学校の階段から突き落とされた。
「うわっ……」
頭から落ちる。
床に叩きつけられる、と咄嗟に目を閉じた。
思ったより早く、体が何かに当たった。
だがそれは床に打ち付けられたような、そんな痛みではなかった。
そっと目を開く。
「大丈夫?」
目に入ったのは、誰かの胸板。
明確には、誰かではなく――。
「あ、ありがとう。……キョウヤ」
顔を上げた。
見慣れた金色の髪に、見慣れた灰色の瞳。いたずらっぽく笑う顔が視界を埋めた。切れ長の目に生える、長いまつ毛が頬に影を落とす。
その少年――キョウヤが、階段から落ちそうになった体を受け止めてくれていた。
二人は階段で抱き合う姿勢を取っている。
「またやられたんだ。ほんと隙だらけだね、アヤは」
「助けてくれてありがとうなんだけどさ、その呼び方はやめてって……」
「えー。じゃあ何が良い? アッくん?」
「……普通に呼んでよ……」
「はいはい。お手をどーぞ。アヤト」
キョウヤはアヤトに手を差し出した。
だが、アヤトはその手を取ることなく、苦笑を浮かべた。
「なにそれ、女の子にやるやつでしょ」
「アヤは女の子みたいに可愛いから、良いかなって思ったんだけど」
「またそうやって。俺は立派な男なの」
二人は廊下を歩く。
他の生徒達は、談笑しながらアヤトとキョウヤの横を通り過ぎて行く。
水道の横を通り過ぎる時に、アヤトは鏡を横目でちらりと見た。
背の高さと、体付きが二人はまるで対照的だ。
自分の栗色の髪がため息に合わせて小さく揺れた。
「……あ」
鏡越しに目が合ったキョウヤが小さく声を出した。すぐに鏡から目を逸らし、今度はアヤトの背後にその目線は向けられた。
「アヤ、こっちにおいで」
キョウヤはアヤトの肩を抱き耳元でそう囁いた。そのまま体を引かれると、鏡側を歩いていたアヤトとキョウヤの位置が入れ替わる。
「え?」
次の瞬間だった。
アヤトが横目に見ていた鏡が、音を立てて割れた。ガラス片が床に散らばる。
周囲を歩いていた生徒達のどよめきがあっという間に広がる。誰かは教師を呼びに走り、他の誰かは叫ぶだけ。
耳を劈く悲鳴が鼓膜を刺激する。
――だがそれは、他の生徒のものではない。
「……あ……」
割れたガラスの破片に、一瞬自分じゃない"誰かの顔"が映った気がした。
「今日は激しいなぁ。……そろそろ、"しなきゃ"ね」
キョウヤは早足で歩き出した。アヤトもその後をついていく。
「なんか、聞こえたかも……」
「それは困ったね。急ごうか」
向かった先は視聴覚室だ。
誰も居ないことを確認し、二人は中へ入った。
廊下を歩く生徒達の声は聞こえてくるが、それも遠い声のように感じる。
見慣れているはずの視聴覚室も、カーテンが閉め切られていて薄暗い。湿気が肌に鬱陶しくまとわりつく。
その空間が、今はただ怖く感じた。
「怖いんだ?」
キョウヤに手を握られ、アヤトは自分の手が震えていたことに気付いた。
「今日はやけにうるさいもんね。アヤ、なんか悪いことしちゃった?」
キョウヤが揶揄うように言う。
彼が言う「やけにうるさい」という言葉は、誰か特定の人間に向かって言っているわけではないことをアヤトは知っていた。
「悪いことかぁ……身に覚えがなさすぎるけど……」
アヤトが目線を逸らすと、キョウヤはアヤトの頭を優しく撫でた。その顔がゆっくりと近付く。
「じゃ、厄除けしよっか」
キョウヤは軽い口振りと対照的に、アヤトは目を強く閉じる。
微かな笑い声が耳元をかすめた。
顎を掴まれたまま、息がかかる距離まで引き寄せられる。
――近い。
そう思った瞬間、唇を塞がれた。
熱が、流れ込んでくる。
それが自分のものじゃないと分かった瞬間、背筋が粟立った。
なのに、逃げようとは思えなかった。
◇◇◇
教室に戻ると、もうじき予鈴が鳴る時間だった。
クラスメイトの男子に肩を抱かれる。
「アヤちゃん、キョウヤ! どこ行ってたんだよー! さっき廊下の鏡、勝手に割れたんだって。怖くねー!?」
そのクラスメイトはアヤトの頬に触れ、顔を覗き込む。
「アヤちゃん、怖いだろー? 俺が慰めてあげ……」
彼は最後まで言い切ることは無かった。
「それは俺の役目だからいーの」
キョウヤが被せるように、そう言ったからだ。
腕を引かれ、アヤトの体はよろめく。
「……なんてね。冗談」
思わずキョウヤの顔を見たが、舌を出してふざけたように笑っているだけだった。
「でも、アヤに触るなら俺の許可取ってくれないと困るかなぁ」
「なんだよー、独り占めかよ!」
「そうだよ」
アヤトの腕を握る手が、ほんの少しだけ強くなる。クラスメイトと談笑するキョウヤの声は軽いはずなのに、アヤトには少し冷たく聞こえた。
「あ。俺とアヤ、お昼まだ食べてないんだよね。今から食べるから、先生来たら隠してね」
「なんで食ってねえの! 早く食えよ!」
「あ……俺は……」
お腹減ってないから。
そう言おうと思ったが、キョウヤが持っていたメロンパンを問答無用と言わんばかりに口に突っ込まれた。それはとても甘くて、美味しいと感じた。
――それから何事も無かったように、残りの授業を終え、放課後になった。
昼休みの出来事が嘘のように静かなものだった。
「アヤ、帰ろっか」
部活に所属していないキョウヤとアヤトは、いつも一緒に帰っている。それが日課だった。
夕日が二人の影を作り出す。
「……キョウヤはさ、嫌じゃないの?」
横道は田んぼに囲まれ、アマガエルの鳴き声が響き渡る。
人通りも少ない田舎道だ。
「何が?」
「俺のこと……昼休みのとか、こういうの……とか」
アヤトは目線を下ろした。
アヤトの手は、キョウヤにしっかりと握られている。
まるで、何かから守るように。あるいは、隠すように。
「まぁ、しょうがないよね。何度も言ってるけど、アヤは幽霊に狙われやすい体質で、俺は嫌われる体質だから」
キョウヤの口調は軽い。
アヤトは空いている手で自らの唇に触れた。
「あのさ……。キ、キスするの……嫌じゃないの?」
「俺が近くに居れない時の保険だからさ。我慢してね」
それはまるで宿題の話をしているような、いや、それよりも業務的な物言いだった。
アヤトは胸元を握りしめる。
「というわけで、ここら辺でもっかいしとこう」
「というわけで、って……」
キョウヤに顎を軽く触れられ、目線を合わせられる。
夕日に照らされた金色の髪が眩しく感じ、アヤトは目を細めた。
「家でなんかあったらすぐに連絡してね」
淡々とした口調だったが、その表情は胸が締め付けられるような、酷く優しい笑顔を浮かべていた。
キョウヤに玄関先まで送ってもらい、アヤトは家の中に入る。
「お帰り、アヤちゃん!」
リビングに入ると、家の中にも関わらず綺麗に化粧をした母親の姿。髪の色は自分とは違い、真っ黒で艶がある。その髪も綺麗に束ねられていた。
「ただいま」
「今日はアヤちゃんにお洋服を買ってきたの! きっと似合うわよぉ!」
年齢よりずっと若く見える、ご近所からも評判の美人な母親。アヤトが幼い頃に離婚しており、今は母親が一人でアヤトを育ててくれている。
なのでそれは大好きで大切にすべき、アヤトのたった一人の家族だ。
「こっちに来て、アヤちゃん」
アヤトの母は全身鏡の前までアヤトを引っ張り、その体の前に買ってきた服を当てた。
「ほーら……可愛い」
アヤトは鏡に目を向けた。
それは、淡いクリーム色に控えめな花柄が散りばめられたキャミソール型の"ワンピース"。
心臓が跳ね上がった。喜ぶ母親の顔を鏡越しに見て、鼻と口をハンカチで塞がれたかのように呼吸がしづらくなる。
「ママもお揃いで買っちゃったの! 本当はお外でお揃いで着たいんだけど……アヤちゃんも、もう年頃だもんね。ママとお揃いは恥ずかしいよねぇ」
鏡の中で、自分じゃない誰かが笑っている気がした。
しかし、だんだんとその鏡の中の自分と目が合わなくなる。
聞こえるのは、後ろから聞こえる上機嫌な母親の声だけ。
その声色も笑顔も、今日の昼休みの恐怖に比べたらきっと些細なことなんだ。
だってそれは、大好きで大切にすべき、たった一人の家族なんだから。
少しずつ頭が痛くなるのを感じながら、脳内で反芻し呟いた。
◇◇◇
部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。痛む頭を手で押さえた。
顔を横に傾けると、スクールバッグが視界に入った。
そこには、キョウヤがくれた金色のお守りがぶら下がっている。手編みのようだったが、作り方は「知らない方が良いかも」と言われ、聞いていない。
アヤトはお守りに触れた。
――キョウヤと出会ったのは高校に入学した時。
アヤトはそれまでの人生も、車に轢かれそうになったり道に迷いやすかったり、とにかく散々な人生だった。
それが、入学式の日にキョウヤに言われたというより、忠告された一言で人生が変わった。
自分が幽霊に狙われやすい体質であること。
そしてキョウヤは幽霊が見えるが、嫌われやすい体質であること。
正直、最初は胡散臭い人だと思っていた。
だがキョウヤと一緒に居ると、アヤトは危険な目に遭うことが格段に少なり、自然と二人で居ること当たり前になっていった。
そうしてそのうちに、気付けばアヤトは――。
「……早く、明日になれば良いのに」
そう思った。
明日になれば、またキョウヤに会えるから。そうしたらきっと、この頭の痛みも、呼吸のしづらさも楽になる。
「……きっと……大丈夫」
お守りを両手で握り、消えそうな声で呟いた。
「うわっ……」
頭から落ちる。
床に叩きつけられる、と咄嗟に目を閉じた。
思ったより早く、体が何かに当たった。
だがそれは床に打ち付けられたような、そんな痛みではなかった。
そっと目を開く。
「大丈夫?」
目に入ったのは、誰かの胸板。
明確には、誰かではなく――。
「あ、ありがとう。……キョウヤ」
顔を上げた。
見慣れた金色の髪に、見慣れた灰色の瞳。いたずらっぽく笑う顔が視界を埋めた。切れ長の目に生える、長いまつ毛が頬に影を落とす。
その少年――キョウヤが、階段から落ちそうになった体を受け止めてくれていた。
二人は階段で抱き合う姿勢を取っている。
「またやられたんだ。ほんと隙だらけだね、アヤは」
「助けてくれてありがとうなんだけどさ、その呼び方はやめてって……」
「えー。じゃあ何が良い? アッくん?」
「……普通に呼んでよ……」
「はいはい。お手をどーぞ。アヤト」
キョウヤはアヤトに手を差し出した。
だが、アヤトはその手を取ることなく、苦笑を浮かべた。
「なにそれ、女の子にやるやつでしょ」
「アヤは女の子みたいに可愛いから、良いかなって思ったんだけど」
「またそうやって。俺は立派な男なの」
二人は廊下を歩く。
他の生徒達は、談笑しながらアヤトとキョウヤの横を通り過ぎて行く。
水道の横を通り過ぎる時に、アヤトは鏡を横目でちらりと見た。
背の高さと、体付きが二人はまるで対照的だ。
自分の栗色の髪がため息に合わせて小さく揺れた。
「……あ」
鏡越しに目が合ったキョウヤが小さく声を出した。すぐに鏡から目を逸らし、今度はアヤトの背後にその目線は向けられた。
「アヤ、こっちにおいで」
キョウヤはアヤトの肩を抱き耳元でそう囁いた。そのまま体を引かれると、鏡側を歩いていたアヤトとキョウヤの位置が入れ替わる。
「え?」
次の瞬間だった。
アヤトが横目に見ていた鏡が、音を立てて割れた。ガラス片が床に散らばる。
周囲を歩いていた生徒達のどよめきがあっという間に広がる。誰かは教師を呼びに走り、他の誰かは叫ぶだけ。
耳を劈く悲鳴が鼓膜を刺激する。
――だがそれは、他の生徒のものではない。
「……あ……」
割れたガラスの破片に、一瞬自分じゃない"誰かの顔"が映った気がした。
「今日は激しいなぁ。……そろそろ、"しなきゃ"ね」
キョウヤは早足で歩き出した。アヤトもその後をついていく。
「なんか、聞こえたかも……」
「それは困ったね。急ごうか」
向かった先は視聴覚室だ。
誰も居ないことを確認し、二人は中へ入った。
廊下を歩く生徒達の声は聞こえてくるが、それも遠い声のように感じる。
見慣れているはずの視聴覚室も、カーテンが閉め切られていて薄暗い。湿気が肌に鬱陶しくまとわりつく。
その空間が、今はただ怖く感じた。
「怖いんだ?」
キョウヤに手を握られ、アヤトは自分の手が震えていたことに気付いた。
「今日はやけにうるさいもんね。アヤ、なんか悪いことしちゃった?」
キョウヤが揶揄うように言う。
彼が言う「やけにうるさい」という言葉は、誰か特定の人間に向かって言っているわけではないことをアヤトは知っていた。
「悪いことかぁ……身に覚えがなさすぎるけど……」
アヤトが目線を逸らすと、キョウヤはアヤトの頭を優しく撫でた。その顔がゆっくりと近付く。
「じゃ、厄除けしよっか」
キョウヤは軽い口振りと対照的に、アヤトは目を強く閉じる。
微かな笑い声が耳元をかすめた。
顎を掴まれたまま、息がかかる距離まで引き寄せられる。
――近い。
そう思った瞬間、唇を塞がれた。
熱が、流れ込んでくる。
それが自分のものじゃないと分かった瞬間、背筋が粟立った。
なのに、逃げようとは思えなかった。
◇◇◇
教室に戻ると、もうじき予鈴が鳴る時間だった。
クラスメイトの男子に肩を抱かれる。
「アヤちゃん、キョウヤ! どこ行ってたんだよー! さっき廊下の鏡、勝手に割れたんだって。怖くねー!?」
そのクラスメイトはアヤトの頬に触れ、顔を覗き込む。
「アヤちゃん、怖いだろー? 俺が慰めてあげ……」
彼は最後まで言い切ることは無かった。
「それは俺の役目だからいーの」
キョウヤが被せるように、そう言ったからだ。
腕を引かれ、アヤトの体はよろめく。
「……なんてね。冗談」
思わずキョウヤの顔を見たが、舌を出してふざけたように笑っているだけだった。
「でも、アヤに触るなら俺の許可取ってくれないと困るかなぁ」
「なんだよー、独り占めかよ!」
「そうだよ」
アヤトの腕を握る手が、ほんの少しだけ強くなる。クラスメイトと談笑するキョウヤの声は軽いはずなのに、アヤトには少し冷たく聞こえた。
「あ。俺とアヤ、お昼まだ食べてないんだよね。今から食べるから、先生来たら隠してね」
「なんで食ってねえの! 早く食えよ!」
「あ……俺は……」
お腹減ってないから。
そう言おうと思ったが、キョウヤが持っていたメロンパンを問答無用と言わんばかりに口に突っ込まれた。それはとても甘くて、美味しいと感じた。
――それから何事も無かったように、残りの授業を終え、放課後になった。
昼休みの出来事が嘘のように静かなものだった。
「アヤ、帰ろっか」
部活に所属していないキョウヤとアヤトは、いつも一緒に帰っている。それが日課だった。
夕日が二人の影を作り出す。
「……キョウヤはさ、嫌じゃないの?」
横道は田んぼに囲まれ、アマガエルの鳴き声が響き渡る。
人通りも少ない田舎道だ。
「何が?」
「俺のこと……昼休みのとか、こういうの……とか」
アヤトは目線を下ろした。
アヤトの手は、キョウヤにしっかりと握られている。
まるで、何かから守るように。あるいは、隠すように。
「まぁ、しょうがないよね。何度も言ってるけど、アヤは幽霊に狙われやすい体質で、俺は嫌われる体質だから」
キョウヤの口調は軽い。
アヤトは空いている手で自らの唇に触れた。
「あのさ……。キ、キスするの……嫌じゃないの?」
「俺が近くに居れない時の保険だからさ。我慢してね」
それはまるで宿題の話をしているような、いや、それよりも業務的な物言いだった。
アヤトは胸元を握りしめる。
「というわけで、ここら辺でもっかいしとこう」
「というわけで、って……」
キョウヤに顎を軽く触れられ、目線を合わせられる。
夕日に照らされた金色の髪が眩しく感じ、アヤトは目を細めた。
「家でなんかあったらすぐに連絡してね」
淡々とした口調だったが、その表情は胸が締め付けられるような、酷く優しい笑顔を浮かべていた。
キョウヤに玄関先まで送ってもらい、アヤトは家の中に入る。
「お帰り、アヤちゃん!」
リビングに入ると、家の中にも関わらず綺麗に化粧をした母親の姿。髪の色は自分とは違い、真っ黒で艶がある。その髪も綺麗に束ねられていた。
「ただいま」
「今日はアヤちゃんにお洋服を買ってきたの! きっと似合うわよぉ!」
年齢よりずっと若く見える、ご近所からも評判の美人な母親。アヤトが幼い頃に離婚しており、今は母親が一人でアヤトを育ててくれている。
なのでそれは大好きで大切にすべき、アヤトのたった一人の家族だ。
「こっちに来て、アヤちゃん」
アヤトの母は全身鏡の前までアヤトを引っ張り、その体の前に買ってきた服を当てた。
「ほーら……可愛い」
アヤトは鏡に目を向けた。
それは、淡いクリーム色に控えめな花柄が散りばめられたキャミソール型の"ワンピース"。
心臓が跳ね上がった。喜ぶ母親の顔を鏡越しに見て、鼻と口をハンカチで塞がれたかのように呼吸がしづらくなる。
「ママもお揃いで買っちゃったの! 本当はお外でお揃いで着たいんだけど……アヤちゃんも、もう年頃だもんね。ママとお揃いは恥ずかしいよねぇ」
鏡の中で、自分じゃない誰かが笑っている気がした。
しかし、だんだんとその鏡の中の自分と目が合わなくなる。
聞こえるのは、後ろから聞こえる上機嫌な母親の声だけ。
その声色も笑顔も、今日の昼休みの恐怖に比べたらきっと些細なことなんだ。
だってそれは、大好きで大切にすべき、たった一人の家族なんだから。
少しずつ頭が痛くなるのを感じながら、脳内で反芻し呟いた。
◇◇◇
部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。痛む頭を手で押さえた。
顔を横に傾けると、スクールバッグが視界に入った。
そこには、キョウヤがくれた金色のお守りがぶら下がっている。手編みのようだったが、作り方は「知らない方が良いかも」と言われ、聞いていない。
アヤトはお守りに触れた。
――キョウヤと出会ったのは高校に入学した時。
アヤトはそれまでの人生も、車に轢かれそうになったり道に迷いやすかったり、とにかく散々な人生だった。
それが、入学式の日にキョウヤに言われたというより、忠告された一言で人生が変わった。
自分が幽霊に狙われやすい体質であること。
そしてキョウヤは幽霊が見えるが、嫌われやすい体質であること。
正直、最初は胡散臭い人だと思っていた。
だがキョウヤと一緒に居ると、アヤトは危険な目に遭うことが格段に少なり、自然と二人で居ること当たり前になっていった。
そうしてそのうちに、気付けばアヤトは――。
「……早く、明日になれば良いのに」
そう思った。
明日になれば、またキョウヤに会えるから。そうしたらきっと、この頭の痛みも、呼吸のしづらさも楽になる。
「……きっと……大丈夫」
お守りを両手で握り、消えそうな声で呟いた。
