勇者の息子として蘇った。
俺はまだ勇者を殺せていない。
「ユウ、早くしてよ~!置いていくよ」
ルティアの声が聞こえる。
その声を無視して、俺は部屋の立ち鏡を見つめていた。
鏡に映っているのは人間の姿の俺だが。
いつもの軽装とは違う、見慣れない服装をしている。
魔界に学び舎のような場所はないから詳しくないが、エナの話によると人間は学園に行く際、制服というものを着るらしい。ワイシャツの上にブレザーを羽織り、ネクタイを締める。下には黒いズボン。
「ユウ!遅いよ!本当に置いて行っちゃうよ!」
制服、せいふく……征服。なかなかいい響きだ。
そんなことを考えながら体を捻り、物珍しい服装を隅々まで見てみると、勢いよく扉が開いた。
ルティアが痺れを切らしたようだ。まったく……うるさいやつだ。
「アンタ……なんでネクタイを首に巻いてるの?」
「あ?」
違うのか……?
ネクタイなどつけたことがないから、これが間違っているのか分からない。
「もう、めんどくさいな」
「おい、何をする!?」
「ネクタイ結んであげるから、じっとしてて」
ルティアは首に巻いてあったネクタイをほどく。ブレザーを脱がせると、中腰になりながら慣れた手つきでネクタイを正しく結んだ。
なるほど、ネクタイとはこうやってつけるものか。
「随分と手際がいいな」
「そりゃ私もネクタイをつけてるからね」
「じゃあ明日からも結んでくれ」
「いやだよ。自分でやってよね」
……ケチな女だ。
ネクタイを結び、鞄を背負って、シャルスト学園へ出発する。
家を出ると、勇者とエナが見送りに来た。
「二人とも気をつけて行くのよ。知らない人について行っちゃダメだからね」
「お母さん………心配しすぎだよ。私そんな子供じゃないから」
「それもそうね。お母さんとの約束はちゃんと覚えてる?」
やくそく?
俺がポカンと口を開いていると、ルティアはうんざりとした顔をしながら答える。
「ちゃんと覚えてるよ。弱き者には救いの手を差し伸べる……でしょ」
「そう。勇者の子供として恥じない行動をしなさい。いい?」
「はーい」
何が、弱き者には救いの手を差し伸べる、だ。
俺は魔王だぞ。なぜ人間を助けないといかんのだ。
「……フンっ」と鼻で笑うと、エナに睨まれた。
「ユウ、何か不満がありそうね。思っていることがあるなら言いなさい。話を聞いてあげるから」
「なぜ弱い者を助ける必要がある?この世は弱肉強食。弱い者は強い………ガっ!」
喋っている途中で俺の頭上にげんこつが落ちてくる。
くそっ……話を聞くんじゃなかったのか。
やはり人間は信用ならん。特にこの女は。
「つべこべ言わずに黙って言うことを聞く!」
「フンっ……誰がお前の命令に従うか」
「ねぇユウ、さっきこの世は弱肉強食って言ったよね。だったら私より弱いユウは、私の言うことを聞くのが道理じゃない?」
「ふざけるな。いつから俺が貴様より弱いことになったんだ」
「弱いでしょ。何回もお母さんにお仕置きされてるんだから」
俺がエナを睨んでいると、ルティアは横でやれやれと首を振っていた。
「バカめ。俺を誰だと思っているんだ?見せてやろう。エナごとき軽く一捻りして……」
「だ・れ・を一捻りにするですって!」
機嫌を損ねたエナが俺の側頭部を両拳で挟み込む。そのままおなじみのグリグリ攻撃。
「いだだだだだだ!」
ズキズキした痛みに涙を浮かべてしまう。
痛がる俺を見て、ルティアは「バカね」と呟いていた。
「私はまだアンタに負けるつもりはないわよ!」
「まあまあ、その辺にしてやれ。ユウは生意気な口を利いているが、優しい子だ。困っている人がいれば必ず助けるさ」
勇者の一言でエナの攻撃が止まった。
くそっ……まさか勇者に助けられることになるとは。非常に不快だ。
「ユウ、お前が優しい子だということは分かっているが、俺の経験上、困っている人は助けたほうがいい。なんせ女の子にモテるからな。お前にはまだ分からないと思うが、女の子は自分に優しくされると、ときめく生き物なんだよ。俺も若い頃は色んな女の子を助けて親密な関係になったもんだ」
「さいてー」
ルティアが白い目を向ける。エナはぽきぽきと指を鳴らしていた。
「も、もちろん、昔の話だぞ。結婚してからは母ちゃん一筋だ」
「本当かな~? お父さん、綺麗な人に誘われたらそのままついていきそうだし」
「ははは……そんなことないぞ?」
「どうなんでしょうね~?」
「あ、当たり前だろ! ははははは……ルティアは冗談がキツいなぁ。さぁ、早くしないと遅刻しちゃうぞ。行った行った!」
あからさまに動揺をしている勇者は俺たちの背中を押した。
「それじゃ二人とも頑張って来いよ! 寂しくないように父ちゃんがハグでもしてやろうか?」
「いやだ」
「誰が貴様とするか!」
「……そんなに嫌がるか?」
俺はまだ勇者を殺せていない。
「ユウ、早くしてよ~!置いていくよ」
ルティアの声が聞こえる。
その声を無視して、俺は部屋の立ち鏡を見つめていた。
鏡に映っているのは人間の姿の俺だが。
いつもの軽装とは違う、見慣れない服装をしている。
魔界に学び舎のような場所はないから詳しくないが、エナの話によると人間は学園に行く際、制服というものを着るらしい。ワイシャツの上にブレザーを羽織り、ネクタイを締める。下には黒いズボン。
「ユウ!遅いよ!本当に置いて行っちゃうよ!」
制服、せいふく……征服。なかなかいい響きだ。
そんなことを考えながら体を捻り、物珍しい服装を隅々まで見てみると、勢いよく扉が開いた。
ルティアが痺れを切らしたようだ。まったく……うるさいやつだ。
「アンタ……なんでネクタイを首に巻いてるの?」
「あ?」
違うのか……?
ネクタイなどつけたことがないから、これが間違っているのか分からない。
「もう、めんどくさいな」
「おい、何をする!?」
「ネクタイ結んであげるから、じっとしてて」
ルティアは首に巻いてあったネクタイをほどく。ブレザーを脱がせると、中腰になりながら慣れた手つきでネクタイを正しく結んだ。
なるほど、ネクタイとはこうやってつけるものか。
「随分と手際がいいな」
「そりゃ私もネクタイをつけてるからね」
「じゃあ明日からも結んでくれ」
「いやだよ。自分でやってよね」
……ケチな女だ。
ネクタイを結び、鞄を背負って、シャルスト学園へ出発する。
家を出ると、勇者とエナが見送りに来た。
「二人とも気をつけて行くのよ。知らない人について行っちゃダメだからね」
「お母さん………心配しすぎだよ。私そんな子供じゃないから」
「それもそうね。お母さんとの約束はちゃんと覚えてる?」
やくそく?
俺がポカンと口を開いていると、ルティアはうんざりとした顔をしながら答える。
「ちゃんと覚えてるよ。弱き者には救いの手を差し伸べる……でしょ」
「そう。勇者の子供として恥じない行動をしなさい。いい?」
「はーい」
何が、弱き者には救いの手を差し伸べる、だ。
俺は魔王だぞ。なぜ人間を助けないといかんのだ。
「……フンっ」と鼻で笑うと、エナに睨まれた。
「ユウ、何か不満がありそうね。思っていることがあるなら言いなさい。話を聞いてあげるから」
「なぜ弱い者を助ける必要がある?この世は弱肉強食。弱い者は強い………ガっ!」
喋っている途中で俺の頭上にげんこつが落ちてくる。
くそっ……話を聞くんじゃなかったのか。
やはり人間は信用ならん。特にこの女は。
「つべこべ言わずに黙って言うことを聞く!」
「フンっ……誰がお前の命令に従うか」
「ねぇユウ、さっきこの世は弱肉強食って言ったよね。だったら私より弱いユウは、私の言うことを聞くのが道理じゃない?」
「ふざけるな。いつから俺が貴様より弱いことになったんだ」
「弱いでしょ。何回もお母さんにお仕置きされてるんだから」
俺がエナを睨んでいると、ルティアは横でやれやれと首を振っていた。
「バカめ。俺を誰だと思っているんだ?見せてやろう。エナごとき軽く一捻りして……」
「だ・れ・を一捻りにするですって!」
機嫌を損ねたエナが俺の側頭部を両拳で挟み込む。そのままおなじみのグリグリ攻撃。
「いだだだだだだ!」
ズキズキした痛みに涙を浮かべてしまう。
痛がる俺を見て、ルティアは「バカね」と呟いていた。
「私はまだアンタに負けるつもりはないわよ!」
「まあまあ、その辺にしてやれ。ユウは生意気な口を利いているが、優しい子だ。困っている人がいれば必ず助けるさ」
勇者の一言でエナの攻撃が止まった。
くそっ……まさか勇者に助けられることになるとは。非常に不快だ。
「ユウ、お前が優しい子だということは分かっているが、俺の経験上、困っている人は助けたほうがいい。なんせ女の子にモテるからな。お前にはまだ分からないと思うが、女の子は自分に優しくされると、ときめく生き物なんだよ。俺も若い頃は色んな女の子を助けて親密な関係になったもんだ」
「さいてー」
ルティアが白い目を向ける。エナはぽきぽきと指を鳴らしていた。
「も、もちろん、昔の話だぞ。結婚してからは母ちゃん一筋だ」
「本当かな~? お父さん、綺麗な人に誘われたらそのままついていきそうだし」
「ははは……そんなことないぞ?」
「どうなんでしょうね~?」
「あ、当たり前だろ! ははははは……ルティアは冗談がキツいなぁ。さぁ、早くしないと遅刻しちゃうぞ。行った行った!」
あからさまに動揺をしている勇者は俺たちの背中を押した。
「それじゃ二人とも頑張って来いよ! 寂しくないように父ちゃんがハグでもしてやろうか?」
「いやだ」
「誰が貴様とするか!」
「……そんなに嫌がるか?」
