「ぷっ……あはは。なんでみんなそんなに強気なの??
確かに君、かっこいいし、少しはまともそう。
けど……ごめんね。
僕は好きな人とじゃなきゃ付き合わない。
それにもっと可愛い子たくさんいるでしょ? 僕、でかいし、可愛くないし、性格悪いし」
「玲さん、手に入れ甲斐がありますね。
俺はあなたみたいに美しくて可愛らしい人見たことないですけど。
必ず手に入れます。
早速なんですけど俺、今日弁当作ってきてます。ここで一緒に食べませんか?」
「君が? ……それくらいなら、良いよ。でも、それ以上はないから。」
1階にある蒼士たちのクラスからは中庭が丸見えだ。蒼士が騒いだ。
「坂田っ!! あれやばいって!! 三枝、他の奴と飯食ってるぞ?!
良いのかよ、お前? しかもあいつ1年のすげーモテる奴だぞ?
おいっ! 坂田聞いてる?」
亮司は窓の外に目をやって、その光景が信じられなかった。
玲が笑顔で楽しそうに他の男と話しながらお弁当を広げている。中庭のベンチで。
違う!! そこは俺と玲の場所だ!!
亮司は目の前が真っ白になると、窓を開けて中庭へ飛び出した。教室はざわついた。
「何? どうしたの?」
「坂田くんが窓から飛び出たみたい……」
「あー、あれ見て! 三枝くんが他の男と話してる」
「え? でも確か坂田くんが振ったんだよね? 三枝くんのこと……往生際わる〜い」
──────
「おいっ! 玲ちゃんっっ! 何してるんだ?! 早くこっちに来いっ!」
玲はピクっとしてその声がする方を振り返った。
「え? なに? 亮司くん……? 何か用……うわあ!」
亮司は玲の側まで行くと、思いっきり抱き寄せた。
「まだ、今日のハグしてない。──なにあんな奴と楽しそうにしてんの?」
「あ……の……ごめん、亮司くん……君が言った通り、僕もうこういうことやめるから、放して。
だいたい僕が誰と仲良くしようが、亮司くんには関係ないでしょ?」
「お前、本気で言ってんのか? 俺のこと好きだろ?」
「ううん。違う。もう大丈夫。知ってると思うけど、僕諦め早い方だから。
亮司くんはちゃんと彼女大事にしてあげて。
今まで邪魔しちゃってごめんね。
あ、ちゃんとお花世話してるから、心配しないで。それじゃあ」
玲は振り返ると走り出した。
亮司には見えていなかったが、玲の目には涙が溢れて(あふれて)いた。
「玲さん、待って!」
その一年、川口秀平は玲の腕を掴んだ。玲は声を出して泣き始めた。
「玲さん、あんな奴の為に泣かないで。俺は付き合えなくても良い。側にいさせてください」
──────
それから毎日昼休み、玲と秀平は一緒に過ごす。
1年生の秀平が2年生の教室に来ると皆騒ぐ。こいつも相当なイケメンだ。理系男子にだってモテるだろう。
──玲はもう亮司のクラスにはやって来ない。代わりに秀平が玲の教室に入り浸った。
「ねぇ、坂田くーん。本当にこれでいいの? 玲くんのこと……坂田くんのこと吹っ切れたなんて、あんなの嘘だよ?
まだ好きだよ……そんなに簡単じゃないよ……」
「三枝意思強そうだけどさ、弱ってんだから、あの一年に絆されちまうかもよ?」
亮司は答えた。
「──まずいよなぁ。俺……玲ちゃんのこと本気で好きみたい。もう認めるしかない。でもあいつ、男なんだよ……俺はゲイじゃない」
「坂田くんってばかぁ? 僕だってゲイじゃないよっ! 蒼士だってそうでしょ? 僕だって可愛い女の子が好きだし、何なら蒼士の妹さんが好み! でも蒼士好きになったからしょうがないのっ!」
「えっ?! やっぱ実紅のが好きなん?!」
「うるさい! 蒼士は黙って! 坂田くんの心にはいつも誰がいるの? 早く素直にならないと、他の人に攫われちゃうんだからねっ?!」
亮司は頭が真っ白になった。
立ち上がると体が勝手に走り出していた。
「坂田くんがんばれっ!」
「しーきー……実紅が好きなの……女の子がいーのー?」
「蒼士、空気読めないね……
蒼士が好きに決まってるでしょ!
ほら、僕のこと抱っこして!
……坂田くんたち上手くいくと良いけど……」
──────
玲の教室には玲と、秀平二人きりになった。他の生徒はもう下校した後だ。
「玲さん、そろそろ俺と付き合ってくださいよ。大切にしますよ?」
「うん……もう良いのかな。僕、君に甘えても」
「もちろんですっ! 玲さん、抱きしめても良いですか?」
『ガタガターーーーン!!』
「ストーップ!! 玲ちゃん! こっち来い! 今日のハグ!」
玲は亮司の声のする方を振り返った。
目には涙が溢れて(あふれて)きた。
「あっち行ってよ! 亮司くん、一体何しに来たの? 僕はもう良いって言ったよね? 君のこと好きじゃないって……帰って!」
「じゃあ、何で泣いてんだよ? 俺のこと好きだろ?
──ん……ハグして」
亮司は玲に向かって手を広げた。
「玲ちゃん、今までごめんなさい。酷く扱った。
好きじゃないって言ったのに思わせぶりな態度とったり……
──玲ちゃんがこの世で一番可愛い。俺、玲ちゃんが好きだ。やっとわかったんだよ。
男とか女とかにこだわるなんてバカらしいって。玲ちゃんは男でも女でも玲ちゃんだよ。
女に浮気なんてしない。日和ってたんだ。保険かけたんだ。最低だな俺……
……とにかく、玲ちゃんが好きです。二度と離れたくない。一緒にいてください」
玲は困ったような顔をしてオロオロした。
そして秀平や走ってきた四季の方をチラッと見た。
二人はやれやれといった顔をして言った。
「良かったですね? 玲さん」
「おめでとう、玲くん」
玲は顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いて、亮司の胸の中へ飛び込んだ。
「おかえり……俺の玲ちゃん。毎日ハグが出来なくて寂しかった」
「ふぇ……亮司くん……亮司くん……」
「ハァハァハァ……
四季、足マジではぇぇー、さすが俺がリレーで勝てなかっただけのことはあるぜ……
んで、坂田、どうなった?」
「ん、玲ちゃん無事にゲットした。
お前らにも心配かけてごめんな。
もう玲ちゃん絶対に離さないからな?
後、そこの一年、もう玲ちゃん狙うなよ? 俺んだからな!!」
「後一歩だったんですよ? 残念。ですけど、玲さんが幸せなら、それで良いです」
「秀平くん、ありがとう。君に沢山救われたよ。僕友達いないから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」
亮司は喚いた(わめいた)。
「駄目っ!! それは許さないっ!! 中里ちゃんと仲良くするのも許せないのにっ!!」
四季と蒼士は眉間に手を当てた。
『ちょー束縛男』 爆誕……
「玲ちゃん、俺の許可なく他の奴と話しちゃ駄目だから……後、他の奴から……ぶつぶつぶつぶつ……」
「玲くん嬉しそうで良かったよ、ね? 蒼士」
