そこからは怒涛の日々だった。慣れないインスタグラムでフォトスポットを調べ、榎本と一緒にデザイン案を作る。バスケ部の出し物の準備でも忙しいはずの彰人がクラスの女子にアドバイスをもらってきてくれたおかげで、なんとか形になった。
デザイン案が完成すれば、それを実現するための設計図づくり。それと同時に、お店のレイアウトと装飾を決めて材料を発注する。目が回るほどの忙しさだったけど、榎本が一緒にやってくれたおかげでなんとかなった。
気づけば、文化祭まで1週間と迫っていた。
文化祭に向けた準備もいよいよ佳境となり、俺はクラスメイトと一緒にフォトスポットを作っていた。雑談を交えながら和気藹々とした雰囲気で作業は進む。去年は一人で作業することが多かったから、なんだかむず痒い。でも、悪くない。
「暗幕届いたんだけど、これどこに使う?」
「それ、厨房用だ。俺持っていくからもらっていい?」
榎本がクラスの女子から暗幕を受け取り、教室を出ていった。
その様子を見ていたクラスメイトの一人が、ぽつりと口を開いた。
「榎本って変わったよな」
クラスメイトから出る『榎本』の名前になぜかドキリと心臓が跳ねた。
「なんか雰囲気丸くなったというか、話しやすくなった」
「それな!去年は学校来ない日の方が多かったから、一緒に準備してるの不思議」
「緑化委員も真面目にやってるんだろ?今回の準備もそうだし……瑞季さては何かした?」
急に話を振られて、持っていた木材を落としそうになる。
「え!?俺!?なにもしてないよ」
「本当か?」
「弱みとか握ってんじゃねえの?」
「ないって!」
軽口を叩く同級生に、思わずツッコミを入れる。
「あ!瑞季いた!ごめん、今ちょっといい?」
「だ、大丈夫だよ!」
牧田さんから声がかかる。ずっと質問攻めされるのもきまずかったので、正直助かった。
「一つ相談なんだけど、宣伝用の看板の装飾、お願いできないかな?別の子に頼んでたんだけど、親御さんが急に入院しちゃって、放課後残るのが難しいみたいで…」
「わかった、調整してみる。どれくらい必要か、後で教えてもらっていい?」
「もちろん!でも、結構色々頼んじゃってるけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。榎本も手伝ってくれてるし!」
心配をかけないようにわざと明るく伝えた。
「ありがとう。忙しいのに本当にごめんね」
牧田さんは頭を下げて、足早に持ち場へ戻っていった。
「はぁ…」
強がっては見たけど、内心焦りが募っていた。
生花は扱いがシビアだ。文化祭前日に一斉に届くよう手配して、そこから一気に装飾を仕上げなければならない。時間も、人手も、余裕はない。それでも、なんとか回すしかなかった。
花の注文は、叔母の店に頼んだ。融通が利く分、甘えてしまっている自覚はある。
バイト終わり、書き上げた注文票をデスクに置いた。
一瞬だけ確認しようとして——やめた。
そのまま帰り支度をしていると、後ろから声がかかった。
デスクにある注文票をこちらに見せながら不安そうに尋ねてくる。
フォトスポットが想定以上に大掛かりになっていまい、必要な花の量もかなり多くなっていた。普段働いていても見慣れない数だ。
「うん、あってるよ」
「そ、そう……。なら、明日の放課後、配達できるようにするから受け取ってね」
叔母さんの反応が少し気になったものの、何事もなく家路についた。
「瑞季!」
翌日、店内装飾の調整をしていると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると、そこには息を切らした牧田さんがいた。返事をする間もなく、腕を掴まれる。
「ちょっときて!」
引かれるまま、正門まで連れていかれる。
そして、目の前の光景に言葉を失った。
「……え」
視界いっぱいに、花。隣には、段ボールが何段にも積まれていて、その隙間から色とりどりの花が溢れている。
明らかに想定していた量の三倍以上はあるようだった。
「え、なんで」
慌てて注文票を取り出す。数字を目で追った瞬間、血の気が引いた。
「…ごめん」
声がかすれる。
「注文数、間違えた…」
注文票を握る手に、知らないうちに力がこもる。紙がぐしゃりと音を立てて歪んだ。
「と、とりあえずここに置いておけないし、教室に運ぼう」
牧田さんの言葉に、頷くことしかできなかった。
教室へ運び込むたびに、空気が変わっていく。
「え、どうしたの?」
「こんなに使わないよね?」
「とりあえず、厨房に…」
「いやそんなスペースないでしょ……」
声が重なって、少しずつざわめきが大きくなる。視線が集まってくるのがわかった。
あの時、ちゃんと確認してれば。たったそれだけで、防げたはずなのに。
胸の奥がぎゅっと縮む。そのとき___
ガラガラ、と教室の扉が開いき、反射的に顔を上げた。
現れたのは榎本だった。
デザイン案が完成すれば、それを実現するための設計図づくり。それと同時に、お店のレイアウトと装飾を決めて材料を発注する。目が回るほどの忙しさだったけど、榎本が一緒にやってくれたおかげでなんとかなった。
気づけば、文化祭まで1週間と迫っていた。
文化祭に向けた準備もいよいよ佳境となり、俺はクラスメイトと一緒にフォトスポットを作っていた。雑談を交えながら和気藹々とした雰囲気で作業は進む。去年は一人で作業することが多かったから、なんだかむず痒い。でも、悪くない。
「暗幕届いたんだけど、これどこに使う?」
「それ、厨房用だ。俺持っていくからもらっていい?」
榎本がクラスの女子から暗幕を受け取り、教室を出ていった。
その様子を見ていたクラスメイトの一人が、ぽつりと口を開いた。
「榎本って変わったよな」
クラスメイトから出る『榎本』の名前になぜかドキリと心臓が跳ねた。
「なんか雰囲気丸くなったというか、話しやすくなった」
「それな!去年は学校来ない日の方が多かったから、一緒に準備してるの不思議」
「緑化委員も真面目にやってるんだろ?今回の準備もそうだし……瑞季さては何かした?」
急に話を振られて、持っていた木材を落としそうになる。
「え!?俺!?なにもしてないよ」
「本当か?」
「弱みとか握ってんじゃねえの?」
「ないって!」
軽口を叩く同級生に、思わずツッコミを入れる。
「あ!瑞季いた!ごめん、今ちょっといい?」
「だ、大丈夫だよ!」
牧田さんから声がかかる。ずっと質問攻めされるのもきまずかったので、正直助かった。
「一つ相談なんだけど、宣伝用の看板の装飾、お願いできないかな?別の子に頼んでたんだけど、親御さんが急に入院しちゃって、放課後残るのが難しいみたいで…」
「わかった、調整してみる。どれくらい必要か、後で教えてもらっていい?」
「もちろん!でも、結構色々頼んじゃってるけど、大丈夫?」
「大丈夫だよ。榎本も手伝ってくれてるし!」
心配をかけないようにわざと明るく伝えた。
「ありがとう。忙しいのに本当にごめんね」
牧田さんは頭を下げて、足早に持ち場へ戻っていった。
「はぁ…」
強がっては見たけど、内心焦りが募っていた。
生花は扱いがシビアだ。文化祭前日に一斉に届くよう手配して、そこから一気に装飾を仕上げなければならない。時間も、人手も、余裕はない。それでも、なんとか回すしかなかった。
花の注文は、叔母の店に頼んだ。融通が利く分、甘えてしまっている自覚はある。
バイト終わり、書き上げた注文票をデスクに置いた。
一瞬だけ確認しようとして——やめた。
そのまま帰り支度をしていると、後ろから声がかかった。
デスクにある注文票をこちらに見せながら不安そうに尋ねてくる。
フォトスポットが想定以上に大掛かりになっていまい、必要な花の量もかなり多くなっていた。普段働いていても見慣れない数だ。
「うん、あってるよ」
「そ、そう……。なら、明日の放課後、配達できるようにするから受け取ってね」
叔母さんの反応が少し気になったものの、何事もなく家路についた。
「瑞季!」
翌日、店内装飾の調整をしていると、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
顔を上げると、そこには息を切らした牧田さんがいた。返事をする間もなく、腕を掴まれる。
「ちょっときて!」
引かれるまま、正門まで連れていかれる。
そして、目の前の光景に言葉を失った。
「……え」
視界いっぱいに、花。隣には、段ボールが何段にも積まれていて、その隙間から色とりどりの花が溢れている。
明らかに想定していた量の三倍以上はあるようだった。
「え、なんで」
慌てて注文票を取り出す。数字を目で追った瞬間、血の気が引いた。
「…ごめん」
声がかすれる。
「注文数、間違えた…」
注文票を握る手に、知らないうちに力がこもる。紙がぐしゃりと音を立てて歪んだ。
「と、とりあえずここに置いておけないし、教室に運ぼう」
牧田さんの言葉に、頷くことしかできなかった。
教室へ運び込むたびに、空気が変わっていく。
「え、どうしたの?」
「こんなに使わないよね?」
「とりあえず、厨房に…」
「いやそんなスペースないでしょ……」
声が重なって、少しずつざわめきが大きくなる。視線が集まってくるのがわかった。
あの時、ちゃんと確認してれば。たったそれだけで、防げたはずなのに。
胸の奥がぎゅっと縮む。そのとき___
ガラガラ、と教室の扉が開いき、反射的に顔を上げた。
現れたのは榎本だった。
