君は透明、僕は不透明、僕らの人生は半透明。

『君は透明、僕は不透明、僕らの人生は半透明。』

足が重い。学校に行く気なんてとてもじゃないけど起きない。
だけど今日は高校二年生への進級の日。仕方ないから行くしかないのだ。
「はぁ……」
電車に揺られながらため息を一つ吐く。
ガタンゴトンガタンゴトン
電車の規則的な音が車内に響く。電車に乗っている人はまばらだ。いつもならもう少し乗っているはずなのに。
(俺の高校だけ始まるのが早いんだっけ……)
日野坂高校は俺の家から電車で二駅分離れたところにある。あえて親の反対を押し切り、少し離れた高校を選んだのだから、文句など言えるはずもない。
(音楽でも聴くかな…)
俺はスマホとイヤホンを出す。最近ハマっていることは、音楽を聴くこと。音楽を聴いていると、信じられないくらい落ち着いた気持ちになるからだ。
俺はスマホのロックを解除して、お気に入りの歌手さんを探す。
(あった!Yohane!!)
特徴的なアイコンと制作された10ほどの曲が表示される。
(今日も更新なしか…)
Yohaneさんのことは、数ヶ月前から追っている。まだ2曲しか出していなかった時から。俺はイチオシの曲の再生ボタンを押す。曲名は『夜風に当たって』だ。
ずっと聴いていると眠くなってしまいそうなくらい美しい曲だ。俺は曲を流すと共にぼんやりしてきた。
(学校……)
学校のことを考えると、行きたくなくて吐き気がしてくる。それでも行くしかない。
しばらくそんなことを考えてぼんやりしていると、降りる駅に着いた。やはり高校の最寄り駅は、同じ学校の人がたくさんいる。すると、肩をドンッと押された。俺がよろけると、押した人は「まじごめん」と言って、友達と去っていった。
「今日スカート短めにしてさぁ〜」
「えー似合ってる!」
きゃっきゃと話すその姿が眩しかった。俺は思わず、その姿を目で追ってしまった。自分とは正反対な、眩しすぎるその姿に。
昇降口につくと、クラス分けが発表されていた。俺は二組。
(二組って結構お調子もの揃ってね…?)
クラス分けの紙を見てそんな気がした。しかし、俺は教室に着くまではわからないと割り切ったのだ。
階段を上がり、二組に入る。すると、教室はもうすでに騒がしい系の人たちに支配されていた。
女子はほとんど騒がしい系で男子は二、三人一人でいるが、それ以外は騒がしい系だ。
(最悪……)
俺はどんよりした気分を席の位置で晴らそうと、黒板を見る。席は意外にハズレじゃなかった。しかし、俺の席に知らない男子が座っている。そして、女子と話しているのだ。
(席に座りたいのに……)
この時、俺はどうするか迷っていた。話しかけるか、退くのを待つか。しかし、退く確率は相当低いと思う。
(言うしかない…)
俺はその人たちに近づいて、
「そこ…俺の席なんで、どいて欲しいです…」
そういうと、男の子と女の子は、「は?」と言う目で俺を見てきた。俺はしまったと思った。二人から退く気配が全くないからだ。
「あ……」
俺が固まっていると、女の子の友達らしき人が近づいてきた。
「ほら、凛ちゃん、困ってるからあっちで話そ!勇太もほら!」
そう言って二人の手を引いていった。そして、彼女が俺の横を通り過ぎた瞬間、俺は衝撃で動けなくなった。

「ごめんね。席、座れなかったよね」

彼女はそう言ってきたのだ。彼女は一ミリも悪くないのに。
「朱音!なんか面白いことしてよ〜」
その少女は朱音と呼ばれていた。
「…朱音」
ぼそっと小さく言う。俺はクラス分けの名簿を見に、席を立つ。すると、名簿の真ん中より少し右あたりに『日野朱音』と書いてあった。
彼女の背中を少しの間見つめる。キラキラとした笑顔で笑い、友達と話すその姿はまさに俺が目指している星そのものだった。

「えー以上でホームルームを終わりにする」
先生がそう言うと同時に、全員が帰り出す。俺も帰る支度をする。
「青瀬、まったなー!」
そう言ってくれたのは、去年から同じクラスで仲のいい木野諒だ。運動もできて、勉強もそこそこでき、人当たりのいい、とてもいいやつだ。木野がいてくれたおかげで俺は今日一日、悲しむこともなく過ごせた。
(さて…帰るか……)
俺が教室を出ようとした瞬間、誰かに腕を引かれた。驚いて振り返ると、そこには日野朱音が立っていた。すると、彼女は申し訳なさそうに、
「ちょっといい?」
と言った。俺が頷くと、日野さんの後ろから、俺の席に座っていた男子と女子が出てきた。
「ほら、凛ちゃん、勇太」
日野さんに促されて、二人は俺に頭を下げた。
「朝は本当にごめんなさい!」
まず凛ちゃんと呼ばれた人物がそういった。俺が困惑していると、雄太と呼ばれた方も、
「ひどい態度とって悪かった…」
と言った。
「気分悪くなってたなら本当にごめん!」
そう言って女子と男子は再び頭を下げた。俺は手をブンブン振って、
「そんなことないですよ…」
と言った。すると、日野さんが
「昇降口で待ってて」
と言って、二人を外へ出るように促した。そして、教室には日野さんと俺とで二人きり。
「えっと…青瀬くん?だよね」
突然そう言われて、俺は勢いよく頷く。すると、彼女は少しだけ笑みを溢した。
「朝は本当にごめんね…」
また彼女は俺に謝った。彼女は悪くないのに。
「日野さんは悪くないよ」
俺ができるだけ柔らかく言うと、日野さんはふわりと笑顔を浮かべて、
「ありがとう、またね」
と言って教室を出ていった。俺は教室にある日野さんの残像を見つめていた。


『この度Yohaneは活動休止します。応援してくれているみなさん、私の復活を待っていてくださると嬉しいです。いつか絶対に戻ってきますから』 
学校帰り、電車に揺られながらスマホを開くとこう書かれていた。Yohaneさんが活動休止を発表したのだ。
「えっ……」
思わず声が出た。驚きと悲しみと絶望とそのほかのいろいろな感情が混ざった一言だった。
(Yohaneさんがいたから頑張れたのに……)
俺が悲しんでいると、誰かのコメントが目に入った。
『Yohaneさん大丈夫でしょうか?……もしかして引退するんですか?それとも他に何かやむを得ない事情が……?』
俺の心臓が跳ねた気がした。
(もし、引退発表があったら……)
とてもじゃないけど耐えられない。悲しみに打ちひしがれるだろう。
(あ……)
今日は何もいいことが起こっていない。

いや、一つある。

日野さんにあったことだ。
彼女に出会ったことはなぜだかわからないが運命な気がした。
(運命なわけないだろ…自意識過剰も程々にしろよ……)
俺は自分に毒を吐いた。