夕刻。
空が赤く染まり始めた頃。
白鷺家の屋敷に、不穏な気配が満ちていた。
「……来たか」
零が、静かに呟く。
庭の空気が、歪む。
ゆらりと現れたのは――
「ようやく辿り着いた」
あの黒装束の男。
だが今度は、以前とは違う。
圧が、重い。
存在そのものが、異質だった。
「その契り……面白い形に変わったな」
男の視線が、二人の手に向く。
「未完成から“再構築”。予想外だ」
「何者だ」
零が問う。
男は、わずかに笑った。
「残滓の回収者――そう呼ばれている」
空気が、一段と冷える。
「歪んだ契りは、本来あるべき場所へ戻す」
「つまり」
視線が鋭くなる。
「その力は、こちらがいただく」
次の瞬間。
――ドンッ!!
空気が爆ぜた。
目にも留まらぬ速さで、男が間合いを詰める。
「下がれ」
零が前に出る。
衝突。
力と力がぶつかり、地面がひび割れる。
「……強いな」
男が低く笑う。
「だが、それでも足りない」
その瞬間。
黒い霧が、綾乃へと伸びた。
「……っ」
反応が遅れる。
だが――
「触れるな」
零が、間に割り込んだ。
霧を弾き飛ばす。
「過保護だな」
男が肩をすくめる。
「だが、その“守り”こそが弱点だ」
次の攻撃は、速かった。
フェイント。
零の視線を外し――
一瞬で、綾乃の目前へ。
「もらう」
手が伸びる。
その瞬間。
――パシッ
その手を、綾乃が掴んだ。
「……?」
男の目が、わずかに見開かれる。
「渡しません」
静かな声。
だがそこには――
はっきりとした“意思”があった。
契印が、強く光る。
「……ほう」
男が、興味深そうに笑う。
「感情を取り戻したか」
「なら尚更だ」
力が、さらに強まる。
「その価値は跳ね上がる」
圧が、押し寄せる。
綾乃の体が、揺れる。
だが――
「……嫌です」
小さく、しかし確かに言った。
その瞬間。
契印が、共鳴する。
「っ……!」
零が、目を見開く。
これは――
「……対等契約の、共振か」
綾乃の感情が、直接力に変わる。
「零」
呼ばれる。
「一緒に」
短い言葉。
だが。
それで十分だった。
「……ああ」
零が応じる。
次の瞬間。
力が、完全に重なった。
――ドォン!!
衝撃が、庭全体を揺らす。
男の体が、大きく後退する。
「……これは、予想以上だ」
口元に血を滲ませながら、笑う。
「未完成の契りが、ここまで昇華するとは」
「退け」
零の声が、低く響く。
「これ以上、関わるな」
男は、しばらく二人を見ていた。
やがて。
「……いいだろう」
小さく息を吐く。
「今回は引く」
くるりと背を向ける。
「だが覚えておけ」
最後に振り返り。
「その力は、いずれ狙われる」
「完全ではない限りな」
そう言い残し、姿を消した。
静寂。
風だけが、庭を通り抜ける。
「……終わったか」
零が、静かに呟く。
その瞬間。
ふっと、力が抜けた。
「……っ」
綾乃の体が、揺れる。
「おい」
零が支える。
「大丈夫か」
「……少しだけ、疲れました」
弱々しい声。
だが。
その表情は、どこか穏やかだった。
「……でも」
零を見上げる。
「守れたと、思います」
その言葉に。
零は、一瞬だけ黙った。
そして。
「……ああ」
静かに答える。
「よくやった」
その声は。
優しかった。
――奪う者と、守る者。
その戦いは、まだ終わっていない。
だが。
二人は、確かに並んで立っていた。
空が赤く染まり始めた頃。
白鷺家の屋敷に、不穏な気配が満ちていた。
「……来たか」
零が、静かに呟く。
庭の空気が、歪む。
ゆらりと現れたのは――
「ようやく辿り着いた」
あの黒装束の男。
だが今度は、以前とは違う。
圧が、重い。
存在そのものが、異質だった。
「その契り……面白い形に変わったな」
男の視線が、二人の手に向く。
「未完成から“再構築”。予想外だ」
「何者だ」
零が問う。
男は、わずかに笑った。
「残滓の回収者――そう呼ばれている」
空気が、一段と冷える。
「歪んだ契りは、本来あるべき場所へ戻す」
「つまり」
視線が鋭くなる。
「その力は、こちらがいただく」
次の瞬間。
――ドンッ!!
空気が爆ぜた。
目にも留まらぬ速さで、男が間合いを詰める。
「下がれ」
零が前に出る。
衝突。
力と力がぶつかり、地面がひび割れる。
「……強いな」
男が低く笑う。
「だが、それでも足りない」
その瞬間。
黒い霧が、綾乃へと伸びた。
「……っ」
反応が遅れる。
だが――
「触れるな」
零が、間に割り込んだ。
霧を弾き飛ばす。
「過保護だな」
男が肩をすくめる。
「だが、その“守り”こそが弱点だ」
次の攻撃は、速かった。
フェイント。
零の視線を外し――
一瞬で、綾乃の目前へ。
「もらう」
手が伸びる。
その瞬間。
――パシッ
その手を、綾乃が掴んだ。
「……?」
男の目が、わずかに見開かれる。
「渡しません」
静かな声。
だがそこには――
はっきりとした“意思”があった。
契印が、強く光る。
「……ほう」
男が、興味深そうに笑う。
「感情を取り戻したか」
「なら尚更だ」
力が、さらに強まる。
「その価値は跳ね上がる」
圧が、押し寄せる。
綾乃の体が、揺れる。
だが――
「……嫌です」
小さく、しかし確かに言った。
その瞬間。
契印が、共鳴する。
「っ……!」
零が、目を見開く。
これは――
「……対等契約の、共振か」
綾乃の感情が、直接力に変わる。
「零」
呼ばれる。
「一緒に」
短い言葉。
だが。
それで十分だった。
「……ああ」
零が応じる。
次の瞬間。
力が、完全に重なった。
――ドォン!!
衝撃が、庭全体を揺らす。
男の体が、大きく後退する。
「……これは、予想以上だ」
口元に血を滲ませながら、笑う。
「未完成の契りが、ここまで昇華するとは」
「退け」
零の声が、低く響く。
「これ以上、関わるな」
男は、しばらく二人を見ていた。
やがて。
「……いいだろう」
小さく息を吐く。
「今回は引く」
くるりと背を向ける。
「だが覚えておけ」
最後に振り返り。
「その力は、いずれ狙われる」
「完全ではない限りな」
そう言い残し、姿を消した。
静寂。
風だけが、庭を通り抜ける。
「……終わったか」
零が、静かに呟く。
その瞬間。
ふっと、力が抜けた。
「……っ」
綾乃の体が、揺れる。
「おい」
零が支える。
「大丈夫か」
「……少しだけ、疲れました」
弱々しい声。
だが。
その表情は、どこか穏やかだった。
「……でも」
零を見上げる。
「守れたと、思います」
その言葉に。
零は、一瞬だけ黙った。
そして。
「……ああ」
静かに答える。
「よくやった」
その声は。
優しかった。
――奪う者と、守る者。
その戦いは、まだ終わっていない。
だが。
二人は、確かに並んで立っていた。



