車の中で父が、車の外ではキョウヤが立って待っていてくれた。
「……お帰り。アヤト。……ほっぺ、叩かれたんだね」
「ただいま。キョウヤ。……ごめん、今日も……泊まっても良い?」
「当たり前だよ。何か冷やす物……家に取りに行って来るよ。待てる?」
「い、いや! 大丈夫だよ! 大したことないし! その前にお父さんにも話をしなきゃ」
運転席の扉を軽く叩くと、窓が開いた。父が顔を覗かせ、すぐに目を細めた。目線はアヤトの目より少し下を見ている。
「アヤト……頬、叩かれたんだな……痛かったな。やっぱり俺も行くべきだった……。このまま警察に……」
「大丈夫だよ。お父さん」
この後に及んで、と思われたかもしれない。だが父は呆れた表情などを浮かべることなく、眉を下げたまま頷いた。
「とりあえず薬局に寄ろう。キョウヤ君も乗ってくれ」
「すみません。俺の家に寄ってくれますか? 薬局より近いですし、冷やす物もあるので……」
「分かった。すまないね、キョウヤ君」
助手席に座ると、父が今にも泣き出しそうな表情で顔を見てきた。
「……ごめん、アヤト。一瞬だけ……頬の写真を撮らせてくれ。……色々と、証拠になるから」
「……分かった」
何の証拠かは聞かなかった。察していたからだ。
頬を冷やしてもらった後、父の好意に甘えて三人でファミリーレストランで食事を取っていた。
料理を待つ間、父とキョウヤに家でのことを話した。母親が何も喋らなくなったため、大した話し合いにはならなかったと、それしか言えなかったが。そんな話をしている間でも、食事はとても美味しく感じた。
父の息子のユウくんはアヤトが家に住むのをとにかく楽しみにしてくれているらしい。
それは多分小さいうちだけ気持ちであり、成長と共にアヤトに複雑な感情を抱くようになるんだろうな。とぼんやりと思ったりもしたが、口に出すことはしなかった。
そして父の再婚相手の女性も、いまだにアヤトのことを心配してくれていると父は話してくれた。嘘か本当か、そこまでは分からなかったが。
父とまた会う約束をして、その日はキョウヤの家に帰った。色々とキョウヤと話したかったのだが、シャワーを浴びて布団に入ると、あっという間に意識が途絶えてしまっていたようだった。
目が覚めると朝になっていた。
「おはよう。アヤト」
「……おはよう……きょーや……」
「寝ぼけてるね。ちなみに俺達、寝坊して遅刻確定です」
「んー……? …………えっ!?」
飛び起きて時計を見ると、とっくに授業が始まっている時間だった。まずい、何も連絡していないのに――。
「なんてね。今日は土曜日です」
「…………もう!」
いや、キョウヤは特に悪くない。寝ぼけていた自分が悪かったのだが、なんとなくキョウヤの胸元を軽く叩いておいた。
キョウヤは微笑むと、アヤトの体を抱きしめた。寝起きの心臓には酷なのではないかという速さで、鼓動が鳴る。
「……ん〜……!」
「ちょっと。何その声」
「心臓に悪いなぁと思って……」
キョウヤが笑うと息が耳に掛かってくすぐったかったが、構わず抱きしめ返した。
「顔、洗っておいで。……デートしよう」
イタズラに微笑むキョウヤの顔を見て、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。これが付き合うと言うことなのだろうか。だとしたら、世の中のカップルは毎日こんな心臓を痛めていると言うのか。
「……すごいな、皆……」
顔を洗い終え、世の中のカップルに向かってそう呟いておいた。もちろん気持ちだけだが。
「……あれ?」
――いや、待て。
キョウヤは自分のことを好きだと言ってくれ、自分もキョウヤのことを好きだと言った。
だけど、付き合うとまでは言っていない気がする。
「……だとしたら……?」
自分達のこの関係は、今どういう状態なんだろうか。
部屋に戻り、キョウヤの顔を見つめた。
「どうしたの?」
「あ、い……いや……」
今ではない気がした。だけど、絶対にハッキリさせたい。今日この後どこかで「付き合ってください」と、そう言わなければ。
アヤトは一人で張り切り出し、拳を握って鼻を鳴らした。
◇◇◇
電車に乗り、父が住む最寄駅まで足を運んだ。
父に会いに来たわけではなかったのだが、駅の近くが栄えていたのでゆっくりと見て回ってみたかった。
「キョウヤ。俺、しばらくお父さんの所に住めないかお父さんに相談してみようと思ってるんだ」
「……え。俺の家に居てくれないの?」
「……い、いや、居たいけどっ……!」
「冗談だよ。本当にその方が良いと思う。俺と住むのも、色々そのうち問題になりそうだしね」
優しげに口角を上げるキョウヤの顔が愛おしくて、また胸が締め付けられそうになった。
それから二人は色々と見て回り、海が近くにある大きな公園を見つけた。たくさんの人で賑わっていて、特に家族連れやカップルが多い。
――言うならば、絶対にここだ。
「……あのさ、キョウヤ……」
「ん?」
「あの……お、俺……キョウヤが好きだよ……!」
「俺もアヤトが好きだよ。改まってどうしたの?」
キョウヤはいつも通りの軽い口調だ。もしかしたら好きの気持ちが自分とキョウヤでは異なるのではないか。いや、でも、あの時の会話からするとそんなことは無いはずで。
――なんて、ぐちゃぐちゃと考えても仕方がない。
「キョウヤ、えっと……!」
「……あ。そっか。言ってなかったね」
キョウヤはアヤトの手を握った。笑顔ではなく、だが怒っているわけでもない。
「アヤト。俺と付き合ってください」
どうして、自分が言いたいことが分かったんだろう。
それは真っ直ぐな眼差しだった。タイミング良く風が吹き、キョウヤの髪を靡かせる。
キョウヤはこんなに大人っぽい顔だっただろうか。なんだかいつもよりもずっと綺麗に見えるその顔に、思わず見惚れた。
「……あ……は、はい……!」
口が勝手に返事をしていたが、今自分が上手く笑えているのかどうかさえ分からなかった。
「……ありがとう。これからも、よろしくね」
「こちらこそ……あの、俺から言おうと思ったんだ……」
「だからか。家を出る前くらいから、なんかちょっとそわそわしてたもんね」
キョウヤの笑顔に反応した心臓の鼓動が、脳にまで響いてうるさい。そのせいでせっかく色々な言葉を考えていたのに全部忘れてしまった。
「アヤトと付き合ってるのは……どこまで自慢して良い? 家族とか」
「えっと……お、お任せします……。でも、俺……」
男同士だけど。その言葉を言おうとしたが、思い止まった。「そっか、じゃあやっぱり付き合うのやめよう」なんて言われたら悲しくなってしまう。
けれども、キョウヤの反応は想像とは全く違った。
「……男同士でも関係なくない? 好きになったものはしょうがないよね、ってアヤトも言ってたじゃん」
アヤトが何を言おうとしたのかお見通しだったキョウヤの返答は実にあっさりしていた。アヤトは目を丸くさせる。
確かに、言ったことは言ったし、今でもそう思っている。男同士だからなんだと言うのだ。
「俺は男の子が好き……ってわけではなくて、アヤトが好きなんだしね」
その言葉を聞いて、自分の気持ちも再確認できたような気がした。自分だってそうだ。別に男の子しか恋愛対象に入らない、というわけでは決して無い。
「……こんなに側に居てくれた人ってキョウヤが初めてで……お母さんは距離的には側には居たけど、一緒に居て落ち着くのはキョウヤだけだったんだ……」
入学してから、今日までの記憶を振り返る。改めて考えても、好きになった明確なタイミングは自分でも分からなかった。まさに気付いたら、という言葉がぴったりと当てはまった。
「それで、気付いたら……」
「俺も気付いたら、かな。最初は……幽霊にめちゃくちゃ絡まれてる可哀想な子って思ってたけど、一緒に居るうちに……手離せなくなってた」
「でもキョウヤはほら、淡々としてると言うか……そんなつもりじゃないのかと思ってた。義務感、って言うの?」
厄除けだと言われてキスをする時もそうだった。こちらがどれだけ緊張しているかなんて関係無いように、サクッと済ませては離れて行くキョウヤがいつも何を考えているか分からなかった。
「あの……キス、とかも……さ……」
「……アヤト。……正直に言うから、引かないでほしいんだけどさ。いや……引かれてもしょうがないんだけどさ」
キョウヤはアヤトから目線を逸らし、姿勢をまっすぐに正した。目線の先には公園を歩く人々の姿が入っているのだろう。
「どうしたの?」
「…………一番最初にキスしたのは、幽霊とかあんまり関係なくて……普通に、俺がキスしたかったから……なんだよね……」
そう呟くキョウヤの目線は、更にアヤトから逸れていった。アヤトとは真反対に顔を向けている。角度的にちょうどキョウヤの耳が見えるのだが、真っ赤だった。
「……え?」
「……ごめん。本当にごめん。アヤトと喋ってて、可愛いなーと思ってつい。でも、そのキスした後から数時間くらいの間、アヤトに幽霊が近寄らなくなったから……」
「ねえ、こっち向いて」
両手でキョウヤの頭を掴み、こちらを向かせた。キョウヤの顔は真っ赤だった。少し汗ばんでいるのか、前髪が額に張り付いている。素直に、可愛い。
「はい。続けて」
「……はい。それで、俺の唾液がアヤトの体の中に入るのも、もしかして幽霊避けになるのかなと思って……そこからどんどん……調子に乗りました……」
キョウヤの声はどんどん小さくなる。でも実際に思い返してみても、キョウヤとキスをした後の授業中などは驚くくらい平穏だったのは間違いなかった。
「……でも、これ……普通に良くないことだから……本当にごめん……アヤトが誰かとキスする前に、俺がしたいって思っちゃって。独占欲だったんだ」
両手を合わせ、恥ずかしそうに口元を隠すキョウヤの顔が愛おしくて堪らなかった。キョウヤの手をそっと取り、頬に口を付ける。
キョウヤは目を大きく開いてアヤトの顔を見た。
「……キョウヤ。俺、ファーストキスだったんだけど……」
「……ごめんね。ちゃんと責任取るよ」
「俺で良かった。……俺は、最初のキスの時も……嬉しかったから」
もう何回目かなんて覚えていない。それくらい、キョウヤとたくさんキスをしてきた。でもこれからは、それはもっと特別な意味を持つことになる。
「でも、俺と手繋いだりキスしたりするの、厄除けだから仕方がなくやってるみたいなこと言ってたよね」
「……下心を勘付かれないようにしようと思って……」
アヤトとキョウヤは二人で笑う。そして顔を見合わせて、唇を重ねた。
「……お帰り。アヤト。……ほっぺ、叩かれたんだね」
「ただいま。キョウヤ。……ごめん、今日も……泊まっても良い?」
「当たり前だよ。何か冷やす物……家に取りに行って来るよ。待てる?」
「い、いや! 大丈夫だよ! 大したことないし! その前にお父さんにも話をしなきゃ」
運転席の扉を軽く叩くと、窓が開いた。父が顔を覗かせ、すぐに目を細めた。目線はアヤトの目より少し下を見ている。
「アヤト……頬、叩かれたんだな……痛かったな。やっぱり俺も行くべきだった……。このまま警察に……」
「大丈夫だよ。お父さん」
この後に及んで、と思われたかもしれない。だが父は呆れた表情などを浮かべることなく、眉を下げたまま頷いた。
「とりあえず薬局に寄ろう。キョウヤ君も乗ってくれ」
「すみません。俺の家に寄ってくれますか? 薬局より近いですし、冷やす物もあるので……」
「分かった。すまないね、キョウヤ君」
助手席に座ると、父が今にも泣き出しそうな表情で顔を見てきた。
「……ごめん、アヤト。一瞬だけ……頬の写真を撮らせてくれ。……色々と、証拠になるから」
「……分かった」
何の証拠かは聞かなかった。察していたからだ。
頬を冷やしてもらった後、父の好意に甘えて三人でファミリーレストランで食事を取っていた。
料理を待つ間、父とキョウヤに家でのことを話した。母親が何も喋らなくなったため、大した話し合いにはならなかったと、それしか言えなかったが。そんな話をしている間でも、食事はとても美味しく感じた。
父の息子のユウくんはアヤトが家に住むのをとにかく楽しみにしてくれているらしい。
それは多分小さいうちだけ気持ちであり、成長と共にアヤトに複雑な感情を抱くようになるんだろうな。とぼんやりと思ったりもしたが、口に出すことはしなかった。
そして父の再婚相手の女性も、いまだにアヤトのことを心配してくれていると父は話してくれた。嘘か本当か、そこまでは分からなかったが。
父とまた会う約束をして、その日はキョウヤの家に帰った。色々とキョウヤと話したかったのだが、シャワーを浴びて布団に入ると、あっという間に意識が途絶えてしまっていたようだった。
目が覚めると朝になっていた。
「おはよう。アヤト」
「……おはよう……きょーや……」
「寝ぼけてるね。ちなみに俺達、寝坊して遅刻確定です」
「んー……? …………えっ!?」
飛び起きて時計を見ると、とっくに授業が始まっている時間だった。まずい、何も連絡していないのに――。
「なんてね。今日は土曜日です」
「…………もう!」
いや、キョウヤは特に悪くない。寝ぼけていた自分が悪かったのだが、なんとなくキョウヤの胸元を軽く叩いておいた。
キョウヤは微笑むと、アヤトの体を抱きしめた。寝起きの心臓には酷なのではないかという速さで、鼓動が鳴る。
「……ん〜……!」
「ちょっと。何その声」
「心臓に悪いなぁと思って……」
キョウヤが笑うと息が耳に掛かってくすぐったかったが、構わず抱きしめ返した。
「顔、洗っておいで。……デートしよう」
イタズラに微笑むキョウヤの顔を見て、心臓を鷲掴みにされたような気持ちになった。これが付き合うと言うことなのだろうか。だとしたら、世の中のカップルは毎日こんな心臓を痛めていると言うのか。
「……すごいな、皆……」
顔を洗い終え、世の中のカップルに向かってそう呟いておいた。もちろん気持ちだけだが。
「……あれ?」
――いや、待て。
キョウヤは自分のことを好きだと言ってくれ、自分もキョウヤのことを好きだと言った。
だけど、付き合うとまでは言っていない気がする。
「……だとしたら……?」
自分達のこの関係は、今どういう状態なんだろうか。
部屋に戻り、キョウヤの顔を見つめた。
「どうしたの?」
「あ、い……いや……」
今ではない気がした。だけど、絶対にハッキリさせたい。今日この後どこかで「付き合ってください」と、そう言わなければ。
アヤトは一人で張り切り出し、拳を握って鼻を鳴らした。
◇◇◇
電車に乗り、父が住む最寄駅まで足を運んだ。
父に会いに来たわけではなかったのだが、駅の近くが栄えていたのでゆっくりと見て回ってみたかった。
「キョウヤ。俺、しばらくお父さんの所に住めないかお父さんに相談してみようと思ってるんだ」
「……え。俺の家に居てくれないの?」
「……い、いや、居たいけどっ……!」
「冗談だよ。本当にその方が良いと思う。俺と住むのも、色々そのうち問題になりそうだしね」
優しげに口角を上げるキョウヤの顔が愛おしくて、また胸が締め付けられそうになった。
それから二人は色々と見て回り、海が近くにある大きな公園を見つけた。たくさんの人で賑わっていて、特に家族連れやカップルが多い。
――言うならば、絶対にここだ。
「……あのさ、キョウヤ……」
「ん?」
「あの……お、俺……キョウヤが好きだよ……!」
「俺もアヤトが好きだよ。改まってどうしたの?」
キョウヤはいつも通りの軽い口調だ。もしかしたら好きの気持ちが自分とキョウヤでは異なるのではないか。いや、でも、あの時の会話からするとそんなことは無いはずで。
――なんて、ぐちゃぐちゃと考えても仕方がない。
「キョウヤ、えっと……!」
「……あ。そっか。言ってなかったね」
キョウヤはアヤトの手を握った。笑顔ではなく、だが怒っているわけでもない。
「アヤト。俺と付き合ってください」
どうして、自分が言いたいことが分かったんだろう。
それは真っ直ぐな眼差しだった。タイミング良く風が吹き、キョウヤの髪を靡かせる。
キョウヤはこんなに大人っぽい顔だっただろうか。なんだかいつもよりもずっと綺麗に見えるその顔に、思わず見惚れた。
「……あ……は、はい……!」
口が勝手に返事をしていたが、今自分が上手く笑えているのかどうかさえ分からなかった。
「……ありがとう。これからも、よろしくね」
「こちらこそ……あの、俺から言おうと思ったんだ……」
「だからか。家を出る前くらいから、なんかちょっとそわそわしてたもんね」
キョウヤの笑顔に反応した心臓の鼓動が、脳にまで響いてうるさい。そのせいでせっかく色々な言葉を考えていたのに全部忘れてしまった。
「アヤトと付き合ってるのは……どこまで自慢して良い? 家族とか」
「えっと……お、お任せします……。でも、俺……」
男同士だけど。その言葉を言おうとしたが、思い止まった。「そっか、じゃあやっぱり付き合うのやめよう」なんて言われたら悲しくなってしまう。
けれども、キョウヤの反応は想像とは全く違った。
「……男同士でも関係なくない? 好きになったものはしょうがないよね、ってアヤトも言ってたじゃん」
アヤトが何を言おうとしたのかお見通しだったキョウヤの返答は実にあっさりしていた。アヤトは目を丸くさせる。
確かに、言ったことは言ったし、今でもそう思っている。男同士だからなんだと言うのだ。
「俺は男の子が好き……ってわけではなくて、アヤトが好きなんだしね」
その言葉を聞いて、自分の気持ちも再確認できたような気がした。自分だってそうだ。別に男の子しか恋愛対象に入らない、というわけでは決して無い。
「……こんなに側に居てくれた人ってキョウヤが初めてで……お母さんは距離的には側には居たけど、一緒に居て落ち着くのはキョウヤだけだったんだ……」
入学してから、今日までの記憶を振り返る。改めて考えても、好きになった明確なタイミングは自分でも分からなかった。まさに気付いたら、という言葉がぴったりと当てはまった。
「それで、気付いたら……」
「俺も気付いたら、かな。最初は……幽霊にめちゃくちゃ絡まれてる可哀想な子って思ってたけど、一緒に居るうちに……手離せなくなってた」
「でもキョウヤはほら、淡々としてると言うか……そんなつもりじゃないのかと思ってた。義務感、って言うの?」
厄除けだと言われてキスをする時もそうだった。こちらがどれだけ緊張しているかなんて関係無いように、サクッと済ませては離れて行くキョウヤがいつも何を考えているか分からなかった。
「あの……キス、とかも……さ……」
「……アヤト。……正直に言うから、引かないでほしいんだけどさ。いや……引かれてもしょうがないんだけどさ」
キョウヤはアヤトから目線を逸らし、姿勢をまっすぐに正した。目線の先には公園を歩く人々の姿が入っているのだろう。
「どうしたの?」
「…………一番最初にキスしたのは、幽霊とかあんまり関係なくて……普通に、俺がキスしたかったから……なんだよね……」
そう呟くキョウヤの目線は、更にアヤトから逸れていった。アヤトとは真反対に顔を向けている。角度的にちょうどキョウヤの耳が見えるのだが、真っ赤だった。
「……え?」
「……ごめん。本当にごめん。アヤトと喋ってて、可愛いなーと思ってつい。でも、そのキスした後から数時間くらいの間、アヤトに幽霊が近寄らなくなったから……」
「ねえ、こっち向いて」
両手でキョウヤの頭を掴み、こちらを向かせた。キョウヤの顔は真っ赤だった。少し汗ばんでいるのか、前髪が額に張り付いている。素直に、可愛い。
「はい。続けて」
「……はい。それで、俺の唾液がアヤトの体の中に入るのも、もしかして幽霊避けになるのかなと思って……そこからどんどん……調子に乗りました……」
キョウヤの声はどんどん小さくなる。でも実際に思い返してみても、キョウヤとキスをした後の授業中などは驚くくらい平穏だったのは間違いなかった。
「……でも、これ……普通に良くないことだから……本当にごめん……アヤトが誰かとキスする前に、俺がしたいって思っちゃって。独占欲だったんだ」
両手を合わせ、恥ずかしそうに口元を隠すキョウヤの顔が愛おしくて堪らなかった。キョウヤの手をそっと取り、頬に口を付ける。
キョウヤは目を大きく開いてアヤトの顔を見た。
「……キョウヤ。俺、ファーストキスだったんだけど……」
「……ごめんね。ちゃんと責任取るよ」
「俺で良かった。……俺は、最初のキスの時も……嬉しかったから」
もう何回目かなんて覚えていない。それくらい、キョウヤとたくさんキスをしてきた。でもこれからは、それはもっと特別な意味を持つことになる。
「でも、俺と手繋いだりキスしたりするの、厄除けだから仕方がなくやってるみたいなこと言ってたよね」
「……下心を勘付かれないようにしようと思って……」
アヤトとキョウヤは二人で笑う。そして顔を見合わせて、唇を重ねた。
