久々に食べた美味しいごはんと満腹感に瞼が落ちそうになっていた午後は、体育の授業。身体を動かすのは嫌いじゃないが、得意というわけでもない。
体育は選択授業なので、透はバレー、俺は外でソフトテニス。外の授業は教師があまり巡回に来ないので、ほどほどに動いてほどほどにサボれる良い選択だ。昼食のとき鷹峰は何か聞いたら、バスケを選択していたらしい。
外が暑すぎたため早々に体育館へ戻ったら、ちょうど鷹峰がシュートを決めた瞬間だった。正直、あの雰囲気というか見た目だと筋肉のないもやしかと思っていたが、俺よりぜんぜん筋肉がついているかもしれない。いや、見えた腹筋がなかなかあった!
その流れでバスケのチームメイトから肩を組まれて、頭をわしゃわしゃと撫でられている鷹峰を見ていやだ、と思った。でも、俺が思うのはおかしいし、俺は透が好きなはずなのに。どうして鷹峰ばかり見てしまっているのだろう。
俺に気づいた鷹峰と視線が合うと、鷹峰はさりげなく低い位置で手を振ってくれる。それを振り返すと、反対の方向から名前を呼ばれた。
「明!」
体操服で汗を拭う透だ。いつもはあんなにドキドキしていたはずなのに。こんなにも簡単に透への気持ちは薄れてしまうのか。俺の恋心ってこんなに移りやすいのか。自分にがっかりしてしまう。それを認めてしまうのが怖くて、鷹峰のことを見ることができなかった。
ソフトテニスができないため、ソフトテニスのメンバーは室内競技に混ぜてもらうことになった。
俺はグループ競技が得意じゃないので、卓球に混ぜてもらう。卓球は体育館の二階バルコニーのようなところでやっていて、いい具合に上から体育館全体を見下ろせる。
台は二台しかないので、順番が回ってくるまで待機することになった。卓球もなかなか休めていいな、とちょっと選択のミスを後悔した。
卓球のメンバーは、男女問わず文化部や帰宅部が多いように見える。
そのなかに、ひとりでミステリー研究愛好会を発足しているやつがいた。綾瀬敏臣。部員はいないが、同じような趣味の人を集めているらしい。歴史の教師もミステリー好きで、顧問になって部活を開きたいと言ったらしいが、特に成果をあげたいとかそういうのは無いらしいので、部活ではなく愛好会止まりなんだとか。ちなみに、顧問になりたがっていた先生は、がっかりしていたらしい。
細身だけれども背が高く、細いフレームの眼鏡を掛けて短髪で清潔感と知的さがある綾瀬は、ミステリーにハマってるオタクな男じゃなければいい男なのにな、というのが女子の評価だと星から聞いた。あまり俺も接点がないので、話したことはほぼないが、丁度休憩中の綾瀬のそばに近寄る。
「綾瀬、あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
「僕に?」
「怪異の話なんだけど」
「怪異?! 社本は怪異に興味があるのかい?! それともなにかに出会ったとか?!」
興奮気味で前のめりに聞いてくるこの雰囲気と早口。オタクだ!
オタクだからと嫌うわけではないし、俺もゲームとかするから、ガチな人がいるのは知っている。ただ、目の前に現れるとちょっと圧倒される。
「いや、こんなの居るかな~って思って。誰かがついてきてる感じがして、名前を呼ばれて振り向いたりすると襲われる。怪異に好かれると暫く憑かれてたり、あとは味覚がなくなったり……」
「うーん……これっていうのはないけど、聞いた感じ、いろんな怪異の話が混ざっている気がするよ」
いろんな怪異が?
よく分からず、綾瀬を見上げると、人差し指を上に立てて説明を始めた。
「例えば、名前を呼ばれるのが危ないのはお呼びさんという、山中で多い伝承。それから、味覚がおかしくなるのは犬神様の伝承もある」
なるほど。更に謎は深まってしまった。
「あー……じゃあさ、走ると危ない怪異はある?」
「うーん……送り犬とか」
「送り犬?」
「そう。夜道の後ろから憑いてくる。転ぶと食われて、転ばなければ家まで安全に送ってもらえる。でも、犬だから社本が言っていた名前を呼ぶとかそういうのは無いんだ」
鷹峰は今回のものを送り犬だと思っているのか。じゃないと、走るのは危ないと言わないだろうし。鷹峰は視たと言っていたから、それは多分ほぼ確定だろう。なのに、同じように視たことのある橘先生は走ったほうが安全だと言った。でも、鷹峰も橘先生も名前を呼ぶものだと言ってる。
どちらが正しいんだ? それとも、送り犬じゃないとか?
頭の中がぐるぐるとする。
「そんな怪異はいないってこと?」
「怪異とか妖怪、霊っていうのは、嘘から生まれることもあるし、いろんな話が混ざることもあれば、実は科学で証明されることだってある」
「科学で証明はミステリー好きでも信頼するんだ」
「僕は怪異がいるほうを信じているけどね。でも、信じるのも人それぞれだし、だから噂や真実が混じってしまうこともあるし、みんなが信じればそれが新しい怪異になることもある」
分かるような分からないような。納得できるようなできないような。そんな俺の気持ちというか表情を察知した綾瀬は、笑った。
「だからミステリーは面白い! 興味があるなら社本もミス研に……」
手をぎゅっと握られて、興奮気味に勧誘を受ければどう切り抜けようか、目を逸らす。
そしたら卓球台のほうから、聞きなれた声が聞こえた。
「あーーき、次あんただから早く」
「あれ、星なんでこっちに居るんだよ。バレーじゃなかった?」
下の体育館ホールを指さすと、星はラケットを持って振り回す。
「今日はこっちの気分だったの! ちゃんと先生にも許可とったし。ほらほら、早く」
渡されたラケットを受け取る背後で、綾瀬の「星さんと仲がいいんだ……」という呟きに羨ましさが滲んでいて、どうやら星のことが好きらしい。顔はいいもんな、アイドルというかギャルというか。見た目は近寄りがたいけど、さばさばしていて誰とでも話せる良いヤツだ。
午後の体育の授業は体力が一気に削られる気がする。身体を動かすのは嫌いじゃないが、夏はやめてほしい。体操服から制服に着替えて、女子生徒の着替えが終わるのを待つ。廊下でのんびり待っていると、透が近づいてきた。
「明」
名前を呼ばれて、どきりとした。うれしいけれど、少し怖いような。あんな話を聞いたあとだから、余計かもしれないけど。
「どうした?」
透を見上げると、爽やかに笑う。うん、好きだと思う。好きなはずだ、昔から。その気持ちが少し浮ついたことの罪悪感から、怖さもあったのだろう。
「今日一緒にかえ、」
「社本~、あんた終礼後に居残り」
「え?!」
透からの誘いを打ち切るように、廊下を歩いてきた飯塚先生が俺の姿を見た途端呼び出しされた。なんで居残りなのかは分かっているが、あまりにもバッドタイミグすぎて驚いてしまった。
「明日じゃダメ?」
「明日は土曜日で月曜からテスト。今日しかないじゃない」
「はーい」
素直に返事をすると、透に向かって両手を合わせ頭を下げる。
「ま、しょうがねーな。しっかり絞られてこいよ。またテスト期間にでも一緒に帰ろうぜ」
ちょっとだけ、待っててくれないかな。なんて気持ちがあったが、テスト前の時期だからそんなことは言えないし。ただ「うん」と、返事をした。
飯塚先生はなかなか着替え終わらない女子生徒にしびれを切らして、「男子は後ろ向け」と言ってから扉を開けて中へ入っていった。
「あんたたち早くしなさい!」
「でも~~ひかりん先生だって女だからわかるっしょ、化粧とか時間かかるし!」
「私は何も聞いてないから。高校生でするなとは言わないけど、時間内で終わるようにしなさい」
「はーい」
女子生徒の緊張していない声が、飯塚先生との距離感の近さを感じる。やっぱり愛されている先生だ。
いつも通りの終礼。とくに連絡事項もなく、来週からのテスト勉強を頑張るように。とは釘を刺されたが。
終礼が終わると、みんな一目散に帰宅していく。俺は教室に残って、みんなが帰るのを待つ。ほかのクラスも終礼が終わって、廊下にはいろんな人の声が混じる。
そのなかに、人間ではない音がする。低く、唸る声。俺はこれを聞いたことがある。
廊下に飛び出すと、たくさんの人。その中心に倒れている女子生徒。
星だ。
先ほどまで気の抜けた笑い声が、ひとつ引き剥がされたみたいに消えている。心配する声、パニックになって狼狽える子。
どうすれば、何が起こっている。俺はなにをしたら、助け、助けを呼ばないと。
そう思っていると、背後から飯塚先生が叫ぶ。
「ちょっとどいて! 保健室に連れて行くから。社本は待ってなさい」
理解できない状況下で直ぐに動けない情けなさ。星をほかの女子生徒と運んでいく先生の背中を見ているだけしかできなかった。
なにか見える。まるで暑い日の陽炎みたいな揺らめきが。
そこだけ、空気が歪んでいる気がする。怖い。心臓がどきどきする。
星を襲ったものがそこにいて、今までの犯人だとしたら。それならば、俺も危ないのかもしれない。
そこをジッと見つめていたら、目の前を何かが覆う。
「……好奇心は猫を殺すって言うけど、社本は猫なのかな?」
「ご、ごめんなさい……」
あ。怒っている。声色で分かるそれに、ぎゅっと胃が痛くなる。鷹峰が怒るとこんなにも焦ってしまうのか。
手で隠れて分からないが、たぶん直視したら返事すらできない迫力があったんじゃないか。美人は怒ると怖いというが、鷹峰にも当てはまりそうだ。
はあ、というため息が聞こえて、手が離れていった。目に映った鷹峰は怒ってはないが呆れてはいる。誤魔化した笑いを浮かべて話を逸らそうと話題を考える。
「そ、ういえば……鷹峰帰ったかと思った」
「社本を待つつもりだったよ」
「え? なんで?」
「なんでって……危ないから。ストーカーに狙われている女の子を一人で帰す男はいる?」
「俺は男だけど?」
「怪異を人間の関係性で喩えたんだよ」
「分かりづらい」
「とりあえず待ってるから、社本は飯塚先生に絞られてくるといいよ」
「なんで透も鷹峰も、俺が怒られる前提なんだよ!」
「日ごろの行いかな」
飯塚先生が戻って来るまで、鷹峰と廊下で話す。そういえば、と綾瀬から聞いた話も共有した。怪異の正体、成り立ち、それから送り犬。それを聞いた鷹峰は、スッと目を細めて一度だけ頷いた。
「俺が視たのは、四足歩行の獣だった」
「だから送り犬だと思って……?」
「いや、正確には綾瀬の言う通り、色々混じった中に送り犬も含んでいると思ってた。だから、恐怖のなか走って逃げるのは転倒のリスクが上がる」
「橘先生が走れって言ったのは……」
「そのリスクよりも、もっと危ないものがあるんだって思っているのかもしれない」
「先生の友人が襲われたとき、先生はナニを見たんだろうなあ」
「それか、橘先生がなにか操っていたりする……とか?」
「はは! それは無いだろ。だって、それだったら橘先生は俺に助言なんて……」
「社本にマーキングしてたり、転ばせようとしてたら? 少しは疑ったほうがいいよ。社本の見てる世界が、本当に事実なのか。みんな善意で社本に近寄っているのか」
「は?」
「佐伯だって、社本と仲がいい場所にいるなら……今日とか、待ってもいいし、一緒に勉強とかすると思うんだけど」
「た、……鷹峰に、透のこと言われたくない」
鷹峰から透の名前が出てくると、居心地の悪さに視線を逸らしてしまう。けれど、鷹峰からは謝罪もなければ身動きすらない。どうしたのか、と顔を上げようとすれば、それより先に飯塚先生が帰ってきた。
「社本、お待たせ。あれ、鷹峰もいるの?」
「社本と一緒に帰ろうと思って待ってます」
「じゃあさっさと済ませてしまうわ」
「あと、月森さんは大丈夫でしたか?」
鷹峰の問いに、飯塚先生は眉間に皺を寄せてうーん、と唸る。
「取り合えず、貧血かなって。まだ目を覚ましてないけど、親御さんにも連絡はついたし、あとは保健室の原先生にお任せしてきたわ。また保健室に戻るから、社本の話は本当にさっさと終わらせるわよ」
鷹峰に手を振って、反対の手で俺の首根っこを掴んで、まるで大荷物を運ぶように教室へと引きずっていく。もう少し人として扱ってほしい。
教卓の前の席を借りる。ここの席の人も休んでいた子だったはずだ。
「山代……?」
「あら、仲良かったの? 結構前に休んだ子だけど」
「いや……全然」
「そう。じゃあ、さっさと始めるけど、進路どうすんの?」
「……てっきりテストの点数が悪いから呼び出されたのかと思ったじゃん~」
「それだったら社本よりも低い子も此処に居るはずね。進路希望の紙、提出してないのあんただけなの。みんな今年の春には出し終わってるのよ」
「紙、どこやったかなあ」
以前配られた紙はどこにやったのか全然思い出せない。その前に、テスト前に進路先を考えるのもめんどくさい。テスト勉強する気もないけれど。そうやってのらりくらり躱そうとしたけれど、飯塚先生がファイルから予備も含めて紙を三枚取り出して渡してきた。
「テスト明けまでは猶予をあげる。ちゃんと書いてきなさい」
「はーい」
差し出された紙を受け取って、無造作に鞄に詰め込んだ。それを見た先生がため息を吐いたが、知らないふりをして教室の出口に向かう。
「社本、あんた月森と仲良かったでしょ? 何かなかった?」
「なんにも。体育の時だっていつも通りだったから」
「そう。社本も気をつけなさいよ」
「はーい」
額に手のひらをあてて疲労感が滲む顔をしてる。生徒がたくさん休んで、さらに体調不良で生徒が倒れて、先生の精神もキャパオーバーそうだ。それでも、星の元へ走っていく飯塚先生の姿はかっこよくて、頼りになる自慢の先生。
「おまたせ」
「おかえり。怒られた?」
「怒られてはないけど。でも勉強とかじゃなくて、進路希望の話だった」
「……社本は決めてる?」
「決めてないから呼び出しされたんだよ」
「……なるほど」
学校を出て、舗装された道を歩く。テスト前の最後の授業が体育だったのはちょっと納得がいかないが、あの暑さに慣れたおかげで、帰り道はさほど苦ではない。
喧嘩しそうな険悪だった雰囲気も、お互いその話題を避けているようにも感じた。
よそよそしいなか、ふと前を見ると帰り道を制服を着た男子生徒が学校の方向へ、逆走するように歩いている。
見覚えがあるような、無いような。そうすると、向こうから声を掛けてきた。
「鷹峰と社本だ」
「こんな時間に登校? 元気になったの?」
鷹峰が普通に声を掛けいるので、たぶんクラスメイトだ。きっと、長期間体調を崩していた人。だったら怪異の被害者だった人かもしれない。
「元気というか、やる気を取り戻したというか……急に元に戻れたっていうんだろうか。取り合えずテストを受けたいから、色々と聞いてくるよ」
「そう、暑いから山代も気を付けて」
山代。透が言っていた、山代だ。
鷹峰と俺の隣を通り過ぎようとする。なにか、何か情報が欲しい。星は、山代と同じものに襲われたはずだ。
「山代」
呼び止めると、山代は足を止めて振り返った。
少しやつれてはいるが、顔色は悪くない。むしろ、休んでいたはずなのに、妙にすっきりして見える。
「社本か。久しぶり」
「体調、大丈夫なのか?」
「ああ。なんか急に楽になったんだよ」
軽い調子でそう言って、肩を回す。
「ずっとだるかったんだけど、突然すっと抜けた感じで治ってさ。親も驚いてたけど、それ以上に喜んでくれたよ」
「へえ……よかった。山代はいつ体調よくなった? もっと早めに来られたらよかったのに」
「それこそ、ついさっき。親に今日の日にちを聞いて、そんなに時間が経ってるとは思わなくて。やれることはやろうと思って、今から教科書を取りに行くんだ」
ついさっき。その言葉が、胸の奥に引っかかる。
星が倒れたのは、今日の放課後。一時間も経っていない。
鷹峰を見ると、視線が絡まった。きっと同じことを思いついたはず。
「テスト前でよかった。このまま休んでテストの点数もなくなったら、さすがに進路先もやばかったし」
その言い方は、どこまでも普通だ。普通すぎて、逆に現実感が薄い。
「さっき、星が倒れてさ」
言ってから、自分でも少しだけ躊躇した。でも、確かめたかった。
山代は一瞬だけ目を瞬かせて、うん、と頷いた。
「大丈夫だよ、たぶん」
根拠のない断言。でも、不思議と“知っている”ような言い方だった。
「そのうち戻るって。俺の前に休んだ園山さんとか戻ってきただろ。黒川さんとかみたいに退学とかはしてないし」
何から? そう喉の奥まで出かかった言葉を、飲み込む。
それに園山さんと黒川さんは、山代が休む大分前の話だ。
隣で鷹峰が俺と山代の間に入るように、一歩前に出た。
「……山代」
「ん?」
「本当に、それは“治った”と思ってるの?」
低い声だった。
山代は一瞬だけきょとんとして、それから小さく笑う。
「治ったっていうか、楽になっただけだよ。同じだろ?」
「……違う」
間を置かず鷹峰から返されたその一言に、空気がぴたりと止まる。けれど山代は気にした様子もなく、軽く手を振った。
「じゃ、俺行くわ。先生に色々聞かなきゃだし」
「あ、ああ」
そのまま、何事もなかったみたいに学校の方へ歩いていく。
後ろ姿はどこまでも普通で。普通なのに、なにかが決定的に違う。
「……鷹峰、同じこと思ってるよな」
思わず呟くと、隣から小さく息を吐く音がした。
「月森さんが倒れて、山代が戻ってきた」
言葉にしてみると、やけにしっくりきてしまう。心の中のもやもやしていたものが、ひとつ解かれたように。
「……偶然、じゃないよな」
答えを求めて鷹峰を見ると、「社本」と名前を呼ばれる。
「これは“偶然”で片付けていい種類のものじゃない」
視線が、小さくなった山代の背中に注がれている。
「……数があるのかもしれない」
「数?」
「怪異が同時に抱えられる数」
「じゃあ……」
言いかけて、やめる。
続きを考えると、最悪な解決方法しか思いつかない。
だって星を救えるのは、最低でもいま休んでいる人数の被害者が必要ってことだ。
鷹峰はそれ以上何も言わなかった。
ただ、俺の腕を軽く引く。
「今日は、早く帰ろう」
その声に逆らう気になれず、頷いた。
歩き出しても、さっきの光景が頭から離れない。
倒れた星。
“楽になった”と言った山代。
そして見えない何かが、今もどこかに“いる”という確信だけがはっきりと残っていた。
体育は選択授業なので、透はバレー、俺は外でソフトテニス。外の授業は教師があまり巡回に来ないので、ほどほどに動いてほどほどにサボれる良い選択だ。昼食のとき鷹峰は何か聞いたら、バスケを選択していたらしい。
外が暑すぎたため早々に体育館へ戻ったら、ちょうど鷹峰がシュートを決めた瞬間だった。正直、あの雰囲気というか見た目だと筋肉のないもやしかと思っていたが、俺よりぜんぜん筋肉がついているかもしれない。いや、見えた腹筋がなかなかあった!
その流れでバスケのチームメイトから肩を組まれて、頭をわしゃわしゃと撫でられている鷹峰を見ていやだ、と思った。でも、俺が思うのはおかしいし、俺は透が好きなはずなのに。どうして鷹峰ばかり見てしまっているのだろう。
俺に気づいた鷹峰と視線が合うと、鷹峰はさりげなく低い位置で手を振ってくれる。それを振り返すと、反対の方向から名前を呼ばれた。
「明!」
体操服で汗を拭う透だ。いつもはあんなにドキドキしていたはずなのに。こんなにも簡単に透への気持ちは薄れてしまうのか。俺の恋心ってこんなに移りやすいのか。自分にがっかりしてしまう。それを認めてしまうのが怖くて、鷹峰のことを見ることができなかった。
ソフトテニスができないため、ソフトテニスのメンバーは室内競技に混ぜてもらうことになった。
俺はグループ競技が得意じゃないので、卓球に混ぜてもらう。卓球は体育館の二階バルコニーのようなところでやっていて、いい具合に上から体育館全体を見下ろせる。
台は二台しかないので、順番が回ってくるまで待機することになった。卓球もなかなか休めていいな、とちょっと選択のミスを後悔した。
卓球のメンバーは、男女問わず文化部や帰宅部が多いように見える。
そのなかに、ひとりでミステリー研究愛好会を発足しているやつがいた。綾瀬敏臣。部員はいないが、同じような趣味の人を集めているらしい。歴史の教師もミステリー好きで、顧問になって部活を開きたいと言ったらしいが、特に成果をあげたいとかそういうのは無いらしいので、部活ではなく愛好会止まりなんだとか。ちなみに、顧問になりたがっていた先生は、がっかりしていたらしい。
細身だけれども背が高く、細いフレームの眼鏡を掛けて短髪で清潔感と知的さがある綾瀬は、ミステリーにハマってるオタクな男じゃなければいい男なのにな、というのが女子の評価だと星から聞いた。あまり俺も接点がないので、話したことはほぼないが、丁度休憩中の綾瀬のそばに近寄る。
「綾瀬、あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
「僕に?」
「怪異の話なんだけど」
「怪異?! 社本は怪異に興味があるのかい?! それともなにかに出会ったとか?!」
興奮気味で前のめりに聞いてくるこの雰囲気と早口。オタクだ!
オタクだからと嫌うわけではないし、俺もゲームとかするから、ガチな人がいるのは知っている。ただ、目の前に現れるとちょっと圧倒される。
「いや、こんなの居るかな~って思って。誰かがついてきてる感じがして、名前を呼ばれて振り向いたりすると襲われる。怪異に好かれると暫く憑かれてたり、あとは味覚がなくなったり……」
「うーん……これっていうのはないけど、聞いた感じ、いろんな怪異の話が混ざっている気がするよ」
いろんな怪異が?
よく分からず、綾瀬を見上げると、人差し指を上に立てて説明を始めた。
「例えば、名前を呼ばれるのが危ないのはお呼びさんという、山中で多い伝承。それから、味覚がおかしくなるのは犬神様の伝承もある」
なるほど。更に謎は深まってしまった。
「あー……じゃあさ、走ると危ない怪異はある?」
「うーん……送り犬とか」
「送り犬?」
「そう。夜道の後ろから憑いてくる。転ぶと食われて、転ばなければ家まで安全に送ってもらえる。でも、犬だから社本が言っていた名前を呼ぶとかそういうのは無いんだ」
鷹峰は今回のものを送り犬だと思っているのか。じゃないと、走るのは危ないと言わないだろうし。鷹峰は視たと言っていたから、それは多分ほぼ確定だろう。なのに、同じように視たことのある橘先生は走ったほうが安全だと言った。でも、鷹峰も橘先生も名前を呼ぶものだと言ってる。
どちらが正しいんだ? それとも、送り犬じゃないとか?
頭の中がぐるぐるとする。
「そんな怪異はいないってこと?」
「怪異とか妖怪、霊っていうのは、嘘から生まれることもあるし、いろんな話が混ざることもあれば、実は科学で証明されることだってある」
「科学で証明はミステリー好きでも信頼するんだ」
「僕は怪異がいるほうを信じているけどね。でも、信じるのも人それぞれだし、だから噂や真実が混じってしまうこともあるし、みんなが信じればそれが新しい怪異になることもある」
分かるような分からないような。納得できるようなできないような。そんな俺の気持ちというか表情を察知した綾瀬は、笑った。
「だからミステリーは面白い! 興味があるなら社本もミス研に……」
手をぎゅっと握られて、興奮気味に勧誘を受ければどう切り抜けようか、目を逸らす。
そしたら卓球台のほうから、聞きなれた声が聞こえた。
「あーーき、次あんただから早く」
「あれ、星なんでこっちに居るんだよ。バレーじゃなかった?」
下の体育館ホールを指さすと、星はラケットを持って振り回す。
「今日はこっちの気分だったの! ちゃんと先生にも許可とったし。ほらほら、早く」
渡されたラケットを受け取る背後で、綾瀬の「星さんと仲がいいんだ……」という呟きに羨ましさが滲んでいて、どうやら星のことが好きらしい。顔はいいもんな、アイドルというかギャルというか。見た目は近寄りがたいけど、さばさばしていて誰とでも話せる良いヤツだ。
午後の体育の授業は体力が一気に削られる気がする。身体を動かすのは嫌いじゃないが、夏はやめてほしい。体操服から制服に着替えて、女子生徒の着替えが終わるのを待つ。廊下でのんびり待っていると、透が近づいてきた。
「明」
名前を呼ばれて、どきりとした。うれしいけれど、少し怖いような。あんな話を聞いたあとだから、余計かもしれないけど。
「どうした?」
透を見上げると、爽やかに笑う。うん、好きだと思う。好きなはずだ、昔から。その気持ちが少し浮ついたことの罪悪感から、怖さもあったのだろう。
「今日一緒にかえ、」
「社本~、あんた終礼後に居残り」
「え?!」
透からの誘いを打ち切るように、廊下を歩いてきた飯塚先生が俺の姿を見た途端呼び出しされた。なんで居残りなのかは分かっているが、あまりにもバッドタイミグすぎて驚いてしまった。
「明日じゃダメ?」
「明日は土曜日で月曜からテスト。今日しかないじゃない」
「はーい」
素直に返事をすると、透に向かって両手を合わせ頭を下げる。
「ま、しょうがねーな。しっかり絞られてこいよ。またテスト期間にでも一緒に帰ろうぜ」
ちょっとだけ、待っててくれないかな。なんて気持ちがあったが、テスト前の時期だからそんなことは言えないし。ただ「うん」と、返事をした。
飯塚先生はなかなか着替え終わらない女子生徒にしびれを切らして、「男子は後ろ向け」と言ってから扉を開けて中へ入っていった。
「あんたたち早くしなさい!」
「でも~~ひかりん先生だって女だからわかるっしょ、化粧とか時間かかるし!」
「私は何も聞いてないから。高校生でするなとは言わないけど、時間内で終わるようにしなさい」
「はーい」
女子生徒の緊張していない声が、飯塚先生との距離感の近さを感じる。やっぱり愛されている先生だ。
いつも通りの終礼。とくに連絡事項もなく、来週からのテスト勉強を頑張るように。とは釘を刺されたが。
終礼が終わると、みんな一目散に帰宅していく。俺は教室に残って、みんなが帰るのを待つ。ほかのクラスも終礼が終わって、廊下にはいろんな人の声が混じる。
そのなかに、人間ではない音がする。低く、唸る声。俺はこれを聞いたことがある。
廊下に飛び出すと、たくさんの人。その中心に倒れている女子生徒。
星だ。
先ほどまで気の抜けた笑い声が、ひとつ引き剥がされたみたいに消えている。心配する声、パニックになって狼狽える子。
どうすれば、何が起こっている。俺はなにをしたら、助け、助けを呼ばないと。
そう思っていると、背後から飯塚先生が叫ぶ。
「ちょっとどいて! 保健室に連れて行くから。社本は待ってなさい」
理解できない状況下で直ぐに動けない情けなさ。星をほかの女子生徒と運んでいく先生の背中を見ているだけしかできなかった。
なにか見える。まるで暑い日の陽炎みたいな揺らめきが。
そこだけ、空気が歪んでいる気がする。怖い。心臓がどきどきする。
星を襲ったものがそこにいて、今までの犯人だとしたら。それならば、俺も危ないのかもしれない。
そこをジッと見つめていたら、目の前を何かが覆う。
「……好奇心は猫を殺すって言うけど、社本は猫なのかな?」
「ご、ごめんなさい……」
あ。怒っている。声色で分かるそれに、ぎゅっと胃が痛くなる。鷹峰が怒るとこんなにも焦ってしまうのか。
手で隠れて分からないが、たぶん直視したら返事すらできない迫力があったんじゃないか。美人は怒ると怖いというが、鷹峰にも当てはまりそうだ。
はあ、というため息が聞こえて、手が離れていった。目に映った鷹峰は怒ってはないが呆れてはいる。誤魔化した笑いを浮かべて話を逸らそうと話題を考える。
「そ、ういえば……鷹峰帰ったかと思った」
「社本を待つつもりだったよ」
「え? なんで?」
「なんでって……危ないから。ストーカーに狙われている女の子を一人で帰す男はいる?」
「俺は男だけど?」
「怪異を人間の関係性で喩えたんだよ」
「分かりづらい」
「とりあえず待ってるから、社本は飯塚先生に絞られてくるといいよ」
「なんで透も鷹峰も、俺が怒られる前提なんだよ!」
「日ごろの行いかな」
飯塚先生が戻って来るまで、鷹峰と廊下で話す。そういえば、と綾瀬から聞いた話も共有した。怪異の正体、成り立ち、それから送り犬。それを聞いた鷹峰は、スッと目を細めて一度だけ頷いた。
「俺が視たのは、四足歩行の獣だった」
「だから送り犬だと思って……?」
「いや、正確には綾瀬の言う通り、色々混じった中に送り犬も含んでいると思ってた。だから、恐怖のなか走って逃げるのは転倒のリスクが上がる」
「橘先生が走れって言ったのは……」
「そのリスクよりも、もっと危ないものがあるんだって思っているのかもしれない」
「先生の友人が襲われたとき、先生はナニを見たんだろうなあ」
「それか、橘先生がなにか操っていたりする……とか?」
「はは! それは無いだろ。だって、それだったら橘先生は俺に助言なんて……」
「社本にマーキングしてたり、転ばせようとしてたら? 少しは疑ったほうがいいよ。社本の見てる世界が、本当に事実なのか。みんな善意で社本に近寄っているのか」
「は?」
「佐伯だって、社本と仲がいい場所にいるなら……今日とか、待ってもいいし、一緒に勉強とかすると思うんだけど」
「た、……鷹峰に、透のこと言われたくない」
鷹峰から透の名前が出てくると、居心地の悪さに視線を逸らしてしまう。けれど、鷹峰からは謝罪もなければ身動きすらない。どうしたのか、と顔を上げようとすれば、それより先に飯塚先生が帰ってきた。
「社本、お待たせ。あれ、鷹峰もいるの?」
「社本と一緒に帰ろうと思って待ってます」
「じゃあさっさと済ませてしまうわ」
「あと、月森さんは大丈夫でしたか?」
鷹峰の問いに、飯塚先生は眉間に皺を寄せてうーん、と唸る。
「取り合えず、貧血かなって。まだ目を覚ましてないけど、親御さんにも連絡はついたし、あとは保健室の原先生にお任せしてきたわ。また保健室に戻るから、社本の話は本当にさっさと終わらせるわよ」
鷹峰に手を振って、反対の手で俺の首根っこを掴んで、まるで大荷物を運ぶように教室へと引きずっていく。もう少し人として扱ってほしい。
教卓の前の席を借りる。ここの席の人も休んでいた子だったはずだ。
「山代……?」
「あら、仲良かったの? 結構前に休んだ子だけど」
「いや……全然」
「そう。じゃあ、さっさと始めるけど、進路どうすんの?」
「……てっきりテストの点数が悪いから呼び出されたのかと思ったじゃん~」
「それだったら社本よりも低い子も此処に居るはずね。進路希望の紙、提出してないのあんただけなの。みんな今年の春には出し終わってるのよ」
「紙、どこやったかなあ」
以前配られた紙はどこにやったのか全然思い出せない。その前に、テスト前に進路先を考えるのもめんどくさい。テスト勉強する気もないけれど。そうやってのらりくらり躱そうとしたけれど、飯塚先生がファイルから予備も含めて紙を三枚取り出して渡してきた。
「テスト明けまでは猶予をあげる。ちゃんと書いてきなさい」
「はーい」
差し出された紙を受け取って、無造作に鞄に詰め込んだ。それを見た先生がため息を吐いたが、知らないふりをして教室の出口に向かう。
「社本、あんた月森と仲良かったでしょ? 何かなかった?」
「なんにも。体育の時だっていつも通りだったから」
「そう。社本も気をつけなさいよ」
「はーい」
額に手のひらをあてて疲労感が滲む顔をしてる。生徒がたくさん休んで、さらに体調不良で生徒が倒れて、先生の精神もキャパオーバーそうだ。それでも、星の元へ走っていく飯塚先生の姿はかっこよくて、頼りになる自慢の先生。
「おまたせ」
「おかえり。怒られた?」
「怒られてはないけど。でも勉強とかじゃなくて、進路希望の話だった」
「……社本は決めてる?」
「決めてないから呼び出しされたんだよ」
「……なるほど」
学校を出て、舗装された道を歩く。テスト前の最後の授業が体育だったのはちょっと納得がいかないが、あの暑さに慣れたおかげで、帰り道はさほど苦ではない。
喧嘩しそうな険悪だった雰囲気も、お互いその話題を避けているようにも感じた。
よそよそしいなか、ふと前を見ると帰り道を制服を着た男子生徒が学校の方向へ、逆走するように歩いている。
見覚えがあるような、無いような。そうすると、向こうから声を掛けてきた。
「鷹峰と社本だ」
「こんな時間に登校? 元気になったの?」
鷹峰が普通に声を掛けいるので、たぶんクラスメイトだ。きっと、長期間体調を崩していた人。だったら怪異の被害者だった人かもしれない。
「元気というか、やる気を取り戻したというか……急に元に戻れたっていうんだろうか。取り合えずテストを受けたいから、色々と聞いてくるよ」
「そう、暑いから山代も気を付けて」
山代。透が言っていた、山代だ。
鷹峰と俺の隣を通り過ぎようとする。なにか、何か情報が欲しい。星は、山代と同じものに襲われたはずだ。
「山代」
呼び止めると、山代は足を止めて振り返った。
少しやつれてはいるが、顔色は悪くない。むしろ、休んでいたはずなのに、妙にすっきりして見える。
「社本か。久しぶり」
「体調、大丈夫なのか?」
「ああ。なんか急に楽になったんだよ」
軽い調子でそう言って、肩を回す。
「ずっとだるかったんだけど、突然すっと抜けた感じで治ってさ。親も驚いてたけど、それ以上に喜んでくれたよ」
「へえ……よかった。山代はいつ体調よくなった? もっと早めに来られたらよかったのに」
「それこそ、ついさっき。親に今日の日にちを聞いて、そんなに時間が経ってるとは思わなくて。やれることはやろうと思って、今から教科書を取りに行くんだ」
ついさっき。その言葉が、胸の奥に引っかかる。
星が倒れたのは、今日の放課後。一時間も経っていない。
鷹峰を見ると、視線が絡まった。きっと同じことを思いついたはず。
「テスト前でよかった。このまま休んでテストの点数もなくなったら、さすがに進路先もやばかったし」
その言い方は、どこまでも普通だ。普通すぎて、逆に現実感が薄い。
「さっき、星が倒れてさ」
言ってから、自分でも少しだけ躊躇した。でも、確かめたかった。
山代は一瞬だけ目を瞬かせて、うん、と頷いた。
「大丈夫だよ、たぶん」
根拠のない断言。でも、不思議と“知っている”ような言い方だった。
「そのうち戻るって。俺の前に休んだ園山さんとか戻ってきただろ。黒川さんとかみたいに退学とかはしてないし」
何から? そう喉の奥まで出かかった言葉を、飲み込む。
それに園山さんと黒川さんは、山代が休む大分前の話だ。
隣で鷹峰が俺と山代の間に入るように、一歩前に出た。
「……山代」
「ん?」
「本当に、それは“治った”と思ってるの?」
低い声だった。
山代は一瞬だけきょとんとして、それから小さく笑う。
「治ったっていうか、楽になっただけだよ。同じだろ?」
「……違う」
間を置かず鷹峰から返されたその一言に、空気がぴたりと止まる。けれど山代は気にした様子もなく、軽く手を振った。
「じゃ、俺行くわ。先生に色々聞かなきゃだし」
「あ、ああ」
そのまま、何事もなかったみたいに学校の方へ歩いていく。
後ろ姿はどこまでも普通で。普通なのに、なにかが決定的に違う。
「……鷹峰、同じこと思ってるよな」
思わず呟くと、隣から小さく息を吐く音がした。
「月森さんが倒れて、山代が戻ってきた」
言葉にしてみると、やけにしっくりきてしまう。心の中のもやもやしていたものが、ひとつ解かれたように。
「……偶然、じゃないよな」
答えを求めて鷹峰を見ると、「社本」と名前を呼ばれる。
「これは“偶然”で片付けていい種類のものじゃない」
視線が、小さくなった山代の背中に注がれている。
「……数があるのかもしれない」
「数?」
「怪異が同時に抱えられる数」
「じゃあ……」
言いかけて、やめる。
続きを考えると、最悪な解決方法しか思いつかない。
だって星を救えるのは、最低でもいま休んでいる人数の被害者が必要ってことだ。
鷹峰はそれ以上何も言わなかった。
ただ、俺の腕を軽く引く。
「今日は、早く帰ろう」
その声に逆らう気になれず、頷いた。
歩き出しても、さっきの光景が頭から離れない。
倒れた星。
“楽になった”と言った山代。
そして見えない何かが、今もどこかに“いる”という確信だけがはっきりと残っていた。
