雑味ショート

学生のころ牛丼屋でバイトしていた。

立地から夜の仕事をする人が利用することも多く、手頃な価格を重宝するのはいわゆるナンバーのないキャストや裏方。
りかちゃん(仮)は新人キャバ嬢だった。

りかちゃんは同年代のわたしが牛丼屋で働くのは「顔とスタイルが悪いから」と言い当てる。歯に衣を着せないどころか触るものみんなに噛みついていく生き方をしていて、来店するたび、合法的にそのお綺麗な顔立ちを殴れないかなと考えていたっけ。

りかちゃんが整っているのは顔やスタイルだけでなく、歯並びや食事作法もキレイ。座り方だって背筋がきちんと伸びてて、育ちの良さ? というか、実家と折り合いが悪い臭いがする。
毛並みのいい野良猫って感じの、りかちゃん。
だから親と仲良くないという共通点だけで、わたしたちは友達になれる。

「目頭切開しようとおもって」
ある日、りかちゃんは言う。夜の世界じゃ、かわいくない側へ振り分けられるらしい 。
この頃、りかちゃんはお給料のほとんどを彼氏へ貢いでた。
2人で牛丼食べに来たこともあったけれど、彼は箸の持ち方が独特でね。丼にご飯粒をたくさん残すわ、くちゃくちゃ音をさせて食べる。あげくに財布をもってこない。
ううん、りかちゃんというお財布を上手に携帯していたと言ったほうがいっか。

わたしはさ、りかちゃんと親の悪口を言い合いたかっただけ。 男の趣味を語らう気なんてない。
母親似と言うりかちゃんの顔へメスが入れられる度、距離ができていく。

わたしがりかちゃんの本当の友達なら頬を叩いたのかもしれないね。
医学の力で通した鼻筋へ平手打ちするなど、自分は怖くて出来なかった。
目を覚ましてと訴えても、りかちゃんの目はぱっちり二重で見開いている訳で。

りかちゃんと最後にあったのはダウンタイム中。一人で牛丼を食べに来たよ。
お箸を使わずスプーンで肉をすくい、口を小さくあける。

「味わかんないけど、ご飯、あつい」
顔全体が腫れ、もうわたしの知っているりかちゃんには見えなかったものの、きちんと飲み込み、口の中に何もない状態で会話するくせだけは残っていた。

りかちゃん、元気かな?