「あっぢぃ」
真夏日らしく、最高気温35度を超えるとの予報だ。日陰を選んで歩いているはずなのに、自然と額に汗が滲んだ。俺は悠木園のひまわり畑をみるために、榎本との集合場所である駅を目指していた。開演時間や行き方、集合場所などは全て榎本が調べて連絡してくれた。あの日、逃げ帰ってしまった俺から連絡するのはなんとなく気まずかったので、全部決めてくれたのは正直助かった。
榎本が集合場所にしていた駅前のロータリーはよく集合場所に利用されているらしい。スマホと周囲を交互に見て、待ち合わせ相手を探している人が多く見られた。
時刻は午前10時45分。思ったより早く駅に着くことができた。俺はスマホを取り出し、榎本に「ついた」とメッセージを送った。
ピコン。
すぐに返信がきた。
「俺も着いてる!噴水の前にいるよ」
俺も結構早く着いたと思ってたのにもういるんだ。時間にはしっかりしたタイプなんだな。
そんなことを考えながら噴水の方に目を向けると、人混みの中に一際目を引く人物がいた。
モデルか……?
すらっと伸びた背に、落ち着いた色味のシャツと細身のパンツ。無駄のないシルエットがよく似合っている。周りから「あの人かっこよくない?」「モデルかな?」など、ヒソヒソ話す声が聞こえた。自分の服を見て、同じ人間でもこうも違うのかと考えていると、その人物と目があった。
やば、見すぎた。
その人物は俺の方に歩いてくる。
なに?俺いきなり絡まれる?たまたま目があっただけで特に変な意味はないんです。許して。
心の中で怯えつつ、せめてもの抵抗としてショルダーバッグで顔を隠した。
「…ずき、瑞季!」
俺を呼ぶ声に恐る恐るバッグを下げ、足の方からだんだんと視線を上げた。
ん?この服ってさっきいたモデルの…?
「よかった!見つけられた!」
顔まで視線を上げれば、そこには榎本がいた。固まる俺を気にする様子もなく、榎本は続けた。
「人多いから見つけられるか不安だったよ」
制服姿しか見たことなかったからとはいえ、モデルと見間違えるなんて。スタイルの良さを実感させられてる気がして悔しい。
「瑞季?」
「あ、いや、なんか私服新鮮だと思って…」
「かっこいい?惚れてもいいぜ?」
「うるさい」
いつもの調子でふざける榎本に肩の力が抜けた。榎本相手に緊張している自分がいて変な感じだ。
「瑞季の私服も初めてみるかも。可愛いね?」
「褒めてないだろ」
なんだ可愛いって。こいつ自分がいい感じだからって揶揄ってるな。
「褒めてるよ!」
ふん、と大袈裟に拗ねたふりをする榎本。よかった。いつも通り話せてる。今日の俺、なんか変だ。
ふと、視線が榎本のバッグについてキーホルダーにいった。編まれたひまわりモチーフのキーホルダーのようだ。
「これ」
俺はキーホルダーを手に取って、榎本に視線を向けた。一瞬、榎本の表情が強張った気がした。
「可愛い、どこで買ったの?」
「あ、え……っと、もらった」
「そうなんだ」
「人多いからはぐれないようにね」
「俺のこといくつだと思ってんだよ」
そう言っていた矢先、ドンと体がぶつかった。
「すみませ」
素通りしていく人を見送り、ハッとして榎本を探す。構内はロータリーより人通りが多く、すぐには見つからない。メッセージを送ろうとスマホを取り出したところで、その手を誰かに掴まれた。
「ほら、言った通りだ」
声のする方に顔をあげれば、肩で息をした榎本がいた。
「わ、悪い」
「いいよ、見つかってよかった。行こっか」
榎本は掴んだ俺の手に、自身のシャツの裾を掴ませた。
「ホームまでここ掴んでて」
なんとなく無言。前を行く榎本の背中をはぐれないようについていった。
電車を乗り継ぎ、さらにバスに揺られること20分。悠木園はその土地の大きさからか、郊外にある。バスの車窓が緑に変わっていく様子も新鮮だった。
道中、榎本とは他愛のない話をしていた。駅前にできた美味しいケーキ屋の話、最近見た映画の話、(もう一つくらい話題欲しい)。思えば、榎本と花壇作り以外にこんなに会話したのは初めてかもしれない。バス車内、窓の景色を眺める榎本を横目に、そんなことを考えていた。
「すげー!!!」
目の間に広がる光景に、つい感嘆の声が漏れた。悠木園のロビーでは、植物園らしく色とりどりの花が俺たちを出迎えてくれた。お昼を少し回ったころだからか、人でごった返している印象はない。
次から次に場所を変えて花壇を楽しむ俺に、榎本は時々質問しながらついてきてくれた。楽しめているのかと一瞬不安にもなったが、誘ってくれたし大丈夫か、と楽観的に捉えることにした。
「あ…」
ふと花壇の先にあるワゴンに目がいった。隣には「悠木園限定 ミルクアイスクリーム」と書かれたのぼりが上がっている。
う、限定…アイス……。どれも俺の好きな響きだ。
「どうしたの?」
「あ、いやなんでもない」
ちょっと食べたいけど、もうすぐご飯食べるし、これじゃあ俺が振り回してばっかだ。
「そう?あ、俺ちょっとトイレ」
「じゃあ、この辺見とくね」
榎本が去った後、花を見てる。悠木園では、それぞれの花に職員が紹介のプレートをかけてくれいる。これの言葉遣いも面白いと聞き、楽しみにしていた。背の低いプレートをしゃがみ込んで読む。
「瑞季」
榎本が隣にしゃがんだ気配がした。
「はい」
「え?」
目の前には、アイスクリームが差し出されていた。
「あっちのワゴンで売ってた。どっちがいい?ミルクとチョコ」
「じゃあ、ミルク」
「ん」
トイレってさっきのワゴンと反対側じゃ…。もしかして、俺が食べたそうにしてたの気づいた?
「早く食べないと溶けるよ?今日暑いし」
「あ、うん。ありがとう。いただきます…」
暑い中にアイスが沁みる。口の中に甘いミルクが広がって、鼻に抜ける香りも
「うま」
「ふふ、よかった。……あ、」
榎本の手がこちらに伸びてきたかと思えば、俺の口元をそっと拭った。
「食べ方、豪快だね?」
何をされたか理解するまでに数秒かかった。
「!!」
急いでティッシュを取り出し、指についたアイスを拭う。
「ふふ」
固まる俺に榎本はニコリと微笑んだ。
「行くぞ!」
「あ、待ってよ〜」
言いようのない気まずさを隠すために、園の奥へと進んでいった。
ロビーから少し進んだところに、園内マップが置かれていた。それを眺めていると、後ろから追いついてきた榎本から声がかかる。
「どこから行く?」
「やっぱひまわり畑は最後にとっときたいよな、となると、お!この花のトンネルやばい!〇〇が複数色咲いてるらしい!」
あれ?反応がない。熱量凄すぎて引かれた?
表情を伺うように、恐る恐る榎本の顔を覗き込んだ。
「ぷ」
「ん?」
「感情、顔に出過ぎ」
堪えきれないといった様子で、目にうっすら涙を溜め無邪気に笑ってる。
なんだ、こんな顔もするんだ。笑った顔、ちょっと可愛いかも。
ん?可愛い?
「じゃあ、トンネルから行こ!」
榎本は俺の手首を掴んで、花のトンネルがある方へと歩みを進めた。俺はなんとなくこの手を振り払う気にはなれず、導かれるまま榎本の後ろをついていった。
真夏日らしく、最高気温35度を超えるとの予報だ。日陰を選んで歩いているはずなのに、自然と額に汗が滲んだ。俺は悠木園のひまわり畑をみるために、榎本との集合場所である駅を目指していた。開演時間や行き方、集合場所などは全て榎本が調べて連絡してくれた。あの日、逃げ帰ってしまった俺から連絡するのはなんとなく気まずかったので、全部決めてくれたのは正直助かった。
榎本が集合場所にしていた駅前のロータリーはよく集合場所に利用されているらしい。スマホと周囲を交互に見て、待ち合わせ相手を探している人が多く見られた。
時刻は午前10時45分。思ったより早く駅に着くことができた。俺はスマホを取り出し、榎本に「ついた」とメッセージを送った。
ピコン。
すぐに返信がきた。
「俺も着いてる!噴水の前にいるよ」
俺も結構早く着いたと思ってたのにもういるんだ。時間にはしっかりしたタイプなんだな。
そんなことを考えながら噴水の方に目を向けると、人混みの中に一際目を引く人物がいた。
モデルか……?
すらっと伸びた背に、落ち着いた色味のシャツと細身のパンツ。無駄のないシルエットがよく似合っている。周りから「あの人かっこよくない?」「モデルかな?」など、ヒソヒソ話す声が聞こえた。自分の服を見て、同じ人間でもこうも違うのかと考えていると、その人物と目があった。
やば、見すぎた。
その人物は俺の方に歩いてくる。
なに?俺いきなり絡まれる?たまたま目があっただけで特に変な意味はないんです。許して。
心の中で怯えつつ、せめてもの抵抗としてショルダーバッグで顔を隠した。
「…ずき、瑞季!」
俺を呼ぶ声に恐る恐るバッグを下げ、足の方からだんだんと視線を上げた。
ん?この服ってさっきいたモデルの…?
「よかった!見つけられた!」
顔まで視線を上げれば、そこには榎本がいた。固まる俺を気にする様子もなく、榎本は続けた。
「人多いから見つけられるか不安だったよ」
制服姿しか見たことなかったからとはいえ、モデルと見間違えるなんて。スタイルの良さを実感させられてる気がして悔しい。
「瑞季?」
「あ、いや、なんか私服新鮮だと思って…」
「かっこいい?惚れてもいいぜ?」
「うるさい」
いつもの調子でふざける榎本に肩の力が抜けた。榎本相手に緊張している自分がいて変な感じだ。
「瑞季の私服も初めてみるかも。可愛いね?」
「褒めてないだろ」
なんだ可愛いって。こいつ自分がいい感じだからって揶揄ってるな。
「褒めてるよ!」
ふん、と大袈裟に拗ねたふりをする榎本。よかった。いつも通り話せてる。今日の俺、なんか変だ。
ふと、視線が榎本のバッグについてキーホルダーにいった。編まれたひまわりモチーフのキーホルダーのようだ。
「これ」
俺はキーホルダーを手に取って、榎本に視線を向けた。一瞬、榎本の表情が強張った気がした。
「可愛い、どこで買ったの?」
「あ、え……っと、もらった」
「そうなんだ」
「人多いからはぐれないようにね」
「俺のこといくつだと思ってんだよ」
そう言っていた矢先、ドンと体がぶつかった。
「すみませ」
素通りしていく人を見送り、ハッとして榎本を探す。構内はロータリーより人通りが多く、すぐには見つからない。メッセージを送ろうとスマホを取り出したところで、その手を誰かに掴まれた。
「ほら、言った通りだ」
声のする方に顔をあげれば、肩で息をした榎本がいた。
「わ、悪い」
「いいよ、見つかってよかった。行こっか」
榎本は掴んだ俺の手に、自身のシャツの裾を掴ませた。
「ホームまでここ掴んでて」
なんとなく無言。前を行く榎本の背中をはぐれないようについていった。
電車を乗り継ぎ、さらにバスに揺られること20分。悠木園はその土地の大きさからか、郊外にある。バスの車窓が緑に変わっていく様子も新鮮だった。
道中、榎本とは他愛のない話をしていた。駅前にできた美味しいケーキ屋の話、最近見た映画の話、(もう一つくらい話題欲しい)。思えば、榎本と花壇作り以外にこんなに会話したのは初めてかもしれない。バス車内、窓の景色を眺める榎本を横目に、そんなことを考えていた。
「すげー!!!」
目の間に広がる光景に、つい感嘆の声が漏れた。悠木園のロビーでは、植物園らしく色とりどりの花が俺たちを出迎えてくれた。お昼を少し回ったころだからか、人でごった返している印象はない。
次から次に場所を変えて花壇を楽しむ俺に、榎本は時々質問しながらついてきてくれた。楽しめているのかと一瞬不安にもなったが、誘ってくれたし大丈夫か、と楽観的に捉えることにした。
「あ…」
ふと花壇の先にあるワゴンに目がいった。隣には「悠木園限定 ミルクアイスクリーム」と書かれたのぼりが上がっている。
う、限定…アイス……。どれも俺の好きな響きだ。
「どうしたの?」
「あ、いやなんでもない」
ちょっと食べたいけど、もうすぐご飯食べるし、これじゃあ俺が振り回してばっかだ。
「そう?あ、俺ちょっとトイレ」
「じゃあ、この辺見とくね」
榎本が去った後、花を見てる。悠木園では、それぞれの花に職員が紹介のプレートをかけてくれいる。これの言葉遣いも面白いと聞き、楽しみにしていた。背の低いプレートをしゃがみ込んで読む。
「瑞季」
榎本が隣にしゃがんだ気配がした。
「はい」
「え?」
目の前には、アイスクリームが差し出されていた。
「あっちのワゴンで売ってた。どっちがいい?ミルクとチョコ」
「じゃあ、ミルク」
「ん」
トイレってさっきのワゴンと反対側じゃ…。もしかして、俺が食べたそうにしてたの気づいた?
「早く食べないと溶けるよ?今日暑いし」
「あ、うん。ありがとう。いただきます…」
暑い中にアイスが沁みる。口の中に甘いミルクが広がって、鼻に抜ける香りも
「うま」
「ふふ、よかった。……あ、」
榎本の手がこちらに伸びてきたかと思えば、俺の口元をそっと拭った。
「食べ方、豪快だね?」
何をされたか理解するまでに数秒かかった。
「!!」
急いでティッシュを取り出し、指についたアイスを拭う。
「ふふ」
固まる俺に榎本はニコリと微笑んだ。
「行くぞ!」
「あ、待ってよ〜」
言いようのない気まずさを隠すために、園の奥へと進んでいった。
ロビーから少し進んだところに、園内マップが置かれていた。それを眺めていると、後ろから追いついてきた榎本から声がかかる。
「どこから行く?」
「やっぱひまわり畑は最後にとっときたいよな、となると、お!この花のトンネルやばい!〇〇が複数色咲いてるらしい!」
あれ?反応がない。熱量凄すぎて引かれた?
表情を伺うように、恐る恐る榎本の顔を覗き込んだ。
「ぷ」
「ん?」
「感情、顔に出過ぎ」
堪えきれないといった様子で、目にうっすら涙を溜め無邪気に笑ってる。
なんだ、こんな顔もするんだ。笑った顔、ちょっと可愛いかも。
ん?可愛い?
「じゃあ、トンネルから行こ!」
榎本は俺の手首を掴んで、花のトンネルがある方へと歩みを進めた。俺はなんとなくこの手を振り払う気にはなれず、導かれるまま榎本の後ろをついていった。
