これ、もう鑑賞じゃなくね?


澄雅(すが)ってさーイケメン好きだよね」
ワイワイと賑やかな部室内でも、日向の声はよく通る。
大学ノートとスマホの画面を交互に見ながら、俺は「うん」とだけ頷いた。
シャッシャッと細かくシャーペンを動かしながら線を書く。
集中しろ、集中しろ。一色(いっしき)澄雅。
この俺の手で、煌人(きらと)様を汚すなんてあり得ない。あってはならない。
もしミスったら本家の作者様に土下座して謝る。
全神経を目の前の最推しに集中させ、シャーペンを動かす。
ここは漫画アニメ同好会。無類の漫画やアニメ好きが集う同好会。
その中でも、俺は群を抜いてイケメン好き。イケメンオタク。
だが、腐男子ではない。断じて違う。顔のいい男が好き。それだけ。
今、慎重に大学ノートに写している誠名煌人(せなきらと)様も国宝級のイケメン。
とあるアニメに出てくるアイドルユニットのアイドル。セクシー兼クール担当のダウナー系イケメン。
今年の夏に出会ってから、俺の思考の八割を占める、罪な男。
それの二次創作を、今書いている。
俺の前の机に腰掛けた日向は俺を邪魔したいのか、意図は汲み取れないが、先ほどからずっと話しかけてくる。
ああ、そうだ。イケメンが好きだ。美男が好きだ。だからなんだ。
だからと言って俺は腐男子にはならないからな。
布教しようとしても無駄だぞ。
だが、日向の思惑は、俺の想像を外を行っていた。
「まあ、それは知ってるんだけど〜」
間延びした声が響いた。
「よくよく考えてみたら、(かのえ)って澄雅のタイプど真ん中じゃね?って」
カリ、と無自覚にノートの上をすべる手が止まった。
不意打ちに驚いて、ゆっくりと顔を上げる。
「は?」
「いやだってそうじゃん」
何が、だってそう、なんだよ。
辰太郎(しんたろう)。話したことはないが、名前だけは知っている。
夏に剣道部を全国制覇へと導いた、京都出身の剣道部の花形。
おまけに個人戦でも優勝を飾ったという。
夏休み明けの新学期は、その話題で持ちきりだった。
「いや、確かにイケメンの部類には入るかもしれないけど。近くで観察したことないから」
視界のはじで、窓の外の桜の蕾の色が見えた。
もう少しで三学期が、終わる。