「昔、図書館を地域の人にも開放していた時期があったんだって」
図書館の幽霊を退散させた数日後、二人はコンビニで買い食いをしながら帰宅していた。
「貸し借りはできないけど、図書館内で本を読んだり、勉強したり。その時にいろんな人が出入りしたらしい」
「ふうん」
買ったアイスを袋から取り出しながら暁人が言う。自転車を押して歩く蒼介の口元にアイスを持っていけば、蒼介がガリッとかじった。
「で、そこに通ってた社会人の人が少し拗れた人だったらしくて……。学び直しをしに図書館に来て勉強していたみたいなんだけど、勉強してるって言うか、勉強している自分を見てほしいタイプの人だったみたいで」
「ああ、いるよな、そういうやつ」
「いつも誰かのいる机に座って勉強するんだけど、みんな別に見ることもないし、見たくもないでしょ? だから、見られることをするようになったんだって」
つまり、目立つことを。
図書館にいるのに何もしない。隣に来る。ただ笑っている。それが、エスカレートした。
ついに当時の司書が注意すると、それが効いたのか、それっきり図書館に来ることはなかった。司書が聞いた話によると、市立図書館にも同じように出入りをしていたらしい。そこでも同じように注意されたのだが、違ったことはそれが騒ぎに発展してしまったことだ。
「警察が来るレベルの、流血騒ぎだったんだって」
噂によると、誰も見てくれないことにフラストレーションが溜まり、注意を受けたことがきっかけで爆発したらしい。誰かを文房具で切りつけたとか、刺したとか、自傷行為とか、噂の内容は様々だったが、流血騒ぎには違いないだろう。
「見て欲しい」、が、行き過ぎてしまった結果だ。
「それがあってからかは分からないんだけど、うちの図書館の開放はしなくなったらしい」
「……詳しいっすね」
蒼介が若干引いている。
「図書館の司書先生に聞いたんだ。そしたら、先々代の司書先生の時にそういうことがあったんだって」
「よく教えてくれたな……」
「ほら、僕って司書先生と仲良しだから」
暁人が差し出したアイスをまた一口かじる。薄水色のアイスが夕方の光に溶けて、暁人の手に落ちた。
「自分を見せたい幽霊、か……まあ、厄介極まりないな」
「アピールしてくる幽霊って、自己顕示欲の塊みたいなとこあるしねぇ」
「見て欲しい欲があるなら、階段裏の幽霊と相性がよさそうだな」
「確かに! もう二人でドンパチやっててほしいよねぇ」
「はは、ほんとな」
「あ、あおくん。最後の一口をどうぞ」
「ん」
棒に残った水色の塊を食べた蒼介に、暁人がにやりと笑った。
「食べたね」
「食べたが?」
「アイスの最後の一口のお礼は、僕を家まで送るでいいよ」
蒼介はアイスを噛み砕いてゴクリと飲み込むと、そのまま無言で自転車にまたがった。
「なんで!!」
「なぁにがお礼だよ。俺はまだ唇痛くて毎晩泣きながら寝てるんだぞ」
「うそつけ!」
軽い音をさせて走る自転車を、いつか見た光景と同じように暁人が追いかける。
しかしその方向が暁人の家に続く道で、暁人はくしゃりと笑った。
図書館の幽霊を退散させた数日後、二人はコンビニで買い食いをしながら帰宅していた。
「貸し借りはできないけど、図書館内で本を読んだり、勉強したり。その時にいろんな人が出入りしたらしい」
「ふうん」
買ったアイスを袋から取り出しながら暁人が言う。自転車を押して歩く蒼介の口元にアイスを持っていけば、蒼介がガリッとかじった。
「で、そこに通ってた社会人の人が少し拗れた人だったらしくて……。学び直しをしに図書館に来て勉強していたみたいなんだけど、勉強してるって言うか、勉強している自分を見てほしいタイプの人だったみたいで」
「ああ、いるよな、そういうやつ」
「いつも誰かのいる机に座って勉強するんだけど、みんな別に見ることもないし、見たくもないでしょ? だから、見られることをするようになったんだって」
つまり、目立つことを。
図書館にいるのに何もしない。隣に来る。ただ笑っている。それが、エスカレートした。
ついに当時の司書が注意すると、それが効いたのか、それっきり図書館に来ることはなかった。司書が聞いた話によると、市立図書館にも同じように出入りをしていたらしい。そこでも同じように注意されたのだが、違ったことはそれが騒ぎに発展してしまったことだ。
「警察が来るレベルの、流血騒ぎだったんだって」
噂によると、誰も見てくれないことにフラストレーションが溜まり、注意を受けたことがきっかけで爆発したらしい。誰かを文房具で切りつけたとか、刺したとか、自傷行為とか、噂の内容は様々だったが、流血騒ぎには違いないだろう。
「見て欲しい」、が、行き過ぎてしまった結果だ。
「それがあってからかは分からないんだけど、うちの図書館の開放はしなくなったらしい」
「……詳しいっすね」
蒼介が若干引いている。
「図書館の司書先生に聞いたんだ。そしたら、先々代の司書先生の時にそういうことがあったんだって」
「よく教えてくれたな……」
「ほら、僕って司書先生と仲良しだから」
暁人が差し出したアイスをまた一口かじる。薄水色のアイスが夕方の光に溶けて、暁人の手に落ちた。
「自分を見せたい幽霊、か……まあ、厄介極まりないな」
「アピールしてくる幽霊って、自己顕示欲の塊みたいなとこあるしねぇ」
「見て欲しい欲があるなら、階段裏の幽霊と相性がよさそうだな」
「確かに! もう二人でドンパチやっててほしいよねぇ」
「はは、ほんとな」
「あ、あおくん。最後の一口をどうぞ」
「ん」
棒に残った水色の塊を食べた蒼介に、暁人がにやりと笑った。
「食べたね」
「食べたが?」
「アイスの最後の一口のお礼は、僕を家まで送るでいいよ」
蒼介はアイスを噛み砕いてゴクリと飲み込むと、そのまま無言で自転車にまたがった。
「なんで!!」
「なぁにがお礼だよ。俺はまだ唇痛くて毎晩泣きながら寝てるんだぞ」
「うそつけ!」
軽い音をさせて走る自転車を、いつか見た光景と同じように暁人が追いかける。
しかしその方向が暁人の家に続く道で、暁人はくしゃりと笑った。
