上空4メートルで君に会えたら

9月4日
 
別館裏のテラスで葉月は一人、額にうっすら汗をかきながら作文用紙に向かっていた。
「葉月」後ろから烏丸が身をかがめて、課題をのぞき込む。
「手書きの課題か。嵐山先生?」
「あたり。読書感想文が夏休みの課題にあったのを忘れてた。5時間目に提出」
「読書感想文?僕たちの時には無かった、へぇ……」
「読まないで、先輩」
「アハハ、ごめん。邪魔しない」烏丸は自分の弁当を出して、葉月の方を見ないようにしながら食べ始めた。
「終わったー」作文用紙をファイルにしまい、弁当を出す。サンドイッチとフルーツ。大粒の緑色のブドウは保冷剤のおかげでよく冷えている。
「変なこと聞いていいかな、葉月のファーストキスって平太?」
「あのキスをファーストキスにカウントすると、足立先輩のファーストキスも俺になるんです。だから足立先輩と話し合って、ノーカウントになってる」
「葉月のファーストキスは平太か」
「ちゃんと話聞いてる?」
「うん。葉月、こっち向いて」葉月は烏丸の口にぶどうを押し込んだ。
「飯食ってる時にはキスしない」
「平太とは試合中にキスするのに?」
「うぜー」口元をタオルで拭い、葉月は烏丸の口の端にキスした。別館裏のテラスには誰もいない。話を聞かれる心配も、見られる心配もなかった。
暑い風が吹き、烏丸の髪をなぶり、優しげな目が眇められ、葉月の口の端にも一つキスが落ちた。
「夏って感じがしてきた。葉月と海に行きたい」
「烏丸先輩、もう9月」
「葉月がいれば、夏」
「なんすか、それ」葉月は思わず笑い、弁当の続きを食べ始めた。