悠木園の展示を見回り、いよいよ最後に今回のメインであるひまわり畑に向かった。
「すっげぇ!!!!!」
ひまわり畑は圧巻だった。見渡す限り、黄色の海。東京ドーム以上の大きさ一面にひまわりが咲いている。この景色を見られただけで、遠路はるばるやってきた意味があった。そう思わされるほどの力を持っていた。
「こっち、入っていけるみたいだよ」
榎本が指差す方には、ひまわり畑へと続く小道が整備されているようだった。
「行く!!!」
小道を進むと、十字路に突き当たった。現在地を示すマークがついた地図の看板が設置されている。どうやら小道は四方に張り巡らされており、来場者が自由にひまわり畑の中を散策できるようになったいるようだ。
「奥、進んでみる?」
「おう!順路ないみたいだし、こっちから行くか!」
俺は興奮気味に榎本の手を引いて、ひまわり畑の奥へと入っていた。
さすがの広さ、といったところか。ひまわり畑を見渡していた展望台にはたくさんいた人々も、今は視界に入ってこない。両側にひまわりが咲き誇る道を二人で歩いた。雲ひとつない青空に太陽が煌めき、それに向かってひまわりざが背伸びしているように見える。
「素敵だね」
俺の顔を覗き込んで、榎本が言った。
「うん、照らされたひまわりがキラキラしてるのも、空の青に黄色が映えるのも、全部。全部綺麗だ」
ちょっとくさい表現をしてしまったと思ったが、榎本は「そうだね」と微笑んで、咲いているひまわりに視線を移した。
「来年はこれないだろうなあ」
「受験生だもんね」
自分から口に出しておいて、"受験生"という単語に気が重くなった。
「瑞季は志望校決めた?」
「うん、まぁ、国公立で農学部があるとこ、かな」
「植物の勉強?」
「まあ、そんなとこ」
声のトーンが落ちたのが自分でもわかった。
二年後、俺は何をしているのだろう。
突如として不安の波が襲ってきた。
俺の家系は父が開業医、母は放射線技師という医療一家。おまけに父方は祖父母の代まで医療従事者という家系だった。母は小さい頃から医者になるようにと教育熱心だったが、俺は医者になりたいと思ったことはなかった。そして、そんな才能がないこともすぐにわかった。塾や学校にいる優秀な同級生には、どんなに努力しても届かなかった。俺とは対照的に、弟はとても優秀だった。現在は毎年難関大学への合格者を輩出している中高一貫校へ通っている。
弟の才能に嫉妬したこともあったが、正直ほっとした部分の方が大きかった。ずっと俺へ向いていた母の関心が弟に移ったからだ。親の期待を一新に背負う弟の立場を思えば、こんなことを考えるのは良くないのだろうが、やりたくもないことを目指して勉強することは苦痛でしかなかった。
農学部に進みたいことを両親に話した時の落胆した表情は忘れられない。医療系に進まないなら学費は出さないとまで言われた。それを救ってくれたのがおばさんだった。花屋でバイトして溜めればいい、足りない分は出すとまで言ってくれた。本当に叔母には頭が上がらない。
「瑞季?」
「え、ごめん。なんだっけ」
「どんなことできるの、農学部って」
「〜〜ってまあ、今の成績じゃ厳しいって言われてるし、できるかわかんねえけど」
「やりたいこと決まってるの素敵じゃん、瑞季ならできるよ」
一瞬時が止まったように感じた。純粋に、やりたいことをできると誰かに肯定してもらえたのが嬉しかった。
固まる俺に、榎本が優しい表情で笑いかけてくる。
「……ッ」
全身の熱が顔に集まっていくのを感じた。
「顔赤いよ、焼けた?影行こっか?」
「い、いや!あ、うん!そうかも!暑くなってきたし涼しいところ行こ!!!!」
影を求めて、来た道を戻る。先を行く俺の後を、榎本がついてきていることはわかった。
心臓がバクバクとうるさい。後ろを振り返ることができない。
なんで、なんで。今までこんなことなかったのに。
小走りで榎本が隣に追いついてきた。平常を装い、榎本に話しかける。
「そ、そういう榎本はどうなんだ?」
「ん?」
「志望校」
「俺は……法学部かな、大学はまだ決めてない」
「そうなんだ、弁護士になるのか?」
「まあ、そんなとこ」
はぐらかされた気がした。
「あ、あそこのベンチ座れそう。いこ?」
俺はうなづいて、ベンチを目指した。
しばらくベンチで休み、平常心を取り戻した俺は、その後目一杯ひまわり畑を楽しみ、待ち合わせた駅まで戻ってきた。
「は〜〜〜大満足!!!珍しい品種の花も見れたし、何しろひまわり畑が圧巻だった!!!」
榎本はずっと俺の体調を心配してくれている様子で、スポーツドリンクを買ってくれたり、こまめに休憩を提案してくれた。あいつがモテる理由がわかった気がする。
「すごかったね、俺も見たの初めてだった」
「じゃあ、俺こっちだから」
帰る方面のホームを指して、榎本につたえる。
すると、榎本は口角をうっすらとあげ、こちらに伝えてくる。
「ホームまで大丈夫?」
「え?なんで?」
「また人に流されるかもしれないじゃん」
数秒、何のことを言っているのかわからずフリーズする。そして、待ち合わせした時に人に流されたことを思い出し、揶揄われてるのに気づいた。
「もうそんなに人いねえよ!!じゃあな!」
呼ぶ声に振り返らず、ホームへと降りていった。
くっそ、ちょっといいやつかと思ったのに!すぐ軽口を叩いたり、おちょくったりするのは変わっていない。でも…___
「やりたいこと決まってるの素敵じゃん、瑞季ならできるよ」
電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえた。
1日と思えないくらいたくさんのことを感じた日だった。
電車の扉が開く。今日の日に思いを馳せる。
見たことないほど綺麗なひまわり畑を見たはずなのに、最初に思い浮かべたのは、優しくこちらを見つめる榎本の笑顔だった。
「すっげぇ!!!!!」
ひまわり畑は圧巻だった。見渡す限り、黄色の海。東京ドーム以上の大きさ一面にひまわりが咲いている。この景色を見られただけで、遠路はるばるやってきた意味があった。そう思わされるほどの力を持っていた。
「こっち、入っていけるみたいだよ」
榎本が指差す方には、ひまわり畑へと続く小道が整備されているようだった。
「行く!!!」
小道を進むと、十字路に突き当たった。現在地を示すマークがついた地図の看板が設置されている。どうやら小道は四方に張り巡らされており、来場者が自由にひまわり畑の中を散策できるようになったいるようだ。
「奥、進んでみる?」
「おう!順路ないみたいだし、こっちから行くか!」
俺は興奮気味に榎本の手を引いて、ひまわり畑の奥へと入っていた。
さすがの広さ、といったところか。ひまわり畑を見渡していた展望台にはたくさんいた人々も、今は視界に入ってこない。両側にひまわりが咲き誇る道を二人で歩いた。雲ひとつない青空に太陽が煌めき、それに向かってひまわりざが背伸びしているように見える。
「素敵だね」
俺の顔を覗き込んで、榎本が言った。
「うん、照らされたひまわりがキラキラしてるのも、空の青に黄色が映えるのも、全部。全部綺麗だ」
ちょっとくさい表現をしてしまったと思ったが、榎本は「そうだね」と微笑んで、咲いているひまわりに視線を移した。
「来年はこれないだろうなあ」
「受験生だもんね」
自分から口に出しておいて、"受験生"という単語に気が重くなった。
「瑞季は志望校決めた?」
「うん、まぁ、国公立で農学部があるとこ、かな」
「植物の勉強?」
「まあ、そんなとこ」
声のトーンが落ちたのが自分でもわかった。
二年後、俺は何をしているのだろう。
突如として不安の波が襲ってきた。
俺の家系は父が開業医、母は放射線技師という医療一家。おまけに父方は祖父母の代まで医療従事者という家系だった。母は小さい頃から医者になるようにと教育熱心だったが、俺は医者になりたいと思ったことはなかった。そして、そんな才能がないこともすぐにわかった。塾や学校にいる優秀な同級生には、どんなに努力しても届かなかった。俺とは対照的に、弟はとても優秀だった。現在は毎年難関大学への合格者を輩出している中高一貫校へ通っている。
弟の才能に嫉妬したこともあったが、正直ほっとした部分の方が大きかった。ずっと俺へ向いていた母の関心が弟に移ったからだ。親の期待を一新に背負う弟の立場を思えば、こんなことを考えるのは良くないのだろうが、やりたくもないことを目指して勉強することは苦痛でしかなかった。
農学部に進みたいことを両親に話した時の落胆した表情は忘れられない。医療系に進まないなら学費は出さないとまで言われた。それを救ってくれたのがおばさんだった。花屋でバイトして溜めればいい、足りない分は出すとまで言ってくれた。本当に叔母には頭が上がらない。
「瑞季?」
「え、ごめん。なんだっけ」
「どんなことできるの、農学部って」
「〜〜ってまあ、今の成績じゃ厳しいって言われてるし、できるかわかんねえけど」
「やりたいこと決まってるの素敵じゃん、瑞季ならできるよ」
一瞬時が止まったように感じた。純粋に、やりたいことをできると誰かに肯定してもらえたのが嬉しかった。
固まる俺に、榎本が優しい表情で笑いかけてくる。
「……ッ」
全身の熱が顔に集まっていくのを感じた。
「顔赤いよ、焼けた?影行こっか?」
「い、いや!あ、うん!そうかも!暑くなってきたし涼しいところ行こ!!!!」
影を求めて、来た道を戻る。先を行く俺の後を、榎本がついてきていることはわかった。
心臓がバクバクとうるさい。後ろを振り返ることができない。
なんで、なんで。今までこんなことなかったのに。
小走りで榎本が隣に追いついてきた。平常を装い、榎本に話しかける。
「そ、そういう榎本はどうなんだ?」
「ん?」
「志望校」
「俺は……法学部かな、大学はまだ決めてない」
「そうなんだ、弁護士になるのか?」
「まあ、そんなとこ」
はぐらかされた気がした。
「あ、あそこのベンチ座れそう。いこ?」
俺はうなづいて、ベンチを目指した。
しばらくベンチで休み、平常心を取り戻した俺は、その後目一杯ひまわり畑を楽しみ、待ち合わせた駅まで戻ってきた。
「は〜〜〜大満足!!!珍しい品種の花も見れたし、何しろひまわり畑が圧巻だった!!!」
榎本はずっと俺の体調を心配してくれている様子で、スポーツドリンクを買ってくれたり、こまめに休憩を提案してくれた。あいつがモテる理由がわかった気がする。
「すごかったね、俺も見たの初めてだった」
「じゃあ、俺こっちだから」
帰る方面のホームを指して、榎本につたえる。
すると、榎本は口角をうっすらとあげ、こちらに伝えてくる。
「ホームまで大丈夫?」
「え?なんで?」
「また人に流されるかもしれないじゃん」
数秒、何のことを言っているのかわからずフリーズする。そして、待ち合わせした時に人に流されたことを思い出し、揶揄われてるのに気づいた。
「もうそんなに人いねえよ!!じゃあな!」
呼ぶ声に振り返らず、ホームへと降りていった。
くっそ、ちょっといいやつかと思ったのに!すぐ軽口を叩いたり、おちょくったりするのは変わっていない。でも…___
「やりたいこと決まってるの素敵じゃん、瑞季ならできるよ」
電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえた。
1日と思えないくらいたくさんのことを感じた日だった。
電車の扉が開く。今日の日に思いを馳せる。
見たことないほど綺麗なひまわり畑を見たはずなのに、最初に思い浮かべたのは、優しくこちらを見つめる榎本の笑顔だった。
