僕たちの恋は、いつだって予想外。~強気で不器用な美少年たちは今日も恋に全力投球……顔面偏差値100超えの6人が織りなす、甘くて痛い初恋の記録~

第1章:『執着と純愛(蒼士・四季)』
学校一の王子様に一目惚れ?!
男同士なのにまさかこんなに好きになるなんて……あり得ないっ?!


──────


俺、矢田蒼士(やだそうし)は中里四季に(なかさとしき)一目惚れした……


──────


高校1年の春、桜はまだ咲き誇っていた。

入学式の日、すごくきれいな子がいると周囲が騒いでいた。

は? ここは男子校だぞ? キッモ……女がいないからって男に盛るなよ……

「おい、矢田も見てみれって! かわいいから! 絶対惚れるぞ?」

クラスの男どもがみな窓辺に集まり、どよめきながら校庭を見ていた。

「あ〜、マジ興味ない。てか恋愛自体がどうでも良い。そしてお前らキモい」

俺だってそこそこモテる。けれど、今までの告白は全て断ってきたし、好きな子なんて出来たことがない。

俺、青春無駄にしてんのかなぁ……


──────


入学式は相当怠かった。

そして、あり得ないことに俺が入退場するたびに席からは男子の小さな悲鳴が上がる。
こういうのには中学で慣れっこだ。
どうせ、『かっこいい』だのなんだのだろ? 
くだらない。しかもここ男子校だぞ? 鳥肌もんだ。

──俺はもちろん気付いてはいない。
真剣に俺を見つめる潤んだ瞳、上気した頬、後々の出会いに……


──────


先ほどから何度も言うが、ここは男子校だ。授業中に目が行くのは、せいぜい若い女教師の胸くらい……にも目がいかないんだなぁ。
本当にどうでも良すぎて、我ながら悲しい。

「お前、今まで相当告られてんじゃん?
付き合ったことないの?」

こいつは高校で知り合った坂田亮司(さかたりょうじ)だ。ピアスバチバチで少しチャラい(人には言えない)けれどいい奴だ。入学してからはこいつとつるんでいる。

「やめろよ……ここ男子校だぞ……
最近告られたのなんて全部男子だぞ? 

……しかも俺、恋愛に興味ないっぽい。女も男も興味なし。

あ〜、運命の相手がいるんなら、出会いたいよ」

「へぇ、見かけによらず随分ロマンチストなんだな。うける。俺、女好き。男無理。
まぁ、でもこの学校の文系、やたらと可愛い男子多いぜ? お前入学式の日見なかっただろ? 
やばいくらい可愛い子いたんだぜ? あれなら俺もいけるかも……(笑)」

「はあ、お前も節操ねぇなぁ」


────────


春、桜が満開だ!! 
──なんて呑気なこと言ってられない!!
僕、中里四季(なかさとしき)は入学式に遅れそう! やばい! こんな大事な日に遅刻するなんて恥ずかしいよ〜
あと5分!

校門を過ぎた辺りを急ぐ様子もなく、ゆったりと歩く男子がいた。
急いでいないところを見ると、新入生ではないのだろう。
僕はダッシュで彼の横を通りすがるところだった。
彼は怠そうにしていたが僕は何気なく彼の顔を見た。

『ドクンッ……』

心臓が跳ねた。一瞬立ち止まってしまったが、チャイムで正気に戻った。

やばい〜!!


──────


何とか教室にたどり着くと入学式の説明の最中だった。四季が教室に入るや否や教室中がざわついた。その原因は四季自身にある。四季はかなりの美少年。その辺の美女でも敵わない。初めて会う人たちのこういう反応には慣れっこだ。

前の席に座る男子から声をかけられた。

「君、めっちゃ可愛いね!! 僕も可愛い系って言われるけど、君はずば抜けてる! ねぇ、友達になろうよ! 僕歩夢(あゆむ)っていうんだ。よろしく!」

「あ、ああ。僕は四季。よろしく」

四季は気もそぞろだった。

さっき校門ですれ違った人……かっこよかったな。上級生かな?

僕は多分男の人が好きな訳じゃない。
けど……あんなかっこいい人なら……

「四季! ほら入学式行くよっ!!」

歩夢が声をかけると四季はハッとした。

「あ、うん……」


──────


体育館に用意された椅子に腰掛けた。四季は通路側だった。四季は文系で、先に入場し、理系の入場を待っていると、四季は目を見開いた。

いたっっ!!!! さっきの彼だ!! 1年生だったのだ──あ……1年……9組? えっと……9組だ!!

周りがざわついてキャーキャー騒いでいる。

「矢田蒼士くんまじかっこいい!! 中学の頃から相当モテたらしいよ!」

「えー俺ゲイじゃないけど、矢田くんなら……」

「同クラの坂田亮司くんもやばいらしいよ……」

矢田くん……っていうんだ。すごくかっこいい……

四季の座る席のちょうど斜め前に蒼士は座った。四季は蒼士を見つめ続けた。


──────


5月になり、学校も落ち着くと、蒼士はアルバイトを始めることにした。
大手有名ファストフード店でのアルバイトだ。

「矢田蒼士です。よろしくお願いします」

「じゃ、矢田くんはキッチンね。中里くんについて! 君たち確か同じ高校じゃないかな?」

「……っっ?! えっ? あっ……あのっ……中里です……よ、よろしくね? 矢田くん」

「……うっわ……かわい……え? 同じ高校? 男? うそお?」

すかさず店長が、蒼士を制した。

「はい〜矢田くん、いきなりナンパしないで。ちゃんと仕事教わるんだよ?」

「は……え?……いや……こんな可愛い子と一緒なんて仕事に集中できない……」

周りからはクスクス笑い声が聞こえた。

「ぷはっ。中里くんが可愛いからってそこまでうろたえる人初めて見たぁ」

「同じ高校なんでしょ? 知らなかったの?」

四季は慌てて答えた。

「あ、僕文系だし、矢田くん理系だから棟が違うんです! だからほぼお互い何にもわかんないっていうか……あの……僕は矢田くん知ってました。派手だし、カッコいいからすごく目立つ! あ、良い意味で派手! ごめんなさい……」

四季は少し照れくさそうに言った。

「じゃあ二人仲良くやんなよ。同じ高校のよしみで」

蒼士は物覚えが良く、器用なので、初日のうちにほぼ完璧にこなしてしまった。

「すごい矢田くん!! もう僕あんまりフォローすることなくなっちゃうじゃん! 
店長! 矢田くんすごいです!」

「いや、中里の教え方が上手いって! フォロー沢山してもらってる……ありがとう」

「すごいね、矢田くん。じゃあ明日からも中里くんとよろしく〜」

内心蒼士の胸はずっとバクバク言いっぱなしだった。四季の顔が近くに寄る度、目が合いにっこり微笑まれる度に……

「矢田くん! 一緒に帰ろう? 家どっち?」

『ドキッ……』

いちいちドキドキしてしまう……うぜえな、俺の心臓……

「あ、俺丸の内線。中里は?」

「僕も一緒!! 一緒に行っても良い??」

もちろん良いに決まってるっ!!
逆に嬉しすぎるっ!! って、俺、落ち着け……

「あぁ、いいよ。一緒に行こう」

はぁ……こいつ、中里……まじ可愛いんだけど……身長いくつくらい? 160センチくらいか? 小さい……腕にすっぽり収まりそう……キスしやすそうな高さだな。柔らかそうな髪の毛……ふわふわじゃん。何? その真っ赤な唇……ちっちぇーな……キスしたら食っちゃいそう……

まずい、非常にまずい。妄想が止まらない……

「な、なぁ中里って文系なのな。俺のこと知ってたんだ?」

四季は顔を赤く染めて言った。

「あ、あのね……引かないでね? 
文系ってその……ちょっと可愛いタイプの男子が多くって、カッコイイ系の男子にあんまり馴染みなくて、矢田くんとかが窓から見えたりするとみんな騒ぐんだよね。
だから矢田くん有名で……僕も知ってたっていうか……なんというか」

「へぇ……中里は俺のことどう思ってた?」

……俺はなんてことを聞いてしまったんだ。馬鹿か。

「えっ?! ……あ……の、もちろんかっこいいって……その……」

ほらぁ、中里困ってる! きもいよな。こんな質問して。俺も自分がキモすぎる。

「ごめん、冗談! 間に受けないで! これからよろしくやろうよ、先輩?」

四季の顔はパァっと明るくなった。

「うん! 矢田くんと友達になれて嬉しい! よろしく!」


──────


俺は家へ帰ってからも中里のことが頭から離れなかった。

え? これって絶対あれだよな? 
……一目惚れってやつ……? 俺が? 男に……? 

嘘だろ……いくら男子校だからって……いや、でもバイト先で一目惚れしてんだから男子校関係ないか。
ああ、そうだ、高校も一緒だった。ラッキー。

けど文系ってあんな可愛い系がうじゃうじゃいんのか……? そういやそんなこと周りで言ってたような……明日坂田誘って文系棟行ってみよ。

あ、中里甘いもん好きかな? この前母親が職場から大量に買ってきた可愛いキャンディがあったはず……


──────


「おい、坂田! 俺文系の奴に用があるから文系棟についてこいよ」

「へぇ? お前文系に知り合いいるんだ? 初耳だな」

「お、おう。いいから! いくぞ!」

柄にもなく俺は可愛いキャンディの箱を片手に文系棟へ向かった。

──なるほど……きゃぴってる奴多いな。
理系に比べるとかわいい奴が多かった。
なんか棟全体いい香りするし、男臭くないというか……

案の定、俺と坂田の訪れで、ざわつきはじめた。

「ねえ! あれ矢田くんと坂田くんじゃん?!」

「うそっ?! まじイケメンっ!! なんで文系棟に?」

「えっ、誰か探してるみたい」

そのうちの一人が話しかけてきた。

「あの! 誰か探してるの? クラス教えよっか?」

「あぁ、中里って言う……」

「げっ!! やっぱり矢田くんも中里くん狙い?? もう腹立つ〜なんなのあの子〜」

やっぱり? って……そりゃ多分この学校一かわいいとは思ったけど、やっぱり?

亮司が大声で叫んだ。

「はっ?! まじ? お前興味ないって言ってただろ? 何いきなり?」

「え? 何? 何の話? 俺なんかした?」

亮司は続けた。

「入学したばっかの時、みんな騒いでたのに、お前だけ興味持ってなかったじゃん? 
中里のこと見もしなかったよな? 
今更どうしたの?」

「あ〜……あの例の可愛い子って中里のことなんだ……納得……
いや、昨日から俺バイト始めてて、中里、バ先の先輩なんだよ。
んで昨日のお礼持ってきただけだって……」

亮司はニヤついて俺を見た。

「言い訳はいいって。惚れたんだろ? 
あの子マジで可愛いよな?」

「なっ! ちがっ……俺は……とにかく! 
今日はお礼持ってきたの! ……あと、バイト一緒に行こうって誘いに……
あ〜!! 確かにこんなの俺じゃないっ!! らしくないっ!!」

「はいはい、中里くんのとこに行こうね〜」


──────


四季は教室にいて、数人のクラスメイトとだべっていた。

蒼士に気付くと顔がパァっと明るくなり、小走りで近寄ってきた。

「矢田くん?! どうしたの? こんなところで……? すごく目立ってる」

四季はくすくす笑った。
かっわいい……

「あ、昨日のバイトのお礼持ってきた……甘いの好きそうだったから……キャンディ、食べる?」

「うわぁ! わざわざよかったのに……ありがとう!! 嬉しい!!」

……この笑顔を見て惚れない奴なんているのか? 俺はもうダメだ。抱きつきたい……

「あ、中里ってさ、身長何センチ? 抱きしめやすそう……って、わぁまた変なこと言ってごめん!」

「むっ?! これでも168センチはあるんだからね? 意外と高いのっ!! 
……多分?……えへへ」

俺はつい引き寄せて確かめてしまった。

「あ、ほら俺の腕の中にすっぽり……わぁ! またごめんなさい!!……俺ダメだわ……中里の前では変になる……」

四季は顔を真っ赤にして蒼士をポカスカ殴ってきた。

「バカバカっ!! 恥ずかしいっ!! 
矢田くん僕のこと子どもかペットか何かだと思ってる!!」

あ、それ。そういうことにしとこう。そしたら今後も触りやすい。……じゃなくってっ!!

「ごめん、中里小動物みたいで……可愛いからつい……いっぱい触っちゃって……的な?」

──変態くさい。言い訳がまた変態くさいぞ。俺。

「ぷん。……仕方ないなあ。矢田くんだから許すけどっ!」

何この可愛い生き物?! 神様ありがとうっ!!


──────


「──」 

文系棟を無言で後にした二人だったが、亮司から先に口火を切った。

「……お前、なんだよあれ? デレデレして……惚れてんじゃん!! 中里に!! バレバレだぞ? ダダ漏れすぎ。もうちょっと自重しろよ? 大体お前そんなキャラか?」

蒼士はため息をついてからその場にしゃがみ込んだ。

「はぁ〜だよなぁ〜俺キモいよなぁ〜もう中里の前では心の中の声がポロッと……やばい。好きって言うのめっちゃ我慢してる……」

「……やっぱ好きなんか。何でだよ? お前あんなんが好きなの?」

「一目見て、生まれて初めて誰かのこと可愛いと思った。もう俺無理〜中里〜」

「矢田……マジで壊れてる。な? バイト一緒に行くんだろ? しっかりしろ? これからいつも会えるんだろ? 
あんまり心の声を垂れ流すなよ(笑)ビビられるぞ」


──────


それから蒼士は四季と順調に友情という名の愛情を深めて行った。

同じ高校で、同じバイト……夢のようだ。
しかし蒼士は気持ちが漏れないようにすることで大変だ。

最近では、ありがたいことにハグすることまで許されるようになったのだ。

「わぁん!! 矢田くん〜僕ミスしちゃって店長に怒られた〜」

「お〜よしよし。こっちこい? 中里抱っこしてやるぞ?!」

そう言うと四季は蒼士の胸の中に飛び込んでくるのだ。蒼士は幸せすぎて死にそうだ。

もちろん初めは冗談のつもりで言ってみただけだった。
にもかかわらず、本気にした四季が胸に飛び込んできた。
蒼士が驚きを隠せずにいると四季はバツが悪そうに慌てた。

「ご、ごめん!! 冗談だったよね? 本気にしちゃって……」

恥ずかしそうに涙を堪えていた。

「ぷっ。中里かわいっ! ほらおいで! 可愛いなぁ。いつでも抱っこしてやるから」

四季は嬉しそうに蒼士の胸に飛び込んで照れた顔を隠した。

「うっわ……こいつらこんな公共の場で何やってんの? 抱き合ってますよ? 店長……」

「青春ですね〜じゃあ、矢田くん、中里くん、明日は早番でよろしく!」

蒼士と四季が抱き合っていても、案外周りからの反応は薄く、前から仲の良すぎるこの二人なら驚かないという感じで、その後もこんな行為を続けていた。

蒼士はどんどん四季を好きになる。
隣で息をするのが苦しい……しかし、もうこの『四季の隣という特別な地位』を手放せない。


──────


今日は一日中雨が強い。
傘を閉じ、駅のホームで電車を待ちながら何となく四季が切り出した。

「ねえ、矢田くん……僕矢田くんのこと名前で呼びたいんだけど駄目かなぁ? 蒼士……って。あ、自分で言って恥ずかしいかも……えへへ」

何これ? 何のご褒美? 良いに決まってる!!

「じ、じゃあさ……俺も四季って呼んで良いの?」

「うん!! もちろん!! じゃあいい? 蒼士!!」

「もちろん、四季!」

続け様に蒼士は言った。

「四季ってさぁ、綺麗な名前だよな。
四季にぴったり。
怒ってたりとか、寂しそうだったりとか、笑ってる時でも、何をしても喜んでくれるところとか。まるで季節みたいに感情豊かだよな。
どんな四季でも、俺は好きだな」

四季は顔を真っ赤にして蒼士に抱きついた。


──────


「なぁ、坂田聞いてくれよ……昨日さぁ、四季が……あ、中里がさ、名前で呼びたいって言ってきたんだよな。俺も四季って呼べて……やばい……俺ニヤついてるよなぁ……顔が締まらん」

「はいはい。最近ずっーとそうだけどな。
良かったじゃん。順調に仲良くなれて……まぁ、男子同士ってのが気掛かりだけど……中里ちゃんそういうのは気にするタイプに見えないから良かったな。

むしろお前だろ? 男だとか気にしそうなの。
わかってる? あいつ俺たちと同じ『 お・と・こ 』だぞ?」

蒼士は窓の外で降り続く雨を眺めながら答えた。

「それなんだよな……もちろん四季のこと大好きだし、ハグも沢山する。……キスももちろんしたい。その先は……まだ勇気が出ない。想像が出来ない」

「ま、急がなくていんでない? まだ名前呼べて喜んでる段階だしぃ?」

亮司の言う通りだ。今悩んだとてどうにもならない。

まずはもっと仲良くなりたい。


──────


──秋。高校は体育祭、そして文化祭シーズンだ。

四季たちは、放課後に蒼士のクラスで話すのが日課になっていた。

「ねぇ、蒼士は何に出るの? 僕はねぇ、騎馬戦とリレーだよ〜」

「は? 騎馬戦? 四季が? 危なくね?」

「ふふん。上に乗るんだ。リレーはアンカーだよ! 意外とスポーツ出来るのだ!! すごい?」

「マジかよ……もっとか弱い系かと思ってた……何か騙された気分」

亮司も会話に参加してきた。

「へぇ〜中里ちゃんて運動神経良いんだ? リレー蒼士と被るじゃん」

「本当? じゃあ勝負だね! 蒼士!」

「四季可愛い〜四季の為なら負けてあげたい……」

「その一週間後には文化祭じゃん? 四季のクラス何やるのか教えてくんないけど、何やんのよ?」

「──内緒だし、来ちゃ駄目だからね……」

「な? この調子なんだよ」

「……ふーん……まぁ……当日わかんじゃね?」

亮司だけは四季がなぜ内緒にしているか、その理由を知っていた。


──────


体育祭本番、本日は晴天なり。

この高校、私立紫苑学院(しりつしおんがくいん)の体育祭は派手で有名だ。

体育祭は紅蘭祭(くらんさい)、と銘打って開催されるのだが、後夜祭で開催される

『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』

これが体育祭一番の目玉である。

男子校だからといって侮ることなかれ。
全校生徒が一番興味を惹かれる演目である。

まず各学年ミス、ミスターを各三名ずつ選出する。計六名が選出され、各学年にそれぞれに一名ずつミス・ミスターが誕生することになる。

四季はドギマギしていた。ぜっったいに蒼士がミスターだよっ!! あんなにカッコいいんだもん……ミスターになったらタキシード着て、希望者と写真撮るんだよ?! 僕も撮りたい……

蒼士はドギマギしていた。ぜっったいに四季がミスだぞっ?! あんなに可愛いんだもんな……ミスになったらドレス着て、希望者と写真撮るんだぞ?! 俺も撮りてーー……

二人は全く同じことを考えていた。

後夜祭は体育祭・昼の部が終わってからのお楽しみだ。


──────


「頑張れーーーーっ!! 四季後ろっ危ない!! 取れ取れっ!!」

「おーおー、蒼士お前堂々と敵の中里ちゃん応援するじゃん。にしても中里ちゃんまじ強えーな。あんな可愛い顔してさっきから何人落としてる? これうちのクラス負けだな」

「まじ、四季ってあんなに運動出来んだな?! あんなに可愛いのに……あんなにふにゃふにゃしてるのに……」

「人は見かけによらないって本当だな。おう、昼飯だぞ? 中里ちゃんのとこ行ってから食うんだろ? 行くぞ」


──────


四季のクラスのテントに迎えに行くと四季は飛びついてきた。

「あ、蒼士〜!! 観ててくれた?! 僕勝ったよっ!! 凄い?」

「もちろん観てたよ!! お前すげぇなあ。ほら、こっち来い!」

四季は蒼士の腕に飛び込んだ。

「この後の全校ダンスの後、リレーだね。全校ダンスは文系が内側、理系が外側だから、蒼士とも坂田くんとも踊れないしつまんない。どうでも良いや」

「そうか? おれ、四季が踊ってんの見たいから凝視するな(笑)」

「あは、じゃあ頑張ってマジで踊る(笑)
それよりも、リレーだよ! 問題はっ!! ぜっったいに僕が勝つからね? 蒼士何番目に走るの?」

「は? アンカーに決まってんだろ? かっこいいっしょ?」

「ふふ。僕もアンカーなんだよね。僕は速いよ?」

「は? 本当にアンカーすんの? こんなに小さいのにアンカー大丈夫かよ?」

「僕は小さくないっ!! 168センチ……ゆるく測ったらね……えへへ」


──────


バトンが蒼士のクラスを先頭に順調に回っている。四季のクラスは……さすが文系のかわい子ちゃんたちが多い。理系には敵わず、10クラス中最後からニ番目だ。

バトンが蒼士に回ってきた。
アンカーは400メートルを走る。

蒼士は順調に走り出した。そして遅れて四季がバトンを受け取った。

ああ、本当は負けてあげたい……
けど、これは勝負だ。正々堂々と……
は? 四季今三番目にいるんですけど……
は? は? 今すぐ後ろにいるんですけど……え? 横にいる……

四季は俺を見るとニヤッとして華麗に抜き去って行った。
俺は自慢じゃないが、本気を出さなくてもここ数年負けたことはない。
は? は? はあ? マジ? 
これは本気を出さなければ四季に負ける。
全速力で四季を追いかけた。だが、差は一向に縮まらない。むしろ開いていった。

『ぱぁん!!』

四季が見事にテープを切った。
俺は差を縮めることはなく二位で……嘘だろ……? 
コイツ……詐欺だ

俺はゴールと同時に地面に倒れ込んだ。

「嘘だろ……? まじかよ……ありえねぇ……」

四季が地面に転がっている俺に手を伸ばして言った。

「ほら、僕速いでしょ? 誰にも負けないんだから」

ムッとした俺は四季の手を引き自分の上に転ばせた。

「うわぁ! 蒼士! 何すんの?!」

「ん〜? この詐欺師め。みんなの前で抱きしめて恥ずかしい目に合わせてやる!!」

「きゃっきゃっ!! 蒼士〜!! やめてぇ〜!!」

「何あれ? クラスみんな応援してたんですけど……敵同士でイチャイチャしないでくれます……? 何か腹立つ」

四季のクラスと蒼士のクラスはみんな呆れた。


──────


後夜祭は毎年恒例、大人気の

『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』

が開催される。

まずは全校投票でノミネートされた者たちが壇上に上がる。各学年のミス、ミスター候補三名ずつだ。
1年生のミスには文系の四季、四季の友達の歩夢、理系の三枝玲(さえぐされい)の三名が選出された。
しかし、理系のミス候補、暴れて舞台に登りたがらない。

「放してっ!! 何で僕がこんなことっ!! くだらない! 放せ!!」

どえらい美人だが、無理矢理引きずりあげられて相当怒っている……

「あーあー、あんなに無理矢理……あの美人かわいそ……でも中里ちゃんよりクールビューティーって感じだな。俺あいつに票入れよっかな〜」

「ばっ!! おいっ!! ちゃんと四季に入れろよ? ドレス姿の四季と写真撮りてえんだから」

「はいはい……」

亮司は思った。あの美人、ずっとこっちの方見てんな? ──蒼士か?

ミスター候補には蒼士、亮司、もう一人は理系の男子が選ばれた。

舞台では順番に一つ質問がなされる。

「はい、中里四季さん、好きなタイプは?」

「えっとお、かわいくって……かっこいい人……包容力のある人が好きです」

「おお?! これは爆弾発言……それは男性が好きということでよろしいでしょうかっ?!」

「あっ!! わぁ!! そんなつもりじゃ……はい。そうかも……えへへ」

開場は色めき立った。

「いーぞーっ!! 中里ちゃーん!!」

亮司は野次を飛ばした。

蒼士は頭を抱えた。

え? 四季男の好きな奴がいんの? 
聞いてねぇ……タ、タイプの話だよな? 
好きな奴いたらいくら何でも俺には言うよな? 
ははっ……こえー

「はい、次。三枝玲さん。わぁ、あなた相当お綺麗ですね? 沢山告白されるんじゃないですか? 好みのタイプは?」

「──真っ直ぐな人。ぶれない人。……かっこいい人」

三枝玲の瞳はある一人だけを見据えながら話していた。

「おっとお! 三枝さんも男性に恋されてるんですね? 今年はカムアウトする人も多いですね! みなさん、三枝さんも、中里さんもまだまだ狙えるチャンスはありますよ!
さて、ミスの最後は西山歩夢さん!
あなたもめちゃくちゃ可愛いですね?
今年は何ともハイレベル!! 激戦が予想されます!
西山歩夢さんの好きなタイプは?」

「僕はかわいい子が好きです! 因みに僕にはこの学校にずっと好きな子がいるから、告白しても無駄ですから。あの子以外は絶対無理」

「おぉ、これはかっこいい人……ではなく? 可愛い人? 驚きです!! 理系のみなさん、残念……!!」

「さてさて、次はミスターのみなさんにお聞きしましょう。では矢田蒼士さん、好きなタイプは? 教えてください」

「男女は問いません。可愛い子です。その子に俺のことを大好きになって欲しいです」

「おっと……矢田さんは……バイですか?」

「あ、いや……この子は男……ってちがっ!! あぁ! もう! 男ですよっ!! 俺、最近いつも締まらねえな」

「今年はすごい……今のところ、全員が恋愛対象男です!!」

「はいはーい! 俺は違いまーす!」

亮司は冗談めかしながら言った。

「お? 坂田亮司さん、女性が対象ですか?」

「もちろんよ。いくらきれいでも男は無理だ。女が良いね」

「きゃーーーーっ!! 坂田くん! それでもカッコいいーー!! 結婚してぇ!!」

「坂田さん聞こえますか? 貴方男性からも相当モテていらっしゃいますよ? どうです?」

亮司は手を舞台下に向かってヒラヒラさせた。

「ごめんねーかわい子ちゃんたち。良い友達でいようねー」

「ただいま投票結果の集計中です。
──おっと、出たようですね!!
それでは発表いたします」

四季はドキドキした。

蒼士と一緒に選ばれたい!! 一緒に写真を撮って一生の記念にしたい! 
ドレスなんてもう着ることもないのだ。
蒼士の横に並びたいっ!!

「今年のミスターは、『矢田蒼士』!!」

「きゃあーーーー!!」

「そうしくーーーーん!!」

「すきぃ!! 結婚してえ!!」

四季は握った手に力がこもった。

「そして、今年のミスは、『中里四季』!! 
お二人ともおめでとう前に出て!!」

四季は目の前が真っ白になったがすぐに涙がブワッとあふれ出てきた。
そして蒼士の元へと駆け寄ると飛びついて大声で泣いた。

「どうしたの四季?! 何で泣いてるの?!」

蒼士は驚いて、四季を抱きしめながら尋ねた。

「ううん……蒼士と一緒に選ばれて嬉しくって……感動してんの!! もっと抱きしめて……」

「四季……可愛いやつ」

会場中にはわかってしまった。
うん。コイツら、両思いだ。

『包容力のある人が……』
『可愛い子が……』

何か馬鹿らしい。知らぬは本人たちのみ。

二人はタキシードとドレスに着替えて二人で写真を撮った。四季は幸せだ。まるで花嫁だ。
──自分は一生なることは出来ないが……

「四季、お姫様抱っこして良い??」

「へ? うわぁ!! 蒼士っ!!」

「きゃあ!!」

「いいなぁ」

「中里くんばっかずるい〜」

「カメラマンさん! 良い写真沢山撮ってくださいよ?!」

四季と蒼士は二人で思う存分写真撮影した。
四季は笑顔で、しかし自然と涙がこぼれていくのを感じた。

それからの時間は全校生徒へ向けてのサービスタイムだ。
四季との撮影希望者は圧倒的大多数がいわゆる男らしい理系の男たちだ。

蒼士の列には言わずもがな可愛い男子が群がっている。その列の中にはあのきれいな男、三枝玲も混じっていた。

「あれ?君さっきミスに登壇してたよな? まじ美人だね。俺と写真撮ってくれんの? 何か光栄だなー」

「あ……あの、撮ってくれて嬉しいです。ありがとう」

玲は頬を赤く染めると足早に去って行った。


──────


校庭で大きな焚き火が行われていた。少し離れたところに二人腰を下ろし談笑した。

「四季、今日楽しかったな」

「うん。蒼士カッコよかったよ? 僕も蒼士みたいにイケメンならば良いんだけどね……僕弱っちく見えるから」

「何言ってんの……四季は可愛いままで良いの。俺みたいにデカくなったら、抱っこできなくなるじゃん」

「それ困るね。蒼士の腕は今のところ僕だけのものだからね」

──ずっと四季だけのものだよ。


──────


「俺らのクラス、背高い奴多いし、いけてる奴も結構多い方だから安易にホストクラブなんてやったけど……こんなに他校の女子来るなんて思わんかったな。女であふれかえってる……」

待ってました! 一週間後の文化祭。大勢の一般客も訪れる。

蒼士たちのクラスはホストクラブをやっている。これまた、皆ビシッとスーツで決めている。

「マジだぜ……めっちゃ忙しいじゃん? これ……四季来てくれるかなー? あっ!! 来たっ!! 四季!! こっち! 席取ってる」

「うわぁ! 蒼士かっこい〜! ホストだぁ! 写真撮りたいっ!!」

「もちろん、四季が来るの待ってたんだからなぁ!」

四季は蒼士に抱きつき、蒼士はギュッと抱きしめた。

「うわっ?! 矢田と中里じゃん?! お前ら何? ナチュラルに抱き合ってんの? なになに〜? 羨ましいんですけど〜」

「おいおい吉村、こいつらのことはほっといてやれー」


──────


蒼士の営業トークが始まった。

「お姫様、今日は来てくれてありがとう。こんなに可愛いお姫様見たことない。俺、君のこと好きになっても良いかな?」

「蒼士っ!! 僕のことほんとに好きになってっ!!」 

「四季可愛いなぁ! ずっと大好きだよ〜」

──四季の言葉は本気だ。例えホストのフリだとしても他の子に『好き』って言って欲しくない。
自分を本当に好きになって欲しい。
……けど、こんなことでもなければ口に出して言うことも出来ない。

……意気地なし。

蒼士は、他校の女子はもちろん、同じ高校の文系男子からも人気で、写真撮影にも列が出来ている。連絡先を渡す子、その場で告白する子までいる始末だ。四季はその様子を無言で見つめていた。


──────


「うわぁ〜きっついなこれ。やっと休憩〜」

「お、おう……四季今何してんのかな……」

蒼士は休憩時間になり、四季のクラスへ行きたくてウズウズしていた。
それを見兼ねた亮司が声をかけた。

「中里ちゃん……行っても怒んないと思うけどな? 照れ隠しだよ。行こうぜ?」

亮司に誘われて四季のクラスへと出向いた。

廊下を進んで行くと圧倒的にひとクラスの前だけ人だかりができている。四季のクラスだ。

蒼士はギョッとした。何と、クラスの男子全員が短いスカート丈の、可愛い可愛いメイド姿になっていたのだ……。

「は? 四季は? 四季もこんな格好を? は? 俺聞いてない……てか許さない……」

「お前はお父さんか!! だから中里ちゃんも嫌だったんだろ? 見つけても怒んなよ? 意味わかんねーし」

「いや、そーだけど……」

「蒼士っ!!」

蒼士は振り向いた。そこには可憐な美少女がメイド服を着て立っていた。

四季?! 
かわいっ……いや、エロいぞ?! 萌える!!

四季は顔を赤くして、プルプル震えながら言った。

「来ないでって言ったのにっ!! こんな格好恥ずかしい!!」

「は、恥ずかしくないっ!! ってか世界一、いや、宇宙一可愛い! 四季、可愛い! 抱っこさせて! 写真撮らせて! 俺にもお給仕して!」

四季は不服そうだったが、お茶やお菓子を提供してくれて、写真を撮らせてくれた。膝にも乗ってくれた。蒼士は悶絶した。かわいい……

「もうっ! 恥ずかしいから来ないでって言ったのに、蒼士の馬鹿っ!」

「他の男には見せといて、俺には見せないつもりだったの……? そんなの許さないよ?」

「う〜……。そんなこと言われても……恥ずかしいものは恥ずかしい……こんなにスカート短いし、お化粧までしてるんだよ? ほんとにかわいい??」

「何言ってんの? マジでかわいいに決まってるじゃん?! 俺は見れて良かったよ〜。危うく見逃して、一生悔やむとこだった……早速ホーム画面にしたから。これでいつでも眺められる……あ、また俺変態くさい?」

四季は赤くなって黙り込んでしまった。

……四季のホーム画面もカッコ良いホスト姿の蒼士になっていることは誰にも内緒だ。


──────


二人の距離はどんどん縮まる。バイト、休日の買い物に、登下校。昼休みになると蒼士が会いに来た。

「ねぇ、また矢田くんが中里くんのクラスに会いに来てるよ? あの二人どうなってるの?」

「バ先が同じで仲良しなだけって言ってるらしいけど……特に矢田くんって中里くんのこと好きすぎだよね? バレバレ。いつもお菓子とか持ってきてあげてるらしいよ。しかも手作り。餌付けだよね(笑)」

「僕矢田くん良いなあと思ってたのに、ショック〜! 中里かぁ。圧倒的に負けだよね〜コレばっかりは仕方ないか」


──────


「よっ! お二人さん、ちょー噂の的だな。」

亮司は言った。

「二人付き合ってるって噂、後夜祭の後からすごいよ?」

四季は顔を真っ赤にして叫んだ。

「違うよっ!! 蒼士とはすごく仲良いけど、そんなんじゃないんだから!! 蒼士そんなこと言われたら困るじゃん……」

そこまでハッキリと拒否されて蒼士はショックを受けた。

「あ、あのさぁ……四季、落ち着いて……そんなに嫌なんだ……ちょっとショック」

「ち、違うよ! 蒼士が嫌かなって……僕男だし、蒼士モテるし……」

蒼士は四季以外にモテても無意味なのだ。
亮司は呆れた。ただのじゃれ合いだ。

「……ふーん……なんか、アホらしくなってきた。まぁ、二人仲良く喧嘩してな?」


──────


世間はすっかりクリスマスムードだ。
まあ、だから何だというのだが……

蒼士は四季と過ごしたかった。
当然四季も蒼士と一緒に居たかった。

幸か不幸か二人は24日はバイトだ。
というか社員もアルバイトもスタッフ総出だ。
チキンの販売があるため大忙しなのだ。

「四季、バイト終わったらどっかでケーキでも一緒に食わねぇ?」

「わー!! それいい!! バイトで忙殺されて、更にその後クリぼっちなんて嫌だもんね〜じゃ、約束ね!!」


──────


「いらっしゃいませ〜!! チキンのお受取りの列はこちらでーす!! 当日のお客様はこちら……」

バイトは想像を軽く超えてくる忙しさだった。四季もよく動き、蒼士も笑顔を絶やさず頑張った。

「はい、今年も大忙しだったね〜まだ明日も残ってるからよろしく〜」


──────


制服を脱ぎ、ロッカーを閉めた。

「あー、疲れた。蒼士、これからどこ行く? 僕その辺のカフェとか……」

「俺、予約してる店があるからついて来て」

「?? わかった……?」

四季は言われるがままについて行くと、有名なホテルの豪華なレストランに連れられた。
四季は呆気に取られて、開いた口が塞がらない。

「そ、蒼士……ここって……」

「ああ、ここおじさんが働いてるホテルなんだよね。ちょっとコネで予約取ってもらっちゃった」

蒼士はVサインをしてみせる。
四季は相変わらずポカンとしている。

「あ……ここスイーツ美味しいし、クリスマスの特別メニューあるらしいから良いかなって思って……勝手にごめんね? 他の場所にする?」

「!! いや、違う!! 想像よりもあまりにも凄いことするなって思って……嬉しい!! 凄いよ!!」

蒼士は内心ガッツポーズだ。
やべぇ、四季驚いてる……ちょー可愛いんですけど……


──────


「いつも思うけど、四季ってすっげー食うよな。どこに入んの(笑)?」

「お料理すっごく美味しかったから!! 満足〜!! ケーキどれにしようかなぁ。スタンダードにいちごのたっぷり乗った生クリーム? それともチョコホイップクリーム? 迷っちゃう……」

「気になるの全部頼めば良いよ。俺も沢山食べたい」

「わーい!! じゃあ、いちごのやつと、チョコのやつ、フルーツタルトにチーズケーキ……プリンにアールグレイ、ザッハトルテ!!」

「おお、そうしよう」

運ばれてきたケーキに四季は感動した。

「蒼士、今日は今までで一番最高のクリスマスだよっ!! 本当にありがとう!!」


──────


二人は店を後にして、街にある大きなツリーの下に腰掛けた。

ケーキも堪能したし、お別れの時間が近づく。

「あ、あのね! 僕……プレゼント用意してるんだ……い、いらなかったら捨てても、誰かにあげちゃっても良いから……」

「え? なになに? 勿体ぶらないでよ!」

「……マフラーなんだけど……蒼士似合うかなって思って……ごめんね、好みもわかんないのに」

「いや、すげえ……まさかプレゼントもらえるなんて……俺ブルー好きだよ? 寒色系が似合うって言われる。ありがとう。似合う?」

「うんっ!! よく似合うよ!! かっこいい!!」

うっわ……四季にかっこいい言われた。
どうしよ?

「四季、ごめんね。俺プレゼント用意してなくて……」

「そんな! ディナーご馳走してくれたじゃない! 人生で一番最高だよ! ありがとう!!」

四季は蒼士の胸に飛び込んだ。
二人にとって最高のクリスマスだ。


──────


「ってことがあってさあ、このマフラー四季からのプレゼントなんだよ。羨ましいだろー?」

亮司は答えた。

「おうおう、羨ましいぜ。マジ良かったな、蒼士。付き合ってもないのに最高じゃん? まだ告白せんの?」

「──告白はするけど……タイミングが見つからないっていうか……四季もよく懐いてくれてると思うし、可能性ゼロじゃないと思うんだけど……」

「まあ、焦らずともいいんでは? もっと仲良くなってからでも……

──既に仲は良すぎると思うけどな、あは」


──────


バレンタイン当日、男子校だというのに校内はこの特別なイベントにざわついていた。

ハッキリ言うとキモい……はずだった。

しかし、蒼士にとって今年は違う。
好きな子にチョコを渡すのだ。

四季の好きなケーキにたっぷりとチョコのホイップクリームを乗せ、可愛く飾りつけた。もちろんスポンジから手作りでイチゴも沢山乗っけた。極め付けはチョコプレートで告白を……我ながら可愛く仕上がった。

「うっわ、お前遂にそこまできたか〜
いくら好きだからって本格的な菓子作りまで……」

「黙れよ、坂田。俺は四季に惜しみない愛を注ぎたいの!……あと、今日告白するつもりなんだ。結果がどうであれ、受け止めるよ」

「中里ちゃんと上手くいくといいな」

「おぅ、サンキュ」

蒼士と亮司が教室にいると後ろから話しかけられた。

「あの、矢田くん……お話しがあります……えっと……」

蒼士を訪ねていかにもというような可愛らしい男子がやって来た。

「あぁ……良いけど……。何? 話って」

二人は廊下に出て話し始めた。

「好きです!! 入学式で初めて見てからずっと好きでした……付き合っている人がいないなら、僕と付き合ってくれませんか……? 

手作りなんです。チョコ、受け取ってください!」

「ごめん……俺、好きな奴がいるんだ。
だから好きな奴以外からもらってもハッキリ言うと迷惑だし、嬉しくない。
酷いこと言うようだけど……それが事実なんだ。ごめん」

「……好きな人がいることはわかってました。
中里くん、ですよね?……ハッキリ言ってくれてありがとうございました」

その男子はペコっと頭を下げて走り去って行った。

蒼士が教室に戻ると亮司がやれやれという感じで言った。

「お前、男子校でもモテるねー。さっきから何人断った?」

「お前も人のこと言えんだろうが、坂田。お前の振り方ひでぇよ?……いくら男同士でも気持ち悪いとか……」

「何で? お前何とも思わないの? 好きでもないホモの男に告られて、手作りチョコもらってキモいとか」

「そりゃ……思うけど……でも」

『カターンッ!!』

二人が音のした方を振り返ると、青ざめて小刻みに震える四季が立っていた。

「あ、四季……何してるの? こっちにおいで?」

四季はポロポロと涙を流した。そしてその場を走り去った。

「あっ?! おい! 四季? 何だよ……あいつ?」

「──おい、蒼士。中里ちゃんが落として行ったのって、多分チョコだぞ……俺らの話し聞いてたんじゃない……?」

『「何で? お前何とも思わないの? 好きでもないホモの男に告られて、手作りチョコもらってキモいとか」

「そりゃ……思うけど……でも」』

「あっ……嘘だろ? 話聞いてたら最悪じゃん……四季のクラスに行ってくるっ!!」

「蒼士、ごめんな! 俺があんな言い方してお前巻き込んだ。悪かった」

蒼士はニヤッとして返事をした。

「大丈夫! こんなことじゃへこたれない」

蒼士は四季からのチョコ、そして四季へ贈るために作ったケーキを持って四季の元へと急いだ。


──────


四季はウキウキしながら蒼士のクラスへ急いだ。

なんたって今日はバレンタイン!

……入学式で見かけてから蒼士のことがずっとずっと好きだったのだ。何の接点もないままで終わるはずだった。けれど、バイトも一緒で、とても可愛がってくれる。
自分に都合の良いように勘違いしてしまいそうになる。
『好き』になってくれているかもしれない……
気持ちが抑えきれない。

蒼士が好き……頑張ってチョコ作った!! 
食べてもらいたい! 
好きになってもらいたい! 
一年で一日だけ……
告白するチャンスを僕にください……!

息を切らしながら蒼士のクラスに向かった。
中は蒼士と坂田の二人だけのようだ。他に人がいない。都合が良い。

「あっ!蒼士……」
その後、四季は言葉を失った。

『「何で? お前何とも思わないの? 好きでもないホモの男に告られて、手作りチョコもらってキモいとか」

「そりゃ……思うけど……でも」』

……四季は目の前が真っ暗だった。

『カターンッ!!』

その音で蒼士と坂田は四季の方を振り返った。

『「あ、四季……何してるの? こっちにおいで?」』

そこで、普段通りに話に加わって、義理チョコだよ! って渡せば良かったのだ。
何の問題もない……はずなのに……出来なかった。

息を切らし教室に戻ると机に突っ伏して泣き崩れてしまった。

『バタバタバタバタ……』

「四季っ!! 待って!! ……四季?! どうしたの? ……話、聞こえてたの?」

蒼士は四季の元へ駆け寄り、うつ伏せになっている四季を引き起こし、自分の膝に乗せた。

「う〜っ……ひっく……うぇ……ふぇ……ひっく……そうし……ホモきらい? ふぇ……ん……ぼく……そうしにチョコ……つくっちゃっ……きもいよね……」

「なっ?! 何言ってんだよ?!
そりゃ、好きでもない子からの手作りは困るけど……
四季からのは大歓迎!! てか嬉しいっ!! え? 何? 手作りなのっ?? まじ? やば……嬉しすぎて……死ぬ」

蒼士は四季を思いっきり抱きしめた。

「?? 蒼士、キモくないの? 僕からのチョコ……ひっく……くすん」

「ねぇ、俺四季からの手作りチョコの意味、四季の口から聞きたいんだけど……」

「あ……あのね、僕、入学式で蒼士のこと初めて見て、その時から大好きなの……ふぇ〜ん……ひっく……好き……蒼士、好き……」

「……まじか、俺死にそう。……なぁ、四季。……俺もお前にチョコケーキ作ったんだ。お前に喜んで受け取って欲しくて……
……なあ? 受け取ってくれる? 食べてくれる? キモくない?」

「ふぇ……そ……しい……キモくない、キモくない……そーしぃ……うわぁん……」

「俺、初めて会ったバイトの日から四季が好き。好きだ」

蒼士は四季を抱きしめた。
そして頬に羽根のような軽いキスをした。


──────


蒼士は膝に乗せた四季の向きを変えると、後ろから抱えるようにして座らせた。

「四季は何を作ってくれたの? チョコ?」

「えっとね、生チョコだよ! 初心者でも意外と作りやすいって書いてあったから。蒼士は……ケーキって何事?!」

「お前チョコとケーキ好きだろ? だからチョコホイップたっぷり、イチゴたっぷりのケーキにした。スポンジから作ったんだぜ? すげーだろ?」

そう言うとケーキを箱から出して見せた。

「うわぁ!! 思ったよりすご(笑)!! かわいい!! でっかい!! イチゴいっぱい!!
美味しそ〜っっ!!
──嬉しい。
プレートの文字、“SOSHI ♡ SHIKI”だって……嬉しいよ……」

「四季が喜んで良かった。俺も四季の生チョコ食べて良い?」

「蒼士のケーキの後だと恥ずかしいけど……どうぞ、召し上がれ」

「……!! うまい! コレうまいよ! 四季、上手じゃん! うっま! また作ってよ」

「そんなに褒めちゃう(笑)? 嬉しいからまた作ってあげる!」

四季は勢い良く立ち上がり、蒼士に飛びついた。
四季も蒼士お手製のチョコケーキを頬張った。

「……スポンジふわふわ〜!! チョコホイップ絶妙〜何コレうまぁ!! 蒼士天才!! 僕にたまにくれる手作りのお菓子も蒼士が作ってたんでしょ? すごぉい!! 僕幸せ!!」

「大袈裟だなあ、四季は。そんくらいいつでも
作ってやるよ。俺、何て言われてるか知ってる? 四季に餌付けしてるって言われてる(笑)」

「あは、あながち間違いでもないかもね。お菓子持って蒼士が来てくれること、すごく楽しみだったんだ〜」

「──なあ、俺たち付き合おう?
ってことで良い? 四季、俺の恋人になって欲しい」

「う〜っ……蒼士〜くすん……大好き……ふぇぇん……僕も恋人に……なりたかっ……うわぁん……」

蒼士は四季を抱きしめて、抱え上げると音を立てて額にキスをした。

『チュッチュッ……』

後を追いかけて来ていた亮司は二人に声をかけた。

「中里ちゃん、ごめんね。俺のせいで誤解させちゃって……そいつまじで中里ちゃんのこと好きすぎるからよろしく頼むよ」

四季は頬を染めると答えた。

「僕の方が絶対好きだよっ!! ずっと好きだったんだから!!」

そして蒼士を引き寄せて何度も頬にキスをした。

その日、蒼士と四季はお互いにしっかりと手を繋いで帰った。


──────


すったもんだのバレンタインの末、二人は無事に恋人になった。
けれど、元々仲の良すぎた距離感の二人にはあまり変化はなかった。

「しっかし、お前ら元々甘々だったから変わり映えしねぇなぁ……なんか恋人らしいこととかしないの? 中里ちゃん?」

「ん……とね、蒼士が告白される時には僕もついて行って相手に文句を言っていい!! とか?」

「四季……それは……けど気持ちはわかる。俺も四季の恋人として周りを牽制したい。四季可愛すぎて心配が尽きない」

「お前ら何だよ……そんなことを聞いてんじゃねぇよ……この馬鹿ップル」


──────


蒼士は言った。

「でもさ、四季。坂田の話しじゃないけど、俺も何か変わり映えが欲しい気もする。

てか、みんなに交際宣言したいんだけど
……まじで四季が告られるのが不安すぎる。
裏切るとか、そんなんじゃなくて、四季が狙われる、そういう目で見られること自体が嫌」

「僕だって嫌だよ! 蒼士いつも告白されてるじゃん! 女の子だけじゃなくて男の子からも! 不安だよ……蒼士の言うように、疑う訳じゃない。嫌なの」

「……ペアリング、する?」

「へ? ……ペアリングって指輪? するっ!!するよ!! 僕ね、今までのバイト代何にも使ってないんだ。だから僕がお金出す!」

「奇遇だな、四季。俺もバイト代は貯金してんだよ。じゃあお互いにプレゼントする?」

「それが良い!! 明日!! 指輪買いに行こ?」

蒼士は四季を抱きしめた。

「かわいいなぁ、四季……よし、明日行くぞ!」


──────


次の日の朝、四季はウキウキしながら準備をしていた。
外は生憎の雨模様だったが、四季の心は晴れやかだった。

♪ 〜

「あ、蒼士からだ。もしもし? 蒼士? もうすぐ準備……」

『四季、本当にごめん! 今日家族のことで急に行けなくなっちゃって、明日の日曜にずらしてもらえる? 明日は必ず大丈夫だから! 本当にごめん!』

「……うん。わかった。仕方ないよね。また明日」

四季は落胆した。一人家でモヤモヤしながらゴロゴロしていた。
やはり居ても立っても居られなくなり、少しだけ、一目だけでも会いに行こうと決めた。

スニーカーを履き、家を出る時には雨は止んでいた。傘は要らない。運が良いと思った。

蒼士を驚かせようと連絡をせずにやってきた。
蒼士の家の前でタイミングよく蒼士を見つけた。

「あ! 蒼士……」

タクシーから降りてきた蒼士は、女の人と抱き合っていた。女の人は泣いているようだ。

……元カノかな? ……浮気?

どちらにしろ、蒼士は自分以外の人を抱きしめている。

なーんだ。やっぱ女の人の方が良いんじゃん。

雨が降り始め、二人は蒼士の家へ入って行った。

……僕は家に入ったことないのに。

本格的に雨が降り始めたが、四季は傘も持たず、何時間もその場に立ち尽くしていた。

家に帰る間も、帰ってからも蒼士からメッセージと着信が沢山来た。
……出ることは出来なかった。

次の日、四季は連絡をせずにすっぽかすことになった。


──────


月曜日、四季は学校へ来なかった。

「中里ちゃん今日休みなんだって? お前何も聞いてないの?」

「……土曜日から連絡が取れない。昨日も約束してたんだけど連絡つかなかった。今日家行ってくる」

「ふーん……お前何かしたの? 怒らせたとか……」

「そんなことするかよ!! ……本当にどうしたんだろう」

放課後、蒼士は四季の家を訪ねた。

「ごめんなさいね、矢田くん。四季今誰とも会いたくないそうなの。今日は……」

「え? 俺でも会えないんですか? 何で……」

「……四季土曜日にずぶ濡れで帰ってきて、それからずっと部屋に籠ってるの。楽しそうに出かけて行ったんだけど、何があったのかしら……」

「土曜日に? 楽しそうに? ……でも俺と約束してて……俺がドタキャンして……」

「とにかく、矢田くんに早く連絡するようには伝えるわね、わざわざ来てくれたのに、ごめんなさいね」

──四季はあの電話の後どこかへ出掛けたんだ。でもどこに……?

その日、待っても四季から連絡は来なかった。次の日、学校へも来なかった。


──────


「なぁ、中里ちゃん、一週間くらい休んでんだろ? 何も連絡ないん?」

「──全く連絡してくれないし、会ってもくれない。何があったのか本当にわからないんだ」

「お前が原因とも限らねえからなー。本人からの連絡を待つしかないか」

蒼士は心配で気が気ではない。
四季に何があったのか……

次の日、四季がやっと登校したらしい。
蒼士はそれを聞いて昼休みに慌てて四季の教室まで会いに行った。

「四季っ!! どうしたの? 一週間も連絡つかなくって心配したんだよ?! 何があったの?」

四季は泣き出しそうな顔をして答えた。

「──嘘つき。僕なんて居なくてもいいんでしょ。もう無理して会いに来ないで。彼女と幸せになればいい。僕を、そんな関係に巻き込まないで。もう教室帰って」

「……っっ、四季何か勘違いしてる? どうしたの? 俺、女なんていないよ? ねぇ、どうしたの?」

四季は目を見ない、話さない。
昼休みが終わり、蒼士と亮司は四季の教室を出た。

「お前さ……中里ちゃんに女いるって思われてるの? 何か思い当たる節ねぇの?」

「ねぇよっ!! 何なんだよ? 四季の奴!! ろくに話もせずに一方的に……俺どうしたらいいんだよ? 本当に浮気なんてしてない……」


──────


そのままの状態で四季の元へ通い詰め、説得を続けた。

二週間ほどが経ち、四季が2年生から告白された。

その男は2年で一番のイケメンだ。告白の噂は学校中に回り、蒼士の耳にも入った。蒼士は慌てて四季の元を訪ねた。

「ねぇ、まだ俺の話聞いてくれないの? 女なんていないっつてるじゃん。拗ねるのも良い加減やめろよ。四季、お前可愛くないぞ」

「──拗ねてる訳じゃないことくらいわかるよね? もう話すことはないの。僕たち別れよう。ハッキリさせてなかったね。ごめん」

「は? ふざけるなよ? 四季……まじで良い加減に……」

「蒼士、もういいよ。教室帰るぞ。お前も落ち着け」

流石の亮司もこれではあまりにも蒼士が可哀想になってきた。

こいつは四季以外眼中にない。浮気するなんてありえない。

蒼士を隣で見てきた亮司にはよくわかる。


──────


放課後、亮司は一人で四季の教室を訪ねた。

「ちょっと……中里ちゃん、話できるかな? 少しでいいからさ」

「──なに? 坂田くん」

「あいつ、蒼士さぁ、浮気なんてしてないと思うよ? あいつ中里ちゃんだけだもん。見てたらよくわかるよ。
浮気なんてさ、中里ちゃんの勘違いなんじゃないの? 話も聞いてやらないなんて、あまりにも一方的すぎて、蒼士が可哀想だろ?」

四季は涙を堪えていたが、決壊したように大粒の涙がポロポロとこぼれ出した。

「僕、見たんだ。蒼士が家の前で、女の人と抱き合ってるの。
その後二人は家に入って行った。
彼女じゃなきゃ……浮気じゃなきゃ何だっていうの?
僕は悪くない! 話なんて聞いても無駄だよ。僕が見たことが全てだ」

「四季っ!! 待って!! それ違うから!!」

蒼士は坂田が四季のところへ行くことを聞きつけて、追いかけてきたのだ。

「黙ってよ!! 蒼士っ!! もう僕たち別れたんだ!! 何も聞かないっ!!」

四季は廊下中に聞こえるくらいの大声で騒いだ。

「四季、その女は……妹だよ。本当だ。信じて。あの日、父さんが倒れて、妹が憔悴しきっていた。タクシーを降りた時によろめいたところを支えると泣き出したんだ。だから宥めてたんだよ。絶対に浮気なんてしない! 四季だけが好きなんだ」

「うそ……じゃあ何でお父さんのこと言わなかったの?」

「言ったら四季心配するだろ? 四季優しいから俺よりもオロオロしちゃうし、心配させる。黙ってた方が良いと思ったんだ。こんなことになるなんて、本当にごめんっ!! 何なら妹に会わせてもいい」

四季は泣きながら言った。

「うそぉ……ぼく……ふぇ……バカみたいじゃ……そうしのたいへんな……ふぇ……とき……ひっく……そうし……ごめな……しゃい……ひぃっ……」

「ああ、四季こっちにおいで……まさか四季がうちに来てたなんて思いもよらなかったんだ。
そして妹宥めてたことなんて忘れてたし……本当にごめん」

蒼士は四季をギュッと抱きしめた。
そして四季は蒼士の胸の中で思いっきり泣いた。


──────


その騒ぎはあっという間に校内に広まり、四季に告白をした2年生の橋本がその場に駆けつけた。

「中里くん、そいつと別れたんじゃなかったの? 何してるの……」

「あ……橋本先輩ごめんなさい。……僕の勘違いだったみたいで、蒼士は浮気なんてしてなかった。だから僕……」

「は? 何勝手なこと……矢田くんとちゃんと別れたら俺と付き合うって言ったよね?」

「?! そんなっ!! そういう意味じゃ……蒼士とは別れてないから誰とも付き合えないっていう意味で……それに、先輩とは付き合えないってちゃんとお断りしたはずです! 僕……まだこんなに蒼士が大好きで……」

四季はボロボロと泣いた。

蒼士が割って入り、頭を下げた。

「橋本先輩、すみません。俺が四季を不安にさせたんです。俺が謝ります。
先輩の気持ちまで踏み躙るようなことになって申し訳ありません。」

「はぁ、こんな大勢の前で頭下げられたんじゃ、俺、引き下がるしかないよね。中里くん、君、他の男に気を持たせるような言動はしない方が良い。その激情型の性格も可愛いけど、矢田くんも可哀想だよ? 話を聞いてあげないと……
何で俺アドバイスしてるんだろうね? じゃあ、ちゃんと仲直りして」

そう言うと橋本は踵を返した。

四季は泣きながら蒼士を後ろから力一杯抱きしめた。


──────


四季と蒼士はクラスメイトと、亮司にサボる口実を頼んで二人で屋上へ上がった。

「蒼士……本当にごめんね。
蒼士のことになるとブレーキが効かないみたい。浮気されたと思って……苦しかった……僕が男だからダメなんだって……ふぇぇん……そうしぃ……さみしかった……」

「四季、泣くなよ……俺がきちんと説明してないのが悪かった。今後は全部話すし、嫌なこととか何でも全部言って?
男だなんて……四季なら何でも良い。男でも女でも構わない。俺は、『四季』が好きだよ」

「ありがとう……もう蒼士から離れない。辛かった。……僕、やっぱり指輪が欲しい。物に頼る訳じゃないけど、目で見える形で蒼士の愛が欲しい」

「四季、かわいい。明日こそ買いに行こうか。
俺も四季の愛がもっと欲しい」

次の日の朝、四季は蒼士を家まで迎えに行った。

「四季! おはよう! ほら、この前の『女』(笑)、妹の実紅だよ」

「おはようございます……ってうっわぁ……お兄の恋人めっっっっちゃ可愛い!! やばい!!まじで男ですか?! これお兄周りライバルだらけじゃないの? 四季さんまじ可愛い〜!

あ、お兄の恋人と勘違いさせてすみませんでした。私からしたらゲロゲロなんですけども……こんな兄でもそこそこモテるみたいで……」

「……蒼士が二人いる……っていうか、蒼士が女になってる……やばい。僕、実紅さんに最初に会ったら実紅さんに恋してた……」

「あはっ、私も四季さんなら大歓迎(笑)こんな可愛い彼氏。男子から妬かれそうだけど」

「はあ? 四季、冗談でもやめろよ?! こいつまじで四季のこと落としにかかるぞ? 四季が襲われる」

「蒼士……冗談だから……落ち着いてよ」

「本当お兄四季さんに弱いんですね。昨日も私に『疑いを晴らせ』って凄い剣幕だったんです。四季さん、こんな馬鹿な兄ですがよろしくお願いします」

「僕こそ、お父さんの大変な時に、勝手に疑って、蒼士困らせたりしたんだ。実紅さんにも迷惑かけてごめんなさい。これから仲良くしてくれると嬉しいな」

「〜っっ!! 四季さんまじ可愛い……お兄ってまじで面食いだね……」


──────


二人は街へ出かけた。ジュエリーショップを何店舗か回ってみることにした。

四季はカジュアルで安価な指輪より、きちんとしたお店のきちんとした物が欲しかった。

……より拘束力があり、蒼士を束縛できる物が欲しかった。
愛が欲しかった。

「蒼士っ! こんなのは? ねぇ、つけてみようよっ!!」

蒼士は少し圧倒されていた。
四季の食いつき方と、高校生にしてはバグった価格設定……

けれど、四季の好きにさせてやりたかった。
もう悲しい思いはさせたくなかった。

「すみません、これをペアでつけさせて欲しいんですけど……」

「かしこまりました。こちらをどうぞ」

「ねぇ、蒼士、僕これが気に入っちゃった!!
どう?」

「くすくす。綺麗な指輪だね。石が埋め込まれてるよ。すみません、この石は変更可能ですか?」

「はい! もちろんです。お好きな石をお選びください」

「──ストロベリークォーツって選べますか?」

「珍しいですね。ですが、お選びいただけますよ。それではお手続きをいたしますので、しばらくお待ちくださいませ」

「ねえ、蒼士、ストロベリークォーツって何? 美味しそう……」

「ああ……可愛い石だから四季に似合うかなって。俺たち高校生だし、ギラついたものも似合わないし、それに──」

「それに、なぁに?」

「それはまた後でのお楽しみ」

──ストロベリークォーツには『愛』という石言葉があるんだよ。

でもまだ四季には内緒。


──────


数日後、二人は指輪を受け取りにきた。

「うわぁ! 可愛い!! 透明なピンクの石の中に赤い模様が入ってる! こんな石見たことない!」

「四季よく似合うよ。可愛いなぁ」

学校帰りに制服で指輪を受け取りに来た二人を見てスタッフは笑顔で応対した。

「まぁ、お二人とも高校生でいらしたのですね? とっても可愛らしいです。また、大人になられた折にもお待ちいたしておりますよ?」

「はーい! 次は結婚指輪買いに来ます!」

四季はご機嫌だった。


──────


「うちの高校って、アクセとか髪色自由だからずっと付けてられるねっ!! 嬉しい!! 明日みんなに自慢するんだ〜」

「……四季ってさ、段々と地が出てきて、ぐいぐいくるね(笑)結構肉食系」

「僕決めたんだ。僕のものは絶対に渡さないし、欲しいものは意地でも手に入れるって。蒼士にはごめんだけど、指輪でめっちゃ束縛するよ?! 絶対に蒼士は誰にも渡さない。僕と付き合ってるのに、今でもかなり狙われてるんだよね。
僕蒼士のこと本当に大好きなんだよ? 誰にも渡さない為だったら何でもする。
──ねぇ、ここで、大勢の人が見てる前で僕にキスして」

「四季……かわいい。けど、何でそんなに不安になるの? 俺はお前を一目見た日から……ずっとお前しか見えてないのに……四季の言うことなら何でも叶えてあげる。でも、キスは四季に言われたからするんじゃないよ? 俺がしたいからするんだ」

蒼士は四季を抱きしめると街中で一番人の往来の多い場所で唇にキスをした。

周囲からは小さな歓声や悲鳴が上がった。

「きゃあ! キスしてる! え? 男の子同士?」

「やばあ! めっちゃイケメンと可愛い男の子がキスしてる……」

「えーあたしも彼氏にあんなキスして欲しい……」

……どれくらいそうしていただろうか?
気がつけば雪がちらつき始めていた。


──────


次の日、雪が積もり外は寒かったが、四季の心はとても暖かく、早くみんなに指輪を見せびらかしたかった。

「見て見てっ!! 蒼士とペアリング買ったの! もうこれで蒼士は完全に僕のものだから、誰か手出したら許さないから」

歩夢は言った。

「四季、最近矢田くんのことになるとこわーい。まじで好きなんだね……まぁ、入学式からずっとだもんね」

教室の隅でその様子を苦々しく見ているグループがいた。

「佳太、佳太も可愛いんだからワンチャンいけるかもよ? だって所詮中里って、可愛いって理由だけで矢田と付き合えてる訳だし。絶対告白すべきだって」 

「僕は矢田くんの事を好きな理由、カッコいいとか、それだけじゃない。
……入学式の後に、2年生に絡まれてたところを助けてもらった。その時から矢田くんのこと好きなの。
顔で好きになった中里とは訳が違う」

この佳太もかなり可愛いのだ。男子からの人気も高いし、告白されることもしょっちゅうだ。

「こんなの不公平だし、僕だって矢田くんと仲良くなりたい」


──────


蒼士は亮司と図書室で四季を待っていた。途中で亮司が帰り、蒼士が一人になった。そこを見計らった佳太は蒼士の横に立った。

「矢田くん……僕のこと覚えてるかな?
入学式で上級生に絡まれてたところを助けてくれた、細貝(ほそがい)佳太って言います」

「あ? ああ……そうだっけ? それで、何か用?」

「あの……良ければ友達になって欲しくて……お願いっ!!」

「……突然友達って……あれだよな? 別の意味があるよな? 俺そういうのは……」

「違うの! 待って、僕純粋に矢田くんに憧れてるんだ。前助けてくれた時に男らしいのが羨ましいって思って……だから僕、矢田くんみたいな強い男になりたくって……」

「え? お前男らしくなりたいの? ……まあ、そういうことなら……うーん……四季に聞いてみないと……」

「蒼士っっ!! 何してるのっ?!」

「あ、四季!! こっちこっち、こいつ四季のクラスメイトなんだろ? こいつが俺らと友だちになりたいって。構わない??」

「僕は嫌。何? お前蒼士のこと好きだよね? 僕と蒼士が付き合い初めの頃、僕に喧嘩ふっかけてきた。何が友達だよ? 蒼士に取り入ろうったってそうはいかない」

四季は蒼士の唇にキスをした。
左手の薬指を見せびらかしながら蒼士の顔に手を添えた。

「僕と蒼士の間に付け入る隙はない。わかったらあっち行って!!」

佳太は顔を引き攣らせて涙をあふれさせ、その場を走り去った。

「蒼士!! 何で騙されるの?! 友達になりたいなんておかしいでしょ? わざわざそんなこと言うなんて。そりゃ僕のとこにもそんな奴がたまに来るよ。でもそんなの安請け合いしないでよ……」

「わかったから、そんな顔するな? 可愛い顔が台無しだぞ? 何がそんなに不安なんだよ……」

蒼士は四季を優しく抱きしめて頭を撫でた。


──────


期末テスト期間を無事に乗り切り、二人は久しぶりにバイトへ行った。

「店長久しぶりです〜
今日からまたよろしくお願いします!」

「おっ! 久しぶりだな、中里くん、矢田くん。
君らシフト全被りしてるから真面目にやれよ〜
イチャイチャすんなよ〜」

四季は喜んだ。蒼士は正直複雑だった。最近四季がおかしい。明らかに蒼士に依存しすぎだ。

「蒼士〜帰ろ? 外めっちゃ寒いみたいだよ!! 雪、降るかなあ」

「ああ……なあ、四季、お前最近何か変だぞ? 俺のこと好きって言ってくれるのはもちろん嬉しいし、俺だってお前のこと大好きだ。けど、周りを敵視し過ぎているというか……」

「だって……もう誰にも取られたくない……蒼士がそんな人じゃないのはわかってるけど……でも……」

「──ちょっとうち寄ってくか? 話をしよう」


──────


「四季、俺、お前のことが好きだ。
ハッキリ言ってお前の気持ちより俺の気持ちのがデカいと思う(笑)
お前をそういう目で見る男たちが許せないし、出来ることならお前を閉じ込めたい。
それくらいお前が好きだ。何がそんなに不安なんだ?」

「……もっと毎日好きって言って。
蒼士に色目使う奴は男でも女でもちゃんと拒絶して。
この前みたいに騙されないで。
そして僕の方が蒼士のことずっとずっと好きだから。
入学式で初めて見てから、ずっと蒼士を見てた。
バイトが一緒になって死ぬかと思った。
仲良くなって、可愛がってくれて、それだけでも良いと思ってた。
でも……やっぱり蒼士の隣にいたかった。
大好きなの……どこにも行かないで……僕男だし……そのうちに女の人が良くなるのかもって……こわい……」

四季はあの土曜日、妹を浮気相手と勘違いしたことが相当大きなトラウマになっているようだ。

「四季……聞いて、四季。
ストロベリークォーツの石言葉知ってる?」

「?? ううん。調べてない。ただ可愛いなぁって……言葉なんてあるの?」

「うん。

──『愛』っていうんだよ。

お互いに送り合っただろ? 『愛』を。

これは誰にも邪魔されない。あんなに目立つ街中で誓いのキスもしただろ? 
四季……心から愛してる」

「うぇぇ……そうし……そうし……ありがと……ぼく……ふぇぇん……なにもしら……っくて……うぇ……ふっく……」

「四季、もう何も心配すんな。な? 大人になったら結婚指輪買いに行くんだろ? ずっと一緒にいような?」

四季は蒼士に抱きしめられ、肩口に顔を埋めて泣いた。



────────────


第2章:『プライドと偏見(亮司・玲)』
~二人の関係は「不健全」から始まった~
氷の女王と偏見男(のち、束縛男)


──────


春になり、蒼士(そうし)たちは二年生になった。

四季(しき)は何かが吹っ切れたようだ。
もちろん毎日蒼士に甘えて愛の言葉を強請ってくる。

蒼士も惜しみない愛情で四季を甘やかす。二人は上手くいっていた。

そんな中、蒼士が最近亮司(りょうじ)を心配しているようなのだ。

「坂田、あいつ最近何かおかしいんだよ。ああ見えてあいつめっちゃ繊細なとこあるから、少し心配してんだ」

「……へえ? 蒼士には何も話してくれないの?」

「あいつ秘密主義っぽいからな。色々謎でさ、俺最近知ったんだけど、緑化委員会とかに自分から入ってたんだぜ? ちょー意外だろ?」

「へえー! でも坂田くんは優しいよ。僕たちのこともずいぶん応援してくれたし。何か力になれると良いんだけどね……」

「〜っ! 四季は優しいなあ! ほら、チュウして!!」

「蒼士〜大好き!!」

──二人は校内一の名物バカップルと化していた。


──────


蒼士と亮司の教室は1階にある。そこからは校庭と中庭がよく見えた。

亮司はボーっと校庭を見ていた。

あ……あいつ……またいる。そこに居れば蒼士が見えるからか……? 無駄なのに。


──────


俺は緑化委員会とやらに立候補した。
意外かもしれないが、花が好きなのだ。母親の影響かもしれない。

家中に花を飾って、庭の花壇には沢山の花々がある。

俺は委員会のない日でも一人で世話をしたり眺めたりしていた。

ある時からそこのベンチに居着いた男。
いつも俺のクラスの方を眺めていた。
……多分蒼士を見てるのだろう。
毎日毎日馬鹿みたいに眺めているので声をかけてみた。

「あんた蒼士が好きなの? やめとけよ。あいつには恋人がいる。あいつらは絶対に別れねえよ」

「?! ……そんなこと言われなくってもわかってるよ! 余計なお世話だ。 クソやろーっ!!」

おーおー口が悪い(笑)

あ、コイツどえらい美人さんだな。
中里ちゃんとは違い、女の子には見えない。
背も175センチくらいはあるか?

けれど……清楚で、禁欲的で……

あれ? ミスコン無理矢理出さされて怒って騒いでた美人な奴じゃん(笑)
この子確か二位だったよなー。

俺は興味を持った。

「なぁ、蒼士なんかじゃなくて、俺にしない? 俺もモテるよ? かっこいいっしょ?」

亮司はチャラケて軽口を叩いた。

「は? 誰がお前みたいなチャラい奴。相手にする訳ない。二度と話しかけないで」

そう言うとその美人は帰って行ってしまった。

「何あれ? ちょー高飛車。おもろ……」

美人の名前は『三枝 玲(さえぐされい)』と言った。
意外にも同じ理系だったのに今まで気が付かなかった。
あんなに美人なのに。

そりゃそうだ。俺は男には興味がない。知っているのはかろうじて同クラのメンツくらいだろう。


──────


次の日も三枝は花壇の前のベンチに居た。

「よお、また来てたんだな。なぁ、楽しいのか?

──おい、今あいつらキスしてるぞ? 見てるの辛くないのか?」

「別に楽しくはない。こんな場面も見たいわけじゃない。

けど……他に眺められる場所もなくって。
中里くんといつも一緒だけど……しょうがなくって……ふっく……ふっ……」

三枝は泣き出してしまった。

「おいおい、勘弁しろよ……泣くなよ。な?」

三枝の頭をポンポンと優しく撫でた。

「あいつのことは忘れろって。もっと良い男も女もいくらでもいるから。お前すげーイケメンだし、悲観すんなよな?」

三枝は静かに声を殺して頷き、泣き続けた。

「ありがとう……少しスッキリした。でも、何で僕に構うの?」

「そりゃ……傷つくってわかってるのに、そのまま見てるだけなんて出来ないだろ? 
俺なんか役に立たなくても、話聞くくらいは出来るからさ? ね?」

「ふんっ。余計なお世話っ!! でも見かけによらず優しいね。ありがとう」

俺たちは長いこと他愛のないおしゃべりをした。

次の日、三枝は中庭へはやって来なかった。

亮司は少し寂しい様な、安心したような、複雑な気持ちになった。
けれど、穏やかな気持ちで春の花を植えていった。

一週間ほど経った日、三枝が久しぶりに訪れて言った。

「坂田亮司くん、今までありがとうね。
僕は、三枝 玲っていうんだよ。

サボってたけど、僕も緑化委員なんだ。これから毎日一緒にお花植えよ? 

そして……とっくの昔に矢田くんのことなんて忘れてた。

亮司くん、僕は君のことが好きなんだ。これから僕のこと好きになってもらうから、よろしくね」

「は? お前何言ってんだよ? 俺? いやいやいや……」

「?? だって君が言ったじゃない? もっと良い男がいるって! だから僕は見つけたんだよ? 良い男。
僕は絶対に君に好きになってもらうからね!」

このやたらときれいな男、『三枝 玲』はどうやら俺に惚れたらしい……

出会った頃はあんなにボロクソに罵っておいて……

──はあ、波乱の予感しかしない。


──────


「──最近、坂田、いつもあのやたら顔のきれいな奴と話してんだよな……
坂田に聞いてもはぐらかすし。

どういう関係なんだろう? なぁ、四季。どう思う?」

四季は昼休みに、理系の蒼士の教室を訪れていた。

「ぷぅ。蒼士がきれいって言ったのはムカつくけど、それはひとまずおいといて……

あの人、理系の三枝玲くんだよ。
めちゃくちゃ美人で、結構誰にでも冷たいらしいの。告白されてもこっ酷く振っちゃうとか……

氷の女王らしいよ?」

「へぇ? 何でそんな奴が坂田と?
チャラい坂田なんて眼中になさそうなのにな」

「──僕三枝くんに話しかけてみようかな……」

「四季……無茶すんなよ?」

四季は親指を立ててウインクして見せた。


──────


四季は廊下で玲に駆け寄り、呼び止めた。

「三枝くん! 僕、中里四季っていうんだ。突然ごめんね? ちょっと……坂田くんについて……」

それを聞くと玲の顔が歪んだ。

「あんた何? 何様? 亮司くんと僕のことはほっといてよ。
あんたみたいな奴だいっっ嫌いなんだよ。
矢田くんにお姫様みたいに守られてればいい。
二度と目の前に現れるなっ!!」

四季は呆気に取られた。

「四季! 大丈夫かよ?! 三枝? あいつの叫び声、教室の中まで聞こえたぞ?」

「……かなりびっくりした。話しかけただけで大嫌いって叫ばれた……
ぷっ。ぷはっ。あの人可愛いーー!!
坂田くんのこと好きなんだね、きっと」

「ええ? そういうこと? あ、坂田が氷の女王追っかけて行った。
坂田そういうのは面倒くさがりそうだけどな……」

亮司は玲を追いかけて手首を掴んだ。

「三枝、お前どうした? 教室までお前の声聞こえたぞ? 中里ちゃんと何話したの?」

「その中里ちゃんっていうのもやめてよ! 気持ち悪い! 
亮司くん、何で僕は名前で呼んでくれないの? あいつばっかりみんな可愛がって……そりゃ僕はでかいし、可愛くないし、性格悪いけど……」

「ふはっ。お前自覚あるんじゃん。
はは。大丈夫。お前は可愛いよ」

坂田は玲の頭をポンポンっとした。

玲は顔を赤らめて言った。

「お願い……少しだけ……抱きしめて……お願い」

「ったく、俺、男好きじゃないんだよ? お前と付き合う気もないんだよ? それなのにこんなことしてたら辛いだろ?」

亮司は玲を抱きしめて言った。

「うん……今、この幸せを噛み締めとく……亮司くん、好き」

「不思議とお前には鳥肌立たないなぁ。うん、可愛いよ」


──────


この不健全な関係はもう三ヶ月ほど続いている。

亮司は男は嫌いだと言う。
しかし玲のことを抱きしめて可愛いと言ってくれる。

玲は素直に嬉しかった。亮司は少なくとも玲に対しては好意的だ。

玲はいつか来る終わりに怯えながら、それでも、亮司の隣にいた。


──────


「あっ、玲くん! おつー! こっち来てケーキ食べよ? 蒼士の手作りだよー!!」

玲が亮司のクラスに通うようになり、四季は何かと玲にかまう。玲は玲で満更でもなさそうだ。

「何で僕があんたなんかと……矢田くんの手作りか……食べてみたい」

「「何で蒼士に反応するの?!」」

亮司と四季はハモって叫んだ。

「え? 坂田くん? 蒼士にやきもちー?
大丈夫だよ〜玲くんは坂田くん一筋じゃん……
ってそうだよね? 玲くん? 蒼士なんかに興味ないよね?!」

「蒼士なんかって……酷いな……四季」

亮司は自分の言動が信じられなかった。

玲が蒼士に対してまだ少しでも気持ちがあるとしたら……そう思うだけでもイラついた。

玲に対する所有欲が芽生えている。
せっかく自分にだけ懐いていたのに……
なんだ? この考え……
別に玲が誰を好きだろうと……

亮司は、ぷんぷん怒りながらも楽しそうにケーキを食べる玲を見つめた。


──────


そのうちに、玲は亮司に弁当を作ってくるようになった。

「亮司くん、行こう? 中庭でお花見ながら食べよ?」

「ふぁ〜ねむ。はいはい。玲ちゃん、今日の弁当は何かなっと」

亮司の玲に対する呼び方が『三枝』から『玲ちゃん』に変わった。

「ふふっ。今日はとんかつだよ! 亮司くん揚げ物好きだから」

「お前……朝から頑張りすぎ……もっと簡単で良いんだぜ? 卵とウインナーとか……」

「坂田くん、それでも玲くんに作らせるんだー(笑)
いつも美味しそうだもんね。僕も食べてみたい〜」

「……仕方ないから、あんたにも今度作ってやるよっ!」

「うっわ!! 玲くんがデレた……まじ貴重」

「なっ?! そんなこと言うなら作らない!!」

玲と四季はワイワイやっていた。

亮司はそこに割って入った。

「──玲ちゃん、行くぞ」

亮司は玲の肩を抱き寄せて行ってしまった。

「……あれ、今の坂田くん絶対やきもちだよね?」

「お、おう。俺もそう思う」

「玲くん! 頑張れ! これはいけるよ! あと一推し!」


──────


亮司は面白くない。
この前まで自分にしか慣れてなかった玲が、四季や蒼士に懐いてきている。

「なぁ、玲ちゃん……?」

「? なぁに? さっきからどうしたの? 変だよ? 亮司くん……」

「今日のハグ、してないよ?」

「あ……でも僕は……別れ際にした方が、亮司くんに会えない間、次に会うまでの力になるっていうか……」

「なら、二回すればいいよ」

亮司は玲をぎゅっと抱きしめた。

「亮司……くん?」

「──さっ、弁当食べようか! すっげー楽しみ!」

二人は他愛も無い話しを始めた。

「あのね、この前植えたマリーゴールドとサルビアがそろそろ咲きそうだよ? 楽しみだねー!」

亮司と玲は放課後に花壇の手入れをしてから帰るのが日課だ。

「もう少し花の種類増やしたいかなー。
でも二人だし、手が回んないかもな……他の委員、サボりまくってるからなー」

「あと一種類くらいなら何とかなりそう。
ねぇ、今度の春先にチューリップなんてどうかな?」

「それ良いな。今度球根買いに行くぞ」

「デートみたいだね……」


──────


「じゃあな、玲ちゃん、また明日。ん……」

亮司は玲に向かって両手を広げる。玲はその腕の中に吸い込まれていく。

「亮司くん……好き、大好き」

最近、亮司は言ってしまいそうになる。

『俺も好き。玲ちゃんが大好き』

言ってはダメだ。自分はきっと女に浮気する。女が好きなのだ。

どんなに玲がきれいでも、どんなに可愛く感じようとも、……どんなに大切だろうとも玲は男だ。

自分は女を選ぶ。玲には残酷すぎる。

……離れるならば、早い方が良い。


───────


次の日、亮司は玲の呼び出しに応じなかった。

「? 亮司くん? ご飯食べよ? 外が嫌なら教室でも良いよ?」

「……もうお前と一緒には食わねぇ。

俺、他校に彼女出来た。お前みたいなきれいな奴といると勘違いされる。もう話しかけんな」

「なに……? そんなこと昨日まで何も……昨日も帰り道はずっと一緒で、抱きしめてくれたじゃん?!」

四季と蒼士は叫んだ。

「だっ?! 抱きしめ……?! そんなことしてたの……? 坂田くん……玲くんかわいそうだよ」

「気を持たせるようなことしたお前が悪いだろ?
坂田。三枝がお前のこと好きなのは知ってただろ?」

「……だから、だよ。三枝、俺最初に言ったよな? こんなことしてたらお前が辛いことになるって。

俺は男は嫌いだ。気持ち悪い。ホモなんて真っ平だ。

蒼士、お前らのことじゃない。自分には当てはまらないってことだ。

だから、三枝、もううちのクラス来んな。弁当もいらない。お前とは話さない。委員会は俺が辞める」

蒼士たちは身構えた。
きっと玲が大声で喚き散らすだろう……

……しかし、玲は目からハラハラと涙を零して、静かに歩き出した。

「坂田くん! 追いかけなよっ!! 
坂田くんも玲くんのこと好きでしょ?! 
何であんな酷いこと言うのさ?!」

「俺、あいつと付き合ったとしても多分女に目移りする。

あいつのことは可愛いと思ってる。
一緒にいて楽しいし……他の誰とも仲良くしてほしくない。

けど、駄目なんだ。男は恋愛対象じゃない」

「そんな……坂田くん、もっとちゃんと考えた方が良いよ? 玲くん凄いモテるんだから。特に最近、誰かさんのお陰で優しくなったし、笑顔が増えて可愛いって、大人気なんだから。
上級生も、下級生も狙ってる。
坂田くんには言わなかっただろうけど、あの氷の女王が、前とは違って告白も全部優しく丁寧に断ってたみたいなんだよ? 
坂田くんが氷を溶かしたの!! 坂田くんのおかげでいつも笑顔で楽しそうだったのに……」


──────


玲が亮司のクラスに通わなくなってから、亮司は機嫌が悪い。何にでも当たり散らす。

「何だよくそっ。お前らこっち見てんなよ?!」

「……おいおい、坂田落ち着けよ……荒れすぎだし、八つ当たり酷いぞ? 周り迷惑だろ?」

周囲はみな、亮司と玲は付き合っていると思っていた。それも仕方がない。
亮司は『氷の女王』を笑顔にした、言わば王子様なのだ。

もちろん氷が溶けて美しくなった女王は今まで以上にモテる。
さらに、亮司と別れたという噂が広まれば尚更だ。


──────


「三枝玲さん、話があるんですけど……中庭に来てもらえませんか?」

昼休み、1年生の長身でイケメンの男に玲は呼び出された。

正直、玲は亮司との思い出の多すぎる中庭には行きたくなかった。

「三枝玲さん、俺、入学してからずっと貴方を見てました。
好きだと気付いてから、すぐに行動を起こせば良かった……後悔しました。

坂田さんとは別れたんですよね?ならば俺と付き合ってくれませんか?
俺、坂田さんより良い男ですよ?」

「ぷっ……あはは。なんでみんなそんなに強気なの?? 
確かに君、かっこいいし、少しはまともそう。

けど……ごめんね。
僕は好きな人とじゃなきゃ付き合わない。
それにもっと可愛い子たくさんいるでしょ? 僕、でかいし、可愛くないし、性格悪いし」

「玲さん、手に入れ甲斐がありますね。
俺はあなたみたいに美しくて可愛らしい人見たことないですけど。
必ず手に入れます。

早速なんですけど俺、今日弁当作ってきてます。ここで一緒に食べませんか?」

「君が? ……それくらいなら、良いよ。でも、それ以上はないから。」

1階にある蒼士たちのクラスからは中庭が丸見えだ。蒼士が騒いだ。

「坂田っ!! あれやばいって!! 三枝、他の奴と飯食ってるぞ?!

良いのかよ、お前? しかもあいつ1年のすげーモテる奴だぞ? 

おいっ! 坂田聞いてる?」

亮司は窓の外に目をやって、その光景が信じられなかった。

玲が笑顔で楽しそうに他の男と話しながらお弁当を広げている。中庭のベンチで。

違う!! そこは俺と玲の場所だ!! 
亮司は目の前が真っ白になると、窓を開けて中庭へ飛び出した。教室はざわついた。

「何? どうしたの?」

「坂田くんが窓から飛び出たみたい……」

「あー、あれ見て! 三枝くんが他の男と話してる」

「え? でも確か坂田くんが振ったんだよね? 三枝くんのこと……往生際わる〜い」


──────


「おいっ! 玲ちゃんっっ! 何してるんだ?! 早くこっちに来いっ!」

玲はピクっとしてその声がする方を振り返った。

「え? なに? 亮司くん……? 何か用……うわあ!」

亮司は玲の側まで行くと、思いっきり抱き寄せた。

「まだ、今日のハグしてない。──なにあんな奴と楽しそうにしてんの?」

「あ……の……ごめん、亮司くん……君が言った通り、僕もうこういうことやめるから、放して。

だいたい僕が誰と仲良くしようが、亮司くんには関係ないでしょ?」 

「お前、本気で言ってんのか? 俺のこと好きだろ?」

「ううん。違う。もう大丈夫。知ってると思うけど、僕諦め早い方だから。

亮司くんはちゃんと彼女大事にしてあげて。
今まで邪魔しちゃってごめんね。

あ、ちゃんとお花世話してるから、心配しないで。それじゃあ」

玲は振り返ると走り出した。
亮司には見えていなかったが、玲の目には涙が溢れて(あふれて)いた。

「玲さん、待って!」

その一年、川口秀平は玲の腕を掴んだ。玲は声を出して泣き始めた。 

「玲さん、あんな奴の為に泣かないで。俺は付き合えなくても良い。側にいさせてください」


──────


それから毎日昼休み、玲と秀平は一緒に過ごす。
1年生の秀平が2年生の教室に来ると皆騒ぐ。こいつも相当なイケメンだ。理系男子にだってモテるだろう。

──玲はもう亮司のクラスにはやって来ない。代わりに秀平が玲の教室に入り浸った。

「ねぇ、坂田くーん。本当にこれでいいの? 玲くんのこと……坂田くんのこと吹っ切れたなんて、あんなの嘘だよ? 
まだ好きだよ……そんなに簡単じゃないよ……」

「三枝意思強そうだけどさ、弱ってんだから、あの一年に絆されちまうかもよ?」

亮司は答えた。

「──まずいよなぁ。俺……玲ちゃんのこと本気で好きみたい。もう認めるしかない。でもあいつ、男なんだよ……俺はゲイじゃない」

「坂田くんってばかぁ? 僕だってゲイじゃないよっ! 蒼士だってそうでしょ? 僕だって可愛い女の子が好きだし、何なら蒼士の妹さんが好み! でも蒼士好きになったからしょうがないのっ!」

「えっ?! やっぱ実紅のが好きなん?!」

「うるさい! 蒼士は黙って! 坂田くんの心にはいつも誰がいるの? 早く素直にならないと、他の人に攫われちゃうんだからねっ?!」

亮司は頭が真っ白になった。

立ち上がると体が勝手に走り出していた。

「坂田くんがんばれっ!」

「しーきー……実紅が好きなの……女の子がいーのー?」

「蒼士、空気読めないね……
蒼士が好きに決まってるでしょ! 
ほら、僕のこと抱っこして! 
……坂田くんたち上手くいくと良いけど……」


──────


玲の教室には玲と、秀平二人きりになった。他の生徒はもう下校した後だ。

「玲さん、そろそろ俺と付き合ってくださいよ。大切にしますよ?」

「うん……もう良いのかな。僕、君に甘えても」

「もちろんですっ! 玲さん、抱きしめても良いですか?」

『ガタガターーーーン!!』

「ストーップ!! 玲ちゃん! こっち来い! 今日のハグ!」

玲は亮司の声のする方を振り返った。
目には涙が溢れて(あふれて)きた。

「あっち行ってよ! 亮司くん、一体何しに来たの? 僕はもう良いって言ったよね? 君のこと好きじゃないって……帰って!」

「じゃあ、何で泣いてんだよ? 俺のこと好きだろ? 

──ん……ハグして」

亮司は玲に向かって手を広げた。

「玲ちゃん、今までごめんなさい。酷く扱った。
好きじゃないって言ったのに思わせぶりな態度とったり……

──玲ちゃんがこの世で一番可愛い。俺、玲ちゃんが好きだ。やっとわかったんだよ。
男とか女とかにこだわるなんてバカらしいって。玲ちゃんは男でも女でも玲ちゃんだよ。
女に浮気なんてしない。日和ってたんだ。保険かけたんだ。最低だな俺……

……とにかく、玲ちゃんが好きです。二度と離れたくない。一緒にいてください」

玲は困ったような顔をしてオロオロした。
そして秀平や走ってきた四季の方をチラッと見た。
二人はやれやれといった顔をして言った。

「良かったですね? 玲さん」

「おめでとう、玲くん」

玲は顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いて、亮司の胸の中へ飛び込んだ。

「おかえり……俺の玲ちゃん。毎日ハグが出来なくて寂しかった」

「ふぇ……亮司くん……亮司くん……」

「ハァハァハァ……
四季、足マジではぇぇー、さすが俺がリレーで勝てなかっただけのことはあるぜ……
んで、坂田、どうなった?」

「ん、玲ちゃん無事にゲットした。
お前らにも心配かけてごめんな。
もう玲ちゃん絶対に離さないからな?

後、そこの一年、もう玲ちゃん狙うなよ? 俺んだからな!!」

「後一歩だったんですよ? 残念。ですけど、玲さんが幸せなら、それで良いです」

「秀平くん、ありがとう。君に沢山救われたよ。僕友達いないから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」

亮司は喚いた(わめいた)。

「駄目っ!! それは許さないっ!! 中里ちゃんと仲良くするのも許せないのにっ!!」

四季と蒼士は眉間に手を当てた。

『ちょー束縛男』 爆誕……

「玲ちゃん、俺の許可なく他の奴と話しちゃ駄目だから……後、他の奴から……ぶつぶつぶつぶつ……」

「玲くん嬉しそうで良かったよ、ね? 蒼士」


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第3章:『恋の迷宮(歩夢・佳太)』
SNSの全肯定してくれる「匿名くん」の正体は、意地悪で自信満々なあいつだった!?


──────


助けてくれたあの日から、本当に好きだったのだ。
別にあいつ──中里に喧嘩を売るつもりもなかった。でもやっぱり目の前で自慢されて、頭にきた。必死で涙を堪えて文句を言ってしまった。

「あんたに矢田くんの何がわかるの? 僕の方が知ってる! どうせ顔だけで好きになったくせに!! 良い気になるな! お前なんか矢田くんに相応しく無いっ!」

「はあ? 何突然? そもそもあんた蒼士に告ってもいないじゃん? 意気地なしが何言ってんの? 勝負にもならない。
やれるもんならやってみれば? 蒼士は僕のこと大好きだから」

そうなのだ。この細貝佳太(ほそがいけいた)は蒼士に告白すら出来ないでいた。
やはり四季との間に割っていく勇気はなかった。

佳太が蒼士を好きな理由はカッコいいからだけではない。入学式の後に、2年生に絡まれていたところを助けてもらった。その時からずっと蒼士のことが好きなのだ。

この佳太もかなりかわいい。
男子からの人気も高いし、告白されることも日常茶飯事だ。
自分の容姿にそこそこ自信もあった。

すぐに泣いてしまうのだが、それ以上に、うじうじするのは性に合わない。
佳太は蒼士に思い切って友達になってくれと頼んでみた。

『──友達って、あれだよな……? 別の意味もあるよな?』

あぁ、やはり友達すら無理なんだ。
……中里のくそ野郎。

佳太は蒼士のことを吹っ切れずにいた。
相変わらず蒼士は昼休みの度に佳太と同じクラスである四季に会いに来るし、嫌でも目に入る。

佳太にはクラスに数名だが友達がいる。けれど、みんな表面上の付き合いでしかない。なので本音ではぶつからない。

佳太は元々いじめられっ子体質で、俗に言う高校デビューといったところだ。

中学までは男女(おとこおんな)だとか、男子から告白されて女子からはやっかまれて嫌われた。
あまり良い思い出は無い。
性格が悪い……訳ではない。
根は優しいが少し我儘だ。可愛い外見のせいか、この『我儘』な部分が強調されてしまう。

高校に入り、インスタに自分の写真を投稿する様になった。はじめは寂しさを埋める為、いいねをもらうと自己肯定感が増した。そして、すぐに人気のアカウントに発展し、服装や髪型、人気のショップの紹介など、あらゆる分野でもいいねをもらえるようになった。

そんな中で、アカウントを始めたての頃からコメントをくれる『匿名くん』がいた。
恐らく書き方からすると男の子だろう。いつも見ていてくれてるのだ。

『かわいい服ですね! 僕も同じのが欲しいです。佳太くんかわいいから似合うけど、僕じゃ無理かな……』

『美味しそうなアイス! かわいい佳太くんと一緒にこんな映えるとこで写真撮りたいっ!』

『その髪型かわいい!! 長いのも良かったけど、短いのも似合う〜! ほんとおしゃれ!!』

『匿名くん』は沢山の欲しかったコメントをくれる。そのコメントは佳太を全肯定してくれる。とても気持ちが良い。自分に自信が持てた。


──────


四季には西山歩夢(にしやまあゆむ)という友達がおり、こいつもまた四季同様に鼻につくやつだ。
自分に堂々と自信を持っている。
しかもよく佳太の方を鋭い目で見ている。
本当のところは文句を言ってやりたい。

だけどもう四季たちには関わりたくない。
不服だが、我慢していた。

しかしその鬱陶しい視線に、ついにイライラが爆発した。

「西山くん? 何か僕に用でもあるのかな? いつも僕の事睨んでるよね? 中里くんにも矢田くんにも、もう興味はないし、こっちを見ないでもらえるかな?」

「は? 僕が誰を眺めようと勝手だよね? あと、自意識過剰なんじゃない? だから周りから嫌われるんだよ──ごめん、今のは言い過ぎた」

佳太は自分から噛みついて行くものの強くはない。
目から涙が溢れ(あふれ)出るのを我慢しながら教室を飛び出した。

校舎の裏に大きな木がある。
そこが1年生の時からの佳太の居場所である。

「ふぇ……ひっく……ふぇぇん……」

「──うるせえなあ……何なの?」

佳太はビクッと体を震わせた。人が寝ていることに全く気が付かなかった。

柳聡一郎(やなぎそういちろう)、佳太の一つ年下で1年生だ。

「なっ……こんなとこに……」

「せっかくいい昼寝場所見つけたんだから、邪魔すんなよな?」

佳太は我が物顔の1年生にイラッとした。

「ここは元々いつも僕の場所なのっ!! お前がどっか行けよ!!」

「おーー、かわいい顔して良く吠えるね……絶対友達いないっしょ?」

「ふぁーーーーん……あ……たには……かんけな……のに……ひっ……ひっ」

「げ? まじ? ごめん……ここいていいから……俺も静かにしとくし……な? まじごめんな?」

佳太は聡一郎の目も気にせず盛大に泣いた。

「……落ち着いた? あんた2年生?……こんな時に言うなって感じだけど、あんためっちゃかわいいな……え? 男だよな?」

「……いつものことだけど、その反応に今すごいムカつく。男子校なんだから、男に決まってるでしょ?」

「ごめん、ごめん。俺、柳聡一郎って言うんだ。1年」

「……細貝佳太。2年。出来ればもう来ないで。ここ僕の場所」

「そんなこと言うなよ? 俺は静かにしてるし。な?」

聡一郎は佳太に一目惚れしてしまった。

この学校の2年生にはやたら綺麗どころが多く、中里四季を筆頭に三枝玲、西山歩夢……といった見事な顔ぶれだ。

けれど、総一郎にはいまいちピンとこなかった。

しかし……この佳太の泣き顔にグッときた。
決して泣かせたい訳じゃない……けれどとてつもなくかわいい。

聡一郎にはこれまでに彼女もおり、皆それぞれかわいかった。
だけど、この佳太のかわいさは尋常じゃない。

聡一郎は男が好きな訳でもない。しかし、これは……

「──仕方ない。まじで、静かにしててよ?」


──────


佳太は今日の投稿を完了した。

『今日のヘアアレ。オシャレでしょ? 明日これで学校行こっかな?
片側を耳に掛けて編み込んだのだ。
我ながらかわいい!』

すぐに匿名くんからコメントがついた。

『僕も似合うならばそんなかわいい髪型がしたい! 羨ましいな』

次の日、佳太は面食らった。
歩夢が佳太と同じ髪型で教室にいたのだ。
歩夢は佳太の方を見た。佳太は思いっきり目を逸らしてしまった。

「あれ〜佳太と歩夢の髪型被ってんじゃん?! 二人ともかわいい!」

みんなは褒めてくれた。けれど、佳太は嬉しくなかった。

こんなに心が狭かっただろうか?
最近あまり色んなことが許容出来なくなってきている。
──自分に自信がなくなってきている。
全部中里(四季)と、西山(歩夢)、あの二人のせいだ。

そもそもこの髪型も歩夢の方が似合っている……
あいつの方が圧倒的にかわいいのだから……

佳太はトイレの鏡の前に立ち、髪を解いた。


──────


「よっ、けーちゃん。今日はけーちゃんの好きなチョコ持ってきてやったよ。高いやつ」

「ゔぅ〜けーちゃんって呼ぶなぁ! バカ聡一郎! ちゃんと先輩付けろ!」

「はいはい、けーちゃん。今日は学校どうだった? あ、弁当ちょうだいね。けーちゃんのうまいから。俺の食べていいよ」

「あっ!! 僕のから揚げとったぁ!! 酷い〜!!

……いつも通りあんまり楽しくなかった。

今日はあの西山歩夢が僕と同じヘアアレをしてきたから……
悔しいけど、あいつの方がかわいいから……僕解いちゃった」

「けーちゃん、世界一かわいいんだからさぁ、そんな心配せずに堂々とやりなよ? な? 俺にも見せて! 今やって!」

佳太は照れながら髪を編み込むと聡一郎に向かって見せた。

「──うわ。やばい……」

「え? え? やっぱりかわいくない? 変?」

「かわいすぎる……抱きしめて良い?」

「やだよっ!! 馴れ馴れしいっ!!」

聡一郎は佳太に対して恋愛感情を包み隠さずアピールしているつもりだ。

だが佳太本人には全く伝わらない。


──────


午後教室に戻るとまた西山歩夢が佳太を見ている。
今度は不服そうに見られている気がする。
ああ、居心地が悪い。

あろうことかその日は同じ学習班になってしまった。
元々あまり友達もおらず、ずば抜けて明るい方でもない佳太は俯いていた。
そこへ歩夢が嫌味ったらしく声を掛けた。

「ねえ、あんたもちゃんと意見言ってよ。黙ってたらみんなのお荷物なんだけど」

……何でいつもこうだろう。
自分の何がいけないんだろう……?

佳太は俯いたまま涙をこぼした。

「え? 佳太何泣いてんの? どうかした? もしかして僕のせい?」

は? 自覚なし? いつもいじめてくんのは西山くん、あんたじゃん?

「うぇ……ん……ひっ……く……ぼく……なにも……してな……のに……ひぇっ……んっく……」

「ああ、もう!! 佳太、行くよっ!! 先生〜細貝くん保健室連れていきまーす」

歩夢は佳太を保健室まで手を引いて連れて行った。
先生はおらず、二人はベッドに腰掛けた。

「落ち着いた? ねぇ、何で泣いたの? ゆっくりで良いから教えて……?」

「──君、いつも僕のこと睨んでる。僕が何か言ったら僕が泣くまで言い返してくる。……僕よりかわいい。あとただ単にムカつくし、あんたが嫌い」

「えぇ? 僕のこと嫌いなの……? そっか……そうなんだ……」

「はぁ? 逆にどうやったら好かれてると思うんだよ? お前って前から思ってたけどお調子者の馬鹿だよな?! かわいいからって調子乗ってる」

「ひどっ?! ──僕は佳太とずっと仲良くしたいと思ってるよ? けど、僕が四季と仲良いからって、僕のこと敵視してるし……
ねえ……矢田のことまだ好きなの?」

「?! どうでも良いでしょ? あんたなんかに関係ないよ。あんたも中里も大っ嫌い!!」

「──はぁ、みんなして『矢田』『矢田』ってちょっと頭おかしいんじゃない? 
逆にあんなやつの何が良いの? 聞かせてよ」

「え? えっと……入学式で2年生に絡まれてたら助けてくれた。それからずっと好き。
だから、中里みたいにただの一目惚れとかとは訳が違う……のに……僕……矢田くんからも……誰からも好きになってもらえない」

「そんなこと言わないでよ!! それに一目惚れも大事な恋の始まりなんだよ?! 

僕も入学式の日に一目惚れした人がいるんだ……
告白はするつもりなんだけど、その人には好きな人がいるから……もう少し待つつもり。
でも絶対に僕が手に入れるんだから!!」

「プラス思考だね、西山くんって」

「もー! 硬いなあ。歩夢って呼んで? ね? 佳太? とにかく、僕は君に攻撃してる訳でも何でもないし、睨んでもないよ。だから、気軽に話そ?
佳太……髪、解いちゃったんだね? 
もしかして、僕のせい……? 
せっかくかわいいのに……僕がやったげるよ。
ね? おそろしよ? ほらあっち向いて!」


──────


それから佳太は歩夢と少しずつ話すことに慣れてきた。歩夢から沢山話しかけてくれる。
意地悪にならない様に優しい言葉を選んでくれているように感じる。ほんとは良い奴なのだ。

四季とも少し話せるようになった。歩夢のおかげだ。

……ひとつ気になることと言えば、相変わらず歩夢は佳太をじっと見ることをやめない。


──────


最近はあの1年、聡一郎と(不本意ながら)お弁当を取っ替えっこをする事態になっている。佳太のお弁当は佳太自身が可愛く作っているのだ。

んー? 今日のインスタ何にしよ……? 
あ、取っ替えっこした弁当アップしよ!
あいつの弁当も彩り綺麗だもんね!
聡一郎のお母さんセンス良いよな〜

『今日のお弁当! 友達と取っ替えっこ! 僕の作ったのも可愛いでしょ?』

これに対し、匿名くんの反応は良くなかった。

『お弁当綺麗ですね』

この一言だけだ……うそお?
いつもすごく喜んでくれるのに?

佳太は落ち込んだ。

次の日、明らかにしょげている佳太に聡一郎は尋ねた。

「けーちゃん、どうしたの? お弁当も食べないで……」

「──昨日インスタにアップした写真の反応があんまり良くなかったんだぁ。
お弁当だったんだけど、いつも褒めてくれる人が全然褒めてくれなくて……
ふっっ……ふぇーーん……ひっく……えーーん……」

「もう……嘘だろ? けーちゃん……そんなことで泣くなよ……
コメントもたまたまだって。急いでコメントしたかもしれないじゃん。コメントくれただけましだって」

「そっか……くれただけまし、だね。
プラス思考、プラス思考!! 
ありがとう、聡一郎」

佳太はかわいらしく聡一郎に笑いかけた。
聡一郎は顔が熱くなるのを自分でも感じた。


──────


昼休みを終えて教室に戻り、授業の準備をしていると、歩夢は佳太に話しかけた。

「──佳太ってさ、昼ごはんどこで食べてんの?」

「? 校舎裏の木の下。僕入学してからずっとそこだよ」

「誰かと食べてるの? そうだよね?」

「ああ、今年から偶然会った1年生の子と、成り行きでね。どうかしたの?」

「へえ……いつも弁当持ってきてんの?」

「え……? うん……大体は……ねぇ、ほんとにどうしたの?」

「それ、僕も明日から毎日一緒に食べて良い?
どうせ僕も一人で食べてたし。
構わないよね?」

「? うん? もちろん良いに決まってる!! じゃあ、明日から一緒に行こうか!」


──────


次の日も、いつも通り木の下では聡一郎が佳太を待っていた。

「あ、聡一郎! 今日歩夢連れてきたよ!」

聡一郎は顔を歪めた。正直嫌だった。邪魔者だ。
それに……何でよりにもよって佳太をいじめていた歩夢? 
誤解は解けたらしいが、関わり合いにはなりたくない。
これ以上佳太にも関わって欲しくなかった。

「はじめまして、聡一郎くん。歩夢です。佳太が君に僕のことなんか言ってるの?」

歩夢はじっと聡一郎を見つめた。

佳太は不思議に思った。
歩夢は自分のこともじっと見つめる。

今は聡一郎のことを真剣に見据えている。

人を見つめるのが癖だろうか?
それにしては聡一郎に対する値踏みのような……

「ああ、聞いてますよ。あんたが、けーちゃんいじめてたって」

「聡一郎っ!! あんた失礼すぎっ!! ごめんね、歩夢と仲良くなる前のことだったし、僕ここでいつも泣いちゃってたから……恥ずかしいけど」

「『けーちゃん』……? そんなふうに呼ばせてるんだ……ふーん」

「あ……ちょうど僕今日お弁当多めに作ってきてるんだ。みんなで分けっこしようよ!
聡一郎のお母さんのお弁当もきれいなんだよ?」

歩夢はボソッと呟いた。

「……知ってるし」


──────


「あ〜! 佳太の手作り美味しかった〜これからは聡一郎くんばっかりには食べさせてあげないよ? 
僕、これからもここに来るから。よろしく。

じゃあね、聡一郎くん? さあ、佳太教室戻ろ?」

歩夢は聡一郎にヒラヒラと手を振ると、佳太の肩を抱いて校舎へ向かって歩き出した。

「あーーーー!! 匿名くんからコメントきてる! 嬉しい!」

『すっごくかわいいですね! お友達のお弁当も綺麗で食べるのが勿体無いくらい! 佳太くんのお弁当が食べれるなんて羨ましい!
これからもお弁当シリーズ投稿してください!』

「えー? 佳太どうしたの? 何かあったの?」

「んーと、言うの少し恥ずかしいんだけど、僕、1年生の時からインスタ投稿してて……ちょっと高校デビュー的なとこもあったから……ふふん。

それでいつもコメントくれる人からお弁当にもコメントくれてすごく嬉しくって!」

「ふーん……佳太はその人からのコメント嬉しいの?」

「え? うん……匿名だけど、全部同じ人だってわかるし、いつも褒めてくれる。
僕のことかわいいって言ってくれる。
僕の大切な人……かな?」

「……そうなんだ。そういうのいいね。僕も始めてみよっかなぁ」

「歩夢が始めたら僕がいっぱい書き込むよ!!」

「〜佳太、このかわいい奴めっ!!」

歩夢は佳太に飛びつき頭をワシワシと撫でた。

二人はどんどん親密さを増していった。

聡一郎は機嫌が悪かった。
ここ最近、あの歩夢の野郎のせいでほとんど佳太と話せていない。佳太不足だ。


──────


「けーちゃん、毎日会うから気にしてなかったけど、LINE教えて。二人で話したいこともある」

「へ? 教えてなかった? ああ、ごめん。でも僕LINEあんまり使わないからインスタでも良い?」

歩夢が慌てて叫んだ。

「インスタはダメっ!! あ……きちんと連絡取れるのはLINEの方だからそっちにしときなって」

「え? ああ、うん。じゃLINEね」

それから聡一郎は特に用事がなくとも佳太に

『おはよう』
『おやすみ』

だけは欠かさずに送った。

それからも三人は一緒に弁当を食べている。
相変わらず邪魔をされて、聡一郎は日に日に機嫌が悪くなるようだが……


──────


──やはり感じる。歩夢の聡一郎に対する意味ありげな視線を。

佳太はその視線が少し怖かった。
もしも歩夢が聡一郎を好きになったら……
歩夢の方が可愛いし、性格もハキハキしていて明るい。
聡一郎はきっと歩夢と付き合い始めて、この関係性も崩れるだろう。

自分はそれを応援できるだろうか?
歩夢とは付き合わせたくない。

え……? 今どっちにヤキモチ妬いた?

「佳太? どうしたの? また俯いてるよ? 何かあったらすぐに僕に言いな?」

佳太は無理して笑顔を貼り付けた。

「ううん。太陽、眩しくって。良い天気だね」


──────


教室で感じる、聡一郎に向けられるものとは異質の……自分に向けられる歩夢からの視線。
それに気付いたのはいつ頃からだったろうか? 

僕、歩夢に逆(?)ギレしちゃって喧嘩売ったもんな……今年の初め辺りからかな?

もしかすると、今は聡一郎のことが好きで、僕のことが嫌で見ているのかもしれないし……うーん……今、視線の理由は本人には聞きにくい。


──────


梅雨に入り、外ではお弁当を食べられない日が続いた。

蒼士と亮司、玲は文系の四季たちのクラスに集合していた。

「おう、お前らも一緒に食べねえ? 玲ちゃんの弁当、最高だよ?」

亮司は佳太と歩夢の二人を誘った。

「あー!! 佳太の弁当も負けてないんだからっ!!」

歩夢は言い返した。

「てか、細貝といつ仲良くなったん? 四季」

「ああ……歩夢と話してるの見て、いつのまにか……ねー? 佳太」

「はっ、恥ずかしいから……その辺りの話、詳しくはしないで……中里くん」

四季と仲良くなった今となっては、蒼士のことで四季に喧嘩を売ったなんて恥ずかしい。

「あんたたち、うるさい。早く食べるよ? から揚げいる人??」

「玲くんテキパキしてるっ!! から揚げいるーーーー!!」

わいわい……がやがや……

佳太は今まで友達と賑やかに過ごしたことがなかった。とても嬉しすぎて涙が出た。

「あっ! 佳太、また感動して泣いてる! ちょーかわいんだから」

歩夢は佳太に飛び付き頭をわしゃわしゃした。

「うっさいな! もう。……みんな、ありがと」

──聡一郎はこの様子を教室の外から眺めているしかなかった。


──────


外は生憎の雨だが、歩夢が佳太を誘った。

「ねぇ、帰りに美味しくって映えるって噂のシェイクがあるらしいんだけど、行ってみない?
日本初上陸らしいよ!!」

「マジ?? 行く行く!! そんなんインスタに上げるしかないでしょ??」

雨の中1時間ほど並び、やっと注文まで漕ぎ着けた。

「レインボーのチョコソースがけ、タピオカ入りで!」

「僕も同じのにしまーす」

店員さんは親切で、サービス精神旺盛だった。

「あ、タピオカは無料で多めにできるよ! そして、サービスでヨーグルトトッピングしとくね! 裏メニューで、可愛い子だけの特別サービス」

「わーい! ありがとうございます」

雨も上がり、空には大きな虹がかかった。

「わあ! 大きい虹だよ! 虹も一緒に写るかなっ? 
ねぇ、今日は歩夢も一緒に撮って良い? 顔出ししても良い?」

「ん〜でもこれ、佳太のインスタだから。
僕の顔で邪魔したくない。佳太の可愛い顔自慢したい(笑)だから僕は顔出しなしでいこう!」

「えー? 歩夢のがかわいいのに……オッケ、はい撮るよー! よし、んで、加工してアップ!!」

『友達と噂のシェイク飲みにきたよ!! さすが日本初上陸! 色が日本じゃない(笑)レインボーにしました』

「……あれぇ……いつもなら匿名くん、すぐにコメントくれるのに……」

「そんなの、仕事とか、学校とかかもしれないよ? せっかちだね〜今夜には絶対くるって!」

「……うん。そだね」

佳太は肩を落とし、落胆した。

「前も聞いたけど、そんなに大事? その人のコメント」

「……うん。僕の今の好きな人……かな。実際に会っても絶対に好きになる。気持ち変わらないと思う。こんなに優しくて、楽しい人そうそういないよ」

「そうなんだ……いつか会えると良いね。
それにしても、このチョコソースとヨーグルトのコラボヤバくない? めっちゃ合う! 僕次からもこれだな」


──────


その夜、コメントがついた。
匿名くんだ!

『そこのシェイク僕も飲みました! トッピング多くてもはや食べ物ですよね(笑)僕もそれと同じトッピングして、上のヨーグルト気に入りました! 意外とチョコソースに合って驚きでしたよね』

──え?
僕トッピングの話もヨーグルトの話もしてない。チョコソースは写真で見えるけど、ヨーグルトなんて……全然写ってない。
え……?
このセリフ……歩夢の言ったまんまだ……どういうこと?

佳太は一晩中考えて眠れなかった。

え……歩夢は匿名くん? でも……だったら何で言ってくれないんだろう。わからない、どういうつもりかは歩夢に聞かないと。でも本人に聞くの? 何て?


──────


「おはよ、佳太。匿名くんからコメントきた?」

「ん……きたよ。沢山コメントくれた。
やっぱり大好きだなあ。──僕やっぱり会ってみたい」

……さあ、歩夢の反応が見たい。

「そっか、会えると良いね」

歩夢の返事はあっさりしていた。

その日から佳太は歩夢からずっと目が離せなくなった。
歩夢も佳太を見据える。
先に佳太が視線を外してしまう。

「──最近、よく目が合うのに、すぐに逸らしちゃうよね? 佳太」

佳太はギクリとしてまた逸らす。

「あ……そうだっけ? ごめんね? そんなつもりは……」

「まあ、いいけど。今日はお弁当外で食べる? 久しぶりに晴れてるよ」

「そうだね。そうしよう。気持ち良さそうだね」

そう言うと佳太は大きく背伸びした。

「あ、僕ちょっと先生んとこ寄って行くから、佳太先に行ってて!」

久しぶりに木の下へ行くと聡一郎が待っていた。木陰は随分気持ちよさそうだ。

「今日、歩夢さんは?」

「後でくるよ。先に食べてても良いと思うけど……」

聡一郎は佳太の手首を掴み自分の胸に引き寄せた。

「けーちゃん、好きだ。初めて会ってからずっと好きだった。
俺、歩夢さんに邪魔されて焦ってるんだ。
けーちゃんを独り占めしたい」

「あ……あの? 聡一郎、やだっ、ちょっと離して……」

「おい! 聡一郎! お前何してる? 佳太を離せ」

「歩夢さんに何の関係があるんですか? 俺はけーちゃんと大事な話の最中です。空気読んでくれませんかね?」

歩夢はカッとなった。

「……佳太には好きな奴がいるんだよ? お前には無理だよ? さっさと諦めろ」

「ああ、名乗りでる事もしない匿名の卑怯な奴ですよね? そんな奴に負ける気はしないんですが……」

聡一郎は歩夢を見据えてニヤッとした。

「……っつ。くそっ。佳太っ、僕そこで待ってる。聡一郎の話が終わったらもう教室帰ろ?」

「う、うん……聡一郎、僕歩夢の言った通り好きな人がいるんだ。最近その人のこと、どんどん好きになってる。いつでもあの人のコメントを待ってる。
……名乗り出てはくれないけど……それでも構わない。
聡一郎の気持ちは嬉しいけど応えられないよ。」

「……わかった。今はそれで良い。でも応えてくれるのを待ってる」

「うん……」


──────


佳太は最近歩夢のことしか考えられない。
歩夢が匿名くんだったならば、どういうつもりで正体を隠しているのか……そもそも歩夢が匿名くんなのか? 確かめたい。

──歩夢に嘘をつくことにした。

「歩夢、この髪型かわいい? 先に聡一郎に見せちゃった。かわいいって喜んでくれたんだ。歩夢はどう思う?」

「そう。普通じゃない? 前のがかわいかったよ」

……ちょーそっけない。え……ちょっと傷ついたし。
さあ、歩夢は匿名くんなのか? そうじゃないのか……?

『今日の、ヘアアレンジ。どうかな?
前回好評だったから、今回も好評だと良いんだけど……』

匿名くんからコメントだ!

『めちゃくちゃかわいいと思うよ! けど僕が一番に見たかったな……なんて我儘だよね。佳太くん困らせちゃうようなこと言ってごめんね。ほんっと圭太くんかわいい!! 僕もまた参考にしようっと』

──歩夢……なのか?

確かにわざと聡一郎に見せたと嘘をついた。
やはり、このことを気にしているのか?……わからない。

次の日、歩夢も同じヘアアレをしてきた。
歩夢は佳太に駆け寄ってきた。

「佳太、可愛い? 佳太に似合うなら僕にも似合うよね、僕かわいい(笑)うんうん! きゃはっ! あ、僕って軽く失礼?」

「ううん。すごく歩夢かわいいから僕より似合うよ」

「? どうしたの? 何で最近元気ないの? 匿名くんからもちゃんとコメントくるんでしょ?」

「……僕、やっぱり会いたいんだ。性格はとっくの昔に好きになってるし。
……顔はどうでも良い。
匿名くんだったら誰でも大丈夫」

「言ってたね、顔だけの一目惚れはしないって。佳太は自分に正直だよ。純粋だね。よしよし」

そういうと歩夢は佳太を抱きしめた。

『ドキッ……』

え? 何で今歩夢にドキッとしたの?
匿名くんかもって疑ってるから?
まだ確定じゃないのに。ダメダメ!


──────


それからも匿名くんとのやり取りは続き、歩夢である可能性は拭えなかった。

歩夢が匿名くんかもしれないから気になるのか? それとも純粋に歩夢だから……?

佳太たちは、木の下で聡一郎を交えて三人でお昼ごはんを食べ続けている。

聡一郎は歩夢の前でもお構いなしに佳太を口説いた。

「まだ匿名野郎のこと待ってるの? 卑怯な奴だから絶対名乗り出ないよ? 俺の方がけーちゃん大事に出来る」

「──名乗り出てくれなくても良い。顔が見えなくてもそれでも好きでいるだけだから。
もう、聡一郎しつこいよ? 僕はきみの告白は断ったよね?」

「そうだよ!! お前しつこいと余計に嫌われる。
ていうか、元々好かれてない」

聡一郎は佳太に聞こえないように吐き捨てた。

「自分は卑怯者の癖に……」


──────


教室で顔を上げるといつも歩夢と目が合う。前よりも恥ずかしさを感じてすぐに俯いてしまう。

「ね……顔を上げてよ? どうしていつも逸らすの?」

「はっ、恥ずかしくって……歩夢は何でいつも見てるの?」

「ん? 佳太可愛いもん。僕も佳太みたいにかわいくなりたくて」

「はあ? 歩夢の方がかわいいじゃん?! マジムカつく〜」

「あは、元気出たね佳太」

歩夢は佳太を抱きしめた。
少し前までは何とも思わなかったこの行為……最近では胸がはち切れそうだ。
歩夢は人の気も知らないでスキンシップ過多だ。
顔が近くにあればドキドキが止まらないし、
抱き寄せられれば鼓動が外まで聞こえそうだ。

でも自分は匿名くんが好きなはずだ。歩夢が匿名くんじゃなかったら落胆してしまう。

これ以上歩夢のことを考えて期待してはダメだ。


──────


歩夢が理系の男子に告白された。いかにもモテそうな雰囲気の長身のイケメンだ。つまり、小さくて可愛い系の佳太や歩夢とは真逆のタイプだ。

佳太は教室で歩夢を待った。心配することなんて何もない。大丈夫……

「あ……歩夢……告白の返事どうしたの……? 何て答えたの?」

「ん? 考えさせてって言った。付き合うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。もう少し知り合ってから決めようと思う」

この返事に、圭太は足元が崩れそうだった。

「あ……あ……そうなんだ? あ……僕……ちょっとごめん」

「あっ! 佳太ちょっと待って!」

佳太は、歩夢が必ず断ってくれるものだと思っていた。佳太は自分が恥ずかしい。
当たり前にいつも守ってくれて、優しくしてくれて、大事にしてくれて……
ただの傲りだ。

佳太は木の下まで走り、転んだ。そして泣き出した。

「あゆ……いゃだぁ……ぼくのだ……あゆむ……ふぇーん」

自分でも正直驚いた。本音がでた。いつの間にか歩夢のことが好き……でもいつから? 

多分最初にケンカしてからずっと存在を気にしてた。
キラキラ輝いている歩夢が眩しかった。
友達になりたかった。

木の下に、そこにいつも寝ている人物が……

「うっさいなあ。けーちゃん、今頃気付いたの?  けーちゃん歩夢さんのことずっと好きでしょ? 俺でも気付くくらい、いつも歩夢さんのこと目線で追って、気にして……あいつもあいつだけど、けーちゃんもけーちゃんだよ……全く。茶番」

「あ……でも僕には好きな人が……」

「例の匿名くん? あぁ……そうか……匿名くんときちんと話した方が良い。それが出来なければそんな卑怯な奴も、歩夢さんのこともスッパリ諦めろよ。良い加減振り回されんなよ」

「ふぅ……ぇ……あゆむ……あいた……い、でも……あゆむ……ひっく……ほかの……ひと……ひっく……つきあうかも……も、ぼく……ぐちゃぐちゃになっちゃった……ひぃっく……」

聡一郎は佳太を優しく抱きしめると言った。

「大丈夫、大丈夫だから……」


──────


聡一郎はその足で歩夢の教室に行った。

「歩夢さん、あんたに話しがあんだけどさ」

「──何? 特にあんたとは話しないけど」

「いつまでとぼける気だよ? この卑怯者。けーちゃん、相当参ってるぞ? さっき授業来なかっただろ? 木の下であんたのこと呼びながら大泣きしてた」

「は? 匿名くんの間違いでしょう? 僕のことなんて呼ばないよ」

「いい加減にしろよ!! この際どっちでも良い。けど、はっきりしてやれ。曖昧な態度や、わざと気を引いて弄ぶのはやめろ。これ以上傷つけるな。……多分そろそろけーちゃん教室帰ってくると思うけど、無神経なことするなよ?」

「──僕だって悩んでるんだ……」

歩夢は消え入りそうな声で言った。


──────


「佳太、おかえり。さっきどこ行ってたの? 保健室?」

「あ、うん……あのね、歩夢、僕……」

「佳太、先に言わせて。僕さっきの男子とは絶対付き合ったりしないよ。佳太からかっただけ。面白いかな〜(笑)と思ったんだけど、タチの悪い冗談になったみたいだね。本当にごめん」

佳太は歩夢の首に腕を回して抱きつくと泣き始めた。

「ゔ〜酷いよ! 歩夢のアホ!……歩夢取られるかと思った……良かった」


──────────


放課後になり、佳太は歩夢を誘った。

「歩夢、今日買い物して帰らない? 僕欲しいものがあるんだ〜」

「ふーん? 放課後にぶらつくなんて、佳太にしては珍しいね? 良いよ。何買うの?」

「──アクセ。ブレスレットかな」

「……ふーん」


──────


「歩夢、これどう?」

佳太はカジュアルなデザインで、普段から付けられるような物を探している。

「んー? 佳太にはこのピンクの模様の皮のが似合うよ?」

「……そっか、こっちのオレンジ色の方は歩夢に似合うね。二人で色違いのお揃いでしたい。ねえ? ダメ?」

「えっ?! もちろん、良いよ!! どうしたの? 突然……」

「僕……ふぇ……歩夢が好き……ぐす……ぐす……お揃いが欲しい……」

佳太は泣き出し、歩夢にしがみ付いた。
歩夢は焦った。

「わかった、わかったから泣かないで……けど、匿名くんは……? そいつが好きなんでしょ? 僕は佳太が好きって言ってくれるの、もちろん嬉しいけど……そんな状態の佳太には……僕もきちんと返事できないよ? 心の整理つけないと……ゆっくりで良いから……ね?」

「大丈夫だよ。ちゃんとする」

涙を拭いながら言った。
そして続け様につぶやいた。歩夢には聞こえないように。

「……もう僕の心は決まってるよ」


──────


二人はお揃いのブレスレットを付けて画像を投稿した。

『大好きな人とのお揃いのアクセだよ。イロチで、僕にも好きな人にも似合うデザインにこだわったんだ〜』

夜にはいつも通り……匿名でコメントが来た。

『大好きな人がいるの? 妬けちゃうな……僕のコメントはもう必要なくなっちゃうのかな……? さみしい気がするけど、佳太くんにはいいことだね。がんばれ!』

佳太はコメントにただ一言返信した。

『放課後、木の下にいます』


──────


このコメントは聡一郎も見ていた。
余談だが、四季たちも見ていた。

次の日、迷惑にもわちゃわちゃと校舎の陰から大勢で木の下を覗いていた。

「ちょっと、先輩たち、押さないでくれませんか?」

「蒼士、僕見えないからおんぶ!」

「よし来い! 四季!」

「玲ちゃん、おんぶしようか?」

「亮司くん、みんなも、うるさい」

佳太は木の下で匿名くんが来てくれるのを待った。
──来てくれないかもしれない……とにかく待った。

ザクっ……ザクっ……

佳太の背後で足音がした。

「本当に僕に会いたかったの?……心の整理はついたの? 歩夢とどっちが好き?」

佳太は声のする方を振り返ると大粒の涙を溢し(こぼし)ながら駆け寄って飛び付いた。

「どっちもっ! どっちも大好き! 二人とも同じ歩夢でしょ?! 
大好き……わーん! わぁーん!」

歩夢は佳太をギュッと抱きしめた。そして囁いた。

「傷付けてごめん、意地悪したいわけじゃなかったんだ。見つけてくれてありがとう……僕、佳太を入学式で見つけてから、ずっとずっと好きだった。こんなに可愛い子出会ったことなかったから……ずっとインスタでも追ってた。目が離せなかった。大好き」

歩夢は佳太の頬にそっと触れると、唇に優しく触れるだけのキスをした。

覗いていた面々は飛び出して行った。

「おめでとう! 佳太と歩夢!」

「俺ヒヤヒヤしたぜ。」

「僕は大丈夫だと思っていたよ? 本当におめでとう!!」

「しかし、この学校の誇るかわい子ちゃんたち二人がくっついちゃったけど、どうすんだ? かなりの数の男子が泣くぞ(笑)」

「先輩たち……良かったですね。俺は大人しく引き下がりますよ。けーちゃん、良かったね?」


──────


歩夢と佳太は木の下に寝そべっていた。

「いつから僕が『匿名くん』だってわかってたの……?」

「ん……シェイクのコメントで疑い始めたかな……? 

でもその前から歩夢のことが気になり始めてて……

もし二人が同一人物だったら? 違ったら? 

考えるうちにぐじゃぐじゃになった。
二人の人を、同時に好きになるなんていけないとも悩んだけど……

同じ人だから惹きつけられたんだね。歩夢を見つけ出せて本当に良かった」

「佳太は一目惚れを否定したけど、僕は佳太に一目惚れだよ? こんなにかわいい子初めて見た。僕は勘が良いんだ。だからこの恋は本物。

ずっとずっと好きだった。これから先も僕と一緒にいてね?」

「うん……ずっと一緒」

二人はそっとキスをした。


────────────


第4章:『修学旅行』
みんな好き放題やっているでしょ?!
僕があいつにキスを迫るまで。


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秋、紫苑学院(しおんがくいん)の2年生は修学旅行のシーズンだ。

みんなソワソワと浮き足立っている。

「修学旅行楽しみ〜!! ねぇ、歩夢、佳太くん、同じ班になろうね?」

四季はウキウキだ。もちろん歩夢も佳太も大はしゃぎだ。

「もっちろん! 僕は彼氏と一緒だなんてちょー嬉しい! 佳太だぁい好き!」

「あ、ずるい! 僕も混ぜてよっ!」

四季は二人の中に飛び込んだ。

この光景を理系男子は指を咥えて見ている。
何せこの高校を誇る美少女……もとい、美少年たちが戯れあっているのだ。

「文系男子良いよな……まじあの三人天使だわ……あ、聞いた? 西山(歩夢)と細貝(佳太)って付き合いはじめたらしいぜ?」

「は? まじかよ? あいつら二人ともゲロゲロに可愛いんだけど……やばいっしょ。何でそことそこがくっ付くの(笑)?」

「俺ちょっと細貝良いな〜と思ってたのに……」

「俺だって西山のこと……くそっ! 早く告っとくんだったぜ」

「いやいやいや、あいつら互いが好みなんだろ? 可愛い子が好きなんだろ? 俺らムサイじゃん(笑)無理じゃん(笑)」

「だな。まぁ、文系男子は俺らの目の保養ですよ」


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「なあ、坂田、俺ら同じ班で同室でいいよな? はあ〜お互い恋人が別クラってさみしいよなぁ……まあ、自由行動までのお楽しみか」

「それなんだけどさ、どっか一日で良いからみんなで一緒に回らん? 玲ちゃん、これまでずっと一人だったっぽいし、最近楽しそうだからみんなと一緒なの喜びそうでさ。歩夢ちんたちも誘ってさ。あ、中里ちゃんと二人が良いなら全然それで良いけど……」

蒼士は大賛成とばかりに答えた。

「あー、俺もそのつもりだった! 細貝もみんなでいるの喜ぶじゃん。絶対みんな良いって言うよな」

「よし、昼休みに発表な?」

昼休みには四季の教室にいつメンで集まって弁当を広げた。

「みんなさ、今度の修学旅行で一日自由行動一緒に回らない?」

「おーっ! まじいいねそれ! 蒼士にしては良いこと思いついたねっ?!」

「──四季さぁ、最近俺の扱い酷くない? 俺はこんなに愛してんのに……」

「はいはい、僕も愛してますよ。それで、佳太も玲くんも構わないよね?」

「僕は、誘ってくれて嬉しいよ。中里くんありがとう」

佳太は嬉しそうに微笑んだ。
玲は仕方なさそうに、でも嬉しそうに言った。

「一緒に回るけど、あんたたちうるさいんだから、周りに迷惑かけないでよね!!」

昨日の敵は今日の友。今ではすっかり仲良しだ。


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──修学旅行の行き先は京都・大阪。
東京の高校生の定番だ。

新幹線の中は貸切で宴会騒ぎ・大騒ぎ。
これぞ男子校の修学旅行、といったところか。


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「僕抹茶ソフトクリーム食べたい!」
「僕は湯葉が……」
「俺、甘いもん」
「俺は甘くないもん」

「──こいつらってまじ……はぁ、じゃあさ、昼は甘くない昼食にして、午後に甘味食べるよ? それで良いね?」

「玲くん頼りになる〜やっぱ僕たちまとまらないね。えへへ」

京都の観光名所を街ぶらしているとこの集団はやたら目を引く。

「ねぇ!! 見て!! あそこの六人組の男子!! やっば、顔面最強じゃん?!」

「うっわ、こんな光景見たことない。イケメンに、美人に、可愛い子たち……逆に誰もナンパ出来んよ〜」

「制服……高校生かな? 何? その高校レベルたっか……」

普段からこの面々はモテモテなので、周りから騒がれるのには慣れている。しかし、今回は彼らに免疫のない外部の人間が、まとめて六人を目の当たりにするのだ。美しさに驚くのも当然だ。

歩夢は露店のアクセサリーに目が行くと圭太の袖を引いた。

「あ! 佳太見て! この指輪可愛いよ?! 一緒にピンキーリングにどお?」

「かわいいっ! このピンク綺麗な色! オレンジもかわい〜! 僕たちの色だね! 歩夢とおそろ、嬉しい!」

佳太と歩夢は買い物に夢中になり、輪を外れた。その一瞬の間にナンパされた。

「ねえ、君らめっちゃ可愛いね? さっきから見てたんだー。俺らと一緒に回らない?」

他校の修学旅行生のようだ。

「ねえ、あんたら見えてる? 僕たちが男子の制服着てるの。早くよそ行きなよ」

「うっわ?! まじ? 二人とも男なの? 理不尽!! ……ねえ、男の子でも良いから一緒に遊ばない? 遊ぶ金出すからさ……てか、やば……めっちゃ可愛いね。俺らの高校の女子に君らみたいに可愛い子いない」

「──僕たち二人付き合ってて、今デート中なんだよね? 邪魔だから。食い下がっても無駄。そして僕、空手黒帯だから」

ナンパ師たちはボヤきながら退散した。
佳太は潤んだ目、赤らめた頬で歩夢を見た。

「歩夢ってカッコいいんだね……」

「お? 惚れ直した? もっともっと好きになって〜!」

「うんっ!! もっともっともっと好きになったよ!!」

佳太は歩夢に飛びついて何度も頬にキスをした。


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一行は念願の甘味処で小休止だ。

「蒼士〜僕にもちょっと頂戴! あーーーーん!!」

四季は蒼士の後ろから抱きつき、食べている黒蜜きな粉ソフトクリームを強請った。

「四季、一口でけーな。可愛いから許す……チューして」

『チュッ…… 』

この二人はフリーダムだ。場所がどこだろうと、誰が見てようとお構いなし。

亮司と玲は目が泳いだ。
──実はまだこの二人、意外にもキスを済ませてはいない。

そりゃあ、亮司は玲の頬や額に何度か軽く触れたことはある。しかし玲の恥ずかしがるやら、怒るやらで大騒ぎなのだ。

亮司は蒼士が羨ましい……しかも最近付き合い出したばっかりの歩夢と佳太に関して言えば、付き合うその瞬間にチューしていたのだ。

だが亮司は玲が一番だと思っている。玲は奥手だが、そこが可愛らしくもある。


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夜、玲と四季は歩夢と佳太の部屋に集まった。
「どうしたの? 玲くん……何か話があるって……何か悩み?」

「──あんたたちに相談するなんて非常に不本意なんだけどこの際仕方ない。あの……」

玲が言い淀んだ。

「──坂田くんと何かあったの?」

「ゔっ……あーもうっ!! 僕たちまだキスしてないんだ!! 多分亮司くんしたいと思ってる。
けど僕が恥ずかしくって……どうしたら……」

玲はポロポロと泣き出した。

「わぁ! 玲くん、泣かないで!」

「歩夢くん、佳太くん、君たち付き合っていきなりキスした。何でそんなこと出来んの?
そして中里くん、君、いつでもどこでも矢田くんとキスしてる……本当はみんなが羨ましい……」

「玲くん……そんなに悩んでたんだね……」

「こればっかりは頑張る? ものでもないし……成り行き、というか雰囲気? もあるし……何かお互いにしたそう……とか?」

「あ! 僕良いこと思いついた! 明日も京都自由行動じゃん? みんなで八坂神社行かない? あそこ縁結び有名なの!! 観光スポットだし、縁結びしてぇ……でどうしようか……えへへ」

「もう! 四季ってば。肝心のとこどうすんのさ? うーん……僕たちの場合、佳太が恥ずかしがりだけど、僕が無理矢理チュッっていっちゃうかな……ねえ、玲くんは初めてはロマンチックにしたい派? シチュとか無視でとにかくキスする?」

玲は頬を赤らめた。

「あ……最初だけはロマンチックにしたいな。だから京都っていいタイミングだと思ってみんなに相談して……」

「坂田くんとさりげなく二人にしてあげるとして……あ! 嵐山にある渡月橋のとこ! 今紅葉も見れて綺麗らしいよ! 広めの場所だから周り気にせずに、そこでちょっとくっついてキスおねだりしてみても良いかも」

「え……あ……僕から迫るの……?」

「あはは……そういうムードにして……極力良い感じのスポットになったら二人にしてあげるから、明日頑張ってみなよ!」


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「ねえー蒼士! もう僕たち縁結んじゃってるけど、可愛いから縁結びの御守りおそろで欲しい! このピンク欲しいっ!」

四季はストレートに蒼士に甘える。

「どれどれ……可愛いじゃん。四季にピッタリのピンク! 俺、どっちがいい? 青? 黄色?」
「蒼士青がいい〜やったー! ペアが増えたね?」

「ねえ、玲ちゃんも御守り欲しい?
俺たちもとっくに結んじゃってるけどさ(笑)おそろ持ってないじゃん?」

「あ……この花模様可愛い。一緒に持ってたい……」

「それ良いね! 色も同じにしよっか」

亮司は優しい。いつもわがままで怒っている玲に付き合ってくれている。こんな自分のどこを好いてくれているのだろう……キスくらい早くしてあげたい。

次のスポット、嵐山に到着だ。渡月橋のバックには見事な紅葉が映えていた。

みんな思う存分写真撮影をした。四季たちは玲と亮司から少し離れて、これでもかという様に二人に見せつけ、いちゃつきはじめた。

「おーい、お前ら。ここ公共の場だからな!
よく考えろよ?」

亮司は揶揄いながら言った。

玲は意を決して亮司に言った。手にはお揃いの花模様のお守りを握りしめた。大丈夫……!

「──亮司くん……僕たちもしない? あの……その……キ、キスとか……」

「玲ちゃん? どうしたの? あー、しまった。俺がいつも迫るからだよな? ごめんね? 無理させたくは無いし、無理矢理も嫌なんだよ。まだ良いからね?」

「あ、ちが……」

亮司はサッと玲から離れて蒼士の元へと行ってしまった。

四季はオロオロと困ったような顔で玲を見た。玲は下を向き表情を見せない。しかし涙が足元を濡らしたのがわかった。四季は玲に駆け寄り抱きしめた。

「ごめん! 玲くんとトイレ! この辺適当にしてて」

二人は集団から離れると、玲が話し出した。

「キスしようって誘ったんだ……けど、拒否された。無理するなって言ってくれたんだけど……。もう、これが僕の精一杯で……もうこれ以上は……」

四季は再び玲を抱きしめて言った。

「頑張ったね? 玲くん。でも今無理することもないよ? 亮司くんだって無理させたくないってのは本当だろうしね? ……そうだね、あとは玲くんがどうしたいのか次第だよ」

「……うん。ありがとね。中里くん」

玲は心を決めた。

ロマンチックもへったくれもあるか!!
自分は亮司とキスがしたいんだ。
あいつらを見てみろ!!
好き放題キスし放題ではないか?!


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その日はやたらと月が大きい。玲は空を見上げながらぼんやりと思った。
後でみんなを誘って眺めるのも悪くない。

「亮司くん、いる?」

玲は亮司と蒼士の部屋を訪ねた。

「あれ? 玲ちゃん、どうしたの? 俺に会いたかったの〜?(笑)可愛いなぁ」

いつもならここで怒られる、ところだが……

「……うん、亮司くんに会いたかった。ずっと一緒に居たい」

「へ? は? ちょっ?!……蒼士!! ちょっと部屋出ててっ!!」

「わ、わかった!!何かようわからんけど……がんばれ!」

「──玲ちゃん? 一体どうしたの? 何かあった?」

「ぼ、僕が会いたいとか、一緒に居たいとか言ったらおかしい?! そりゃみんなみたいに素直じゃないけど……僕だって本当は……ふっ……ひっくっ……すなおに……かわいくな……てごめん……」

「玲ちゃんっ?! 何言ってんの?! 俺の玲ちゃんが世界一可愛いに決まってるじゃん?! いつもの照れ隠しも可愛すぎるんだよ?? 俺だってもっとイチャイチャしたい……けど、やっぱり玲ちゃんに負担はかけたくない。玲ちゃんのペースで行きたいんだ。」

「──そんなんじゃ、ほんとは僕足りないっっ!!」

玲は亮司の胸ぐらを掴み、引き寄せた。
そして唇を重ね合わせた。
……亮司は驚きすぎて硬直していた。

──どれくらいそうしていただろうか?

『ガラガラガラ……』

「あのー? 亮司くん? 入ってもよろしいでしょうか……? って、わぁ?! お前ら何やってんの?!」

唇を離すと玲が答えた。

「っぷっは……何って……キスだけど? 矢田くん、見たことないの? ふんっ」

玲は毒づいた。
亮司は放心状態から抜け出せずにいた。

「なぁ、坂田が固まってるぞ……? 大丈夫?」

「──僕がキスしたら動き止まっちゃった。そんなに驚くことかな……? そりゃ……普段の僕の行いっていうか……可愛げがないっていうか……」

「いや、坂田ってさ、まじでお前の話しかしなくて、大好きなんだよ。キスとかしたいって騒いだりもしてるけど……三枝の嫌がることだけは絶対にしないって言ってて……」

玲は亮司の方を見ると抱きしめて、もう一度キスをした。

「れ、れいちゃ……おれ、世界一幸せ」

「ふっ。僕もだよ。今までごちゃごちゃ考えててごめんね? 行動に移すとシンプルだった。
ただただ亮司くんが好き。だからキスしたい。沢山沢山したい。もっともっと一緒に居たい。もっともっと抱きしめて欲しい……!!
亮司くん、好き、大好き」


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四季たちはみな蒼士と亮司の部屋に集まった。

「玲くんおめでとう〜!! 初キッス!! どっちからいったの? 教えて〜」

「……僕からしちゃった
……今思うとヤバい。ドキドキする」

「玲ちゃんのキス、熱かったのよ〜まじ可愛いし……俺幸せすぎ」

「わかる! キスって熱いよね! お互いの熱を感じて愛しくなるっていうか……幸せが溢れてくる! ね? 佳太!」

「僕も歩夢とのキス、大好き。世界一の幸せ者だと思えるよ」

「玲くんも亮司くんも世界一の幸せを感じたんだね?! うんうん。僕は感無量だよっ!!」

「俺、四季が良くする軽いチュッてやつも好き〜四季が倍増しで可愛く見える」

「わかる! 僕も歩夢に突然すると驚いてくれてちょー可愛いの!!」

亮司は頷きながら発言した。

「ほー。みなさん経験豊かですね。
玲ちゃん、俺らも沢山キスしよ?」

玲の頭を引き寄せて音の出るキスをした。

『チュッ……』

玲は真っ赤になった。

「と、突然みんなの前でっ!!……嬉しいけど」

玲は亮司の肩を鷲掴みにすると派手にキスをやり返した。

「玲ちゃん?!」

「あはは! 何かキス合戦になってるし〜いいぞ〜」

「お前ら〜もう消灯だぞ〜! 部屋に戻りなさ〜い!!」

「はーい! 先生!」

修学旅行の夜は賑やかだ。


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第5章:『それぞれのクリスマス』
聖なる夜の答え合わせ。
~失恋した僕の前に現れた、もう一つの恋の予感~


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12月24日。雪がちらつく中、街は暖かいムードに包まれていた。今年もこの日がやってきた。みなそれぞれに思うところがあるだろうが、多くの人はこの日を待ち侘びていただろう。

俺、柳聡一郎は今年も一人だ。先日、大好きだった人に失恋したのだ。

街中はイルミネーションで飾られ、幸せそうなカップルに家族連れ、友人同士でもはしゃいでいる。おまけに今年はホワイトクリスマスときたもんだ。

大通りを歩いていると一際大きなツリーの下で一組のカップルを見かけた。

一つ上の学年の先輩、矢田蒼士と中里四季だ。二人は人通りの多い中、人目を気にすることもなく抱き締め合い、何度もキスをしている。きっと世界中でお互いしか見えていない。この人たちはいつ見ても幸せそうだ。
それもそのはず、この二人は学校で一番の馬鹿ップル……もとい、憧れのカップルなのだ。
俺も憧れるし……

ジュエリーショップの前を通りがかり、ショーウィンドウの中を見ると、そこにも見知った二人が。坂田亮司と三枝玲だ。きっとペアでプレゼントでも選んでいるのだろう。おっと、どうだろう? あの三枝玲さんの笑顔……。氷の女王の面影はなく、素敵な王子様を振り向かせ、『束縛男』に……いや、『虜』にしている。幸せそうで良かったです、三枝先輩。

再び大通りを歩き始めると、俺の大好きだった人……けーちゃん……細貝佳太と、その恋人の西山歩夢を見かけた。あ、また男たちにナンパされてる……あの二人は可愛すぎるのだ。しかし、歩夢さんは強い。確か空手の黒帯とかなんとか……
あ……二人で一つのマフラー一緒に巻いちゃって。相変わらず楽しそうだな。この二人には本当に幸せになって欲しい。
……そうでなくちゃ、俺も浮かばれない。

佳太は聡一郎に気付くと駆け寄ってきた。

「あれ? 聡一郎じゃん? 何してるの? 一人?」

「佳太ってば、こいつに恋人とかいる訳ないじゃん? 可哀想だよ……ぷはっ」

「歩夢さん、相変わらずいい性格ですよね。けーちゃんのこといじめないでくださいよ? 俺にとっても大切な人なんですから」

「むっ……まあ、君にはお世話になったし、ありがとうね。君にも運命の人がきっと見つかるよ。僕も応援してる」

「先輩たちには負けないくらいの可愛い子見つけますから。ご心配なく! それじゃあ、メリークリスマス!」

「うん! 聡一郎もメリークリスマス!」

更に通りを家に向かい歩き出すと、不意に後ろから声をかけられた。

「あ、あの! 柳聡一郎くん! 僕、同じ高校の1年の福山湊(ふくやまみなと)って言います……あの、僕入学式の時からずっと君のこと……」