魔王、勇者の息子になる

 勇者たちに見送られた後、俺たちは荷馬車に乗って移動する。
 どうやら家からシャルスト学園までの距離はかなりあるみたいなので、乗り物を使うようだ。

 乗っている間、ガタガタと大きい揺れを感じながら俺はどう戦ったら勇者に勝てるか戦略を練っていたが、なかなか良い策が思い浮かばない。

 俺はもう魔王ではなく、人間のガキだ。
 貧弱な身体に加えて、魔法を数発放っただけでへばってしまう魔力量。
 勇者を倒すには力が足りなさすぎる。正面で戦っても勇者に返り討ちにされるだろう。

「なら鍛えるしかないな」

 勇者を倒せないなら倒せるまで鍛えればいい。
 魔力切れになってしまうなら、ならないように鍛えればいい。
 簡単なことだ。

「……うーん」
「……」

 突如左肩が重くなった。
 横を見るとルティアが寝ていて俺に寄りかかっている。
「おい」と左肩を動かし起こそうとするが、熟睡している。

「ユウ……今日から……私のパシリなんだから……パン買ってきて」
「誰がパシリだ。貴様ごときが命令するなんて100万年早い!」
「へへへ……買ってきた後は私の肩揉んでね」
「誰が揉むか!っていうかさっさと起きろ!あとよだれを垂らすな!」

 いくら体を揺らしてもルティアは目を覚ますことはなかった。
 このまま永眠させてやろうか。

「ユウ……ユウってば」
「……っち」

 ルティアが目覚めないので、もう俺の肩で寝かすことにした。
 幸せそうに寝言を言っているこいつを不快に思いながら移動していると、景色は田舎から盛んな街並みに変わった。

 建築物も地面も全て石で造られていて、所々屋台が建っている。
 忌々しい人間がわんさかいて、気分が悪くなりそうな場所だ。
 すぐでも魔法でここを火の海にしたいところだが、この姿では無理だ。
 我慢するしかない。

「……ん?」

 しばらく街を見ていると、ピタッと荷馬車が止まる。止まって馬車が揺れたからだろう、ずっと俺の肩で寝ていやがったルティアが目を覚ました。

「ふわぁ……もしかして着いた?」
「あぁ、そのようだな」

 ここがシャルスト学園。正式名称は英雄養成シャルスト学園。
 昨日調べたが、ここは「新たな英雄を育成」するために剣術や魔法、戦略や地理学など多くのことを学ぶ場所のようだ。
 
「やぁ、久しぶり」
「きゃぁぁぁ!久しぶり!」

 生徒数は363人。10歳から15歳の人間が通っていて、キャーキャー耳障りな場所だ。
 馬車から降りた俺は縦にも横にもデカい赤レンガ造りの校舎を見上げる。
 そして正門を潜って中庭を歩くと、堂々と建てられた石像が目に入り足を止めた。
 
「うわ……」

 それは剣を前に立てて仁王立ちをしている勇者の石像だった。
 くそっ……なんでこんなところまで来て、こいつの顔を見ないといけないのだ。
 ……腹が立ってくる。特にドヤ顔をしているのがムカつく。
 俺は「ぺっ」と石像に唾をかけた。

「ん?ユウどうしたの?お父さんの石像なんか見て?」

 先に行っていたルティアが振り返る。

「なんでもない。少し吐き気がしただけだ」
「……ん?馬車酔い?」

 朝から不機嫌になりながら、俺はルティアと一緒に校舎に入る。
 学園は白を基調とした豪華な内装。大理石の床や柱、金の装飾やステンドグラスを用いた窓など上品さがあるデザインだった。

「おー……」

 俺は少しだけ感銘を受けてしまった。
 ふーむ……魔王城ほどではないが、人間にしてはなかなかの出来じゃないか。
 よし!人間界を制圧したときはここを第二の魔王城にしてやろう!
 俺の城にしたら真っ先にあのセンスのない勇者の石像はぶっ壊す。

 他の部屋はどんな感じなんだ?
 学園への興味が湧き、辺りを見渡しながらルティアと廊下を歩いていると、なんだか不穏な空気を感じた。
 
 「おい!なんか言ってみろよ?」
 「……」
 
 騒がしい声が聞こえてきたのは、俺たちの少し前方だった。そこには茶髪のショートカットの女と男3人が歩いている。
 仲良く登校している……わけじゃなさそうだ。
 黙って歩いている女。そいつに対して男3人は後ろから「無視してんじゃねぇよ」と持っていた鞄で何度も殴っていた。
 
「口きけねぇのかよ?やっぱバケモノだから人間の言葉が分からないのか?」
 
 1人の男が強く押すと、女は床に倒れた。
 
「お前、みんなから嫌われてるんだからよ、さっさと消えろよお前。ここはお前が来るような場所じゃねぇんだよ」
「そうだそうだ!お前が来ると空気が悪くなるんだよ!」
「ほら、何か言い返して来いよ」
 
 倒れている女を助けず、男3人は楽しそうに手を叩きながら「消えろ消えろ」と連呼していた。

「はぁ……」
 
 ルティアは面倒くさそうにため息を吐くと、男3人のほうへ歩き出し、肩を叩く。
 
「その子に何してるの?男3人で。恥ずかしいからやめなよ」

 そう言うと男たちは舌打ちした後、

「うるせぇな、ばーか!」

 そう言い残し、どこかへ行ってしまった。
 そして女もすぐさま立ち上がり何も言わず、ただルティアの顔を見て、ゆっくりと去っていった。
  
「何だ今のは?」
「見て分からないの? イジメだよ。まったく最近の子供(ガキ)には困ったもんだよ」
「お前もガキだろ」
「うるさい。クソガキ」

 なるほど……人間もいじめするやつはいるんだな。
 俺が見てきた人間は正義感が強いやつばっかりだったから、人間という生き物は弱いものいじめをしないと思っていたが、それは間違いだったようだ。

「ふーん。それでお前は助けたということか……随分お人好しだな」

 さすが勇者の血が流れているだけある。
 俺が呆れて鼻で笑っていうと、

「別に好きで助けたわけじゃないよ。だって助けたら次私が標的にされちゃうかもしれないじゃん」
「じゃ、なんで助けたんだ?」
「……お母さんの言いつけ忘れたの?弱き者には救いの手を差し伸べるって……あの言いつけ守らないとめちゃくちゃ怒られるんだから……イジメを無視しただけなのにお母さんに1日中説教されて……あの時は散々だったよ」

「傍観者もイジメているのと同じだぁ」とルティアはエナの真似をするが、正直似ていない。
 
「ユウ、間違っても誰かをイジメちゃダメだからね?」
「ふんっ……弱者を痛ぶって自分を強く見せるのは、賢い戦略だろ」
「……もしお母さんにバレたら、ボコボコじゃすまないからね。ボコボコにされた後、魔法で火炙りにされちゃうから……火炙りにされそうになっても、私助けないよ」
「誰が貴様の助けなど借りるか」