床に溢れたペンキは、もう誰の顔も映さなくなった。
「お茶、お昼に買っておいて良かった」
キョウヤは自分の上に置いてあったペットボトルのお茶を手に取り、蓋を開けた。未開封のペットボトルの蓋を開けた時に鳴る音が静かな教室に響く。
キョウヤはそのお茶に口を付けることなく、アヤトの前に差し出した。
「はい。喉乾いたでしょ」
「えっ! だ、大丈夫だよ。キョウヤが飲んで」
「……あ、うーん。こんな変なところに置いてある飲み物は怖いか……」
そう呟くとキョウヤはお茶を一口飲んだ。十秒ほど間を置いて、頷く。
「うん、大丈夫そう。変な味もしないし。飲んでおいた方が良いよ」
「……うっ。ありがとう……」
正直に言うと、喉はちゃんと渇いていた。ありがたくペットボトルに口を付け、一口飲む。
「関節キスだね」
「……ん゙っ!」
気管に入り込んだお茶を追い出そうと勝手に咳が出てくる。なんでこのタイミングでそんなことを言うのだろうか、とキョウヤを睨んだ。
キョウヤはニヤニヤとした笑みを浮かべながら、アヤトの背中を叩く。
「ごめんごめん」
「もう!」
「俺は、可愛いって言って良いんだっけ」
「…………良い……よ」
「本当、アヤトは可愛いね」
背中を叩いていた手を止め、今度は頬をそっと触られた。同じことを母親にされると悪寒がするはずなのに、キョウヤにならやはり何をされても嬉しく感じてしまう。「恋は盲目」とはこういうことを言うのだろうか。
キョウヤは教室の扉を開けようと試みていたが、やはり開かなかったようだ。自分の椅子に腰掛けた。アヤトもその前の席の椅子を借りて座る。
「俺的には、これはアヤトのお母さん仕業だと思ってるんだよね。アヤトが自分の所から離れるのが許せなくて、学校に閉じ込めた。って言う話な気がする」
「そんなこと……あるの?」
「生き霊の怨念は怖いから。人を事故に遭わせたりも出来るらしいよ。呪いみたいなもんだよね」
暗がりの中、月明かりに照らされているキョウヤの顔に笑顔は無い。キョウヤのまつ毛が頬に影を落とした。
「キョウヤって、本当に幽霊に詳しいよね」
「おばあちゃんが霊媒師を自称しててね。色々聞いたんだ」
「自称……?」
「お金は取らないで、ボランティアで幽霊を祓ってたみたい。今は霊感が無くなっちゃったみたいだけど」
「へぇ。キョウヤに霊感があるのは隔世遺伝ってやつなんだ」
先程体育館で見た光景を思い出す。無数の霊達の視線に、吐き気を感じるほどの無数の不快な音。そして廊下を歌いながら歩いていた何か。それらを思い出すだけで鳥肌が立つ。
けれど、キョウヤは「同じものが見えている」と言っていた。つまりあの光景は、キョウヤがいつも見ている光景なのだろうか。
「キョウヤには……いつも教室とか、道とか、スーパーとか……どう見えてるの?」
「教室に知らない人影が増えてたり、道の真ん中に座り込んでいる人影があったり、スーパーの惣菜を手に取ろうとしている人影があったり。慣れると、意外に溶け込んでるように見えちゃうよ。音は……まぁ、うるさい時はうるさいけど」
キョウヤの指がアヤトの指を絡め取り、軽い力で引っ張った。指がキョウヤの頬に当たり、押し付けられる。
「でも……その雑音の中でアヤトの声が聞こえると、なんて言うのかな。見つけた、っていう感覚になって嬉しくなる。だから、うるさいのも悪くないかなって思ってるよ」
「……また、からかってる」
あまりそういうことを言わないでほしかった。変に期待をしてしまいそうになるから。胸元がなんだかむず痒くなり、軽く手で叩いた。
「体育館、三年生の教室、俺達……二年生の教室って来てるから、次は一年生の教室かな」
「一年生の教室も開けられたら外に出れるかな」
「そうしたら、アヤトと二人きりの時間も終わりなわけだ」
「……ちょっと。さっきからからかいすぎだよ」
熱くなった顔はきっと真っ赤になっているだろう。それを見られたくなくて窓際に近付く。物のついでに窓を開けてみようとしてみたが、やはり開かなかった。窓ガラスに映った自分の顔を見る。
だがそれは――よく知った自分の顔ではなかった。
それは教室の中ではなく、外に居る。だがここは自分が知っているのと同じ教室であれば二階のはずだ。
なのに、それはそこに居た。
長い髪ごと顔をこれでもかと窓ガラスに押し付け、教室の中のアヤトを凝視している。抉れたような目は真っ黒で、目の下まで伸びた口角は嬉しそうに釣り上がっていた。
後ろから伸びてきた手に肩を掴まれ、体が後ろに下がった。窓ガラスに張り付いたそれの姿は、キョウヤの体によって見えなくなる。見えているのはキョウヤの背中だけ。だけど、割れんばかりに窓ガラスを叩く音は鼓膜を刺激した。
そうして気付いた。
何回も見たことがあったあの女の姿。あれは――。
「……お母さん……」
決して似ているわけではない。だけど、母親だと思った。アヤトが声に出した途端、窓ガラスを叩く音が止んだ。
「見ぃつけたぁ」
聞こえてきたのは、声にならない声だった。男の声なのか、女の声なのか、老人なのか、子供の声なのか。それすらも分からない。だがハッキリとそう言ったように聞こえた。
とにかく悪寒が止まらず、キョウヤに触れたかった。その背中に手を伸ばそうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。と言うより、目を塞がれたような感覚だ。目元は柔らかく温かい何かで塞がれている。
耳元に、何かが触れた。
「おにいちゃん、おかあさん……さみしいのかな」
それは、アヤカの声だった。
その声は自分が作り出した妄想なのか、それとも本当にアヤカがそこに居るのか。アヤトには区別が付かなかった。
「アヤト」
自分を呼ぶ声と共に、視界が晴れた。目の前には、自分の手を握るキョウヤの顔。
「いなくなったよ」
窓ガラスに目を向けると確かに誰も居なかった。でも、先程よりも外は暗くなっているような気がした。
「……何回か見たことがあった。あれが……お母さんだって、今やっと分かった気がする……」
「同じのがずっとアヤトの後ろにいたんだ。少なくとも、高校の入学式の時からね。良い霊には見えなかった。だからアヤトに声を掛けたんだ」
「俺が幽霊に好かれやすいって教えてくれたのも、入学式の時だったよね。……教えて、キョウヤ。俺が好かれやすいのは……お母さんのせい?」
キョウヤは眉をひそめて目線を落とした。言いたくないんだろうなとその顔を見て察したが、キョウヤの両頬をそっと手で包み込み、顔を合わさせた。
「教えて」
「……アヤトのお母さんの生き霊が、他の幽霊達を手招きしているように見えてた。それもあって、アヤトは余計幽霊が寄ってきやすかったんだろうね。……あんまり言いたくなかったんだよ、これ」
小さく息を吐いたキョウヤの顔は、何処となく悲しそうな顔をしていた気がする。
母親の生き霊がどうして他の幽霊を呼ぶような真似をしたのか。
考えるまでも無い。そんなの、理由は一つしか思い当たらなかった。
「……お母さんは、俺のこと嫌いなんだろうね。俺じゃなくて、アヤカに生きててほしかったんだろうな」
アヤカが生まれてからの母親の溺愛っぷりは相当なものだった。アヤトにももちろんその時は愛情はあったようには思えていたが、どちらかと言うと父の方がアヤトに構ってくれていた。
アヤトもアヤカが大好きだった。アヤカは本当に人懐っこく可愛かったので、母親が溺愛するのも当然だとも思っていた。
「……俺も、思ったことがあったんだ。今生きてるのがアヤカだったら良かったのにって」
自分の席に座り、机に頬を付けた。
「アヤカが生きていたら、お母さんもこんなことにならなかった。お父さんもきっと家を出て行かなかった。なんで……俺なんだろう。俺なんて要らないのに」
涙が流れた、なんてことは無かった。無気力だった。ただ、言葉が出てきた。こんな話をされてもキョウヤは困ると分かっているのに。キョウヤの顔を見ることを気まずく感じてしまい、目線を机に向けた。
「俺がお母さんと話をしたって、意味が無いことも分かってるんだ。それでアヤカが帰ってくるわけじゃないし、俺の自己満足だもん」
キョウヤには関係の無い話だ。これ以上、キョウヤに聞かせるな。
そう叫んでいる心と裏腹に、言葉はどんどん口から出て来てしまう。
「あー、もう、嫌だ。逃げたい。……誰も知らないところに行きたい」
人影が落ちた。誰のか、なんてすぐ分かった。頬に柔らかいものが触れる。驚いて顔を上げると、次は唇にその感触が触れた。一度離れたかと思うと、またくっつく。次に離れた時、眉を下げたキョウヤと目が合った。
「……それは困るかな。せめて俺だけにはどこに行くか教えてほしい。俺は、アヤトの側に居たいから」
もう一度、優しく唇同士が触れ合った。いつもキョウヤは軽い口調で「除霊」と言いながらする行為とは違う、優しく触れる程度の――。
「……俺なんか、要らないんだよ」
「俺はアヤトのこと必要だよ」
「キョウヤはモテるし、すぐ友達も出来るじゃん」
「モテるかは分からないけど……それでも、アヤトの側に居たい」
キョウヤはアヤトの頭をそっと抱き寄せ、自分の胸元に押し当てた。アヤトの頭を撫でる手付きはどこまでも優しい。
その声から、行動から、キョウヤの全てから伝わってくるその気持ち。
「……なんで?」
もう、聞くなという方が無理だった。
「……アヤトが…………好きだから」
その一言が、どうしても聞きたかったから。
「お茶、お昼に買っておいて良かった」
キョウヤは自分の上に置いてあったペットボトルのお茶を手に取り、蓋を開けた。未開封のペットボトルの蓋を開けた時に鳴る音が静かな教室に響く。
キョウヤはそのお茶に口を付けることなく、アヤトの前に差し出した。
「はい。喉乾いたでしょ」
「えっ! だ、大丈夫だよ。キョウヤが飲んで」
「……あ、うーん。こんな変なところに置いてある飲み物は怖いか……」
そう呟くとキョウヤはお茶を一口飲んだ。十秒ほど間を置いて、頷く。
「うん、大丈夫そう。変な味もしないし。飲んでおいた方が良いよ」
「……うっ。ありがとう……」
正直に言うと、喉はちゃんと渇いていた。ありがたくペットボトルに口を付け、一口飲む。
「関節キスだね」
「……ん゙っ!」
気管に入り込んだお茶を追い出そうと勝手に咳が出てくる。なんでこのタイミングでそんなことを言うのだろうか、とキョウヤを睨んだ。
キョウヤはニヤニヤとした笑みを浮かべながら、アヤトの背中を叩く。
「ごめんごめん」
「もう!」
「俺は、可愛いって言って良いんだっけ」
「…………良い……よ」
「本当、アヤトは可愛いね」
背中を叩いていた手を止め、今度は頬をそっと触られた。同じことを母親にされると悪寒がするはずなのに、キョウヤにならやはり何をされても嬉しく感じてしまう。「恋は盲目」とはこういうことを言うのだろうか。
キョウヤは教室の扉を開けようと試みていたが、やはり開かなかったようだ。自分の椅子に腰掛けた。アヤトもその前の席の椅子を借りて座る。
「俺的には、これはアヤトのお母さん仕業だと思ってるんだよね。アヤトが自分の所から離れるのが許せなくて、学校に閉じ込めた。って言う話な気がする」
「そんなこと……あるの?」
「生き霊の怨念は怖いから。人を事故に遭わせたりも出来るらしいよ。呪いみたいなもんだよね」
暗がりの中、月明かりに照らされているキョウヤの顔に笑顔は無い。キョウヤのまつ毛が頬に影を落とした。
「キョウヤって、本当に幽霊に詳しいよね」
「おばあちゃんが霊媒師を自称しててね。色々聞いたんだ」
「自称……?」
「お金は取らないで、ボランティアで幽霊を祓ってたみたい。今は霊感が無くなっちゃったみたいだけど」
「へぇ。キョウヤに霊感があるのは隔世遺伝ってやつなんだ」
先程体育館で見た光景を思い出す。無数の霊達の視線に、吐き気を感じるほどの無数の不快な音。そして廊下を歌いながら歩いていた何か。それらを思い出すだけで鳥肌が立つ。
けれど、キョウヤは「同じものが見えている」と言っていた。つまりあの光景は、キョウヤがいつも見ている光景なのだろうか。
「キョウヤには……いつも教室とか、道とか、スーパーとか……どう見えてるの?」
「教室に知らない人影が増えてたり、道の真ん中に座り込んでいる人影があったり、スーパーの惣菜を手に取ろうとしている人影があったり。慣れると、意外に溶け込んでるように見えちゃうよ。音は……まぁ、うるさい時はうるさいけど」
キョウヤの指がアヤトの指を絡め取り、軽い力で引っ張った。指がキョウヤの頬に当たり、押し付けられる。
「でも……その雑音の中でアヤトの声が聞こえると、なんて言うのかな。見つけた、っていう感覚になって嬉しくなる。だから、うるさいのも悪くないかなって思ってるよ」
「……また、からかってる」
あまりそういうことを言わないでほしかった。変に期待をしてしまいそうになるから。胸元がなんだかむず痒くなり、軽く手で叩いた。
「体育館、三年生の教室、俺達……二年生の教室って来てるから、次は一年生の教室かな」
「一年生の教室も開けられたら外に出れるかな」
「そうしたら、アヤトと二人きりの時間も終わりなわけだ」
「……ちょっと。さっきからからかいすぎだよ」
熱くなった顔はきっと真っ赤になっているだろう。それを見られたくなくて窓際に近付く。物のついでに窓を開けてみようとしてみたが、やはり開かなかった。窓ガラスに映った自分の顔を見る。
だがそれは――よく知った自分の顔ではなかった。
それは教室の中ではなく、外に居る。だがここは自分が知っているのと同じ教室であれば二階のはずだ。
なのに、それはそこに居た。
長い髪ごと顔をこれでもかと窓ガラスに押し付け、教室の中のアヤトを凝視している。抉れたような目は真っ黒で、目の下まで伸びた口角は嬉しそうに釣り上がっていた。
後ろから伸びてきた手に肩を掴まれ、体が後ろに下がった。窓ガラスに張り付いたそれの姿は、キョウヤの体によって見えなくなる。見えているのはキョウヤの背中だけ。だけど、割れんばかりに窓ガラスを叩く音は鼓膜を刺激した。
そうして気付いた。
何回も見たことがあったあの女の姿。あれは――。
「……お母さん……」
決して似ているわけではない。だけど、母親だと思った。アヤトが声に出した途端、窓ガラスを叩く音が止んだ。
「見ぃつけたぁ」
聞こえてきたのは、声にならない声だった。男の声なのか、女の声なのか、老人なのか、子供の声なのか。それすらも分からない。だがハッキリとそう言ったように聞こえた。
とにかく悪寒が止まらず、キョウヤに触れたかった。その背中に手を伸ばそうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。と言うより、目を塞がれたような感覚だ。目元は柔らかく温かい何かで塞がれている。
耳元に、何かが触れた。
「おにいちゃん、おかあさん……さみしいのかな」
それは、アヤカの声だった。
その声は自分が作り出した妄想なのか、それとも本当にアヤカがそこに居るのか。アヤトには区別が付かなかった。
「アヤト」
自分を呼ぶ声と共に、視界が晴れた。目の前には、自分の手を握るキョウヤの顔。
「いなくなったよ」
窓ガラスに目を向けると確かに誰も居なかった。でも、先程よりも外は暗くなっているような気がした。
「……何回か見たことがあった。あれが……お母さんだって、今やっと分かった気がする……」
「同じのがずっとアヤトの後ろにいたんだ。少なくとも、高校の入学式の時からね。良い霊には見えなかった。だからアヤトに声を掛けたんだ」
「俺が幽霊に好かれやすいって教えてくれたのも、入学式の時だったよね。……教えて、キョウヤ。俺が好かれやすいのは……お母さんのせい?」
キョウヤは眉をひそめて目線を落とした。言いたくないんだろうなとその顔を見て察したが、キョウヤの両頬をそっと手で包み込み、顔を合わさせた。
「教えて」
「……アヤトのお母さんの生き霊が、他の幽霊達を手招きしているように見えてた。それもあって、アヤトは余計幽霊が寄ってきやすかったんだろうね。……あんまり言いたくなかったんだよ、これ」
小さく息を吐いたキョウヤの顔は、何処となく悲しそうな顔をしていた気がする。
母親の生き霊がどうして他の幽霊を呼ぶような真似をしたのか。
考えるまでも無い。そんなの、理由は一つしか思い当たらなかった。
「……お母さんは、俺のこと嫌いなんだろうね。俺じゃなくて、アヤカに生きててほしかったんだろうな」
アヤカが生まれてからの母親の溺愛っぷりは相当なものだった。アヤトにももちろんその時は愛情はあったようには思えていたが、どちらかと言うと父の方がアヤトに構ってくれていた。
アヤトもアヤカが大好きだった。アヤカは本当に人懐っこく可愛かったので、母親が溺愛するのも当然だとも思っていた。
「……俺も、思ったことがあったんだ。今生きてるのがアヤカだったら良かったのにって」
自分の席に座り、机に頬を付けた。
「アヤカが生きていたら、お母さんもこんなことにならなかった。お父さんもきっと家を出て行かなかった。なんで……俺なんだろう。俺なんて要らないのに」
涙が流れた、なんてことは無かった。無気力だった。ただ、言葉が出てきた。こんな話をされてもキョウヤは困ると分かっているのに。キョウヤの顔を見ることを気まずく感じてしまい、目線を机に向けた。
「俺がお母さんと話をしたって、意味が無いことも分かってるんだ。それでアヤカが帰ってくるわけじゃないし、俺の自己満足だもん」
キョウヤには関係の無い話だ。これ以上、キョウヤに聞かせるな。
そう叫んでいる心と裏腹に、言葉はどんどん口から出て来てしまう。
「あー、もう、嫌だ。逃げたい。……誰も知らないところに行きたい」
人影が落ちた。誰のか、なんてすぐ分かった。頬に柔らかいものが触れる。驚いて顔を上げると、次は唇にその感触が触れた。一度離れたかと思うと、またくっつく。次に離れた時、眉を下げたキョウヤと目が合った。
「……それは困るかな。せめて俺だけにはどこに行くか教えてほしい。俺は、アヤトの側に居たいから」
もう一度、優しく唇同士が触れ合った。いつもキョウヤは軽い口調で「除霊」と言いながらする行為とは違う、優しく触れる程度の――。
「……俺なんか、要らないんだよ」
「俺はアヤトのこと必要だよ」
「キョウヤはモテるし、すぐ友達も出来るじゃん」
「モテるかは分からないけど……それでも、アヤトの側に居たい」
キョウヤはアヤトの頭をそっと抱き寄せ、自分の胸元に押し当てた。アヤトの頭を撫でる手付きはどこまでも優しい。
その声から、行動から、キョウヤの全てから伝わってくるその気持ち。
「……なんで?」
もう、聞くなという方が無理だった。
「……アヤトが…………好きだから」
その一言が、どうしても聞きたかったから。
