轟大雅は、二人と同じ保育園のつくし組で、そのまま同じ小学校に入学した。
「せんせぇ。あきちゃんが、またこわいって言って泣いてる~」
幽霊や暗いところが怖くて泣いていた暁人を、大雅はいつもからかっていた。それは小学校になってからも同じで、「小野は幽霊が見えるんだって~きめぇよな~」とほかの生徒に言いふらされたりもしていて、暁人は彼がとても苦手だった。高学年に上がるときのクラス替えで別のクラスになった時は、心底ほっとしたものだ。
そして、暁人と蒼介の幽霊退治は、彼から始まったと言っても過言ではなかった。
初めて幽霊退治を依頼されたのは、入学して半月が経とうとする頃。
「四組の小野くん……?」
「え、そ、そうだけど……」
二人で帰ろうと正面玄関を出たところで、泣きそうな顔をして待っていた伊東心春は暁人にこう言ったのだ。
「小野くん、て……幽霊が見えるって、本当?」
それはまるで探るような、不安そうな声だった。
自分が馬鹿なことを言っていると分かっているうえで言うことの、緊張と不安。しかも、話したこともない、初対面の男子にだ。
そんな緊張と不安で固まっている心春に対し、暁人も同じように固まっていた。暁人を守るように、蒼介が二人の間に体を差し込んでようやく我に返る。
「だ、大丈夫だよ、あおくん。えっと、その……それ、誰に、聞いたの?」
ようやく話し始めるも、ギクシャクとした、なんだか油の足りないロボットのような動きだ。
「うちのクラスの、轟大雅って男子が話してた」
その名前を聞いて、思わずと言った感じで額を押さえた蒼介の口から深いため息が漏れた。そしてそれは、暁人も同じだった。
「ああ、轟ね……そっか、轟か……」
暁人は小さく困ったように笑うと、痒くもないのに首を掻いた。二人の反応を測れない心春が不安そうに続ける。
「この前、テレビで心霊番組やってたでしょ? 轟くんと周りの男子がその話をしていた時に、小野君の話になったの。『あいつは幽霊が見えるって、小さいころから言ってた』って」
「それは、だね……その――」
ヘラリ。そんな音が聞こえそうな笑顔を顔に浮かべると、暁人はわざとらしい明るい声を出した。隣にいる蒼介が、なんとも言えない複雑な面持ちでそれを見ている。
「いやあ~~恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど、小さい頃は霊感少年に憧れててさぁ」
「……霊感少年?」
「そうそう。テレビとかでやってなかった? 『霊感少年現る!』とか、『超能力少女の恐るべき能力!』みたいなテレビ番組」
「……あたしは、あんまり見たことないかも」
「そ、そっか……まあそれで僕、そういうのに憧れて、言いふらしてた時期があってさ。少し早い中二病的な?」
暁人の言葉を聞いた心春が、カチカチに力んでいた肩から力を抜いた。抜けた、と言った方が正しいか。そして暁人と同じように張り付けた作り笑いを浮かべ、
「――じゃあ、小野くんは、幽霊見えないんだ」
と言った。
さっきまで緊張で強張っていた声は、諦めの色を含んだ、震えたものになっていた。
「……う、ん……」
そんな姿を見て、ぎゅう、と胸が苦しくなる。
なぜなら今言ったことはすべて嘘だったからだ。「幽霊が見える」なんて周りに知られて、良いことなど一つもない。それは十五年間幽霊に怯えて生きてきた暁人が分かる、唯一のはっきりとしたことだ。
だから暁人は心春が諦めるよう、わざとガッカリするようなことを言ったのだが――やはり、放っておけなかった。
自分と同じように怯える人がいる。それを自分は知っている。それなのに、知らんぷりするなんて、暁人にはできないことなのだ。
「――そ、その……なんかあったの?」
――幽霊退治を初めて受け、そしてこれからも受けるきっかけになったのは、この会話からだったと思う。
