幽霊はエロいことが苦手らしい


 あの大雨の夜から一週間後。
 暁人と蒼介の二人は、八淵川の上流に来ていた。
 そこは以前、二人がプラネタリウムに行った時に通った山道の下にあって、穏やかな支流と豊かな自然を楽しめる広場のようになっていた。
 深森家所有の土地であるその広場の奥には、真新しい祠が立てられていた。

「――つまり、あの女性がいなくなったのは、あのタイミングでこの祠が完成したから……ってこと?」
「正子が言うには、そういうことらしい」

 あの日の夜。
 二人を見つけた正子は、号泣しながら二人の頭に特大の拳骨を落とした。そして涙が落ち着いた頃に、話してくれたのだ。

「うちに来てた霊能力者が祠の状態を見て、『これはやばい』ってなったらしい。他の変更できる予定を全部変更してうちを優先させてくれて、それでついさっき、祠を完成させたんだって」

 目の前の、白い石でできた祠を見つめる。
 この中に、二十一人の釘の女が祀られているのだ。……つまり、彼女達は、まだこの地を恨んだまま、ここに封じられている。

「……どうにか、ならないのかな」
 暁人が、苦しそうに言う。耳の傷は、小さくなっていた。

「難しいだろうな。霊能力者ってやつも、そう言ってたらしいよ」

 釘の女の恨みは、それこそ深森家が全員死ぬまで続くだろう、と。

「俺らを恨むのはいいが、報われないよな……」
「そうだね……でも、それでも、五作さんが志津子さんを裏切ってなかったって、伝えられてよかったよ」

 あの時、釘の女は暁人の言葉を聞いて動きを止めた。それはきっと、彼女の中にまだ志津子が残っていたからだろう。

「……そうだ!」

 突然、暁人が叫んだ。
 驚いて胸に手を当てる蒼介を見ると、嬉しそうに笑う。その顔には、眼鏡はない。

「五作さんの幽霊を探せばいいんだよ!」
「……そうか!」
「そう! 志津子さんは、釘の女になっていても五作さんの名前に反応したんだ。だからきっと、五作さんの幽霊を見つけて会わせてあげれば、釘の女の『綿飴の串』である志津子さんは、成仏するかどうかは分からないけど、きっと良い方向へ向かうよ!」
「正子の話を聞く限り、五作も相当な恨みを持って亡くなってそうだし、幽霊としている可能性はあるな」
「確か、蔵の中に、まだ見てない資料とかたくさんあったよね。そこにヒントとかないかな」
「鍵は本家のどさくさに紛れて俺がもらったから、見てみるか」
「うんっ」

 ――それが正解かは分からない。もしかしたら、また何か思わぬ結果に繋がるかもしれない。
 けれど暁人は、お人好しなのだ。
 誰かが辛い思いをしているのに、それを知っているのに、見て見ぬふりなんか、できないのだ。