榎本とは2ヶ月近くまともに話していない。テスト期間を言い訳にして、逃げ続けている。
LINEも、声をかけられるのも、全部わかっていて見ないふりをした。
気まずい、のか?
……いや、違う。
「め、菖蒲!」
「わ」
「またぼーとして。最近多いな」
「…ごめん」
胸の奥がざわつく。
気づけば口からこぼれていた。誰に向けた言葉だったのか、自分でもわからない。
何をしていても、意識がどこかに引っ張られる。考えないようにしているのに、勝手に浮かんでくる。
「なぁ、榎本と喧嘩でもした?仲良かったじゃん」
「喧嘩、か」
その言葉に、小さく引っかかる。
喧嘩なんてしていない。ただ俺が、一方的に___
あの日の光景が、脳裏に浮かぶ。
四宮と榎本が並んでいた。
距離が近くて、当たり前みたいに笑っていて。
胸の奥がざわつく。
「まぁ、ちゃんと話せよ?なんか四宮がずっとお前らの話するんだ」
「四宮くん?彰人、四宮くんと仲良かったんだ」
「うーん、まぁ、仲良いっていうか。バスケ部の奴らが野球部と仲良くて、それで話すだけかな」
……あれ
「そうなんだ」
「彰人〜!部活行くぞ〜!」
「あいよ〜!」
「じゃあな!仲直りしろよ!」
喧嘩なんてしていない。でも、壊したのは確実に俺だ。
四宮くんが誰と話していてもが、今まで気にしたことなんてなかった。さっきだって、名前を聞いても何も思わなかった。
なのに、あの時だけ。
『紫苑』
榎本の肩に回された腕。
距離の近さ。
無防備な横顔。
一瞬で、胸の奥がざわついた。理解が追いつかないまま、もやもやとした感情だけが残る。
気づけは、自然と足が花壇に向かっていた。
花壇のそばにしゃがむ。サイネリア。榎本が植えたいと言っていた花。ふと目を凝らすと、小さな芽が顔を出していた。
「やぁ、こんにちは、君は2組の子かな?」
その声に顔をあげた。そこには、作業着の用務員さんが荷台を押す姿があった。
「こんにちは。そうです」
用務員さんは「そうかい」と軽く微笑み、俺たちの花壇の様子を観察し始めた。
「発芽したね、よかった。これは榎本くんに知らせないとだねぇ」
「榎本?どうしてですか?」
「この花の様子が気になるらしくて、よく様子を見にくるんだよ。『絶対に咲かせたい』って」
「そう、なんですね」
「ああ、君。榎本くんに発芽したこと伝えててもらえるかい?僕はこれから正門の清掃に行かないといけなくてね」
「わかりました。伝えておきます」
「ありがとう、頼んだよ」
そう言い残して、用務員さんは大きな荷物と共に正門に向かっていった。
改めて、花壇に芽吹いた小さな息吹を見つめる。ここのところ、最低限の世話をするだけで、ちゃんと成長を見られていないかったことを思い出す。
絶対に咲かせたいって…。なんでそこまで…___
そういえば、サイネリアのイルミネーション見に行こうって約束してた。まさか、その約束のために……?
胸の奥がきつく締め付けられ、呼吸が浅くなる。同時に、これまでの記憶が一気に溢れ出した。
第一印象は最悪だった。
「瑞季、四宮のこと好きでしょ?」
軽口ばかりで、距離も近くて。
「……俺にしたらいいじゃん」
でも___
「瑞季ならできるよ」
「頼ってって言ったじゃん」
ちゃんと、俺を見てくれていた。
記憶の断片が、次々に浮かんでは消えていく。
あの時、掴まれた手の感触が蘇る。
榎本は何を言おうとしていたんだろう。あの手を振り解かなければ、もっと___
視界が滲む。胸の奥で、何かがはっきりと形を持つ。胸の前でぎゅっと拳を握った。
「___会いたい」
気づいたときには、声に出ていた。
その瞬間____
「瑞季」
名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
そこに立っていたのは——
「今、ちょっと時間ある?」
四宮くんだった。
LINEも、声をかけられるのも、全部わかっていて見ないふりをした。
気まずい、のか?
……いや、違う。
「め、菖蒲!」
「わ」
「またぼーとして。最近多いな」
「…ごめん」
胸の奥がざわつく。
気づけば口からこぼれていた。誰に向けた言葉だったのか、自分でもわからない。
何をしていても、意識がどこかに引っ張られる。考えないようにしているのに、勝手に浮かんでくる。
「なぁ、榎本と喧嘩でもした?仲良かったじゃん」
「喧嘩、か」
その言葉に、小さく引っかかる。
喧嘩なんてしていない。ただ俺が、一方的に___
あの日の光景が、脳裏に浮かぶ。
四宮と榎本が並んでいた。
距離が近くて、当たり前みたいに笑っていて。
胸の奥がざわつく。
「まぁ、ちゃんと話せよ?なんか四宮がずっとお前らの話するんだ」
「四宮くん?彰人、四宮くんと仲良かったんだ」
「うーん、まぁ、仲良いっていうか。バスケ部の奴らが野球部と仲良くて、それで話すだけかな」
……あれ
「そうなんだ」
「彰人〜!部活行くぞ〜!」
「あいよ〜!」
「じゃあな!仲直りしろよ!」
喧嘩なんてしていない。でも、壊したのは確実に俺だ。
四宮くんが誰と話していてもが、今まで気にしたことなんてなかった。さっきだって、名前を聞いても何も思わなかった。
なのに、あの時だけ。
『紫苑』
榎本の肩に回された腕。
距離の近さ。
無防備な横顔。
一瞬で、胸の奥がざわついた。理解が追いつかないまま、もやもやとした感情だけが残る。
気づけは、自然と足が花壇に向かっていた。
花壇のそばにしゃがむ。サイネリア。榎本が植えたいと言っていた花。ふと目を凝らすと、小さな芽が顔を出していた。
「やぁ、こんにちは、君は2組の子かな?」
その声に顔をあげた。そこには、作業着の用務員さんが荷台を押す姿があった。
「こんにちは。そうです」
用務員さんは「そうかい」と軽く微笑み、俺たちの花壇の様子を観察し始めた。
「発芽したね、よかった。これは榎本くんに知らせないとだねぇ」
「榎本?どうしてですか?」
「この花の様子が気になるらしくて、よく様子を見にくるんだよ。『絶対に咲かせたい』って」
「そう、なんですね」
「ああ、君。榎本くんに発芽したこと伝えててもらえるかい?僕はこれから正門の清掃に行かないといけなくてね」
「わかりました。伝えておきます」
「ありがとう、頼んだよ」
そう言い残して、用務員さんは大きな荷物と共に正門に向かっていった。
改めて、花壇に芽吹いた小さな息吹を見つめる。ここのところ、最低限の世話をするだけで、ちゃんと成長を見られていないかったことを思い出す。
絶対に咲かせたいって…。なんでそこまで…___
そういえば、サイネリアのイルミネーション見に行こうって約束してた。まさか、その約束のために……?
胸の奥がきつく締め付けられ、呼吸が浅くなる。同時に、これまでの記憶が一気に溢れ出した。
第一印象は最悪だった。
「瑞季、四宮のこと好きでしょ?」
軽口ばかりで、距離も近くて。
「……俺にしたらいいじゃん」
でも___
「瑞季ならできるよ」
「頼ってって言ったじゃん」
ちゃんと、俺を見てくれていた。
記憶の断片が、次々に浮かんでは消えていく。
あの時、掴まれた手の感触が蘇る。
榎本は何を言おうとしていたんだろう。あの手を振り解かなければ、もっと___
視界が滲む。胸の奥で、何かがはっきりと形を持つ。胸の前でぎゅっと拳を握った。
「___会いたい」
気づいたときには、声に出ていた。
その瞬間____
「瑞季」
名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。
そこに立っていたのは——
「今、ちょっと時間ある?」
四宮くんだった。
