アイドルファンの幼馴染

 バイト先のファミレスが忙しすぎて、時間通りにあがれなかった。店が落ち着いてきたら急いで着替え、走って家に向かう。
 走りながら腕時計で時間を確認した。急げば間に合う。必死に走って家に着くと姉さんの部屋に駆け込んだ。

奏斗(かなと)おかえり、遅かったね」
「お店が忙しくて。よかった、間に合った」

 姉さんの隣に腰掛ける。テレビ画面には大きく時間が映し出されており、数字がどんどん小さくなっていく。まだ三分ある。自分の部屋に行き、手作りのうちわを掴んで姉さんの部屋に戻った。姉さんもうちわを両手に持ち、応援の準備万端。
 僕は姉さんの影響で『レイズ』という四人組の男性アイドルグループにハマっている。姉さんに沼へ落とされた。箱推しではあるが、ツーブロックで明るい茶髪のパーマ、圧倒的に顔が良い華やかなイケメン、リオンくんに夢中だ。もちろんリオンくんのうちわを持っている。
 今日はレイズの雑談生配信がある。アーカイブでももちろん見るけど、リアタイ視聴したくてバイトの時間も調整していた。それなのに今日に限って時間通り帰れなかった。間に合ったから良かったけど。
 始まる前にシャワーを浴びて油のにおいを落としたかったが、それは諦めた。レイズより優先するものなんてない。
 テレビ画面のカウントがゼロになる。画面が切り替わると姉さんが画面に向かってうちわを振り回しながら叫び出した。姉さんの推しであるアズサくんの名前を何度も。

『こんばんは、レイズです。見えていますか? 声は聞こえていますか?』

 画面の向こうからアズサくんが手を振る。

「聞こえてるよアズサ!」

 聞こえもしないのに姉さんは声を張り上げる。コメントを打ち込めばいいのに。
 姉さんのことは放っておいて、僕はアズサくんとシンくんの二人しか映っていないことが気になった。

『時間になったから始めたけど、リオンとユイトは仕事で遅れるって』

 僕の心を読んだかのようなタイミングでシンくんが説明してくれる。『あと十分待って』とリオンくんのコメントが流れた。
 アズサくんとシンくんが近況を話し始める。二人ともカッコよくて話も面白くて、あっという間に十分が経っていたらしい。リオンくんとユイトくんが両サイドから顔を覗かせる。カメラに近すぎるため、大画面に二人のドアップが映し出された。口元を手で覆うことによって叫ぶのを回避する。至近距離でもリオンくんとユイトくんは変わらずカッコいい。四人とも顔が良すぎるから、国宝として国が保護した方がいい!

『こんばんは、ユイトです。遅くなってごめんなさい』
『リオンです。遅刻したけどいい仕事したから褒めて』

 リオンくんとユイトくんを称賛するコメントが流れる。わかる、とコメントを噛み締めたいのに流れが早すぎて全部追えない。
 リオンくんとユイトくんが手を振って横に捌ける。再びアズサくんとシンくんが映った。その後ろでリオンくんとユイトくんが小声で何かを話して笑い合っている。仲が良いな、と微笑ましく思っていたら、リオンくんの上着をユイトくんが脱がせてあげてハンガーに掛けた。
 僕は目を丸くする。元々メンバー全員が仲が良いことで有名だけど、こんなやりとりは初めて見た。いつもリオンくんは上着を脱いだらソファに置いていた。ユイトくんはハンガーに掛けるけど、それは自分の上着だけだった。仲が良いというだけではない。もしかしてユイトくんとリオンくんは付き合ってる?

「ねぇ、今のリオンくんとユイトくんのこと」
「静かにして! せっかく四人集まったんだから話しかけるの後にして!」

 姉さんの意見も聞きたかったけど、僕の話を聞く気は無いようで画面に釘付けのまま止められた。姉さんは多分アズサくんしか見ていなくて気付いていない。
 僕はリオンくんとユイトくんが気になりすぎて二人のことばかり見てしまう。四人とも元々パーソナルスペースが狭かったからか、距離が近くても違和感がない。
 一時間が経つ頃、コンサートの裏側の話をしてくれた。僕は一公演だけ当たったから、姉さんと二人で観に行く。姉さんは全部外れたから僕はすごく崇められた。

『コンサートでみんなに会えるの楽しみにしてるよ』
『会いに来てね』

 レイズの四人が手を振り、配信が終了した。
 画面が暗くなって大きく息を吐き出す。いつもはうちわを振りながら見るのに、今日はリオンくんとユイトくんの絡みを見逃さないように画面を食い入るように見すぎて、うちわの存在を忘れていた。

「ねぇ奏斗、途中で何を言おうとしたの?」

 僕は姉さんにリオンくんとユイトくんのやり取りを話した。

「え? なにそれ?」

 姉さんはSNSを開く。リオンくんとユイトくんの上着の呟きをいくつも見つけて肩を落としていた。

「私もリアタイでリオンとユイトの関係を勘ぐりたかった」

 少し待ってアーカイブが見られるようになるとすぐに見直す。姉さんと二人でユイトくんがリオンくんの上着を脱がせる場面を何度も再生しては盛り上がった。

「ユイトが嫁にしか見えない」
「イケメン同士でお似合いだよね」

 夜遅くまで語り合って、ベッドに入っても興奮しすぎてなかなか寝付けなかった。次の日は一限から授業があるのに。