「今日から文化祭準備期間が始まる! ほぼ去年と同じ説明だけど一応聞いてくれ」
翌朝のホームルームで中嶋先生が声を張り上げた。
「うちの学校では、スポーツクラスを除いた一年二年の全八クラスが屋台と教室企画をする。その中で来場者アンケートで一位になったクラスには賞品が授与される」
「先生! 賞品は去年と同じー?」
「おう! 学食のスペシャルランチの食券だ!」
それを聞いて男子高校生たちが、まるでゴリラがドラミングするかのように机を叩き始めた。
なんだ学食の食券か、なんて思うのは一年生だけ。
このスペシャルランチは本当にスペシャルで、去年はなんと人気ラーメン店三郎のスタッフを学校に招き、優勝したクラス約三十名だけに特別なラーメンが提供された。
あの強烈に食欲をそそる匂いは今も忘れられない。
噂によると、浜松の人気餃子店だったり、札幌の行列ができるスープカレー店だったりしたこともあるらしい。
今年はどんなお店か、文化祭が終わるまで発表されないのもまた盛り上がる理由の一つになっている。
「静かにー! 優勝するための作戦会議を始める前に、スポーツクラスの生徒たちを教室に迎えよう!」
そう言うと中嶋先生は廊下に出て「入っていいぞー」と声をかけた。
スポーツクラスの生徒は朝も放課後も練習があるため準備のための作業ができない。そのため、毎年一般クラスに混ざって文化祭に参加する。
うちのクラスに来たスポーツクラスの生徒は全部で八人。その中には武田と大智もいた。
「マジか……」
「佐野? どうかした?」
「う、ううん、なんでもない」
スポーツクラスの生徒たちは「うっす」「あ、どうも」なんて言いながら椅子持参で教室に入って来た。
同級生の教室に入って来ただけなのに、まるで先輩たちがたむろしている部室に入って来たようにおどおどしている。
まあ、仕方ないよな。
オレたち一般クラスはクラス替えや体育があるから、三年生になればだいたいのヤツの名前はわかる。
それにひきかえスポーツクラスは、基本的に三年間ずっと同じクラスで体育も別。ほぼ全員がスポーツクラス専用の寮で生活しているから一般クラスと話す機会がないのだ。
堂々と椅子も持たずに教室に入って来たのは大智ぐらいだ。
「朝陽のとこ座っていい?」
「う、うん」
大智が寮を移ると宣言してから、なんとなく気まずさを感じてるのはオレだけで、大智はいつも通りマイペースだ。
「武田ー! 俺のところ座る?」
オレの前の席の木下が声を掛けると「おう」と武田が応えた。
「座っていいのか?」
「うん、俺と佐野は文化祭実行委員なんだ」
「へえ。よろしくな」
「こっちこそ!」
木下と並んで教卓の後ろに立つと、さっきよりはっきりと表情の違いがわかった。
オレたち一般クラスは「絶対優勝!」とやる気満々だ。
スポーツクラスはその熱に圧倒されているように見える。彼らは部活があるので参加できる時間が限られている。申し訳なさを感じているのか壇上のオレと目を合わせようとさえしない。
二つのグループの温度差を感じていると、我らがお祭り男木下が「やりたい企画あるひとー!」と呼びかけた。
「はい!」
「はい、佐野!」
真横で手を上げたオレを木下がさす。
「『文武両道チャレンジ』はどうでしょうか!」
その内容はこうだ。
教室に来てくれたお客さんに様々な種目にチャレンジしてもらう。オレたちの最高記録よりいい記録が出せたら、出店で使える値引き券がゲットできる。
「俺たち一般クラスは『文』な種目でお客さんと競って、スポーツクラスのみんなには『武』の種目でお客さんと競ってもらう……のはどうかなと」
スポーツクラスがいる方を見る。
央位はニコニコしながらオレを見ていた。オレを可愛いなと思ってる時の顔だ。「どう思う?」と聞いたら「すごくいいと思う」と答えるだろう。
「面白そうだけど……俺ら当日もいない時間あるけど大丈夫か?」
武田がそう言うと近くにいたスポーツクラスの数名がうんうんとうなずいた。
「大丈夫! 最高記録は朝、お客さんが来る前に計測して、ランキング表にして壁に貼りだそうと思ってる」
オレがそう言うと武田は「朝なら時間あるよな」と言って、近くのクラスメイトを見た。
「うん」
「俺たちに合わせてもらうのは申し訳ない気もするけど……」
スポーツクラスの遠慮がちなが声が聞こえてくると、木下が口を開いた。
「実はさ、修学旅行の時から考えてたんだ。スポーツクラスは修学旅行でも朝練してて本当すごいなぁって。その頑張りを大会とかで発揮してくれてるおかげで、うちの学校が有名なったりするじゃん? だから文化祭は俺たちが頑張る番だと思う! 準備に参加できないとか、当日シフトにはいれないとかは全然いいからさ! 俺たちとしては、スポーツクラスのみんなに楽しんでもらいたい!」
「木下にしてはいいこと言うだろ?」
「木下にしては、は余計だぞ!」
物怖じしないという点で木下は大智と似ているかもしれない。
その木下のおかげで、クラスの空気が一気に和らいだ。
スポーツクラスのメンバーからも意見が出て、黒板は教室企画と出店のアイデアでいっぱいになった。
中嶋先生は、最初の説明以外は口を出さなかったけど、その黒板を嬉しそうに眺めていた。
話し合いの結果、『文』部門 は「記憶力チャレンジ」と「けん玉」、『武』部門は 「リフティングチャレンジ」と「腹筋チャレンジ」 に決まった。
合計四種目だ。
放課後、それらを実際にやってみようということで話がまとまった。
まずは記憶力チャレンジ。
オレは授業を終えてオレの教室にやってきた大智を教卓に呼んだ。
「これ試しにやってみてくれないか?」
「うん、いいよ」
大智の前にあるのは中島先生から借りた顔写真付きの名簿のコピーだ。
オレたちのクラスと、スポーツクラスの八人が掲載されている。
「これを二十秒見て顔と名前を憶えて。あとで名前を聞くからな!」
「うん」
「じゃあ、スタート」
大智は真剣に覚えようとしているように見えた。
でも、オレが名簿を回収し、クラスメイトの写真を一枚見せて名前を尋ねると……
「……田所」
「はずれ。この人は?」
「……い、磯野?」
「ハズレ」
大智は十人中五人の名前しか応えられなかった。クラスが違うとはいえ、同じ学校の同級生なのに。
それを見てクラスメイトは「存在しないクラスメイトが爆誕してる」と笑っていた。
「央位、俺! 俺の名前は?」
「き……木下」
「よっしゃ! って、一年の時同じクラスだったよ? なんで一瞬迷った?」
「じゃあ俺は!?」
「佐藤?」
「里中だよ! せっかく一緒に文化祭やるんだから名前覚えてよ~!」
「今覚えた、もう忘れない」
大智が真面目な声で言うと、里中は胸を手で押さえた。
「あれ、なんだろ、ちょっとときめいた……」
イケメンは名前を覚えただけで、ときめいてもらえるらしい。
名前の話で盛り上がっていると、武田がボールを持って教室に入って来た。
「監督から古いボール借りて来たぞー! 空気も入れといた」
「おお、ありがとう!」
武田が投げたサッカーボールを見て木下が不思議そうに首を傾げた。
「なんかボール小さくね?」
「リフティング用だからな」
「へえ、リフティング用なんてあるんだ」
武田が持って来てくれたのはリフティングなどの練習に使われるボールで、小学生が試合で使うボールよりも小さい。
授業で使ったボールと比べるとかなり小さく感じるはずだ。
「どれぐらいの広さがあればできるか検証してみよう」
リフティングチャレンジでは五分間に何回できるかを競う。
サッカー部の武田と大智にリフティングをやってもらい、回数を数えるのは練習としてサッカー未経験者にやってもらうことにした。
さすがはサッカー部、二人とも五分間にボールを一度も落とさなかった。
結果は三回差で大智が勝った。
「ねえ、俺もやってみていい?」
「俺もやってみたい」
一般クラスの生徒も挑戦してみたが、二人の回数には遠く及ばなかった。
でも、挑戦してくれたおかげで未経験者がやるとボールが思わぬところに飛ぶことがわかった。
ボールが飛ばないように周りにガードを立てたほうが良さそうだ。
「サッカー部すげえ……」
「来場者が勝つことは絶対にないな」
それでいい。
お客さんには悪いが、簡単に勝たれたら値引きチケットが出まくって、出店が赤字になってしまう。
放課後の部活が始まる前に腹筋チャレンジもやっておこうという話になった。
ルールは簡単で二分間で何回腹筋ができるかを競う。
スポーツクラスからはサッカー部の二人と陸上部とバスケ部各一名、一般クラスからは筋肉自慢三人が名乗りをあげ、全員が教室の床に寝転がった。
「毎日筋トレしてるから!」
「ワンチャン勝っちゃうかも」
一般クラスの三人は威勢のいいことを言っていたのだが……
「はあ、はあ、まだ!?」
「長すぎっ、ちゃんと計ってる!?」
そもそも二分も続かなかった。
スポーツクラスの生徒たちは難なくこなしていたが、文化祭に遊びに来てこんなにキツいことをやるヤツはいないだろうという意見が出たので、腹筋チャレンジの計測時間は二分から三十秒に変更した。
スポーツクラスが部活に行ったあとで買い出しメンバーが帰ってきた。
「買ってきたぞ~」
そう言って小原はエコバッグからけん玉を取り出した。
「けん玉って『文』かなあ?」
「日本の伝統的な遊びだから『文』ってことで」
「あ、なるほど」
けん玉は三十秒間に決めた技の合計点数で競う。大皿一点、小皿二点、とめけん三点だ。
三個買ってきたけん玉で試しにやってみたのだが……
「やばい……全然できない……!」
けん玉ならオレたちでも出来るだろう! と選んだのに、オレを含めたその場にいたクラスの誰もまともにできなかった。
「どうする?」
「別の種目にする?」
「けん玉買っちゃったのに?」
「こうなったら……特訓するしかないだろ!」
翌日からけん玉の特訓が始まった。
他クラスが休み時間も文化祭の準備をしている中、オレたちがけん玉の特訓をしていると、別のクラスで文化祭に参加する藤井に「なにやってんだ?」と不思議がられた。
オレだって、不思議で仕方ない。
小学生のときはできたのに、高校生になった今、どうして出来なくなってるんだ?
休み時間の度にやってるのに、何日経ってもけん玉は上達しなかった。
「むきぃ!」
「佐野、熱くなりすぎだぞ~」
オレが悪戦苦闘していると大智がふらっと教室にやって来た。
「俺もやってみていい?」
「うん……」
「この玉をどうすればいいの?」
「え?」
大智はけん玉をやった記憶がほぼないという。
それなのに……
「うわ、すご!」
「最高得点だ!」
超能力でも使ってるんじゃないかというぐらい、大智はとめけんを連発した。
「このぶんだとランキング表の一位は全部央位の名前になりそうだな」
木下は呆れたように笑った。
「オレだってできるし!」
ムキになって言い返すと、大智が「朝陽かわいい」と言って笑った。
悪気はないとわかっている。
でも、その散歩中のトイプードルを見るかのような顔は、煽っていると思われても仕方ないと思うぞ。
「佐野っち、一緒に頑張ろう!」
オレにそう声を掛けてくれたのは、クラスメイトの野田だった。
「野田っち~~」
野田の癒し系ボディに抱きつくと、後ろから大智の「は?」という声がしたが聞こえないフリをした。
文化祭準備が始まって一週間後の放課後。
家庭科室で新妻先生との面接があった。
出店の内容をプレゼンして、新妻先生からオーケーが出るまで出店の準備はできない。
面接を受けるのは文化祭実行委員の木下とオレ。
緊張しながら企画書を提出すると、新妻先生は首を傾げながら頬に手を当てた。
「プロテインドリンクとチーズケーキかぁ……」
「は、はい!」
「『文武両道亭』って名前、素敵だね。プロテインが『武』なのはわかるけど、どうしてチーズケーキが『文』なの?」
「それはですね……!」
想定していた質問だったので自信を持って答えることができた。
ヘルシーな食材でつくること、買ってくれたひとが家でも作れるようにレシピカードを一緒に渡すことを説明すると、新妻先生の反応が好転したのがわかった。
「レシピの最後には『勉強も筋トレも、積み重ね』って入れる予定です!」
「なるほど……企画がちゃんと練られているので、仮合格です! 次回はそのレシピを実際に作ってみましょう。買い出しをしておいてね!」
「はい」
「プロテインは一杯分ずつパックされているタイプと書いてあるけど、念のため確認したいから試食会の時に作ってね」
「わかりました」
次は実際に作って、新妻先生が試食してOKがもらえたら本当の合格だ。
やることは他にもまだまだいっぱいある。
オレと木下が家庭科室を出て教室に向かっていると、昇降口に段ボールを調達班が戻ってきていた。
教室内を装飾したり、出店の看板を作ったりと段ボールの使い道はいくつもあるが、中嶋先生から「リフティングチャレンジで窓を破らないように窓に段ボールを貼ったほうがいい」と言われたので、当初の予定よりいっぱい必要だった。
「お疲れ! 大変だったよな、ありがとう」
「中嶋先生が車出してくれたから大丈夫!」
小原はそう言ってくれたけど、段ボールは下駄箱と下駄箱の間をふさぐほどの量があった。
「ここから教室までは人力だな~」
「グループメッセで手伝いを募集するか」
「だな」
「俺も運ぶ」
そう言って駆け寄って来てくれたのはユニフォーム姿の武田だった。
「それは助かるけど、練習大丈夫なのか?」
「ナイター設備が故障して、修理が終わるまで文化祭の準備に行っていいことになった」
「そうなんだ」
昇降口から外を見ると、すでに外灯が光っていた。
夏休み前に比べると日が沈むのが早くなった。
まだ完全に日が沈んだわけではないので人が歩いてるのはわかるけれど、誰が歩いているかはわからないぐらいには暗い。
大量の段ボールを教室に運び終わると、もう最終下校時間だった。
帰宅するクラスメイトたちと別れると、寮に向かうオレとグラウンドの様子を見に向かう武田の二人だけになった。
「この前は急に悪かったな」
「ん? なんの話?」
「寮のこと」
「ああ……」
文化祭で忙しいおかげで、そのことについて深く考えすに済んでいた。
大智はスポーツクラスに転入したんだから、スポーツクラスの寮に移るのは正しい。
でも、確かに急な話で驚いたし、大智がすんなり受け入れたことがちょっとだけショックだった。
「来年の新入生のセレクションが始まる関係で寮を使う人数を把握しなきゃいけなかったんだ」
「そっか、キャプテンは大変だな」
「まあな。でも予想してた半分ぐらいの大変さだったよ。央位がごねなかったから」
「ははは……」
つまり武田の心配の半分は央位大智が占めていたことになる。困ったやつだ。
「本当はあの時に話すつもりだったんだけど……佐野にはめちゃくちゃ感謝してるんだ」
「え?」
「佐野と付き合い出してから央位がかなり調子良くてさ。試合には勝つし、央位に刺激されて上達するメンバーもいて」
オレたちが付き合い始めてから、ということは、修学旅行のあとということだ。
夏休み直前の試合ではプロのユースチームに大敗していたが、夏休み以降は調子が良さそうだった。
開久高校サッカー部公式SNSを見て「頑張ってるなあ」と思っていたが、武田が「調子いい」と言うなら相当すごいのだろう。
「偶然だよ」
「いいや、偶然じゃない」
武田が足を止めたので、オレも止まった。
真っ暗になった校舎の横で、武田は確信を持った顔でオレを見た。
「テストが終わってから、あの央位が自主練するようになったんだ」
大智の「サッカーが好き」という気持ちは疑いようのないものだけど、良くも悪くもマイペースで、気が乗らなさそうな顔で練習に向かうこともあった。
「佐野がサッカーの通訳を目指すって言ったからだ」
「え?」
「佐野が通訳になるなら、央位は海外で活躍できる選手にならないといけない。さすがの央位も頑張らないとヤバイと思ったんだろ。寮の移動を了承したのだって、本気でサッカーに向き合おうとしてるからだと思う」
大智がこれから先もオレと一緒にいたいと思ってくれてるなら嬉しいけど、あの央位大智がオレの将来の夢に影響されているなんて信じられなかった。
「そ、そうかなあ?」
「自信持てって」
そう言って武田がオレの頭をポンと撫でた。
こういうところなんだろうな、武田がモテるのは。
周りをよく見て、必要なフォローを入れることができる。
ごめんな、武田。五股かけてるなんて話を信じたりして。
「はは、すげえ睨むじゃん」
「え? 睨んでないぞ?」
「いや、佐野じゃない。校舎の窓に央位が映ってて」
よく見ると武田の視線はオレから少し横にずれていて、校舎の窓を見ているのだとわかった。
その武田の後ろを見ると、大智が不機嫌マックスな表情でこっちを見ていた。
「もっと近付いたら、どうなるんだろ?」
武田は少し屈んで、オレの耳元でそう囁いた。
「大智で遊ぶなよ」
「はは、ぐはっ」
大智が横から肩をぶつけて武田がよろめいた。
「体幹トレーニング増やしたほうがいいんじゃね?」
「お前にトレーニングについて指図されるとはな」
「うるせぇな……監督が呼んでるぞ」
「わかった。じゃあな、佐野。さっきの話、マジだから」
武田がウィンクすると、大智が歯を剥き出しにして睨み付けた。まるで野生動物の威嚇だ。
「朝陽、武田に何を言われたの?」
「なんでもない。武田が大智を揶揄っただけだよ」
「ちゃんと言ってくれないと帰さない」
大智は校舎の壁に手を付いて、オレを両腕の中に閉じ込めた。
おお、これが壁ドンってやつか。
「好き」
「えっ」
外灯に照らされているだけなのに大智が真っ赤になったのがわかった。
「はは、すごい顔! みんなに何かあったってバレるぞ?」
「はあ? 別にバレてもいいし」
「えっ」
「なに、朝陽はオレと付き合ってること隠したいの?」
「そういうわけじゃないけど……」
隠したいのは、そっちじゃないのか?
恋人ごっこをした時は周りに言わないってルールを作っていたじゃないかと指摘すると、大智は「好きなヤツを口説いてることが周りにバレるのはだせえだろ」と言って唇をとがらせた。
「え、オレ、口説かれてたの?」
「そうだよ……あんまこっち見んな」
それは無理な相談だ。
あの大智が顔を隠すほど照れるところなんて、なかなか見られるもんじゃない。
「やばい……」
「何が?」
「キスしたい」
「今?」
「うん」
半分冗談で目を閉じると、唇に柔らかいものが一瞬だけ触れた。
「そろそろサッカー部のヤツが来るから続きは寮に帰ってからにしよう」
「寮ではキスしないぞ」
「このっ、ワガママめ」
大智がきゅっとオレの鼻をつまんだ。
マイペース頑固キング央位大智に「ワガママ」と言わしめたオレって、結構すごいんじゃないか?
翌朝のホームルームで中嶋先生が声を張り上げた。
「うちの学校では、スポーツクラスを除いた一年二年の全八クラスが屋台と教室企画をする。その中で来場者アンケートで一位になったクラスには賞品が授与される」
「先生! 賞品は去年と同じー?」
「おう! 学食のスペシャルランチの食券だ!」
それを聞いて男子高校生たちが、まるでゴリラがドラミングするかのように机を叩き始めた。
なんだ学食の食券か、なんて思うのは一年生だけ。
このスペシャルランチは本当にスペシャルで、去年はなんと人気ラーメン店三郎のスタッフを学校に招き、優勝したクラス約三十名だけに特別なラーメンが提供された。
あの強烈に食欲をそそる匂いは今も忘れられない。
噂によると、浜松の人気餃子店だったり、札幌の行列ができるスープカレー店だったりしたこともあるらしい。
今年はどんなお店か、文化祭が終わるまで発表されないのもまた盛り上がる理由の一つになっている。
「静かにー! 優勝するための作戦会議を始める前に、スポーツクラスの生徒たちを教室に迎えよう!」
そう言うと中嶋先生は廊下に出て「入っていいぞー」と声をかけた。
スポーツクラスの生徒は朝も放課後も練習があるため準備のための作業ができない。そのため、毎年一般クラスに混ざって文化祭に参加する。
うちのクラスに来たスポーツクラスの生徒は全部で八人。その中には武田と大智もいた。
「マジか……」
「佐野? どうかした?」
「う、ううん、なんでもない」
スポーツクラスの生徒たちは「うっす」「あ、どうも」なんて言いながら椅子持参で教室に入って来た。
同級生の教室に入って来ただけなのに、まるで先輩たちがたむろしている部室に入って来たようにおどおどしている。
まあ、仕方ないよな。
オレたち一般クラスはクラス替えや体育があるから、三年生になればだいたいのヤツの名前はわかる。
それにひきかえスポーツクラスは、基本的に三年間ずっと同じクラスで体育も別。ほぼ全員がスポーツクラス専用の寮で生活しているから一般クラスと話す機会がないのだ。
堂々と椅子も持たずに教室に入って来たのは大智ぐらいだ。
「朝陽のとこ座っていい?」
「う、うん」
大智が寮を移ると宣言してから、なんとなく気まずさを感じてるのはオレだけで、大智はいつも通りマイペースだ。
「武田ー! 俺のところ座る?」
オレの前の席の木下が声を掛けると「おう」と武田が応えた。
「座っていいのか?」
「うん、俺と佐野は文化祭実行委員なんだ」
「へえ。よろしくな」
「こっちこそ!」
木下と並んで教卓の後ろに立つと、さっきよりはっきりと表情の違いがわかった。
オレたち一般クラスは「絶対優勝!」とやる気満々だ。
スポーツクラスはその熱に圧倒されているように見える。彼らは部活があるので参加できる時間が限られている。申し訳なさを感じているのか壇上のオレと目を合わせようとさえしない。
二つのグループの温度差を感じていると、我らがお祭り男木下が「やりたい企画あるひとー!」と呼びかけた。
「はい!」
「はい、佐野!」
真横で手を上げたオレを木下がさす。
「『文武両道チャレンジ』はどうでしょうか!」
その内容はこうだ。
教室に来てくれたお客さんに様々な種目にチャレンジしてもらう。オレたちの最高記録よりいい記録が出せたら、出店で使える値引き券がゲットできる。
「俺たち一般クラスは『文』な種目でお客さんと競って、スポーツクラスのみんなには『武』の種目でお客さんと競ってもらう……のはどうかなと」
スポーツクラスがいる方を見る。
央位はニコニコしながらオレを見ていた。オレを可愛いなと思ってる時の顔だ。「どう思う?」と聞いたら「すごくいいと思う」と答えるだろう。
「面白そうだけど……俺ら当日もいない時間あるけど大丈夫か?」
武田がそう言うと近くにいたスポーツクラスの数名がうんうんとうなずいた。
「大丈夫! 最高記録は朝、お客さんが来る前に計測して、ランキング表にして壁に貼りだそうと思ってる」
オレがそう言うと武田は「朝なら時間あるよな」と言って、近くのクラスメイトを見た。
「うん」
「俺たちに合わせてもらうのは申し訳ない気もするけど……」
スポーツクラスの遠慮がちなが声が聞こえてくると、木下が口を開いた。
「実はさ、修学旅行の時から考えてたんだ。スポーツクラスは修学旅行でも朝練してて本当すごいなぁって。その頑張りを大会とかで発揮してくれてるおかげで、うちの学校が有名なったりするじゃん? だから文化祭は俺たちが頑張る番だと思う! 準備に参加できないとか、当日シフトにはいれないとかは全然いいからさ! 俺たちとしては、スポーツクラスのみんなに楽しんでもらいたい!」
「木下にしてはいいこと言うだろ?」
「木下にしては、は余計だぞ!」
物怖じしないという点で木下は大智と似ているかもしれない。
その木下のおかげで、クラスの空気が一気に和らいだ。
スポーツクラスのメンバーからも意見が出て、黒板は教室企画と出店のアイデアでいっぱいになった。
中嶋先生は、最初の説明以外は口を出さなかったけど、その黒板を嬉しそうに眺めていた。
話し合いの結果、『文』部門 は「記憶力チャレンジ」と「けん玉」、『武』部門は 「リフティングチャレンジ」と「腹筋チャレンジ」 に決まった。
合計四種目だ。
放課後、それらを実際にやってみようということで話がまとまった。
まずは記憶力チャレンジ。
オレは授業を終えてオレの教室にやってきた大智を教卓に呼んだ。
「これ試しにやってみてくれないか?」
「うん、いいよ」
大智の前にあるのは中島先生から借りた顔写真付きの名簿のコピーだ。
オレたちのクラスと、スポーツクラスの八人が掲載されている。
「これを二十秒見て顔と名前を憶えて。あとで名前を聞くからな!」
「うん」
「じゃあ、スタート」
大智は真剣に覚えようとしているように見えた。
でも、オレが名簿を回収し、クラスメイトの写真を一枚見せて名前を尋ねると……
「……田所」
「はずれ。この人は?」
「……い、磯野?」
「ハズレ」
大智は十人中五人の名前しか応えられなかった。クラスが違うとはいえ、同じ学校の同級生なのに。
それを見てクラスメイトは「存在しないクラスメイトが爆誕してる」と笑っていた。
「央位、俺! 俺の名前は?」
「き……木下」
「よっしゃ! って、一年の時同じクラスだったよ? なんで一瞬迷った?」
「じゃあ俺は!?」
「佐藤?」
「里中だよ! せっかく一緒に文化祭やるんだから名前覚えてよ~!」
「今覚えた、もう忘れない」
大智が真面目な声で言うと、里中は胸を手で押さえた。
「あれ、なんだろ、ちょっとときめいた……」
イケメンは名前を覚えただけで、ときめいてもらえるらしい。
名前の話で盛り上がっていると、武田がボールを持って教室に入って来た。
「監督から古いボール借りて来たぞー! 空気も入れといた」
「おお、ありがとう!」
武田が投げたサッカーボールを見て木下が不思議そうに首を傾げた。
「なんかボール小さくね?」
「リフティング用だからな」
「へえ、リフティング用なんてあるんだ」
武田が持って来てくれたのはリフティングなどの練習に使われるボールで、小学生が試合で使うボールよりも小さい。
授業で使ったボールと比べるとかなり小さく感じるはずだ。
「どれぐらいの広さがあればできるか検証してみよう」
リフティングチャレンジでは五分間に何回できるかを競う。
サッカー部の武田と大智にリフティングをやってもらい、回数を数えるのは練習としてサッカー未経験者にやってもらうことにした。
さすがはサッカー部、二人とも五分間にボールを一度も落とさなかった。
結果は三回差で大智が勝った。
「ねえ、俺もやってみていい?」
「俺もやってみたい」
一般クラスの生徒も挑戦してみたが、二人の回数には遠く及ばなかった。
でも、挑戦してくれたおかげで未経験者がやるとボールが思わぬところに飛ぶことがわかった。
ボールが飛ばないように周りにガードを立てたほうが良さそうだ。
「サッカー部すげえ……」
「来場者が勝つことは絶対にないな」
それでいい。
お客さんには悪いが、簡単に勝たれたら値引きチケットが出まくって、出店が赤字になってしまう。
放課後の部活が始まる前に腹筋チャレンジもやっておこうという話になった。
ルールは簡単で二分間で何回腹筋ができるかを競う。
スポーツクラスからはサッカー部の二人と陸上部とバスケ部各一名、一般クラスからは筋肉自慢三人が名乗りをあげ、全員が教室の床に寝転がった。
「毎日筋トレしてるから!」
「ワンチャン勝っちゃうかも」
一般クラスの三人は威勢のいいことを言っていたのだが……
「はあ、はあ、まだ!?」
「長すぎっ、ちゃんと計ってる!?」
そもそも二分も続かなかった。
スポーツクラスの生徒たちは難なくこなしていたが、文化祭に遊びに来てこんなにキツいことをやるヤツはいないだろうという意見が出たので、腹筋チャレンジの計測時間は二分から三十秒に変更した。
スポーツクラスが部活に行ったあとで買い出しメンバーが帰ってきた。
「買ってきたぞ~」
そう言って小原はエコバッグからけん玉を取り出した。
「けん玉って『文』かなあ?」
「日本の伝統的な遊びだから『文』ってことで」
「あ、なるほど」
けん玉は三十秒間に決めた技の合計点数で競う。大皿一点、小皿二点、とめけん三点だ。
三個買ってきたけん玉で試しにやってみたのだが……
「やばい……全然できない……!」
けん玉ならオレたちでも出来るだろう! と選んだのに、オレを含めたその場にいたクラスの誰もまともにできなかった。
「どうする?」
「別の種目にする?」
「けん玉買っちゃったのに?」
「こうなったら……特訓するしかないだろ!」
翌日からけん玉の特訓が始まった。
他クラスが休み時間も文化祭の準備をしている中、オレたちがけん玉の特訓をしていると、別のクラスで文化祭に参加する藤井に「なにやってんだ?」と不思議がられた。
オレだって、不思議で仕方ない。
小学生のときはできたのに、高校生になった今、どうして出来なくなってるんだ?
休み時間の度にやってるのに、何日経ってもけん玉は上達しなかった。
「むきぃ!」
「佐野、熱くなりすぎだぞ~」
オレが悪戦苦闘していると大智がふらっと教室にやって来た。
「俺もやってみていい?」
「うん……」
「この玉をどうすればいいの?」
「え?」
大智はけん玉をやった記憶がほぼないという。
それなのに……
「うわ、すご!」
「最高得点だ!」
超能力でも使ってるんじゃないかというぐらい、大智はとめけんを連発した。
「このぶんだとランキング表の一位は全部央位の名前になりそうだな」
木下は呆れたように笑った。
「オレだってできるし!」
ムキになって言い返すと、大智が「朝陽かわいい」と言って笑った。
悪気はないとわかっている。
でも、その散歩中のトイプードルを見るかのような顔は、煽っていると思われても仕方ないと思うぞ。
「佐野っち、一緒に頑張ろう!」
オレにそう声を掛けてくれたのは、クラスメイトの野田だった。
「野田っち~~」
野田の癒し系ボディに抱きつくと、後ろから大智の「は?」という声がしたが聞こえないフリをした。
文化祭準備が始まって一週間後の放課後。
家庭科室で新妻先生との面接があった。
出店の内容をプレゼンして、新妻先生からオーケーが出るまで出店の準備はできない。
面接を受けるのは文化祭実行委員の木下とオレ。
緊張しながら企画書を提出すると、新妻先生は首を傾げながら頬に手を当てた。
「プロテインドリンクとチーズケーキかぁ……」
「は、はい!」
「『文武両道亭』って名前、素敵だね。プロテインが『武』なのはわかるけど、どうしてチーズケーキが『文』なの?」
「それはですね……!」
想定していた質問だったので自信を持って答えることができた。
ヘルシーな食材でつくること、買ってくれたひとが家でも作れるようにレシピカードを一緒に渡すことを説明すると、新妻先生の反応が好転したのがわかった。
「レシピの最後には『勉強も筋トレも、積み重ね』って入れる予定です!」
「なるほど……企画がちゃんと練られているので、仮合格です! 次回はそのレシピを実際に作ってみましょう。買い出しをしておいてね!」
「はい」
「プロテインは一杯分ずつパックされているタイプと書いてあるけど、念のため確認したいから試食会の時に作ってね」
「わかりました」
次は実際に作って、新妻先生が試食してOKがもらえたら本当の合格だ。
やることは他にもまだまだいっぱいある。
オレと木下が家庭科室を出て教室に向かっていると、昇降口に段ボールを調達班が戻ってきていた。
教室内を装飾したり、出店の看板を作ったりと段ボールの使い道はいくつもあるが、中嶋先生から「リフティングチャレンジで窓を破らないように窓に段ボールを貼ったほうがいい」と言われたので、当初の予定よりいっぱい必要だった。
「お疲れ! 大変だったよな、ありがとう」
「中嶋先生が車出してくれたから大丈夫!」
小原はそう言ってくれたけど、段ボールは下駄箱と下駄箱の間をふさぐほどの量があった。
「ここから教室までは人力だな~」
「グループメッセで手伝いを募集するか」
「だな」
「俺も運ぶ」
そう言って駆け寄って来てくれたのはユニフォーム姿の武田だった。
「それは助かるけど、練習大丈夫なのか?」
「ナイター設備が故障して、修理が終わるまで文化祭の準備に行っていいことになった」
「そうなんだ」
昇降口から外を見ると、すでに外灯が光っていた。
夏休み前に比べると日が沈むのが早くなった。
まだ完全に日が沈んだわけではないので人が歩いてるのはわかるけれど、誰が歩いているかはわからないぐらいには暗い。
大量の段ボールを教室に運び終わると、もう最終下校時間だった。
帰宅するクラスメイトたちと別れると、寮に向かうオレとグラウンドの様子を見に向かう武田の二人だけになった。
「この前は急に悪かったな」
「ん? なんの話?」
「寮のこと」
「ああ……」
文化祭で忙しいおかげで、そのことについて深く考えすに済んでいた。
大智はスポーツクラスに転入したんだから、スポーツクラスの寮に移るのは正しい。
でも、確かに急な話で驚いたし、大智がすんなり受け入れたことがちょっとだけショックだった。
「来年の新入生のセレクションが始まる関係で寮を使う人数を把握しなきゃいけなかったんだ」
「そっか、キャプテンは大変だな」
「まあな。でも予想してた半分ぐらいの大変さだったよ。央位がごねなかったから」
「ははは……」
つまり武田の心配の半分は央位大智が占めていたことになる。困ったやつだ。
「本当はあの時に話すつもりだったんだけど……佐野にはめちゃくちゃ感謝してるんだ」
「え?」
「佐野と付き合い出してから央位がかなり調子良くてさ。試合には勝つし、央位に刺激されて上達するメンバーもいて」
オレたちが付き合い始めてから、ということは、修学旅行のあとということだ。
夏休み直前の試合ではプロのユースチームに大敗していたが、夏休み以降は調子が良さそうだった。
開久高校サッカー部公式SNSを見て「頑張ってるなあ」と思っていたが、武田が「調子いい」と言うなら相当すごいのだろう。
「偶然だよ」
「いいや、偶然じゃない」
武田が足を止めたので、オレも止まった。
真っ暗になった校舎の横で、武田は確信を持った顔でオレを見た。
「テストが終わってから、あの央位が自主練するようになったんだ」
大智の「サッカーが好き」という気持ちは疑いようのないものだけど、良くも悪くもマイペースで、気が乗らなさそうな顔で練習に向かうこともあった。
「佐野がサッカーの通訳を目指すって言ったからだ」
「え?」
「佐野が通訳になるなら、央位は海外で活躍できる選手にならないといけない。さすがの央位も頑張らないとヤバイと思ったんだろ。寮の移動を了承したのだって、本気でサッカーに向き合おうとしてるからだと思う」
大智がこれから先もオレと一緒にいたいと思ってくれてるなら嬉しいけど、あの央位大智がオレの将来の夢に影響されているなんて信じられなかった。
「そ、そうかなあ?」
「自信持てって」
そう言って武田がオレの頭をポンと撫でた。
こういうところなんだろうな、武田がモテるのは。
周りをよく見て、必要なフォローを入れることができる。
ごめんな、武田。五股かけてるなんて話を信じたりして。
「はは、すげえ睨むじゃん」
「え? 睨んでないぞ?」
「いや、佐野じゃない。校舎の窓に央位が映ってて」
よく見ると武田の視線はオレから少し横にずれていて、校舎の窓を見ているのだとわかった。
その武田の後ろを見ると、大智が不機嫌マックスな表情でこっちを見ていた。
「もっと近付いたら、どうなるんだろ?」
武田は少し屈んで、オレの耳元でそう囁いた。
「大智で遊ぶなよ」
「はは、ぐはっ」
大智が横から肩をぶつけて武田がよろめいた。
「体幹トレーニング増やしたほうがいいんじゃね?」
「お前にトレーニングについて指図されるとはな」
「うるせぇな……監督が呼んでるぞ」
「わかった。じゃあな、佐野。さっきの話、マジだから」
武田がウィンクすると、大智が歯を剥き出しにして睨み付けた。まるで野生動物の威嚇だ。
「朝陽、武田に何を言われたの?」
「なんでもない。武田が大智を揶揄っただけだよ」
「ちゃんと言ってくれないと帰さない」
大智は校舎の壁に手を付いて、オレを両腕の中に閉じ込めた。
おお、これが壁ドンってやつか。
「好き」
「えっ」
外灯に照らされているだけなのに大智が真っ赤になったのがわかった。
「はは、すごい顔! みんなに何かあったってバレるぞ?」
「はあ? 別にバレてもいいし」
「えっ」
「なに、朝陽はオレと付き合ってること隠したいの?」
「そういうわけじゃないけど……」
隠したいのは、そっちじゃないのか?
恋人ごっこをした時は周りに言わないってルールを作っていたじゃないかと指摘すると、大智は「好きなヤツを口説いてることが周りにバレるのはだせえだろ」と言って唇をとがらせた。
「え、オレ、口説かれてたの?」
「そうだよ……あんまこっち見んな」
それは無理な相談だ。
あの大智が顔を隠すほど照れるところなんて、なかなか見られるもんじゃない。
「やばい……」
「何が?」
「キスしたい」
「今?」
「うん」
半分冗談で目を閉じると、唇に柔らかいものが一瞬だけ触れた。
「そろそろサッカー部のヤツが来るから続きは寮に帰ってからにしよう」
「寮ではキスしないぞ」
「このっ、ワガママめ」
大智がきゅっとオレの鼻をつまんだ。
マイペース頑固キング央位大智に「ワガママ」と言わしめたオレって、結構すごいんじゃないか?
