結局徒歩で帰った二人は、蒼介の家にいた。
今日いるはずの蒼介の両親は急用か何かで家を留守にしていて、誰もいない家の中で蒼介は暁人の耳にガーゼを当てていた。
「さっきはごめんね……」
「気にすんな。幽霊にビビってパニくるのはいつものことだろ」
「うん……」
とは言ったものの、暁人は明らかにいつもと様子がおかしい。理由は、分かっている。
それはあの幽霊が、暁人の言う自己顕示欲の塊だったり、綿飴のふよふよだったり、浮遊霊ではなかったからだ。
あれは明らかに、特定の人物に対して深く重い怨念を抱いている幽霊だった。
そしてその矛先は、深森家へと向いている。
「正子のとこに行こう」
ガーゼをテープで止め終えた蒼介の言葉に、暁人は頷いた。以前会った時の口ぶりから、正子は何かを知っているような気がした。
「分かった――ねえ、あおくん。変なこと、言ってもいい?」
「どうした?」
暁人は自分の手の爪の中にまだ残る血の跡を見つめながら言った。
「ずっとずっと、気にはなってたんだ。でも、今回のことで、そうかもしれないって実感が沸いた。……あのね、あおくん――」
座る暁人の目の前で膝をついて真剣に聞く蒼介は、暁人の言葉を聞いて目を見開いた。
「あおくんは、幽霊を集めやすい体質なんだと思う」
暁人がずっと思っていたこと。
それは、蒼介が幽霊を引き寄せやすい体質だということ。
一人でいる時と、蒼介と一緒にいる時とでは、幽霊との遭遇率がまったく違っていた。浮遊霊との遭遇や、数年間家で幽霊を見ていなかったのに、蒼介が小野家を訪れてから久しぶりに幽霊を見た。帰り道だって、何度も遭遇した。それこそ、蒼介からエロいキスをしてもらうくらい。
「……僕の持論なんだけど、幽霊は縁や因果因縁に引かれていると思うんだ。その人の生まれ持ったものや、代々続くなにか……。僕、今まで幽霊との遭遇率が高いのは、学校が古いからだと思ってた。けど、あおくんの家が何かしらのマイナスな因果因縁を持っているのだとしたら、辻褄が合っちゃうんだ」
深森家は恨みを買われるようなことをしてきた。それが代々続いていて、今、深森家の一番若い――末代は、蒼介だ。
蒼介に、がんじがらめになった因果因縁の糸が絡まっている。
考えれば考えるほど、蒼介自身が幽霊を引き寄せているという確証に変わっていく。
「暁人、お前――」
ずっと口を閉ざしていた蒼介が、やっと口を開いた。
「俺のせいだっていうのかよ」、なんて幼馴染からの言葉を想像して目をぎゅうっと閉じた暁人は、蒼介の言葉を聞いて、固まった。
「それが分かってて、なんで俺と一緒にいるんだよ」
「え……」
「俺が幽霊を引き付けてるって思ってたんなら、俺から離れればお前は怖い思いをしなくても済むのに」
それは、どこまでも怖がりで臆病な暁人を思いやった、優しい言葉だった。
暁人は顔を上げると、ふにゃっと、今にも崩れそうな笑顔を浮かべた。
「……あは。あおくん、優しいなぁ」
