考え事をしていたせいか、授業は普段の十倍の速さで過ぎていた。
いつもは教卓の上の壁掛け時計が壊れてるんじゃないかと思うぐらい午後の授業は長く感じるのに、気が付くと夕礼が始まっていて、教卓には担任の中島先生が立っていた。
「今から修学旅行のしおりを配ります。ゴールデンウィークが終わると、あっという間に修学旅行だからな。必要なものは休みの間に買っておくように。特に寮生は……佐野、聞いてるか?」
「え? あ、はい!」
中島先生はオレが上の空であることを見抜いていたようで「大丈夫か?」と苦笑いした。
「毎年、寮生の中に『親に私服を送ってもらったのに届きませんでした』と言い出すヤツがいる。早めに親御さんにお願いするんだぞ、佐野」
「はい」
中島先生は他にも、いくつかの注意事項を話した。
それを聞いている間も、オレの頭はゴールデンウィーク明けの修学旅行よりも、これから大智にどう接したらいいかばかり考えていた。
チャイムが鳴り、先生が教室を出ていくと、オレの周りに木下と小原が集まってきた。
「お~い、大丈夫か~?」
「大丈夫じゃない……」
「だよな」
木下は面白がっているのがありありとしてたけど、小原は本気で心配してくれているようだった。
「前から違和感はあったんだ」
「何に対して?」
同じく恋愛経験ゼロだという小原が首を傾げた。
「そりゃ、央位の朝陽に対する距離感だろ」
木下はそういうと、オレの席に椅子を引っ張ってきた。
オレには二人の反応が「ちゃんと聞くよ」という合図に思えて嬉しかった。
「距離感……? 普通じゃないか?」
「いやいや、近いって! 自覚ないのか?」
「スポーツしてるやつって距離近いかも。俺の友だちもそうだった」
「マジ?」
根っからの文化系だという木下は、小原の話を聞いて驚いていた。
「オレが違和感だったのは、周りが『姫扱い』って言ってきたことのほうでさ」
「ああ、言ってたヤツいたね。一年の頃だろ?」
「うん」
一年の頃、大智とオレと木下は同じクラスだった。
最初こそぎこちなかったものの、夏が来るより早くオレは大智と打ち解けて、大智が部活中以外はほぼずっと一緒にいた。
昼飯はもちろん一緒だったし、体育で体操する時もペアになった。
「それのどこが『姫扱い』なんだ?」
「いやいや、それだけじゃない。央位の佐野への特別扱いはハンパなかったんだって」
木下が言う通り、大智はオレにだけ優しかった。
オレが暑いと言えば下敷きで扇いでくれ、寒いと言えば肩にジャージをかけてくれた。ジュースが変なところに入って咽ただけで、保健室までお姫様抱っこで運んでくれたこともあった。
「どう見ても『姫扱い』だろ?」
木下は小原に同意を求めたが、どうやら大智の『姫扱い』は小原の想像を超えていたらしく、驚きすぎて返事ができないようだった。
「オレ男だよ? 『姫』じゃなくて『王子』でよかったじゃん」
「王子扱いってこと?」
木下が舌に馴染まない様子で言うと、小原も「言わなくないか?」と苦笑した。
「それを言ったら男に『姫扱い』なんて言わないだろ、普通」
少なくともオレは男友達がもうひとりの男友達の世話を焼いているのを見て『姫扱い』と言ったことはない。
大智がオレの世話を焼くのを見て周りがそう思ったということは、オレと大智が姫と王子、つまり恋愛的な関係に見えていたんじゃないか。
「意外と頭使って考えるタイプなんだな、佐野って」
「気が付いたのは今日なんだけどな。って小原は、オレのこと頭使わないタイプだと思ってたの?」
「あはは、ごめんごめん。俺は一年の頃の様子を見てないから恋愛的な空気があったかどうかはよくわかんないけど、央位ってなんか王族っぽさない?」
「あー、わかる! 髪が長いのもただのロン毛って感じじゃなくて、王の威厳みたいなの感じるよな」
「そうそう! 央位が相手だから佐野が姫になっただけかもよ?」
「うーん、そうかー」
確かに大智は王様のように堂々としている。
デカくて強そうなヤツの隣に小柄で色白なオレがいたから『姫』になった説はありえそうな気がした。
しばらく三人でああだこうだ言っていたが、真実を知ってるのは大智だけだ。
結局のところ、気になるのなら聞いてみるしかない。
いつもは教卓の上の壁掛け時計が壊れてるんじゃないかと思うぐらい午後の授業は長く感じるのに、気が付くと夕礼が始まっていて、教卓には担任の中島先生が立っていた。
「今から修学旅行のしおりを配ります。ゴールデンウィークが終わると、あっという間に修学旅行だからな。必要なものは休みの間に買っておくように。特に寮生は……佐野、聞いてるか?」
「え? あ、はい!」
中島先生はオレが上の空であることを見抜いていたようで「大丈夫か?」と苦笑いした。
「毎年、寮生の中に『親に私服を送ってもらったのに届きませんでした』と言い出すヤツがいる。早めに親御さんにお願いするんだぞ、佐野」
「はい」
中島先生は他にも、いくつかの注意事項を話した。
それを聞いている間も、オレの頭はゴールデンウィーク明けの修学旅行よりも、これから大智にどう接したらいいかばかり考えていた。
チャイムが鳴り、先生が教室を出ていくと、オレの周りに木下と小原が集まってきた。
「お~い、大丈夫か~?」
「大丈夫じゃない……」
「だよな」
木下は面白がっているのがありありとしてたけど、小原は本気で心配してくれているようだった。
「前から違和感はあったんだ」
「何に対して?」
同じく恋愛経験ゼロだという小原が首を傾げた。
「そりゃ、央位の朝陽に対する距離感だろ」
木下はそういうと、オレの席に椅子を引っ張ってきた。
オレには二人の反応が「ちゃんと聞くよ」という合図に思えて嬉しかった。
「距離感……? 普通じゃないか?」
「いやいや、近いって! 自覚ないのか?」
「スポーツしてるやつって距離近いかも。俺の友だちもそうだった」
「マジ?」
根っからの文化系だという木下は、小原の話を聞いて驚いていた。
「オレが違和感だったのは、周りが『姫扱い』って言ってきたことのほうでさ」
「ああ、言ってたヤツいたね。一年の頃だろ?」
「うん」
一年の頃、大智とオレと木下は同じクラスだった。
最初こそぎこちなかったものの、夏が来るより早くオレは大智と打ち解けて、大智が部活中以外はほぼずっと一緒にいた。
昼飯はもちろん一緒だったし、体育で体操する時もペアになった。
「それのどこが『姫扱い』なんだ?」
「いやいや、それだけじゃない。央位の佐野への特別扱いはハンパなかったんだって」
木下が言う通り、大智はオレにだけ優しかった。
オレが暑いと言えば下敷きで扇いでくれ、寒いと言えば肩にジャージをかけてくれた。ジュースが変なところに入って咽ただけで、保健室までお姫様抱っこで運んでくれたこともあった。
「どう見ても『姫扱い』だろ?」
木下は小原に同意を求めたが、どうやら大智の『姫扱い』は小原の想像を超えていたらしく、驚きすぎて返事ができないようだった。
「オレ男だよ? 『姫』じゃなくて『王子』でよかったじゃん」
「王子扱いってこと?」
木下が舌に馴染まない様子で言うと、小原も「言わなくないか?」と苦笑した。
「それを言ったら男に『姫扱い』なんて言わないだろ、普通」
少なくともオレは男友達がもうひとりの男友達の世話を焼いているのを見て『姫扱い』と言ったことはない。
大智がオレの世話を焼くのを見て周りがそう思ったということは、オレと大智が姫と王子、つまり恋愛的な関係に見えていたんじゃないか。
「意外と頭使って考えるタイプなんだな、佐野って」
「気が付いたのは今日なんだけどな。って小原は、オレのこと頭使わないタイプだと思ってたの?」
「あはは、ごめんごめん。俺は一年の頃の様子を見てないから恋愛的な空気があったかどうかはよくわかんないけど、央位ってなんか王族っぽさない?」
「あー、わかる! 髪が長いのもただのロン毛って感じじゃなくて、王の威厳みたいなの感じるよな」
「そうそう! 央位が相手だから佐野が姫になっただけかもよ?」
「うーん、そうかー」
確かに大智は王様のように堂々としている。
デカくて強そうなヤツの隣に小柄で色白なオレがいたから『姫』になった説はありえそうな気がした。
しばらく三人でああだこうだ言っていたが、真実を知ってるのは大智だけだ。
結局のところ、気になるのなら聞いてみるしかない。
