「お昼食べようよ。何してるの?」
湊に声をかけられて顔を上げたら、すげえ近くに甚鉄の顔があった。
やめろ、近い。驚いて机に膝打っただろうが。地味に痛い。
「それ! オレのためにノート作ってくれてんのか!」
「そんなわけないだろ」
「えっ……? オレのための一夜漬けノートじゃないならなんなんだ……?」
お前のためのそんなノートなんて、これまで作ったことないだろ。なんだその自信は。本気で訳がわからないみたいな顔をするんじゃねえ。
「予習復習ちゃんとやるタイプだけど、昼休みにまでノートまとめたりするほど勉強熱心だったっけ?」
「前の、不登校のやつの」
「あぁ、やっぱり世話焼きしてるんだ」
「やっぱりってなんだ」
「えぇ?」
なんで湊まで『え、おかしなこと言った……?』みたいな訳わからんって顔をするんだ。
「世話焼きは別にしてない」
「前もしてないって言ってたけどね」
「……」
ニコニコとこちらを見てくる湊に胡乱げな目を向けて返す。
……こういう余計なことしたらせっかく懐いてきた猫は逃げていくんだろうか。猫じゃねえけどあいつ……。
でもちょっと、ちょっとだけ、あいつが学校来たらどんな感じだろうっていう興味は、あるんだよな……。懐いた猫に餌をあげたくなるみたいな感じか……?
学校の制服姿も見たことないし。ルポマのダサいのは何度も見てるのに。
「思い出した! 煮干し先生のやつか! 続いてたのか!」
「反応が遅い」
眉間揉んで唸り出して、何かと思ったら必死に記憶を探ってたのか。お前そんなことできたのか。
「珍しいな!」
「何が??」
わかるように言えよ。記憶を探った結果、他の何かも思い出したのか?
「富貴が楽しそうでなんかいいね」
「おう!」
楽しそうに見えてるのか? 二人だけでなんか通じ合ってる。
無理してやってるわけじゃないから楽しくないわけじゃない、か?
ノートを使うにしろ使わないにしろ、こうやって作ったときの勉強は無駄にならないし。使えたら一石二鳥だ。
「よし! それは取らないからいつも通りテスト範囲まとめたやつくれ!」
「結局欲しがるんじゃねえか」
記憶を探るなんて芸当をしたから今回はもしや、なんてことはなかったか。
「それはそれ、これはこれだ!」
「毎回思うんだけどそれくらい自分でやれよ。今年クラスも違うしよ」
「とか言ってオレのために全教科まとめてくれてるのが富貴だろ!」
まとめてるけどさ。自分のために。どうせやってあるんだから『くれ』と言われたら渡すのは全然いいんだけどな。ちょっとした不平も言いたくなる。
「ワンと鳴け」
「ワンッ!」
「プライドねえなぁ」
全力で犬の鳴き真似をする甚鉄に微苦笑する。結構似てた。通学路にこんな感じで溌剌に吠える犬がいるんだよな。
なかなかの出来栄えだったから、ちゃんと進呈しよう。グループラインでいいな。
「あ! 待て、鳴いてない湊にまで送られてるぞ!」
湊にも一応送っておくためにグループラインにしたんだから、そうだろうな。送られてなきゃ困る。
「僕は富貴の苦手な化学と物理教えてるからね、いいんだよ」
「そういうことだ」
暗記科目は比較的得意だ。でも化学と物理はダメだ。計算が意味わからん。公式も覚え難いというか、脳が拒否している感じがある。
「むしろ甚は僕にも鳴くべきじゃない? 化学のノート欲しいでしょ」
「ワンワンッ!」
「プライド〜」
甚鉄たちとケラケラ笑って過ごす学校の昼休みは楽しい。
神白がいても、楽しいんじゃないかと思う、けど。
◆
今のこの時間だとアパートの部屋の前で神白とすれ違うな。
俺は学校が終わって16時半とかそのくらいに家に着くし、その頃あいつはバイトに行くために家から出てくる。本当に時間把握し始めてる。たまたま合致しただけではあるが、あえてズラすこともしない。
階段を登りきって廊下に出ると神白が部屋から出てくるのか遠目に見えた。
「おはよ」
自分の家の前に着き、声をかける。これくらいならしてもいいはず。
「えっと、おはよう」
一瞬返事するのに戸惑われたか? まだ全然明るいしこんにちはの時間だったか。でもこんにちはって声かけるのなんか違和感あるんだよな。全然知らないその辺の人に挨拶するなら、時間に合ったやつ選んで言うのに。
「今日もバイト?」
「うん」
「俺も買い出し行くからルポマでまた会うかもな」
「そうだね」
会話が終わってしまった。そのままを鍵を閉めてバイトに行くのか、と思いきや。こっちを見ているな。
それぞれの部屋のドア前に立って話している関係で神白まで少し距離がある。視界に全身をぼんやりと収めつつ俺も見返す。
姿勢がいいな。余計に背が高く見える。
「……? どうした?」
顔が良いやつにじっと見つめ続けられるとソワソワして落ち着かないな……。
これ視線逸らしたら負けか……?
「……及木は料理が好きなの?」
「料理?」
え、なんだ。猫の気まぐれ? 向こうから話題振ってくれるなんて。
猫が足元に擦り寄ってくるショート動画を昨日たまたま見かけたぞ。さすがにその動画ほどに擦り寄ってきているとは思わんが。振り返ってくれてるくらいに考えてもバチは当たらないのでは?
「好きかはわからないけど、面白いとは思う、かなぁ……?」
好きなことってパッとは思いつかないな。料理も必要があって始めたことだ。そのせいか微妙な疑問系みたいな返答になったな。
あ、でも。
「あの、アレだ。料理すること自体より、俺が作った飯を飛燕ちゃんが食べてるところ見るのは好きだな。もう少し味も見た目も良くしようって思えるし」
もりもり食べることで元気に成長してくれると思うとやりがいはある。
「妹さんだっけ」
「うん、妹」
妹のことなんて教えたか? なんか適当に言ったのか俺が。思考半分くらい占めてると言っても過言じゃないからな。
「炭にするほど下手じゃないから。俺は上手くなる余地があると思って頑張ってんの」
「炭……?」
料理を炭と化す才能を持った人間って本当にいるんだよ。妹がそうだ。
2年くらい前にバレンタインでお菓子作る!って言ってチョコの混ざったマフィンかパウンドケーキか何かを作った。結果できあがったのは炭だった。
小指の先くらいだけ味見したら、やっぱりちゃんと炭だったな。炭というか焦げの味っていうんだろうか。炭は食ったことないし。苦かったことは覚えている。
「飛燕ちゃんが料理すると炭にするんだよ。母さんが今入院してて俺が作る必要があってな。俺シスコンだけどさすがに炭は食いたくない」
もちろん妹は母さんにキッチン出禁を言い渡されてる。
作ってくれるなら食べたいとは思う。でも毎回飯に炭を出されるのは……ちょっと面白いな。
「っごめん、デリケートな話題だったかな」
「え? 全然?」
全然ではないか。俺も余計なことまで喋ったわ。
「悪い、気にしなくていい。母さん元気、ではないけど問題ないから」
「そっか、よかった。ごめんね」
またフラフラ揺れた目になってる。
こんな機会でもなければ料理とか一生ノータッチだったかもだし。神白に野菜の豆知識も聞けたし。全然いいんだけど。
青果担当でラッキーだったな。なんかの縁かも。
そう、青果、というか野菜だ。若干話逸らせる。
「なぁ……にんじんって皮剥かなくていいのか?」
「え、うん。スーパーに売ってるのなら必要ないよ」
「マジか」
突然すぎたか。豆鉄砲食らったみたいな顔だ。さっきのよりはマシだしいいまぁいいだろ。
昨日『にんじんの皮を剥くやつはバカ』っていうつぶやきをSNSで目にした。ピーラーで毎回皮を剥いていた俺は打ちひしがれて現実逃避することにしたんだが……。
無駄な行為で、野菜を無駄にしてたのか。
「やっぱ知識あると違うんだな。神白は料理するのか?」
「うん。それなりにするよ」
「へぇ」
知識ありそうだし。俺の何倍もスマートに料理するんだろうな。手際よく料理する姿が想像できるな。
「……及木は偉いね」
「え」
「ん、ちょっと言い方上からだったかな」
「いや……」
フラフラと彷徨わせていた瞳が、俺で視線をとめる。
「あー……悪い気はしない」
「そっか、よかった」
子供扱いかよって言いたいのに、心が浮つく。こういうときだけ視線が強いのはやめてほしい。
ストレートに褒められて……褒められたんでいいんだよな……?
「じゃあ、バイト行くね」
「い、いってらっしゃい」
「ふ、いってきます」
え……。今、ちょっと笑ったか……?
ドアノブを引っ張って鍵が閉まっているか確認したその流れで、ヒラリと手を振られた。そのとき、ちょっと顔が綻んでいたような、気がする。
良い方向に取ろうとバイアスでもかかってんのか。顰められるよりは笑ってくれた方がいいからな。
視力検査受けに行った方がいい……? 頭か? いや動悸がするから、動悸って何科だ……?
ひとまず自分の目を疑いつつ、フワフワした感じのまま今日も家に帰る。
「飛燕ちゃんおかえり……!」
「ねぇ、お兄ちゃん!」
「……え、なんだ?」
いつもなんだかんだ楽しそうに返事してくれるのに。今日の表情は、なんだ……?
怪訝そうな顔と鬼気迫る顔を両立した複雑な表情をしている。器用だな……。そんな表情の妹に見つめられても全然嬉しくない。新しい一面が見えたって喜べばいいのか?
「最近ドアの前で独り言言ってるの? なんかお兄ちゃんのくぐもった声が聞こえたような……。ヤバいよ、疲れてるの? 今日はお見舞い行くのやめておく……?」
ドン引きの顔だったのか。そんなに畳み掛けなくても……。傷つくぞ。
「独り言なんて言ってねえから……」
「そう? ならいいんだけどね」
長話し過ぎたか? 妹にも神白にも迷惑かけるし気をつけるか。
この前に加え今回も余計な心配かけたなんて。最近なんかダメだな。
湊に声をかけられて顔を上げたら、すげえ近くに甚鉄の顔があった。
やめろ、近い。驚いて机に膝打っただろうが。地味に痛い。
「それ! オレのためにノート作ってくれてんのか!」
「そんなわけないだろ」
「えっ……? オレのための一夜漬けノートじゃないならなんなんだ……?」
お前のためのそんなノートなんて、これまで作ったことないだろ。なんだその自信は。本気で訳がわからないみたいな顔をするんじゃねえ。
「予習復習ちゃんとやるタイプだけど、昼休みにまでノートまとめたりするほど勉強熱心だったっけ?」
「前の、不登校のやつの」
「あぁ、やっぱり世話焼きしてるんだ」
「やっぱりってなんだ」
「えぇ?」
なんで湊まで『え、おかしなこと言った……?』みたいな訳わからんって顔をするんだ。
「世話焼きは別にしてない」
「前もしてないって言ってたけどね」
「……」
ニコニコとこちらを見てくる湊に胡乱げな目を向けて返す。
……こういう余計なことしたらせっかく懐いてきた猫は逃げていくんだろうか。猫じゃねえけどあいつ……。
でもちょっと、ちょっとだけ、あいつが学校来たらどんな感じだろうっていう興味は、あるんだよな……。懐いた猫に餌をあげたくなるみたいな感じか……?
学校の制服姿も見たことないし。ルポマのダサいのは何度も見てるのに。
「思い出した! 煮干し先生のやつか! 続いてたのか!」
「反応が遅い」
眉間揉んで唸り出して、何かと思ったら必死に記憶を探ってたのか。お前そんなことできたのか。
「珍しいな!」
「何が??」
わかるように言えよ。記憶を探った結果、他の何かも思い出したのか?
「富貴が楽しそうでなんかいいね」
「おう!」
楽しそうに見えてるのか? 二人だけでなんか通じ合ってる。
無理してやってるわけじゃないから楽しくないわけじゃない、か?
ノートを使うにしろ使わないにしろ、こうやって作ったときの勉強は無駄にならないし。使えたら一石二鳥だ。
「よし! それは取らないからいつも通りテスト範囲まとめたやつくれ!」
「結局欲しがるんじゃねえか」
記憶を探るなんて芸当をしたから今回はもしや、なんてことはなかったか。
「それはそれ、これはこれだ!」
「毎回思うんだけどそれくらい自分でやれよ。今年クラスも違うしよ」
「とか言ってオレのために全教科まとめてくれてるのが富貴だろ!」
まとめてるけどさ。自分のために。どうせやってあるんだから『くれ』と言われたら渡すのは全然いいんだけどな。ちょっとした不平も言いたくなる。
「ワンと鳴け」
「ワンッ!」
「プライドねえなぁ」
全力で犬の鳴き真似をする甚鉄に微苦笑する。結構似てた。通学路にこんな感じで溌剌に吠える犬がいるんだよな。
なかなかの出来栄えだったから、ちゃんと進呈しよう。グループラインでいいな。
「あ! 待て、鳴いてない湊にまで送られてるぞ!」
湊にも一応送っておくためにグループラインにしたんだから、そうだろうな。送られてなきゃ困る。
「僕は富貴の苦手な化学と物理教えてるからね、いいんだよ」
「そういうことだ」
暗記科目は比較的得意だ。でも化学と物理はダメだ。計算が意味わからん。公式も覚え難いというか、脳が拒否している感じがある。
「むしろ甚は僕にも鳴くべきじゃない? 化学のノート欲しいでしょ」
「ワンワンッ!」
「プライド〜」
甚鉄たちとケラケラ笑って過ごす学校の昼休みは楽しい。
神白がいても、楽しいんじゃないかと思う、けど。
◆
今のこの時間だとアパートの部屋の前で神白とすれ違うな。
俺は学校が終わって16時半とかそのくらいに家に着くし、その頃あいつはバイトに行くために家から出てくる。本当に時間把握し始めてる。たまたま合致しただけではあるが、あえてズラすこともしない。
階段を登りきって廊下に出ると神白が部屋から出てくるのか遠目に見えた。
「おはよ」
自分の家の前に着き、声をかける。これくらいならしてもいいはず。
「えっと、おはよう」
一瞬返事するのに戸惑われたか? まだ全然明るいしこんにちはの時間だったか。でもこんにちはって声かけるのなんか違和感あるんだよな。全然知らないその辺の人に挨拶するなら、時間に合ったやつ選んで言うのに。
「今日もバイト?」
「うん」
「俺も買い出し行くからルポマでまた会うかもな」
「そうだね」
会話が終わってしまった。そのままを鍵を閉めてバイトに行くのか、と思いきや。こっちを見ているな。
それぞれの部屋のドア前に立って話している関係で神白まで少し距離がある。視界に全身をぼんやりと収めつつ俺も見返す。
姿勢がいいな。余計に背が高く見える。
「……? どうした?」
顔が良いやつにじっと見つめ続けられるとソワソワして落ち着かないな……。
これ視線逸らしたら負けか……?
「……及木は料理が好きなの?」
「料理?」
え、なんだ。猫の気まぐれ? 向こうから話題振ってくれるなんて。
猫が足元に擦り寄ってくるショート動画を昨日たまたま見かけたぞ。さすがにその動画ほどに擦り寄ってきているとは思わんが。振り返ってくれてるくらいに考えてもバチは当たらないのでは?
「好きかはわからないけど、面白いとは思う、かなぁ……?」
好きなことってパッとは思いつかないな。料理も必要があって始めたことだ。そのせいか微妙な疑問系みたいな返答になったな。
あ、でも。
「あの、アレだ。料理すること自体より、俺が作った飯を飛燕ちゃんが食べてるところ見るのは好きだな。もう少し味も見た目も良くしようって思えるし」
もりもり食べることで元気に成長してくれると思うとやりがいはある。
「妹さんだっけ」
「うん、妹」
妹のことなんて教えたか? なんか適当に言ったのか俺が。思考半分くらい占めてると言っても過言じゃないからな。
「炭にするほど下手じゃないから。俺は上手くなる余地があると思って頑張ってんの」
「炭……?」
料理を炭と化す才能を持った人間って本当にいるんだよ。妹がそうだ。
2年くらい前にバレンタインでお菓子作る!って言ってチョコの混ざったマフィンかパウンドケーキか何かを作った。結果できあがったのは炭だった。
小指の先くらいだけ味見したら、やっぱりちゃんと炭だったな。炭というか焦げの味っていうんだろうか。炭は食ったことないし。苦かったことは覚えている。
「飛燕ちゃんが料理すると炭にするんだよ。母さんが今入院してて俺が作る必要があってな。俺シスコンだけどさすがに炭は食いたくない」
もちろん妹は母さんにキッチン出禁を言い渡されてる。
作ってくれるなら食べたいとは思う。でも毎回飯に炭を出されるのは……ちょっと面白いな。
「っごめん、デリケートな話題だったかな」
「え? 全然?」
全然ではないか。俺も余計なことまで喋ったわ。
「悪い、気にしなくていい。母さん元気、ではないけど問題ないから」
「そっか、よかった。ごめんね」
またフラフラ揺れた目になってる。
こんな機会でもなければ料理とか一生ノータッチだったかもだし。神白に野菜の豆知識も聞けたし。全然いいんだけど。
青果担当でラッキーだったな。なんかの縁かも。
そう、青果、というか野菜だ。若干話逸らせる。
「なぁ……にんじんって皮剥かなくていいのか?」
「え、うん。スーパーに売ってるのなら必要ないよ」
「マジか」
突然すぎたか。豆鉄砲食らったみたいな顔だ。さっきのよりはマシだしいいまぁいいだろ。
昨日『にんじんの皮を剥くやつはバカ』っていうつぶやきをSNSで目にした。ピーラーで毎回皮を剥いていた俺は打ちひしがれて現実逃避することにしたんだが……。
無駄な行為で、野菜を無駄にしてたのか。
「やっぱ知識あると違うんだな。神白は料理するのか?」
「うん。それなりにするよ」
「へぇ」
知識ありそうだし。俺の何倍もスマートに料理するんだろうな。手際よく料理する姿が想像できるな。
「……及木は偉いね」
「え」
「ん、ちょっと言い方上からだったかな」
「いや……」
フラフラと彷徨わせていた瞳が、俺で視線をとめる。
「あー……悪い気はしない」
「そっか、よかった」
子供扱いかよって言いたいのに、心が浮つく。こういうときだけ視線が強いのはやめてほしい。
ストレートに褒められて……褒められたんでいいんだよな……?
「じゃあ、バイト行くね」
「い、いってらっしゃい」
「ふ、いってきます」
え……。今、ちょっと笑ったか……?
ドアノブを引っ張って鍵が閉まっているか確認したその流れで、ヒラリと手を振られた。そのとき、ちょっと顔が綻んでいたような、気がする。
良い方向に取ろうとバイアスでもかかってんのか。顰められるよりは笑ってくれた方がいいからな。
視力検査受けに行った方がいい……? 頭か? いや動悸がするから、動悸って何科だ……?
ひとまず自分の目を疑いつつ、フワフワした感じのまま今日も家に帰る。
「飛燕ちゃんおかえり……!」
「ねぇ、お兄ちゃん!」
「……え、なんだ?」
いつもなんだかんだ楽しそうに返事してくれるのに。今日の表情は、なんだ……?
怪訝そうな顔と鬼気迫る顔を両立した複雑な表情をしている。器用だな……。そんな表情の妹に見つめられても全然嬉しくない。新しい一面が見えたって喜べばいいのか?
「最近ドアの前で独り言言ってるの? なんかお兄ちゃんのくぐもった声が聞こえたような……。ヤバいよ、疲れてるの? 今日はお見舞い行くのやめておく……?」
ドン引きの顔だったのか。そんなに畳み掛けなくても……。傷つくぞ。
「独り言なんて言ってねえから……」
「そう? ならいいんだけどね」
長話し過ぎたか? 妹にも神白にも迷惑かけるし気をつけるか。
この前に加え今回も余計な心配かけたなんて。最近なんかダメだな。
