キラメカナイ

涙みたいな恋だった。

流れているときは煌めいているのに
乾いてしまえば煌めきもなくなってしまう。

「最悪な恋愛を経験したことはある?」

拉麺を食べていた手を止めて
目の前の彼女が僕に訊ねてくる。

僕も箸を置いて、コップに注がれた水を飲んで
「あるね、もう思い出したくはないけど」と一言。

「なら、思い出さなくていいね」と軽く微笑んで
彼女はまた、拉麺をずるずると食べ始めてしまった。

思い出した。

今でもふと、蘇ってきては薄れていく記憶の中で
忘れられない人の笑顔が脳裏にこびりついている。

もう今から6年ほど前のこと。

好きで好きで堪らなかったのだけど
離れなければならなくて、別れた人がいた。

父親の仕事関係による引っ越しで
どう足掻いても覆ることのない別れだった。

まだ、その当時はスマホなんて持ってなくて
離れてしまえば、死と同じような感覚があった。

引っ越しの前日、その人は僕の家へ来て
「どうすることもできないもんね」と言い
「別れよう。どうか、元気でいてね」と続けた。

別れたくなかった。別れたくなかったけど。
別れないとその人を苦しませてしまうと思った。

「そうだね、元気でいて」と僕も返して
最後に握手をして、親に写真を撮ってもらった。

「おーい、麺が伸びちゃうぞ」
彼女が手を揺らして僕を見つめている。

「あ、ボーっとしてたわ」と言ってから
僕も箸を掴んで、拉麺をずるずると啜る。

「じゃあさ、最高な恋愛は経験したことある?」
彼女がまた、僕にそんなことを訊いてくるけど。

「ないね、強いて言えば今かな」と誤魔化して
目が合った彼女に軽く微笑んで、拉麺を啜った。

嘘、思い出した。
またあの人のこと。

引っ越しが決まるまで一緒に過ごした時間も
一緒に選択したことも、一緒に笑った記憶すらも
僕にとって最高で、最悪な恋愛だったんだと思う。

車に乗って、引っ越し先へと向かうとき
「またね」とその人が僕に向かって言った。

これまでに見せてくれた笑顔とは違っていて
どこか会えなさを感じ取っている笑顔だった。

頬の辺りが煌めいて見えた。
僕も「またね」と窓から乗り出して手を振る。

それから会うことはなかった。

きっとその人の頬にあった煌めきは涙で
けれどもう、あの頃の煌めきは取り戻せない。

「おーい、またボーっとしてるね」
「てか、泣いてる?何か思い出したのね?」

彼女が心配そうに僕のほうを見ている。
視界が滲んでいて、目が合いそうにない。

彼女の語尾につく「ね」があの人と似ていて
思い出したくないのに、思い出してしまった。