雑味ショート

学童には花壇があって、ボランティアのひとが手入れをしてた。
そばのベンチで本を読むことが多かったわたしは物語より、花の名前を覚えていく。
わたしが親戚の女の子に似ていると言い、顔を合わすたび話しかけられたからだ。

そのひとが頭に巻くタオルには「田中モータース」と印刷されていて、黒ずんだ指で種をまいては苗を植え、水をやり、しゃがみこんでは雑草を抜く。
敷地の片隅、わざわざ足を止めたりしない長方形は、いつもなにかしらが咲いていた。

「いつもありがとうございます!」

あれは、チューリップの頭を順に切り落とすころ。先生がアイスコーヒーを差し入れにくる。
先生はお盆を置くや、花散らしの犯人探しに切り替え、わたしは現行犯で捕まったんだ。

「なんでこんな真似を?」

肩をつかまれ、折るように揺らされる。ハサミを掴んでいるのが精一杯で、言い分は滑っていく。

「ちゃんと謝ろうね、ほら」

そのひとの前へ押し出され、見上げた。
先生からは見えない角度で一瞬だけ、笑う。

「ああ、これは球根を太らせるための作業でして。彼女にお願いしたんです」

先生はうつむき、頬が赤くなる。

「いやだわ、あたし、勘違いしちゃって。良かったらコーヒーどうぞ」

わたしには、頭を下げない。グラスを手渡し、そそくさ場を離れていった。

ジャーッと流す音が聞こえ、振り向いてみると。

土からコーヒーの匂い。
チューリップが黒く濡れていた。


そして今、わたしはベンチで本を読んでいる。