幽霊はエロいことが苦手らしい


 気が付くと、暁人は橋のこちら側に立っていた。
 あったはずの深地橋は濁流によって押し流されていて、目の前では水量の減った川が濁流の余韻を残しながら流れていく。
 いつの間にか血の匂いは消えていて、視界も血の色をしていない。
 ――釘の女も、消えていた。
 空には星が見え、消えていた街頭の明かりが点いている。人の気配も、遠くで車の走る音も聞こえていた。
 それらを感じならがら暁人はぼうっと立ち尽くし――隣に誰かがいることに、気が付いた。

「あ――」

 隣に立つ誰かもたった今暁人に気が付いたようで、二人で同じように見つめあう。


「暁、人」


 隣にいたのは、蒼介だった。
 目が覚めたような、晴れやかな目をした蒼介が、暁人の手を握り、隣に立っていた。

「あっ――」

 じわっと、視界が滲むのが分かった。遮蔽眼鏡をかけていないはずの視界はクリアなはずなのに、どんなに拭ってもそのままだった。

「――あおくん!」
 暁人は蒼介に飛びついた。

 勢いが強すぎて二人して水溜りに倒れ込んでしまったが、そんなことはどうでもいい。
 暁人は蒼介の頭を抱きしめると、濡れた髪に顔をうめるようにしてわんわんと泣いた。

「暁人……」

 蒼介の手が、控えめに暁人の背中に回される。それに応えるように暁人が強く強く抱きしめると、蒼介の口から苦しそうな息と、小さな嗚咽が聞こえた。

「もう絶対に離れない! あおくんがなんて言おうが、僕は絶対にあおくんと一緒にいる! 僕が一緒にいたいんだ!」
「……お、俺も」

 蒼介が、縋るように暁人を抱きしめ返した。

「俺も、ずっと暁人と一緒にいたい」

 まるでひとつになろうと抱きしめ合う二人を、正子が運転する車のライトが照らし出した。