第1章:『執着と純愛(蒼士・四季)』
学校一の王子様に一目惚れ?!
男同士なのにまさかこんなに好きになるなんて……あり得ないっ?!
──────
俺、矢田蒼士(やだそうし)は中里四季(なかさとしき)に一目惚れした……
──────
高校1年の春、桜はまだ咲き誇っていた。
入学式の日、すごくきれいな子がいると周囲が騒いでいた。
は? ここは男子校だぞ? キッモ……女がいないからって男に盛るなよ……
「おい、矢田も見てみれって! かわいいから! 絶対惚れるぞ?」
クラスの男どもがみな窓辺に集まり、どよめきながら校庭を見ていた。
「あ〜、マジ興味ない。てか恋愛自体がどうでも良い。そしてお前らキモい」
俺だってそこそこモテる。けれど、今までの告白は全て断ってきたし、好きな子なんて出来たことがない。
俺、青春無駄にしてんのかなぁ……
──────
入学式は相当怠かった。
そして、あり得ないことに俺が入退場するたびに席からは男子の小さな悲鳴が上がる。
こういうのには中学で慣れっこだ。
どうせ、『かっこいい』だのなんだのだろ?
くだらない。しかもここ男子校だぞ? 鳥肌もんだ。
──俺はもちろん気付いてはいない。
真剣に俺を見つめる潤んだ瞳、上気した頬、後々の出会いに……
──────
先ほどから何度も言うが、ここは男子校だ。授業中に目が行くのは、せいぜい若い女教師の胸くらい……にも目がいかないんだなぁ。
本当にどうでも良すぎて、我ながら悲しい。
「お前、今まで相当告られてんじゃん?
付き合ったことないの?」
こいつは高校で知り合った坂田亮司(さかたりょうじ)だ。ピアスバチバチで少しチャラい(人には言えない)けれどいい奴だ。入学してからはこいつとつるんでいる。
「やめろよ……ここ男子校だぞ……
最近告られたのなんて全部男子だぞ?
……しかも俺、恋愛に興味ないっぽい。女も男も興味なし。
あ〜、運命の相手がいるんなら、出会いたいよ」
「へぇ、見かけによらず随分ロマンチストなんだな。うける。俺、女好き。男無理。
まぁ、でもこの学校の文系、やたらと可愛い男子多いぜ? お前入学式の日見なかっただろ?
やばいくらい可愛い子いたんだぜ? あれなら俺もいけるかも……(笑)」
「はあ、お前も節操ねぇなぁ」
────────
春、桜が満開だ!!
──なんて呑気なこと言ってられない!!
僕、中里四季(なかさとしき)は入学式に遅れそう! やばい! こんな大事な日に遅刻するなんて恥ずかしいよ〜
あと5分!
校門を過ぎた辺りを急ぐ様子もなく、ゆったりと歩く男子がいた。
急いでいないところを見ると、新入生ではないのだろう。
僕はダッシュで彼の横を通りすがるところだった。
彼は怠そうにしていたが僕は何気なく彼の顔を見た。
『ドクンッ……』
心臓が跳ねた。一瞬立ち止まってしまったが、チャイムで正気に戻った。
やばい〜!!
──────
何とか教室にたどり着くと入学式の説明の最中だった。四季が教室に入るや否や教室中がざわついた。その原因は四季自身にある。四季はかなりの美少年。その辺の美女でも敵わない。初めて会う人たちのこういう反応には慣れっこだ。
前の席に座る男子から声をかけられた。
「君、めっちゃ可愛いね!! 僕も可愛い系って言われるけど、君はずば抜けてる! ねぇ、友達になろうよ! 僕歩夢(あゆむ)っていうんだ。よろしく!」
「あ、ああ。僕は四季。よろしく」
四季は気もそぞろだった。
さっき校門ですれ違った人……かっこよかったな。上級生かな?
僕は多分男の人が好きな訳じゃない。
けど……あんなかっこいい人なら……
「四季! ほら入学式行くよっ!!」
歩夢が声をかけると四季はハッとした。
「あ、うん……」
──────
体育館に用意された椅子に腰掛けた。四季は通路側だった。四季は文系で、先に入場し、理系の入場を待っていると、四季は目を見開いた。
いたっっ!!!! さっきの彼だ!! 1年生だったのだ──あ……1年……9組? えっと……9組だ!!
周りがざわついてキャーキャー騒いでいる。
「矢田蒼士くんまじかっこいい!! 中学の頃から相当モテたらしいよ!」
「えー俺ゲイじゃないけど、矢田くんなら……」
「同クラの坂田亮司くんもやばいらしいよ……」
矢田くん……っていうんだ。すごくかっこいい……
四季の座る席のちょうど斜め前に蒼士は座った。四季は蒼士を見つめ続けた。
──────
5月になり、学校も落ち着くと、蒼士はアルバイトを始めることにした。
大手有名ファストフード店でのアルバイトだ。
「矢田蒼士です。よろしくお願いします」
「じゃ、矢田くんはキッチンね。中里くんについて! 君たち確か同じ高校じゃないかな?」
「……っっ?! えっ? あっ……あのっ……中里です……よ、よろしくね? 矢田くん」
「……うっわ……かわい……え? 同じ高校? 男? うそお?」
すかさず店長が、蒼士を制した。
「はい〜矢田くん、いきなりナンパしないで。ちゃんと仕事教わるんだよ?」
「は……え?……いや……こんな可愛い子と一緒なんて仕事に集中できない……」
周りからはクスクス笑い声が聞こえた。
「ぷはっ。中里くんが可愛いからってそこまでうろたえる人初めて見たぁ」
「同じ高校なんでしょ? 知らなかったの?」
四季は慌てて答えた。
「あ、僕文系だし、矢田くん理系だから棟が違うんです! だからほぼお互い何にもわかんないっていうか……あの……僕は矢田くん知ってました。派手だし、カッコいいからすごく目立つ! あ、良い意味で派手! ごめんなさい……」
四季は少し照れくさそうに言った。
「じゃあ二人仲良くやんなよ。同じ高校のよしみで」
蒼士は物覚えが良く、器用なので、初日のうちにほぼ完璧にこなしてしまった。
「すごい矢田くん!! もう僕あんまりフォローすることなくなっちゃうじゃん!
店長! 矢田くんすごいです!」
「いや、中里の教え方が上手いって! フォロー沢山してもらってる……ありがとう」
「すごいね、矢田くん。じゃあ明日からも中里くんとよろしく〜」
内心蒼士の胸はずっとバクバク言いっぱなしだった。四季の顔が近くに寄る度、目が合いにっこり微笑まれる度に……
「矢田くん! 一緒に帰ろう? 家どっち?」
『ドキッ……』
いちいちドキドキしてしまう……うぜえな、俺の心臓……
「あ、俺丸の内線。中里は?」
「僕も一緒!! 一緒に行っても良い??」
もちろん良いに決まってるっ!!
逆に嬉しすぎるっ!! って、俺、落ち着け……
「あぁ、いいよ。一緒に行こう」
はぁ……こいつ、中里……まじ可愛いんだけど……身長いくつくらい? 160センチくらいか? 小さい……腕にすっぽり収まりそう……キスしやすそうな高さだな。柔らかそうな髪の毛……ふわふわじゃん。何? その真っ赤な唇……ちっちぇーな……キスしたら食っちゃいそう……
まずい、非常にまずい。妄想が止まらない……
「な、なぁ中里って文系なのな。俺のこと知ってたんだ?」
四季は顔を赤く染めて言った。
「あ、あのね……引かないでね?
文系ってその……ちょっと可愛いタイプの男子が多くって、カッコイイ系の男子にあんまり馴染みなくて、矢田くんとかが窓から見えたりするとみんな騒ぐんだよね。
だから矢田くん有名で……僕も知ってたっていうか……なんというか」
「へぇ……中里は俺のことどう思ってた?」
……俺はなんてことを聞いてしまったんだ。馬鹿か。
「えっ?! ……あ……の、もちろんかっこいいって……その……」
ほらぁ、中里困ってる! きもいよな。こんな質問して。俺も自分がキモすぎる。
「ごめん、冗談! 間に受けないで! これからよろしくやろうよ、先輩?」
四季の顔はパァっと明るくなった。
「うん! 矢田くんと友達になれて嬉しい! よろしく!」
──────
俺は家へ帰ってからも中里のことが頭から離れなかった。
え? これって絶対あれだよな?
……一目惚れってやつ……? 俺が? 男に……?
嘘だろ……いくら男子校だからって……いや、でもバイト先で一目惚れしてんだから男子校関係ないか。
ああ、そうだ、高校も一緒だった。ラッキー。
けど文系ってあんな可愛い系がうじゃうじゃいんのか……? そういやそんなこと周りで言ってたような……明日坂田誘って文系棟行ってみよ。
あ、中里甘いもん好きかな? この前母親が職場から大量に買ってきた可愛いキャンディがあったはず……
──────
「おい、坂田! 俺文系の奴に用があるから文系棟についてこいよ」
「へぇ? お前文系に知り合いいるんだ? 初耳だな」
「お、おう。いいから! いくぞ!」
柄にもなく俺は可愛いキャンディの箱を片手に文系棟へ向かった。
──なるほど……きゃぴってる奴多いな。
理系に比べるとかわいい奴が多かった。
なんか棟全体いい香りするし、男臭くないというか……
案の定、俺と坂田の訪れで、ざわつきはじめた。
「ねえ! あれ矢田くんと坂田くんじゃん?!」
「うそっ?! まじイケメンっ!! なんで文系棟に?」
「えっ、誰か探してるみたい」
そのうちの一人が話しかけてきた。
「あの! 誰か探してるの? クラス教えよっか?」
「あぁ、中里って言う……」
「げっ!! やっぱり矢田くんも中里くん狙い?? もう腹立つ〜なんなのあの子〜」
やっぱり? って……そりゃ多分この学校一かわいいとは思ったけど、やっぱり?
亮司が大声で叫んだ。
「はっ?! まじ? お前興味ないって言ってただろ? 何いきなり?」
「え? 何? 何の話? 俺なんかした?」
亮司は続けた。
「入学したばっかの時、みんな騒いでたのに、お前だけ興味持ってなかったじゃん?
中里のこと見もしなかったよな?
今更どうしたの?」
「あ〜……あの例の可愛い子って中里のことなんだ……納得……
いや、昨日から俺バイト始めてて、中里、バ先の先輩なんだよ。
んで昨日のお礼持ってきただけだって……」
亮司はニヤついて俺を見た。
「言い訳はいいって。惚れたんだろ?
あの子マジで可愛いよな?」
「なっ! ちがっ……俺は……とにかく!
今日はお礼持ってきたの! ……あと、バイト一緒に行こうって誘いに……
あ〜!! 確かにこんなの俺じゃないっ!! らしくないっ!!」
「はいはい、中里くんのとこに行こうね〜」
──────
四季は教室にいて、数人のクラスメイトとだべっていた。
蒼士に気付くと顔がパァっと明るくなり、小走りで近寄ってきた。
「矢田くん?! どうしたの? こんなところで……? すごく目立ってる」
四季はくすくす笑った。
かっわいい……
「あ、昨日のバイトのお礼持ってきた……甘いの好きそうだったから……キャンディ、食べる?」
「うわぁ! わざわざよかったのに……ありがとう!! 嬉しい!!」
……この笑顔を見て惚れない奴なんているのか? 俺はもうダメだ。抱きつきたい……
「あ、中里ってさ、身長何センチ? 抱きしめやすそう……って、わぁまた変なこと言ってごめん!」
「むっ?! これでも168センチはあるんだからね? 意外と高いのっ!!
……多分?……えへへ」
俺はつい引き寄せて確かめてしまった。
「あ、ほら俺の腕の中にすっぽり……わぁ! またごめんなさい!!……俺ダメだわ……中里の前では変になる……」
四季は顔を真っ赤にして蒼士をポカスカ殴ってきた。
「バカバカっ!! 恥ずかしいっ!!
矢田くん僕のこと子どもかペットか何かだと思ってる!!」
あ、それ。そういうことにしとこう。そしたら今後も触りやすい。……じゃなくってっ!!
「ごめん、中里小動物みたいで……可愛いからつい……いっぱい触っちゃって……的な?」
──変態くさい。言い訳がまた変態くさいぞ。俺。
「ぷん。……仕方ないなあ。矢田くんだから許すけどっ!」
何この可愛い生き物?! 神様ありがとうっ!!
──────
「──」
文系棟を無言で後にした二人だったが、亮司から先に口火を切った。
「……お前、なんだよあれ? デレデレして……惚れてんじゃん!! 中里に!! バレバレだぞ? ダダ漏れすぎ。もうちょっと自重しろよ? 大体お前そんなキャラか?」
蒼士はため息をついてからその場にしゃがみ込んだ。
「はぁ〜だよなぁ〜俺キモいよなぁ〜もう中里の前では心の中の声がポロッと……やばい。好きって言うのめっちゃ我慢してる……」
「……やっぱ好きなんか。何でだよ? お前あんなんが好きなの?」
「一目見て、生まれて初めて誰かのこと可愛いと思った。もう俺無理〜中里〜」
「矢田……マジで壊れてる。な? バイト一緒に行くんだろ? しっかりしろ? これからいつも会えるんだろ?
あんまり心の声を垂れ流すなよ(笑)ビビられるぞ」
──────
それから蒼士は四季と順調に友情という名の愛情を深めて行った。
同じ高校で、同じバイト……夢のようだ。
しかし蒼士は気持ちが漏れないようにすることで大変だ。
最近では、ありがたいことにハグすることまで許されるようになったのだ。
「わぁん!! 矢田くん〜僕ミスしちゃって店長に怒られた〜」
「お〜よしよし。こっちこい? 中里抱っこしてやるぞ?!」
そう言うと四季は蒼士の胸の中に飛び込んでくるのだ。蒼士は幸せすぎて死にそうだ。
もちろん初めは冗談のつもりで言ってみただけだった。
にもかかわらず、本気にした四季が胸に飛び込んできた。
蒼士が驚きを隠せずにいると四季はバツが悪そうに慌てた。
「ご、ごめん!! 冗談だったよね? 本気にしちゃって……」
恥ずかしそうに涙を堪えていた。
「ぷっ。中里かわいっ! ほらおいで! 可愛いなぁ。いつでも抱っこしてやるから」
四季は嬉しそうに蒼士の胸に飛び込んで照れた顔を隠した。
「うっわ……こいつらこんな公共の場で何やってんの? 抱き合ってますよ? 店長……」
「青春ですね〜じゃあ、矢田くん、中里くん、明日は早番でよろしく!」
蒼士と四季が抱き合っていても、案外周りからの反応は薄く、前から仲の良すぎるこの二人なら驚かないという感じで、その後もこんな行為を続けていた。
蒼士はどんどん四季を好きになる。
隣で息をするのが苦しい……しかし、もうこの『四季の隣という特別な地位』を手放せない。
──────
今日は一日中雨が強い。
傘を閉じ、駅のホームで電車を待ちながら何となく四季が切り出した。
「ねえ、矢田くん……僕矢田くんのこと名前で呼びたいんだけど駄目かなぁ? 蒼士……って。あ、自分で言って恥ずかしいかも……えへへ」
何これ? 何のご褒美? 良いに決まってる!!
「じ、じゃあさ……俺も四季って呼んで良いの?」
「うん!! もちろん!! じゃあいい? 蒼士!!」
「もちろん、四季!」
続け様に蒼士は言った。
「四季ってさぁ、綺麗な名前だよな。
四季にぴったり。
怒ってたりとか、寂しそうだったりとか、笑ってる時でも、何をしても喜んでくれるところとか。まるで季節みたいに感情豊かだよな。
どんな四季でも、俺は好きだな」
四季は顔を真っ赤にして蒼士に抱きついた。
──────
「なぁ、坂田聞いてくれよ……昨日さぁ、四季が……あ、中里がさ、名前で呼びたいって言ってきたんだよな。俺も四季って呼べて……やばい……俺ニヤついてるよなぁ……顔が締まらん」
「はいはい。最近ずっーとそうだけどな。
良かったじゃん。順調に仲良くなれて……まぁ、男子同士ってのが気掛かりだけど……中里ちゃんそういうのは気にするタイプに見えないから良かったな。
むしろお前だろ? 男だとか気にしそうなの。
わかってる? あいつ俺たちと同じ『 お・と・こ 』だぞ?」
蒼士は窓の外で降り続く雨を眺めながら答えた。
「それなんだよな……もちろん四季のこと大好きだし、ハグも沢山する。……キスももちろんしたい。その先は……まだ勇気が出ない。想像が出来ない」
「ま、急がなくていんでない? まだ名前呼べて喜んでる段階だしぃ?」
亮司の言う通りだ。今悩んだとてどうにもならない。
まずはもっと仲良くなりたい。
──────
──秋。高校は体育祭、そして文化祭シーズンだ。
四季たちは、放課後に蒼士のクラスで話すのが日課になっていた。
「ねぇ、蒼士は何に出るの? 僕はねぇ、騎馬戦とリレーだよ〜」
「は? 騎馬戦? 四季が? 危なくね?」
「ふふん。上に乗るんだ。リレーはアンカーだよ! 意外とスポーツ出来るのだ!! すごい?」
「マジかよ……もっとか弱い系かと思ってた……何か騙された気分」
亮司も会話に参加してきた。
「へぇ〜中里ちゃんて運動神経良いんだ? リレー蒼士と被るじゃん」
「本当? じゃあ勝負だね! 蒼士!」
「四季可愛い〜四季の為なら負けてあげたい……」
「その一週間後には文化祭じゃん? 四季のクラス何やるのか教えてくんないけど、何やんのよ?」
「──内緒だし、来ちゃ駄目だからね……」
「な? この調子なんだよ」
「……ふーん……まぁ……当日わかんじゃね?」
亮司だけは四季がなぜ内緒にしているか、その理由を知っていた。
──────
体育祭本番、本日は晴天なり。
この高校、私立紫苑学院(しりつしおんがくいん)の体育祭は派手で有名だ。
体育祭は紅蘭祭(くらんさい)、と銘打って開催されるのだが、後夜祭で開催される
『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』
これが体育祭一番の目玉である。
男子校だからといって侮ることなかれ。
全校生徒が一番興味を惹かれる演目である。
まず各学年ミス、ミスターを各三名ずつ選出する。計六名が選出され、各学年にそれぞれに一名ずつミス・ミスターが誕生することになる。
四季はドギマギしていた。ぜっったいに蒼士がミスターだよっ!! あんなにカッコいいんだもん……ミスターになったらタキシード着て、希望者と写真撮るんだよ?! 僕も撮りたい……
蒼士はドギマギしていた。ぜっったいに四季がミスだぞっ?! あんなに可愛いんだもんな……ミスになったらドレス着て、希望者と写真撮るんだぞ?! 俺も撮りてーー……
二人は全く同じことを考えていた。
後夜祭は体育祭・昼の部が終わってからのお楽しみだ。
──────
「頑張れーーーーっ!! 四季後ろっ危ない!! 取れ取れっ!!」
「おーおー、蒼士お前堂々と敵の中里ちゃん応援するじゃん。にしても中里ちゃんまじ強えーな。あんな可愛い顔してさっきから何人落としてる? これうちのクラス負けだな」
「まじ、四季ってあんなに運動出来んだな?! あんなに可愛いのに……あんなにふにゃふにゃしてるのに……」
「人は見かけによらないって本当だな。おう、昼飯だぞ? 中里ちゃんのとこ行ってから食うんだろ? 行くぞ」
──────
四季のクラスのテントに迎えに行くと四季は飛びついてきた。
「あ、蒼士〜!! 観ててくれた?! 僕勝ったよっ!! 凄い?」
「もちろん観てたよ!! お前すげぇなあ。ほら、こっち来い!」
四季は蒼士の腕に飛び込んだ。
「この後の全校ダンスの後、リレーだね。全校ダンスは文系が内側、理系が外側だから、蒼士とも坂田くんとも踊れないしつまんない。どうでも良いや」
「そうか? おれ、四季が踊ってんの見たいから凝視するな(笑)」
「あは、じゃあ頑張ってマジで踊る(笑)
それよりも、リレーだよ! 問題はっ!! ぜっったいに僕が勝つからね? 蒼士何番目に走るの?」
「は? アンカーに決まってんだろ? かっこいいっしょ?」
「ふふ。僕もアンカーなんだよね。僕は速いよ?」
「は? 本当にアンカーすんの? こんなに小さいのにアンカー大丈夫かよ?」
「僕は小さくないっ!! 168センチ……ゆるく測ったらね……えへへ」
──────
バトンが蒼士のクラスを先頭に順調に回っている。四季のクラスは……さすが文系のかわい子ちゃんたちが多い。理系には敵わず、10クラス中最後からニ番目だ。
バトンが蒼士に回ってきた。
アンカーは400メートルを走る。
蒼士は順調に走り出した。そして遅れて四季がバトンを受け取った。
ああ、本当は負けてあげたい……
けど、これは勝負だ。正々堂々と……
は? 四季今三番目にいるんですけど……
は? は? 今すぐ後ろにいるんですけど……え? 横にいる……
四季は俺を見るとニヤッとして華麗に抜き去って行った。
俺は自慢じゃないが、本気を出さなくてもここ数年負けたことはない。
は? は? はあ? マジ?
これは本気を出さなければ四季に負ける。
全速力で四季を追いかけた。だが、差は一向に縮まらない。むしろ開いていった。
『ぱぁん!!』
四季が見事にテープを切った。
俺は差を縮めることはなく二位で……嘘だろ……?
コイツ……詐欺だ
俺はゴールと同時に地面に倒れ込んだ。
「嘘だろ……? まじかよ……ありえねぇ……」
四季が地面に転がっている俺に手を伸ばして言った。
「ほら、僕速いでしょ? 誰にも負けないんだから」
ムッとした俺は四季の手を引き自分の上に転ばせた。
「うわぁ! 蒼士! 何すんの?!」
「ん〜? この詐欺師め。みんなの前で抱きしめて恥ずかしい目に合わせてやる!!」
「きゃっきゃっ!! 蒼士〜!! やめてぇ〜!!」
「何あれ? クラスみんな応援してたんですけど……敵同士でイチャイチャしないでくれます……? 何か腹立つ」
四季のクラスと蒼士のクラスはみんな呆れた。
──────
後夜祭は毎年恒例、大人気の
『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』
が開催される。
まずは全校投票でノミネートされた者たちが壇上に上がる。各学年のミス、ミスター候補三名ずつだ。
1年生のミスには文系の四季、四季の友達の歩夢、理系の三枝玲(さえぐされい)の三名が選出された。
しかし、理系のミス候補、暴れて舞台に登りたがらない。
「放してっ!! 何で僕がこんなことっ!! くだらない! 放せ!!」
どえらい美人だが、無理矢理引きずりあげられて相当怒っている……
「あーあー、あんなに無理矢理……あの美人かわいそ……でも中里ちゃんよりクールビューティーって感じだな。俺あいつに票入れよっかな〜」
「ばっ!! おいっ!! ちゃんと四季に入れろよ? ドレス姿の四季と写真撮りてえんだから」
「はいはい……」
亮司は思った。あの美人、ずっとこっちの方見てんな? ──蒼士か?
ミスター候補には蒼士、亮司、もう一人は理系の男子が選ばれた。
舞台では順番に一つ質問がなされる。
「はい、中里四季さん、好きなタイプは?」
「えっとお、かわいくって……かっこいい人……包容力のある人が好きです」
「おお?! これは爆弾発言……それは男性が好きということでよろしいでしょうかっ?!」
「あっ!! わぁ!! そんなつもりじゃ……はい。そうかも……えへへ」
開場は色めき立った。
「いーぞーっ!! 中里ちゃーん!!」
亮司は野次を飛ばした。
蒼士は頭を抱えた。
え? 四季男の好きな奴がいんの?
聞いてねぇ……タ、タイプの話だよな?
好きな奴いたらいくら何でも俺には言うよな?
ははっ……こえー
「はい、次。三枝玲さん。わぁ、あなた相当お綺麗ですね? 沢山告白されるんじゃないですか? 好みのタイプは?」
「──真っ直ぐな人。ぶれない人。……かっこいい人」
三枝玲の瞳はある一人だけを見据えながら話していた。
「おっとお! 三枝さんも男性に恋されてるんですね? 今年はカムアウトする人も多いですね! みなさん、三枝さんも、中里さんもまだまだ狙えるチャンスはありますよ!
さて、ミスの最後は西山歩夢さん!
あなたもめちゃくちゃ可愛いですね?
今年は何ともハイレベル!! 激戦が予想されます!
西山歩夢さんの好きなタイプは?」
「僕はかわいい子が好きです! 因みに僕にはこの学校にずっと好きな子がいるから、告白しても無駄ですから。あの子以外は絶対無理」
「おぉ、これはかっこいい人……ではなく? 可愛い人? 驚きです!! 理系のみなさん、残念……!!」
「さてさて、次はミスターのみなさんにお聞きしましょう。では矢田蒼士さん、好きなタイプは? 教えてください」
「男女は問いません。可愛い子です。その子に俺のことを大好きになって欲しいです」
「おっと……矢田さんは……バイですか?」
「あ、いや……この子は男……ってちがっ!! あぁ! もう! 男ですよっ!! 俺、最近いつも締まらねえな」
「今年はすごい……今のところ、全員が恋愛対象男です!!」
「はいはーい! 俺は違いまーす!」
亮司は冗談めかしながら言った。
「お? 坂田亮司さん、女性が対象ですか?」
「もちろんよ。いくらきれいでも男は無理だ。女が良いね」
「きゃーーーーっ!! 坂田くん! それでもカッコいいーー!! 結婚してぇ!!」
「坂田さん聞こえますか? 貴方男性からも相当モテていらっしゃいますよ? どうです?」
亮司は手を舞台下に向かってヒラヒラさせた。
「ごめんねーかわい子ちゃんたち。良い友達でいようねー」
「ただいま投票結果の集計中です。
──おっと、出たようですね!!
それでは発表いたします」
四季はドキドキした。
蒼士と一緒に選ばれたい!! 一緒に写真を撮って一生の記念にしたい!
ドレスなんてもう着ることもないのだ。
蒼士の横に並びたいっ!!
「今年のミスターは、『矢田蒼士』!!」
「きゃあーーーー!!」
「そうしくーーーーん!!」
「すきぃ!! 結婚してえ!!」
四季は握った手に力がこもった。
「そして、今年のミスは、『中里四季』!!
お二人ともおめでとう前に出て!!」
四季は目の前が真っ白になったがすぐに涙がブワッとあふれ出てきた。
そして蒼士の元へと駆け寄ると飛びついて大声で泣いた。
「どうしたの四季?! 何で泣いてるの?!」
蒼士は驚いて、四季を抱きしめながら尋ねた。
「ううん……蒼士と一緒に選ばれて嬉しくって……感動してんの!! もっと抱きしめて……」
「四季……可愛いやつ」
会場中にはわかってしまった。
うん。コイツら、両思いだ。
『包容力のある人が……』
『可愛い子が……』
何か馬鹿らしい。知らぬは本人たちのみ。
二人はタキシードとドレスに着替えて二人で写真を撮った。四季は幸せだ。まるで花嫁だ。
──自分は一生なることは出来ないが……
「四季、お姫様抱っこして良い??」
「へ? うわぁ!! 蒼士っ!!」
「きゃあ!!」
「いいなぁ」
「中里くんばっかずるい〜」
「カメラマンさん! 良い写真沢山撮ってくださいよ?!」
四季と蒼士は二人で思う存分写真撮影した。
四季は笑顔で、しかし自然と涙がこぼれていくのを感じた。
それからの時間は全校生徒へ向けてのサービスタイムだ。
四季との撮影希望者は圧倒的大多数がいわゆる男らしい理系の男たちだ。
蒼士の列には言わずもがな可愛い男子が群がっている。その列の中にはあのきれいな男、三枝玲も混じっていた。
「あれ?君さっきミスに登壇してたよな? まじ美人だね。俺と写真撮ってくれんの? 何か光栄だなー」
「あ……あの、撮ってくれて嬉しいです。ありがとう」
玲は頬を赤く染めると足早に去って行った。
──────
校庭で大きな焚き火が行われていた。少し離れたところに二人腰を下ろし談笑した。
「四季、今日楽しかったな」
「うん。蒼士カッコよかったよ? 僕も蒼士みたいにイケメンならば良いんだけどね……僕弱っちく見えるから」
「何言ってんの……四季は可愛いままで良いの。俺みたいにデカくなったら、抱っこできなくなるじゃん」
「それ困るね。蒼士の腕は今のところ僕だけのものだからね」
──ずっと四季だけのものだよ。
学校一の王子様に一目惚れ?!
男同士なのにまさかこんなに好きになるなんて……あり得ないっ?!
──────
俺、矢田蒼士(やだそうし)は中里四季(なかさとしき)に一目惚れした……
──────
高校1年の春、桜はまだ咲き誇っていた。
入学式の日、すごくきれいな子がいると周囲が騒いでいた。
は? ここは男子校だぞ? キッモ……女がいないからって男に盛るなよ……
「おい、矢田も見てみれって! かわいいから! 絶対惚れるぞ?」
クラスの男どもがみな窓辺に集まり、どよめきながら校庭を見ていた。
「あ〜、マジ興味ない。てか恋愛自体がどうでも良い。そしてお前らキモい」
俺だってそこそこモテる。けれど、今までの告白は全て断ってきたし、好きな子なんて出来たことがない。
俺、青春無駄にしてんのかなぁ……
──────
入学式は相当怠かった。
そして、あり得ないことに俺が入退場するたびに席からは男子の小さな悲鳴が上がる。
こういうのには中学で慣れっこだ。
どうせ、『かっこいい』だのなんだのだろ?
くだらない。しかもここ男子校だぞ? 鳥肌もんだ。
──俺はもちろん気付いてはいない。
真剣に俺を見つめる潤んだ瞳、上気した頬、後々の出会いに……
──────
先ほどから何度も言うが、ここは男子校だ。授業中に目が行くのは、せいぜい若い女教師の胸くらい……にも目がいかないんだなぁ。
本当にどうでも良すぎて、我ながら悲しい。
「お前、今まで相当告られてんじゃん?
付き合ったことないの?」
こいつは高校で知り合った坂田亮司(さかたりょうじ)だ。ピアスバチバチで少しチャラい(人には言えない)けれどいい奴だ。入学してからはこいつとつるんでいる。
「やめろよ……ここ男子校だぞ……
最近告られたのなんて全部男子だぞ?
……しかも俺、恋愛に興味ないっぽい。女も男も興味なし。
あ〜、運命の相手がいるんなら、出会いたいよ」
「へぇ、見かけによらず随分ロマンチストなんだな。うける。俺、女好き。男無理。
まぁ、でもこの学校の文系、やたらと可愛い男子多いぜ? お前入学式の日見なかっただろ?
やばいくらい可愛い子いたんだぜ? あれなら俺もいけるかも……(笑)」
「はあ、お前も節操ねぇなぁ」
────────
春、桜が満開だ!!
──なんて呑気なこと言ってられない!!
僕、中里四季(なかさとしき)は入学式に遅れそう! やばい! こんな大事な日に遅刻するなんて恥ずかしいよ〜
あと5分!
校門を過ぎた辺りを急ぐ様子もなく、ゆったりと歩く男子がいた。
急いでいないところを見ると、新入生ではないのだろう。
僕はダッシュで彼の横を通りすがるところだった。
彼は怠そうにしていたが僕は何気なく彼の顔を見た。
『ドクンッ……』
心臓が跳ねた。一瞬立ち止まってしまったが、チャイムで正気に戻った。
やばい〜!!
──────
何とか教室にたどり着くと入学式の説明の最中だった。四季が教室に入るや否や教室中がざわついた。その原因は四季自身にある。四季はかなりの美少年。その辺の美女でも敵わない。初めて会う人たちのこういう反応には慣れっこだ。
前の席に座る男子から声をかけられた。
「君、めっちゃ可愛いね!! 僕も可愛い系って言われるけど、君はずば抜けてる! ねぇ、友達になろうよ! 僕歩夢(あゆむ)っていうんだ。よろしく!」
「あ、ああ。僕は四季。よろしく」
四季は気もそぞろだった。
さっき校門ですれ違った人……かっこよかったな。上級生かな?
僕は多分男の人が好きな訳じゃない。
けど……あんなかっこいい人なら……
「四季! ほら入学式行くよっ!!」
歩夢が声をかけると四季はハッとした。
「あ、うん……」
──────
体育館に用意された椅子に腰掛けた。四季は通路側だった。四季は文系で、先に入場し、理系の入場を待っていると、四季は目を見開いた。
いたっっ!!!! さっきの彼だ!! 1年生だったのだ──あ……1年……9組? えっと……9組だ!!
周りがざわついてキャーキャー騒いでいる。
「矢田蒼士くんまじかっこいい!! 中学の頃から相当モテたらしいよ!」
「えー俺ゲイじゃないけど、矢田くんなら……」
「同クラの坂田亮司くんもやばいらしいよ……」
矢田くん……っていうんだ。すごくかっこいい……
四季の座る席のちょうど斜め前に蒼士は座った。四季は蒼士を見つめ続けた。
──────
5月になり、学校も落ち着くと、蒼士はアルバイトを始めることにした。
大手有名ファストフード店でのアルバイトだ。
「矢田蒼士です。よろしくお願いします」
「じゃ、矢田くんはキッチンね。中里くんについて! 君たち確か同じ高校じゃないかな?」
「……っっ?! えっ? あっ……あのっ……中里です……よ、よろしくね? 矢田くん」
「……うっわ……かわい……え? 同じ高校? 男? うそお?」
すかさず店長が、蒼士を制した。
「はい〜矢田くん、いきなりナンパしないで。ちゃんと仕事教わるんだよ?」
「は……え?……いや……こんな可愛い子と一緒なんて仕事に集中できない……」
周りからはクスクス笑い声が聞こえた。
「ぷはっ。中里くんが可愛いからってそこまでうろたえる人初めて見たぁ」
「同じ高校なんでしょ? 知らなかったの?」
四季は慌てて答えた。
「あ、僕文系だし、矢田くん理系だから棟が違うんです! だからほぼお互い何にもわかんないっていうか……あの……僕は矢田くん知ってました。派手だし、カッコいいからすごく目立つ! あ、良い意味で派手! ごめんなさい……」
四季は少し照れくさそうに言った。
「じゃあ二人仲良くやんなよ。同じ高校のよしみで」
蒼士は物覚えが良く、器用なので、初日のうちにほぼ完璧にこなしてしまった。
「すごい矢田くん!! もう僕あんまりフォローすることなくなっちゃうじゃん!
店長! 矢田くんすごいです!」
「いや、中里の教え方が上手いって! フォロー沢山してもらってる……ありがとう」
「すごいね、矢田くん。じゃあ明日からも中里くんとよろしく〜」
内心蒼士の胸はずっとバクバク言いっぱなしだった。四季の顔が近くに寄る度、目が合いにっこり微笑まれる度に……
「矢田くん! 一緒に帰ろう? 家どっち?」
『ドキッ……』
いちいちドキドキしてしまう……うぜえな、俺の心臓……
「あ、俺丸の内線。中里は?」
「僕も一緒!! 一緒に行っても良い??」
もちろん良いに決まってるっ!!
逆に嬉しすぎるっ!! って、俺、落ち着け……
「あぁ、いいよ。一緒に行こう」
はぁ……こいつ、中里……まじ可愛いんだけど……身長いくつくらい? 160センチくらいか? 小さい……腕にすっぽり収まりそう……キスしやすそうな高さだな。柔らかそうな髪の毛……ふわふわじゃん。何? その真っ赤な唇……ちっちぇーな……キスしたら食っちゃいそう……
まずい、非常にまずい。妄想が止まらない……
「な、なぁ中里って文系なのな。俺のこと知ってたんだ?」
四季は顔を赤く染めて言った。
「あ、あのね……引かないでね?
文系ってその……ちょっと可愛いタイプの男子が多くって、カッコイイ系の男子にあんまり馴染みなくて、矢田くんとかが窓から見えたりするとみんな騒ぐんだよね。
だから矢田くん有名で……僕も知ってたっていうか……なんというか」
「へぇ……中里は俺のことどう思ってた?」
……俺はなんてことを聞いてしまったんだ。馬鹿か。
「えっ?! ……あ……の、もちろんかっこいいって……その……」
ほらぁ、中里困ってる! きもいよな。こんな質問して。俺も自分がキモすぎる。
「ごめん、冗談! 間に受けないで! これからよろしくやろうよ、先輩?」
四季の顔はパァっと明るくなった。
「うん! 矢田くんと友達になれて嬉しい! よろしく!」
──────
俺は家へ帰ってからも中里のことが頭から離れなかった。
え? これって絶対あれだよな?
……一目惚れってやつ……? 俺が? 男に……?
嘘だろ……いくら男子校だからって……いや、でもバイト先で一目惚れしてんだから男子校関係ないか。
ああ、そうだ、高校も一緒だった。ラッキー。
けど文系ってあんな可愛い系がうじゃうじゃいんのか……? そういやそんなこと周りで言ってたような……明日坂田誘って文系棟行ってみよ。
あ、中里甘いもん好きかな? この前母親が職場から大量に買ってきた可愛いキャンディがあったはず……
──────
「おい、坂田! 俺文系の奴に用があるから文系棟についてこいよ」
「へぇ? お前文系に知り合いいるんだ? 初耳だな」
「お、おう。いいから! いくぞ!」
柄にもなく俺は可愛いキャンディの箱を片手に文系棟へ向かった。
──なるほど……きゃぴってる奴多いな。
理系に比べるとかわいい奴が多かった。
なんか棟全体いい香りするし、男臭くないというか……
案の定、俺と坂田の訪れで、ざわつきはじめた。
「ねえ! あれ矢田くんと坂田くんじゃん?!」
「うそっ?! まじイケメンっ!! なんで文系棟に?」
「えっ、誰か探してるみたい」
そのうちの一人が話しかけてきた。
「あの! 誰か探してるの? クラス教えよっか?」
「あぁ、中里って言う……」
「げっ!! やっぱり矢田くんも中里くん狙い?? もう腹立つ〜なんなのあの子〜」
やっぱり? って……そりゃ多分この学校一かわいいとは思ったけど、やっぱり?
亮司が大声で叫んだ。
「はっ?! まじ? お前興味ないって言ってただろ? 何いきなり?」
「え? 何? 何の話? 俺なんかした?」
亮司は続けた。
「入学したばっかの時、みんな騒いでたのに、お前だけ興味持ってなかったじゃん?
中里のこと見もしなかったよな?
今更どうしたの?」
「あ〜……あの例の可愛い子って中里のことなんだ……納得……
いや、昨日から俺バイト始めてて、中里、バ先の先輩なんだよ。
んで昨日のお礼持ってきただけだって……」
亮司はニヤついて俺を見た。
「言い訳はいいって。惚れたんだろ?
あの子マジで可愛いよな?」
「なっ! ちがっ……俺は……とにかく!
今日はお礼持ってきたの! ……あと、バイト一緒に行こうって誘いに……
あ〜!! 確かにこんなの俺じゃないっ!! らしくないっ!!」
「はいはい、中里くんのとこに行こうね〜」
──────
四季は教室にいて、数人のクラスメイトとだべっていた。
蒼士に気付くと顔がパァっと明るくなり、小走りで近寄ってきた。
「矢田くん?! どうしたの? こんなところで……? すごく目立ってる」
四季はくすくす笑った。
かっわいい……
「あ、昨日のバイトのお礼持ってきた……甘いの好きそうだったから……キャンディ、食べる?」
「うわぁ! わざわざよかったのに……ありがとう!! 嬉しい!!」
……この笑顔を見て惚れない奴なんているのか? 俺はもうダメだ。抱きつきたい……
「あ、中里ってさ、身長何センチ? 抱きしめやすそう……って、わぁまた変なこと言ってごめん!」
「むっ?! これでも168センチはあるんだからね? 意外と高いのっ!!
……多分?……えへへ」
俺はつい引き寄せて確かめてしまった。
「あ、ほら俺の腕の中にすっぽり……わぁ! またごめんなさい!!……俺ダメだわ……中里の前では変になる……」
四季は顔を真っ赤にして蒼士をポカスカ殴ってきた。
「バカバカっ!! 恥ずかしいっ!!
矢田くん僕のこと子どもかペットか何かだと思ってる!!」
あ、それ。そういうことにしとこう。そしたら今後も触りやすい。……じゃなくってっ!!
「ごめん、中里小動物みたいで……可愛いからつい……いっぱい触っちゃって……的な?」
──変態くさい。言い訳がまた変態くさいぞ。俺。
「ぷん。……仕方ないなあ。矢田くんだから許すけどっ!」
何この可愛い生き物?! 神様ありがとうっ!!
──────
「──」
文系棟を無言で後にした二人だったが、亮司から先に口火を切った。
「……お前、なんだよあれ? デレデレして……惚れてんじゃん!! 中里に!! バレバレだぞ? ダダ漏れすぎ。もうちょっと自重しろよ? 大体お前そんなキャラか?」
蒼士はため息をついてからその場にしゃがみ込んだ。
「はぁ〜だよなぁ〜俺キモいよなぁ〜もう中里の前では心の中の声がポロッと……やばい。好きって言うのめっちゃ我慢してる……」
「……やっぱ好きなんか。何でだよ? お前あんなんが好きなの?」
「一目見て、生まれて初めて誰かのこと可愛いと思った。もう俺無理〜中里〜」
「矢田……マジで壊れてる。な? バイト一緒に行くんだろ? しっかりしろ? これからいつも会えるんだろ?
あんまり心の声を垂れ流すなよ(笑)ビビられるぞ」
──────
それから蒼士は四季と順調に友情という名の愛情を深めて行った。
同じ高校で、同じバイト……夢のようだ。
しかし蒼士は気持ちが漏れないようにすることで大変だ。
最近では、ありがたいことにハグすることまで許されるようになったのだ。
「わぁん!! 矢田くん〜僕ミスしちゃって店長に怒られた〜」
「お〜よしよし。こっちこい? 中里抱っこしてやるぞ?!」
そう言うと四季は蒼士の胸の中に飛び込んでくるのだ。蒼士は幸せすぎて死にそうだ。
もちろん初めは冗談のつもりで言ってみただけだった。
にもかかわらず、本気にした四季が胸に飛び込んできた。
蒼士が驚きを隠せずにいると四季はバツが悪そうに慌てた。
「ご、ごめん!! 冗談だったよね? 本気にしちゃって……」
恥ずかしそうに涙を堪えていた。
「ぷっ。中里かわいっ! ほらおいで! 可愛いなぁ。いつでも抱っこしてやるから」
四季は嬉しそうに蒼士の胸に飛び込んで照れた顔を隠した。
「うっわ……こいつらこんな公共の場で何やってんの? 抱き合ってますよ? 店長……」
「青春ですね〜じゃあ、矢田くん、中里くん、明日は早番でよろしく!」
蒼士と四季が抱き合っていても、案外周りからの反応は薄く、前から仲の良すぎるこの二人なら驚かないという感じで、その後もこんな行為を続けていた。
蒼士はどんどん四季を好きになる。
隣で息をするのが苦しい……しかし、もうこの『四季の隣という特別な地位』を手放せない。
──────
今日は一日中雨が強い。
傘を閉じ、駅のホームで電車を待ちながら何となく四季が切り出した。
「ねえ、矢田くん……僕矢田くんのこと名前で呼びたいんだけど駄目かなぁ? 蒼士……って。あ、自分で言って恥ずかしいかも……えへへ」
何これ? 何のご褒美? 良いに決まってる!!
「じ、じゃあさ……俺も四季って呼んで良いの?」
「うん!! もちろん!! じゃあいい? 蒼士!!」
「もちろん、四季!」
続け様に蒼士は言った。
「四季ってさぁ、綺麗な名前だよな。
四季にぴったり。
怒ってたりとか、寂しそうだったりとか、笑ってる時でも、何をしても喜んでくれるところとか。まるで季節みたいに感情豊かだよな。
どんな四季でも、俺は好きだな」
四季は顔を真っ赤にして蒼士に抱きついた。
──────
「なぁ、坂田聞いてくれよ……昨日さぁ、四季が……あ、中里がさ、名前で呼びたいって言ってきたんだよな。俺も四季って呼べて……やばい……俺ニヤついてるよなぁ……顔が締まらん」
「はいはい。最近ずっーとそうだけどな。
良かったじゃん。順調に仲良くなれて……まぁ、男子同士ってのが気掛かりだけど……中里ちゃんそういうのは気にするタイプに見えないから良かったな。
むしろお前だろ? 男だとか気にしそうなの。
わかってる? あいつ俺たちと同じ『 お・と・こ 』だぞ?」
蒼士は窓の外で降り続く雨を眺めながら答えた。
「それなんだよな……もちろん四季のこと大好きだし、ハグも沢山する。……キスももちろんしたい。その先は……まだ勇気が出ない。想像が出来ない」
「ま、急がなくていんでない? まだ名前呼べて喜んでる段階だしぃ?」
亮司の言う通りだ。今悩んだとてどうにもならない。
まずはもっと仲良くなりたい。
──────
──秋。高校は体育祭、そして文化祭シーズンだ。
四季たちは、放課後に蒼士のクラスで話すのが日課になっていた。
「ねぇ、蒼士は何に出るの? 僕はねぇ、騎馬戦とリレーだよ〜」
「は? 騎馬戦? 四季が? 危なくね?」
「ふふん。上に乗るんだ。リレーはアンカーだよ! 意外とスポーツ出来るのだ!! すごい?」
「マジかよ……もっとか弱い系かと思ってた……何か騙された気分」
亮司も会話に参加してきた。
「へぇ〜中里ちゃんて運動神経良いんだ? リレー蒼士と被るじゃん」
「本当? じゃあ勝負だね! 蒼士!」
「四季可愛い〜四季の為なら負けてあげたい……」
「その一週間後には文化祭じゃん? 四季のクラス何やるのか教えてくんないけど、何やんのよ?」
「──内緒だし、来ちゃ駄目だからね……」
「な? この調子なんだよ」
「……ふーん……まぁ……当日わかんじゃね?」
亮司だけは四季がなぜ内緒にしているか、その理由を知っていた。
──────
体育祭本番、本日は晴天なり。
この高校、私立紫苑学院(しりつしおんがくいん)の体育祭は派手で有名だ。
体育祭は紅蘭祭(くらんさい)、と銘打って開催されるのだが、後夜祭で開催される
『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』
これが体育祭一番の目玉である。
男子校だからといって侮ることなかれ。
全校生徒が一番興味を惹かれる演目である。
まず各学年ミス、ミスターを各三名ずつ選出する。計六名が選出され、各学年にそれぞれに一名ずつミス・ミスターが誕生することになる。
四季はドギマギしていた。ぜっったいに蒼士がミスターだよっ!! あんなにカッコいいんだもん……ミスターになったらタキシード着て、希望者と写真撮るんだよ?! 僕も撮りたい……
蒼士はドギマギしていた。ぜっったいに四季がミスだぞっ?! あんなに可愛いんだもんな……ミスになったらドレス着て、希望者と写真撮るんだぞ?! 俺も撮りてーー……
二人は全く同じことを考えていた。
後夜祭は体育祭・昼の部が終わってからのお楽しみだ。
──────
「頑張れーーーーっ!! 四季後ろっ危ない!! 取れ取れっ!!」
「おーおー、蒼士お前堂々と敵の中里ちゃん応援するじゃん。にしても中里ちゃんまじ強えーな。あんな可愛い顔してさっきから何人落としてる? これうちのクラス負けだな」
「まじ、四季ってあんなに運動出来んだな?! あんなに可愛いのに……あんなにふにゃふにゃしてるのに……」
「人は見かけによらないって本当だな。おう、昼飯だぞ? 中里ちゃんのとこ行ってから食うんだろ? 行くぞ」
──────
四季のクラスのテントに迎えに行くと四季は飛びついてきた。
「あ、蒼士〜!! 観ててくれた?! 僕勝ったよっ!! 凄い?」
「もちろん観てたよ!! お前すげぇなあ。ほら、こっち来い!」
四季は蒼士の腕に飛び込んだ。
「この後の全校ダンスの後、リレーだね。全校ダンスは文系が内側、理系が外側だから、蒼士とも坂田くんとも踊れないしつまんない。どうでも良いや」
「そうか? おれ、四季が踊ってんの見たいから凝視するな(笑)」
「あは、じゃあ頑張ってマジで踊る(笑)
それよりも、リレーだよ! 問題はっ!! ぜっったいに僕が勝つからね? 蒼士何番目に走るの?」
「は? アンカーに決まってんだろ? かっこいいっしょ?」
「ふふ。僕もアンカーなんだよね。僕は速いよ?」
「は? 本当にアンカーすんの? こんなに小さいのにアンカー大丈夫かよ?」
「僕は小さくないっ!! 168センチ……ゆるく測ったらね……えへへ」
──────
バトンが蒼士のクラスを先頭に順調に回っている。四季のクラスは……さすが文系のかわい子ちゃんたちが多い。理系には敵わず、10クラス中最後からニ番目だ。
バトンが蒼士に回ってきた。
アンカーは400メートルを走る。
蒼士は順調に走り出した。そして遅れて四季がバトンを受け取った。
ああ、本当は負けてあげたい……
けど、これは勝負だ。正々堂々と……
は? 四季今三番目にいるんですけど……
は? は? 今すぐ後ろにいるんですけど……え? 横にいる……
四季は俺を見るとニヤッとして華麗に抜き去って行った。
俺は自慢じゃないが、本気を出さなくてもここ数年負けたことはない。
は? は? はあ? マジ?
これは本気を出さなければ四季に負ける。
全速力で四季を追いかけた。だが、差は一向に縮まらない。むしろ開いていった。
『ぱぁん!!』
四季が見事にテープを切った。
俺は差を縮めることはなく二位で……嘘だろ……?
コイツ……詐欺だ
俺はゴールと同時に地面に倒れ込んだ。
「嘘だろ……? まじかよ……ありえねぇ……」
四季が地面に転がっている俺に手を伸ばして言った。
「ほら、僕速いでしょ? 誰にも負けないんだから」
ムッとした俺は四季の手を引き自分の上に転ばせた。
「うわぁ! 蒼士! 何すんの?!」
「ん〜? この詐欺師め。みんなの前で抱きしめて恥ずかしい目に合わせてやる!!」
「きゃっきゃっ!! 蒼士〜!! やめてぇ〜!!」
「何あれ? クラスみんな応援してたんですけど……敵同士でイチャイチャしないでくれます……? 何か腹立つ」
四季のクラスと蒼士のクラスはみんな呆れた。
──────
後夜祭は毎年恒例、大人気の
『男子校!! ミス&ミスターコンテスト』
が開催される。
まずは全校投票でノミネートされた者たちが壇上に上がる。各学年のミス、ミスター候補三名ずつだ。
1年生のミスには文系の四季、四季の友達の歩夢、理系の三枝玲(さえぐされい)の三名が選出された。
しかし、理系のミス候補、暴れて舞台に登りたがらない。
「放してっ!! 何で僕がこんなことっ!! くだらない! 放せ!!」
どえらい美人だが、無理矢理引きずりあげられて相当怒っている……
「あーあー、あんなに無理矢理……あの美人かわいそ……でも中里ちゃんよりクールビューティーって感じだな。俺あいつに票入れよっかな〜」
「ばっ!! おいっ!! ちゃんと四季に入れろよ? ドレス姿の四季と写真撮りてえんだから」
「はいはい……」
亮司は思った。あの美人、ずっとこっちの方見てんな? ──蒼士か?
ミスター候補には蒼士、亮司、もう一人は理系の男子が選ばれた。
舞台では順番に一つ質問がなされる。
「はい、中里四季さん、好きなタイプは?」
「えっとお、かわいくって……かっこいい人……包容力のある人が好きです」
「おお?! これは爆弾発言……それは男性が好きということでよろしいでしょうかっ?!」
「あっ!! わぁ!! そんなつもりじゃ……はい。そうかも……えへへ」
開場は色めき立った。
「いーぞーっ!! 中里ちゃーん!!」
亮司は野次を飛ばした。
蒼士は頭を抱えた。
え? 四季男の好きな奴がいんの?
聞いてねぇ……タ、タイプの話だよな?
好きな奴いたらいくら何でも俺には言うよな?
ははっ……こえー
「はい、次。三枝玲さん。わぁ、あなた相当お綺麗ですね? 沢山告白されるんじゃないですか? 好みのタイプは?」
「──真っ直ぐな人。ぶれない人。……かっこいい人」
三枝玲の瞳はある一人だけを見据えながら話していた。
「おっとお! 三枝さんも男性に恋されてるんですね? 今年はカムアウトする人も多いですね! みなさん、三枝さんも、中里さんもまだまだ狙えるチャンスはありますよ!
さて、ミスの最後は西山歩夢さん!
あなたもめちゃくちゃ可愛いですね?
今年は何ともハイレベル!! 激戦が予想されます!
西山歩夢さんの好きなタイプは?」
「僕はかわいい子が好きです! 因みに僕にはこの学校にずっと好きな子がいるから、告白しても無駄ですから。あの子以外は絶対無理」
「おぉ、これはかっこいい人……ではなく? 可愛い人? 驚きです!! 理系のみなさん、残念……!!」
「さてさて、次はミスターのみなさんにお聞きしましょう。では矢田蒼士さん、好きなタイプは? 教えてください」
「男女は問いません。可愛い子です。その子に俺のことを大好きになって欲しいです」
「おっと……矢田さんは……バイですか?」
「あ、いや……この子は男……ってちがっ!! あぁ! もう! 男ですよっ!! 俺、最近いつも締まらねえな」
「今年はすごい……今のところ、全員が恋愛対象男です!!」
「はいはーい! 俺は違いまーす!」
亮司は冗談めかしながら言った。
「お? 坂田亮司さん、女性が対象ですか?」
「もちろんよ。いくらきれいでも男は無理だ。女が良いね」
「きゃーーーーっ!! 坂田くん! それでもカッコいいーー!! 結婚してぇ!!」
「坂田さん聞こえますか? 貴方男性からも相当モテていらっしゃいますよ? どうです?」
亮司は手を舞台下に向かってヒラヒラさせた。
「ごめんねーかわい子ちゃんたち。良い友達でいようねー」
「ただいま投票結果の集計中です。
──おっと、出たようですね!!
それでは発表いたします」
四季はドキドキした。
蒼士と一緒に選ばれたい!! 一緒に写真を撮って一生の記念にしたい!
ドレスなんてもう着ることもないのだ。
蒼士の横に並びたいっ!!
「今年のミスターは、『矢田蒼士』!!」
「きゃあーーーー!!」
「そうしくーーーーん!!」
「すきぃ!! 結婚してえ!!」
四季は握った手に力がこもった。
「そして、今年のミスは、『中里四季』!!
お二人ともおめでとう前に出て!!」
四季は目の前が真っ白になったがすぐに涙がブワッとあふれ出てきた。
そして蒼士の元へと駆け寄ると飛びついて大声で泣いた。
「どうしたの四季?! 何で泣いてるの?!」
蒼士は驚いて、四季を抱きしめながら尋ねた。
「ううん……蒼士と一緒に選ばれて嬉しくって……感動してんの!! もっと抱きしめて……」
「四季……可愛いやつ」
会場中にはわかってしまった。
うん。コイツら、両思いだ。
『包容力のある人が……』
『可愛い子が……』
何か馬鹿らしい。知らぬは本人たちのみ。
二人はタキシードとドレスに着替えて二人で写真を撮った。四季は幸せだ。まるで花嫁だ。
──自分は一生なることは出来ないが……
「四季、お姫様抱っこして良い??」
「へ? うわぁ!! 蒼士っ!!」
「きゃあ!!」
「いいなぁ」
「中里くんばっかずるい〜」
「カメラマンさん! 良い写真沢山撮ってくださいよ?!」
四季と蒼士は二人で思う存分写真撮影した。
四季は笑顔で、しかし自然と涙がこぼれていくのを感じた。
それからの時間は全校生徒へ向けてのサービスタイムだ。
四季との撮影希望者は圧倒的大多数がいわゆる男らしい理系の男たちだ。
蒼士の列には言わずもがな可愛い男子が群がっている。その列の中にはあのきれいな男、三枝玲も混じっていた。
「あれ?君さっきミスに登壇してたよな? まじ美人だね。俺と写真撮ってくれんの? 何か光栄だなー」
「あ……あの、撮ってくれて嬉しいです。ありがとう」
玲は頬を赤く染めると足早に去って行った。
──────
校庭で大きな焚き火が行われていた。少し離れたところに二人腰を下ろし談笑した。
「四季、今日楽しかったな」
「うん。蒼士カッコよかったよ? 僕も蒼士みたいにイケメンならば良いんだけどね……僕弱っちく見えるから」
「何言ってんの……四季は可愛いままで良いの。俺みたいにデカくなったら、抱っこできなくなるじゃん」
「それ困るね。蒼士の腕は今のところ僕だけのものだからね」
──ずっと四季だけのものだよ。
