不安げな君の顔に恋をした

 心臓ってうるせえんだな。
 タン、タン、と階段を上る規則的な足音が聞こえてきた瞬間、心臓が大きく跳ねた。足音よりも早いテンポで鳴り始めた心臓に黙れと言いたい。
 アパートの通路の柵に頬杖をついていた姿勢から、背中を預ける姿勢に変える。意味はない。落ち着かないだけだ。

「おかえり」

 バイトが終わって帰ってきた神白に声をかける。いってらっしゃいは何度か言った事があるけどこっちは初めてかも。
 ギリギリ声が届くかという、まぁまぁ離れた位置で足を止めた。微妙に遠いな……。
 冬は暗くなるのが早くてもう真っ暗で、周りが静かになるのも早い。だから声は届いてるだろうが、話しにくい距離だ。
 何も返ってこない。返事も笑いかけてもくれない。でも踵を返してここから去ってく、ということもしないでいてくれている。
 怖気そうになる気持ちをグッと堪えて勝手に言いたいことを言っていく。

「今日なんの日か知ってるか?」
「……」

 返事なし。こんな日までバイトしてるなんてこいつも忘れてるのかも。

「クリスマスだぞ」
「……」
「ついでに俺の誕生日」
「……え?」

 反応が返ってきた。気にしてくれるんだな。優しいやつ。

「だからさ、誕生日プレゼントに神白の時間。少しくれよ」

 神白の目をまっすぐ見つめて、訴えかける。
 無視されたら。断られたら。相手の気持ちがわからない。自分の主張を通そうとすること。全てが怖い。
 でも欲しいものは欲しい。したいことはしたい。そう言わないといけない。

「……少しでいいの?」
「! 貰えるなら……!」

 肯定と取れる返事が返ってきて嬉しくなる。第一段階突破とホッとする。
 神白の方もさすがに距離が離れてて話しにくかったのかこっちに歩いてくる。単純に部屋の前まで来るだけかもしれないけど。
 立ち止まるのを待って、次はどう話を切り出そうと考えていると、神白が自分の部屋の前を通り過ぎても足を止めなかった。
 え? なに? お前の部屋の前過ぎたけど……? なんか近くね? え??
 後ろに下がろうとして背中に柵が当たる。体勢を変えてから後ずさろうとすれば、もう目の前にいて反射的に目を瞑る。

「っ……!」

 首元に柔らかくてあったかい感触を感じた。何これ、恐る恐る目を開いていくと、目の前に神白がいるのはもちろん、淡いグレーのマフラーも視界に入った。
 神白が今まで着けていたマフラーを俺に巻いたらしい。

「どのくらい待ってたの?」
「え……? あー、1時間くらい?」

 スッと顔を逸らそうとして神白がマフラーを掴んだままだったらしくあんまりうまくいかなかった。
 湊たちと別れて速攻で家に帰り、妹と母さんに適当な言い訳をしてからずっとここにいる。
 もう何時間だ? 1時間ではないことは確かだけど、話すまで絶対にここから離れないという決意をしたので、何時間でも関係ない。

「嘘つきだね」
「なんで断定なんだよ……」

 嘘だけどさ。でも俺も把握してないし。

「飛燕ちゃんが誤魔化したり嘘ついたりするときの癖、教えてくれたんだ」
「はぁ……? どんな……」

 癖って。そんな簡単にわかるような何かがあるって言うのか。

「教えないよ。飛燕ちゃんとの秘密だからね」
「ふん……」

 いつの間に……。仲がよろしいことで。俺のことを話してるだけなのにちょっと、ちょっと妬ける。妹相手に……。

「また風邪引いたらどうするの。せめてあったかい格好して待っててほしいよ」

 あったかい格好をしてと言われ、自分の今の格好を確認すると制服のまま。着替えていない。コートも着てなかった。いつ脱いだんだっけ。行動を思い返すと、フードコートから着ないで持って帰ってそのまま部屋に捨てたかも。うん、この格好は良くなかったかも……。

「悪い……」

 ふわふわと暖かいマフラーを引き寄せて、顔を埋める。
 今まで神白がしてたから、その残っていた体温を感じる。それにこいつの良い匂いがしてなんか安心する。
 ……変態みたいだな。やめよ。

「……っわざと?」
「え?」

 何が? すんって匂い嗅いだのバレたか……?

「……それで、どんな用?」
「あぁ、うん」

 顔を見て、目を合わせて、話す。決意して顔を上げると、想像以上に近い。
 遠いのもしんどいけど、この近さで話ことになるのは想定してなかったな。意外と見上げないといけないし。
 近過ぎてドキドキして頭が回らなくなる。何から話せばいいんだ。大事なことから? 結論から話すといいんだっけ……?
 ふらり、ふらりと彷徨う目。不安げな顔。それでも優しくて柔らかい目。

「神白のことが好きなんだ。俺と恋人になってくれるか?」
「え……?」
「え?」

 パチリ、パチリと音が聞こえそうなゆっくりな瞬きをされた。これはどういう反応、呆けているのか?
 さすがに性急過ぎたか? つ、伝わらなかった……? もう1回言うのか……? でも伝わらなきゃ意味がないし。

「俺お前のこと好きだから付き合って欲しい、んだけど……」
「っ……!」

 決意した割に尻すぼみな告白になった。でも、今度は届いたらしい。
 泣きそうな顔。俺はお前に破顔してほしいんだけどなぁ。

「……っ及木」
「あぁ」
「おれも、好きだよ。及木の恋人にしてくれる?」
「……! おう!」

 つけられた痕を見て自信はあった。でも俺のせいで傷つけたからダメかもしれないとも思った。

「ふ、嬉しそうな顔するんだね」
「当たり前だろ?」
「当たり前か……」

 俺の気持ちに応えてくれたんだ。嬉しくないわけがない。

「及木に時間欲しいって言われて。関わるな、っていう話をされるのかとかと思ったよ」
「は? なんで……?」

 いや、俺が何も伝えなかったからか。勝手にやって、勝手に隠して、神白に甘えて、パニックになって。勘違いさせた。

「ね、ちゃんともっと話そうか」
「そうだな……」

 足りてなさすぎる。そういえば俺も神白も自分の話なんてした覚えがない。

「部屋入ろう。ココアくらいなら出せるよ」
「え? 入っていいのか?」
「風邪引いて看病されたいってこと?」
「いや違……! お、お邪魔します」
「残念」

 ……俺の風邪を期待するな。
 未だ微妙に神白の部屋のドアの前で拒否されたときの事が頭にチラつくから、入っていいって許可もらえて動揺した。
 カチャリと優しく鍵を開けたのを見て、閉じられていくドアも思い出した。丁寧な動作を見たときにすでに目は奪われていたのだろうか。
 閉めるのは何度か見たけど開けるのは初めてだな。

「間取り変わらないな。今さらなんだけど神白って一人で住んでんのか?」

 中に入れてもらうと見慣れた部屋が。物が少ないからうちとは全然違うんだけど。

「基本はね。夏休みとか一時母親いたよ」
「え、全然知らなかった」
「顔知らないでしょ?」
「……」
「及木は結構うっかりさんだね」
「…………」

 返す言葉がない。顔知らないんだから、出入りする瞬間を目撃しない限りわからないのはそうなんだよ……。
 ソファに座っててと言われ、慣れない空間と慣れない匂いに包まれて落ち着かない気持ちでいっぱいになりながら座らせてもらう。
 ココアを入れてる姿をぼんやりと眺めて、何からどう話せば……と再度悩む。もう何回悩んだかわからないな。

「はい、熱いから気をつけてね」
「ありがと……」

 冷ますように息を吐いて、いただきますと口をつける。熱いのが喉を通って腹で広がる。生きてるって感じ。
 話すために来たんだ。今の神白の時間を貰ってるんだから大切に使わないと。
 一口しか飲んでないけど、テーブルにマグカップを置き、隣に座った神白に話しかける。

「俺のこと——」
「及木は——」
「あ、どうぞ……」

 喋り出すタイミングが重なった。譲った。俺は弱い……。

「及木はおれのためにいろいろしてくれてたよね。なんで言ってくれなかったの?」
「勝手にするのは、ダメなことと思ってて。その。拒否されたし」
「拒否?」
「いや、神白のせいじゃない。う……俺が臆病だから、したいことしたいって言えなくて。勝手に黙って、でも神白に学校にいてほしいから隠していろいろしようとして」

 神白が俺の顔見て笑顔になってくれるのが好きだったのに。俺が曇らせる原因になってた。もう見たくないな。

「……俺さ。お前に痕つけられたのが嬉しくてやっとそういう意味で好きなんだって気づいたんだよ」
「痕……?」
「あぁ、手というか指の痕? 綺麗についてて」
「え……? 待って。一つずつ、ゆっくり聞いていい?」

 珍しく焦ったような声で言われた。
 俺喋るのあんまり得意じゃないのか。伝えるのって難しい。

「おれ及木のこと拒絶したのかな」
「俺が一番最初に神白に会いに行ったときに、必要ないからもう来なくていいって言われた、んだけど……」
「あー……」

 すごい、神白が頭抱えてる。額に手を当てて悩んでる。

「普段は自分からほとんど何もしないんだけど、なんか神白のことはずっと気になってたんだ」

 家のことはやる必要があるからやってるだけ。甚鉄のことだって、湊と知り合ったときだって、自分から動いた記憶はないな。
 向こうから突撃してきたり、たまたまその場に居合わせただけた。
 やることいろいろあるし、甚鉄に大体突撃されてたから、自分でも自分から何かすることがあんまりないって気づいてなかったな。

「でも必要ないって言われたし。実際俺が何もしなくても神白は学校に来たし。だから余計に勝手にいろいろしない方がいいって思い込んだ。でも神白に学校に来ててほしいから結局してて……」

 神白だって最初は二星先生に頼まれただけだしな。
 何が違ったのか。何もないのが良かったのか? 何も起こらず、ゆっくりとした動きが穏やかで安らぐから、何かしたいって気持ちが湧きあがるのかな。
 平坦で神白との間にしなくてはいけないことがなかったから、自分のやりたいことが出てきたのか。

「それをずっと引き摺らせちゃったんだね。ごめん」
「神白が悪いわけじゃないし……」

 俺が気にし過ぎて、ただ行動できないやつだっただけだ。

「おれね、学校行きたくなかったんだよね」
「まぁ不登校だからな」
「人と関わりたくなくて。だから誰が来ても来ないでって言ったと思うんだよね。ただね、おれ及木のこと、うちに尋ねてくる前にちょっと知ってて」
「は?」

 どこで? 俺は神白のこと全然知らなかったぞ。

「ルポマの食品コーナーで野菜に迷ってる姿を何度か見かけたんだ」
「え゛」
「1回だけ声かけられたこともあるよ。これとこれの違いを教えてくれって」
「すまん、覚えてない……」

 俺が全然料理のことも食材のこともわかってない姿見られてたってことか? 正直嫌すぎるな。

「たぶんその頃もうお母さん入院してたんだよね? 必死だったんだろうね。1ミリもおれのことが目に入ってなくて驚いたんだ。自意識過剰みたいであれだけど」
「あぁ。最初は特にそうだったかも」
「そんなことがあったからね、知ってる顔が知ってる制服で来たから動揺したんだよ。それで強く拒否感が出たのかも」
「そうか……」

 生活圏被ってんだからな。そういうこともあるのか。

「その、及木が過呼吸になりかけたときね。及木のこととか行動を否定したわけじゃないんだ」
「う……」

 思い出したくないな……。

「春海みたいな人って結構いてね」
「結構いるのか……?」

 それは……どうなんだ?

「もちろん全然嬉しくないし、おれが不登校になる一因だったから関わると傷つけるし、傷つくし、だから関わってほしくないんだ。おれ自身が逃げたからね、関わらなければいいって。だから拒否というか関わらなくていいのに、って」

 優しさから出た言葉だったってことか?

「でもクラスとかで春海の感じ見てるとちょっとおれに似てるのかもしれないね」
「は? 全然似てないだろ」
「性格は似てないと思うよ」
「??」

 どっちだよ。

「おれも、春海も、熱心にバイトしてるのなんでだと思う?」
「働いてないと気が済まないんだろ……?」

 マグロみたいな言い方で悪いけど、働いてお金がほしい以外だとそれしか思いつかないんだよな。

「仕事内容に脳のキャパ持ってかれるのもいいんだけどね。バイトって便利なんだ」
「結びつかないんだけど?」
「断る口実に使えるんだよ」
「……苦労してることは伝わった」

 たしかに顔のいいやつらは生きるのが大変なのかもしれない。日々口実が必要なんて。

「春海にも及木みたいな人が現れるといいね」
「あー、うん」
「ふ……嫌そう」

 神白みたいなやつが現れたらいいんじゃないか。こいつはやらんけど。まぁよくわからんくらい嫌ってるから取られることはないだろう。
 つーか関わってほしくない。今度は堂々と関わるんじゃねえって言ってやろうかな。ふん。

「春海みたいなのが不登校の一因って言ったけど、不登校の理由って聞いていいのか……?」
「及木になら言うのは全然いいよ。ただちょっと引かないでほしいかな」
「え、あぁ」

 引かれるような理由があるのか……?

「おれね、大体なんでもできたんだよね。勉強もそれ以外も。その上見た目が良いらしくてね、まぁいろいろな感情をぶつけられて。ざっくり言えばそれが嫌で行かなくなったんだ」
「あぁ……うん、納得」

 有能さはかねがねお前自身から伝えられてるぞ。

「2つ上の兄さんがいるんだ」
「兄弟いたのか」
「うん。及木のところとは違ってあんまり仲良くはないんだけどね」

 ふわ、と笑う神白の表情からするとその兄のことは嫌ってないんだろうな。

「1年だけ中学校で過ごす時期が被るんだけど、兄さんも勉強できたしかっこいいから、その1年間は、テストの点とか順位とか、いつ誰に告白されて、チョコがどうとか面白がられたんだ。兄さんの方がおれより繊細で、それ見て自分がいなければいいか、って思ったんだ。全く、人の好意でおれたち兄弟のこと比べて面白がるなんて酷いよね」

 すごい言葉が出てきたな……。
 俺には一生縁のないことだけど、なんとなく状況が想像できてしまう。

「……正直に言うと、神白の感覚は俺にはわからないんだけど。お前、自分がおもちゃにされることより、それに周りが巻き込まれることの方に傷つくんだな。優しいやつ」
「……っ」

 神白がゴンッとテーブルに頭を打ちつけた。ココア跳ねたぞ。
 今日は挙動不審が多いな。喋りにくいこといっぱい話し合おうって言ってるんだから、当たり前か。

「何してんだ。良い音したけど大丈夫か?」
「そういうところが好きだよ」
「えっ、あ、え」

 不意打ち!! 突っ伏したまま言うことか! どういうところだよ!

「お、俺も好きだけど。そんな嫌だったのになんで学校行く気になったんだ?」
「及木に会いたくて」

 俺も頭打ちそうになった。

「適度に踏み込まれないのが心地よかったのに、踏み込んでこないことになんというか苛立った」
「じゃあなんであえて昼に会おうって……」

 隣なんだから、朝からでもって思ったんだ。でも臆病風を吹かせて言うことができなかった。

「……朝は起きれないんだよね。元々低血圧で弱くて、不登校で朝寝坊続けてたら悪化したかな。だから時間がない朝より昼が良かったんだ」
「なるほど。お前にも弱点があってよかったよ」

 やっと体を起こしたと思ったら黙って真っ直ぐに見つめてくる。ユラユラしてる。でも今日は曇ってない。綺麗な目。

「なに……?」
「及木っておれの目、結構好き?」
「……!」

 ソファの背もたれに突っ伏した。頭は打ってないからセーフ。

「今も真っ直ぐ見つめ返してくれたね」

 うん、めっちゃ見た。今までも見てた。恥ずかしい。

「おれ朝は起きれないし、だから目つきとかもあんまり良くなくて。たぶん好きなんだろうなって思ったから見られたくないのも理由だったよ」
「そうか……」

 やっぱり会話が圧倒的に足りてないことが露呈していくだけだな……。
 はぁ……とため息をついて姿勢を正す。

「俺は、朝も会いたい、です」
「そうだね。おれも会いたいよ。せっかく隣同士なんだから、有効活用しないとね」

 言わなかった言葉を言った。たぶんあのとき言ってればもっと早く変わってたんだろうな。後の祭りだけど。
 今からでも遅くない。ちゃんと言えて、約束できた。
 一緒に登校できるのは先になるな。今日終業式だったから。それまでに多少は起きれるようになってくれるといいな。

「痕の方は? おれ怪我させるようなことしたのかな……」
「あぁ。キ……」
「き?」

 言おうとして思い出した。あれはたぶん治療行為みたいなものだったと思われる。でも一応俺のファーストキスだったな。

「キスされたときにたぶんすげえ強く手首掴まれて、それの痕」
「え、ごめんね。痛かった?」
「あんま覚えてない。すぐ消えちゃったし。勿体無い……あ」

 またつけて貰えばいいじゃん。名案。

「どうしたの?」
「な、なぁ。もう1回痕つけて欲しい」

 勇気を出して要求する。
 パチパチと瞬いて驚いた顔をされた。やばい。本格的に変態に足を突っ込んでる気がする。

「さすがに痕がつくほど強く握るのは……痛めつける趣味はないし……」

 俺も痛めつけられたい趣味があるわけじゃないしな……。
 斜め上をぼんやりと見つめている神白を見て、まずったかと冷や汗が出る。

「及木、マフラー取って?」
「あ、すまん。ありがとう」

 つけたままなの忘れてたな。あったかかった。外して神白に渡そうとしたら、欲しいならあげるよって言われた。いや、それは違うと思う。

「そのまま首傾げて」
「? うん」

 なんだかよくわからんが言われた通り傾げたら、いきなり胸ぐらを掴まれた。

「えっ?」

 何? 殴られんの?? 痛めつける趣味はなかったのでは?
 いきなりのことに対応できず、近づいてきた神白をそのまま受け入れた。

「ひぇ……!」

 首の付け根のところに柔らかく濡れた感触を感じて、そういう事かと理解する。
 これキスマークつけられてんのか……! 先に言え……!
 数秒してから唇を離され、心臓が痛いほどのドキドキから解放されると安堵したのも束の間。

「富貴はおれの、っていう主張だよ」

 そのまま首元で喋られて陥落。全身真っ赤になってる気がする。マフラーなんていらないほど熱い。
 俺も負けじと神白の耳元で伝える。

「これからもよろしく頼む、柳」

 痕が消えないように何回でもつけて欲しい。





「なんでまだ着替えてないんだよ。時間!」
「起きただけ偉いんだよ……」

 隣の部屋のピンポンを押したら、ややあってスウェット姿の神白が出てきた。今日から三学期、始業式だぞ。なんで支度が終わってないんだ。
 眉間に皺を寄せて、目つきが鋭くなってて、まぁまぁガラが悪い。
 本当に朝はダメだったのか。そして言っていた通りだったのか。
 たぶん神白への気持ち自覚する前、伝える前に見たら、いろいろ余計なこと考えてこれはこれで俺荒れたかもしれん。
 今見るとかっこいいだけだけど。新たな一面が見れて嬉しい。

「朝ごはん食べなければ結構寝てられるんだよ」
「食えよ」

 健康な男子高校生が飯を抜くな。それでいてその身長とか羨ましすぎる。

「今から一緒に食べてくれる?」
「ダメ。俺お前と一緒に進級したいから、遅刻させない」

 ふ……と小さな蕾が綻ぶように微笑まれる。俺の好きな笑い方。
 これを見ると俺も笑顔になれる。俺の幸せ度が上がる。

「明日からならいいぞ」
「うん」

 俺も嬉しいし、妹も喜ぶだろうな。飯作るの一人分くらい増えても大変さは変わらないし。俺の部屋の方に来てもらおうか。そのためには起こす必要があるな。それも楽しそう。

「とりあえず支度して学校行くぞ」
「ソファに座って待ってて。すぐ着替えるから」

 一緒に登校できる幸せ。伝えなきゃ始まらない。