幽霊はエロいことが苦手らしい


「お祖父さんの体調はどうなの?」
「元気らしいよ。まだ退院はできないけど、めちゃくちゃ強い看護師のみなさん方に委縮してるらしい。初枝ばあちゃんも、リハビリを続ければ日常生活に戻れるって」
「よかったぁ~」

 二人は、プラネタリウムに続く道を歩いていた。シャトルバスには例の幽霊が乗っていたので結局また歩くことになってしまったが、あの時とは違い、今朝降った雨のおかげで涼しい。

「正子ちゃんはもう家に着いた頃かな」

 正子は、多感な二人に不必要な情報を与えてしまったことをずっと謝ってくれていた。そして、「次帰るときはアホみたいに大きいバームクーヘンの原木持っていくね」と言い残し、一人暮らしをしている県外へと帰って行った。

「もう着いてると思う」
「そっか――ん?」

 隣を歩く蒼介を見た暁人が、何かに気が付いた。

「あおくん。その服、前ここに来た時と同じだね」
「……」

 指摘された蒼介は、黙ったまま歩くスピードを上げた。

「ちょっとちょっと、歩くの速いって!」
「……」
「あおくんってば!」

 先を行く蒼介の手を掴んで止める。――そして、気が付いた。蒼介の耳が、見たことがないくらい赤くなっていることに。

「……い、一張羅、なんだよ」
「へ?」
「だっ、だから、この服は気合入れる時に着る服なの!」

 木漏れ日の光が落ちた蒼介の顔は、信じられないくらい赤かった。
 顔も、耳も、額も、首も。きっと、全身が。
 まるで、エロいキスをされた暁人のように、蒼介は真っ赤になっていた。

「お前、俺がこの前どんな気持ちで準備してたか知らねえだろ」
「え、ぇ、あ、あおくん?」
「こっちは夏休み初日から暁人と出かけられるって嬉しくて浮足立って、服だって何通りも考えて、荷物だってめちゃくちゃ考えて準備して……!」

 蒼介につられるように、暁人もどんどんと赤くなる。
 その、赤くなった手を、ゆっくりと伸ばした。

「あおくん……」

 恥ずかしくて、嬉しくて、胸がいっぱいになって、内側からはち切れそうだ。
 だから暁人は、胸がはち切れないように、言葉にた。

「も、もう一回、言ってもいい……?」
「……なにをだよ」
「あおくんのことが、好きってことを」
「は!?」

 また見たことのない顔をする。
 眼鏡をかけないで見る蒼介は、知らない顔ばかりしている気がした。
 ……いや、きっと違う。
 暁人がずっと、見てこなかっただけだ。
 でもそれも、今日までのこと。

「あおくん。僕、あおくんのことが、大好きだよ」

 きゅ、と、指を掴む。蒼介の体か小さく震えて、手を包むように繋がれる。

「……俺も、暁人のことが好きだ」

 少し上にある、赤く染まった顔が近付いてくる。
 肌に馴染んだ熱を感じ、暁人はそっと目を閉じ――ふにっと柔らかいものを感じた瞬間、二人が弾かれた様に後ずさった。

「う、うわぁ~~~~っ!」
「……っ」
「っは、恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!」
「……あんなにエロキスしてたのに……」
「わぁあ~~~! 言わないで~~!」

 ……幽霊が出るたびに、退治をするたびに、幼馴染二人は大人顔負けのエロいキスをしていた。
 それの弊害だろうか。
 長年の片想いが実り、ようやく恋人同士になれた二人は、普通のキスが恥ずかしくてできないのだ。

「ど、どうしよう。もし今後、幽霊退治の依頼がきたら……」
「なにか問題があるのか? 普通のキスは無理でも、エロいキスはできるだろ」
「できると思うんだけど、な、なんといいますか、その……」
「……?」
「む、むらむら、しちゃうかも……」
「……」

 二人は顔を見合わせると、耐え切れないといった感じで笑い合った。