眠れぬ夜は、君のせいにしたいのに


 家に泊まる約束をしたものの、まだ帰るのには時間が早い。どこに行こうかと話し合っていると、正午を知らせるサイレンが鳴り響いた。
 「俺お腹空いたかもー。とりあえず駅前でなんか食べながら、午後から何するか決めようぜ。」
 「それもそうだな」
 昼間の駅前は俺たちと同じく夏休み中の学生たちで溢れかえっており、比較的並ばずに入れそうな中華料理店を選んで入店した。
 仕事の昼休みのサラリーマンたちで賑わう中、2人掛けのテーブル席に通された。
 「俺ラーメンチャーハンセットにしよっかな〜依真は?」
 「俺も同じのでいい」
 「そう?あ、すいませーん」
 注文を伝え、店員がキッチンへ去っていくと陽生はテーブルに肘をついてこちらに身を乗り出した。
 「さっきさ、帰り際!佐伯さんお前にヒソヒソ話してたじゃん?アレなんて言ってたの?」
 「あー…」
 お前のこと助けてやってくれって言われた、とはとても言う気にならず「別に」とはぐらかした。
 「え〜…俺さ、やっぱり引っ越したほうがいいのかな…」
 「まあ、事件が事件だしな。気になるなら引っ越せば良いだろ。」
 「それもそうだけど…佐伯さん、俺に出てってほしいんじゃないかと思って」
 陽生はしょんぼりとした顔で俯いた。
 「何でそう思うんだ?」
 「だって、家の中着いて来てもらったり迷惑かけてる自覚はあったけどさ…
 佐伯さんはあんな事件が隣の部屋であっても気にしないで暮らしてたわけじゃん。
 それなのに突然引っ越して来たやつが怖い怖いって騒いでたら、あまり良い気がしないと思うんだよな…」
 「…俺にはそんなつもりで言ってる様には見えなかったけどな。本気で心配してくれてるんだろ
 」
 「そうかな、なら良いけど…」
 佐伯さんの言葉通り、心の休まる場所が無いのは辛いから、安心して眠れる家に引っ越したほうが陽生自身のためになるという事だと思ったが…意外と陽生は繊細で気にしいなところがあるようだ。
 「引っ越すのは止めない。だけど、それでお前の悩みが解決するとは思えない。」
 「ど、どういうこと?」
 陽生は首を傾げた。
 「お前が言っていた怪奇現象と、あの家で起こった事件には何にも関連性がないだろ。」
 「言われてみれば確かに…」
 「もしかしたら引っ越しても同じかもしれないぞ。引っ越し先の家も怖くなって、今と同じ生活になるかもな」
 「そ、そんなあ…じゃあどうしたら…」
 俺は水の注がれたグラスを手に取り、一口飲んだ。
 「お前自身に、何か心当たりないのか?」
 「え?」
 そこで店員が注文した料理を持って来て、会話が一旦途切れた。
 「…きたきた、ラーメン伸びちまうから先食べようぜ。依真のも美味そうだな」
 陽生は俺の質問も、怖がっていたことも無かったかのように、目の前のラーメンを美味しそうに啜り始めた。
 都合の悪いことをはぐらかされたようにも思えたが、気のせいだろうか。
 しかし俺も腹が減っていたので食事に手をつけ、2人とも食べ終わる頃にはすっかり何の話をしていたかも忘れてしまっていた。
 「依真はさぁ、夏休みなんかやりたいこととかないの?」
 「え…見たい映画が8月にやるけど、それ以外特にないな…強いて言えば7月中に課題終わらせたいくらいかな」
 「確かに、依真って課題終わらすの早そうだな。そうだ!今日これから依真んちで課題やろうぜ。わからないところ教えてくれよ!」
 「ああ、いいけど…お前今課題持ってないだろ、取りに帰るか?」
 俺がそう聞くと、陽生は持ってた鞄から「じゃじゃーん」と誇らしげに課題を取り出した。
 「最初から家でやるつもりないから、常に持ち歩いてたんだ〜」
 「なるほど…陽生は夏休み予定無いのか?実家帰るとか」
 俺が実家のことを聞いた瞬間、陽生の顔が少し曇った様に見えた。
 「あ〜…まだ悩んでるとこ。帰っても2、3日だけかな。
 …それよりさ、俺花火やりたい!手持ちもそうだけど、筒の派手なやつやってみたい!」
 「花火なんて何年もやってないな…そこのショッピングモールなら売ってそうだし、帰る前に寄ってみるか。」
 「え!じゃあさ、家で食べる夕飯とかお菓子も買おうぜ!好きな惣菜とかピザとか買ってさ、パーティーしようぜ!」
 「そうだな」
 俺たちは店を後にし、ショッピングモールで色々買い物して家に着く頃には14時を過ぎていた。


 「ここ、俺の家」
 「おー依真んちデカいな!庭で花火出来るじゃん!」
 「古いだけだ。無駄に広くて掃除が面倒なだけだよ」
 引き戸を開けて靴を脱ぐと、陽生はあちこち興味深そうに視線を泳がせていたが、玄関の棚に飾られた写真立ての前で足を止めた。
 「これ依真のお父さんとお母さん?」
 それは、昨年の俺の誕生日に家族でテーマパークに行った時の写真だった。
 俺の誕生日なのに、父と母はカチューシャの耳をつけてはしゃいでいて、俺はつまんなさそうな顔して真ん中に立っている。
 「なんか依真より陽気な感じで賑やかそう!依真はお母さん似なんだな〜」
 「…誰が根暗だ。両親は海外で仕事してるから、今は家にいない。たまに帰ってくるけどな」
 「えっそうなの?!じゃあ夜中まで騒げるじゃん!」
 「お前…夜更かしするつもりなのか…」
 「当たり前じゃん! ひとりで寝るのが怖いから来たんだもん、起きてる間は楽しくなきゃ損だって」
 陽生は屈託なく笑うと、視線を隣の古い写真に移した。
 小学生の頃剣道の大会で優勝した時に祖母と2人で撮ってもらった写真で、小さい俺が無邪気は笑顔をカメラに向けている。
 「こっちの写真は、ちっちゃい依真とおばあちゃん?てか剣道やってたんだ」
 「あぁ、俺と祖母だ。俺が中学上がる前に亡くなったけどな。それまでは仕事で家を空けてる両親の代わりに俺の面倒見てくれてたんだ。
 剣道は中学の頃までやってた。今はもうやってないけどな」
 「へぇ…おばあちゃん、依真が可愛くて仕方ないって顔してる。優しそうな人だな。」
 「…そうだな」
 陽生の何気ない言葉が、不意に胸の奥の柔らかい部分に触れた気がした。
 「陽生の家は何人家族なんだ」
 「お母さんと二人暮らしだったよ。うちの父親俺が3歳の頃に死んじゃっててさ。お母さんが女で1人で育ててくれたんだよ。…だからあんまり心配かけたくないんだよな」
 陽生は微かに視線を落とした。
 「…親にバレるの嫌がってたのって、だからか」
 「そうそう…まあバレたらそん時はそん時だけどな!ごめんな急に玄関先でこんな話して!」
 しんみりした空気を振り払うように玄関を駆け上がり、急いで冷蔵庫に買って来たものを押し込んだ。

 「2階が俺の部屋だ。適当にくつろいでくれ」
 部屋に入るなり、陽生は大興奮で物色し始めた。
 「待って本棚デカくない?しかもミステリー小説ばっかりじゃん!好きなの?」
 「まあな、父親の影響だけど」
 「だからさっき部屋の事調べる時大学の掲示板見ようって発想になったの?」
 「え?」
 「あれめっちゃ凄いと思ってさ、探偵みたいでかっこいいって思ったんだよ!」
 「そ、そういうわけじゃ…」
 確かに言われるまで気が付かなかったが、学校から陽生を尾行している時や部屋のことを調べる時、少し探偵気分になってはしゃいでいたのかもしれない。
 そんな子供じみた自分が急に恥ずかしくなり、手で口元を覆い顔を背けた。
 「え、依真照れてる?」
 「…照れてない!」
 「照れてる〜!可愛いとこあるじゃん!」
 「しつこいな!さっさと課題やるぞ」
 陽生は「ちぇ」と口を尖らせて、鞄から課題を取り出した。
 10分ほど課題に集中していると、陽生がうつらうつらと頭が揺れているのが視界に入った。
 つい起こしそうになったが、よく考えたら陽生は夜勤明けで朝から俺が無理矢理会う約束したせいでここまで寝ずにいたのだ。眠くて当然だ。
 「陽生、バイト終わってから寝てないだろ。
 俺のベッド使っていいから少し昼寝したらどうだ」
 俺が陽生の肩を叩くと、陽生はビクッと肩を揺らして姿勢を正した。
 「いや!今寝たら花火の時間に起きれる気がしないし、夜依真が寝る時に寝れなくなると困るから。今は何とか起きてたい…」
 「そうか…じゃあ洗面所で顔洗ってこいよ。少しは目も覚めるだろ」
 「そうだな、そうしようかな…」
 陽生は「よいしょ」と立ち上がり、部屋から出ていった。
 俺がまた課題に集中しだしてから3分くらい経った頃、階段をドタドタと駆け上がり部屋に向かってくる音が聞こえ、ドアが勢いよく開き陽生が息を上げて戻って来た。
 「ど、どうした、もうちょっと静かに階段上がれないのか」
 「いや、それはマジでごめん。なんか洗面所で顔洗ってたらさ、玄関の外で物音がして。ビビって走って戻って来ちゃった。」
 「多分配達の人だろ、俺の家に幽霊出たことないぞ。」
 「そうだよな、ごめんごめん。ビビり過ぎたわ…」
 しかしその甲斐あってか、陽生の眠気は完全に覚めたようだった。
 2時間ほど課題に集中したあとは駄弁りながら携帯触ったり、部屋にある推理漫画を読んでゴロゴロしていた。
 気付くと少し陽が傾いており、時計を見ると18時を過ぎていた。
 「腹減ったな、飯食うか」
 「そうだな!その後花火しようぜ〜」
 1階の台所へ向かい、スーパーで買ってきた揚げ物のパックを皿に移していると、冷蔵庫の隅に昨夜作った煮物のタッパーが目に入った。
 一人きりの食事はいつも味気ない。結局、昨日も半分以上残してしまったそれを、なんとなくレンジで温め直して食卓に並べた。
 「え、なにそれ!めっちゃ美味そうなんだけど」
 「昨日の夕飯の残りの煮物。適当に作った残り物だし、お前は買ってきた惣菜食えよ」
 「ヤダ!俺も依真の手料理食べたい!」
 陽生は俺の手から煮物を奪い取り、迷わず箸を伸ばした。
 味の染みた鶏肉を一口食べて、目を見開いた。
 「んっ、これうま!普通に店開けるって!」
 そのまま箸を止めずに、もう一口と急かすように次から次へと煮物を口に運んでいく。
 「大袈裟だって、流石に…」
 「いや、マジだって。毎日こんな美味い飯作って一人で食ってんの?偉すぎるでしょ
 俺なんて毎日カップ麺か外食ばっかだよ?」
 「…別に、普通だって…」
 言いながら、褒めてもらったのに自分でも妙に
 素っ気ない言い方をしてしまったなと思った。
 胸の辺りが、そわそわと落ち着かない。
 褒められ慣れてないわけじゃ無い。成績でも剣道でも、これまで何度も賞賛を浴びてきた。
 それなのに、何故か陽生に褒められると調子が狂ってしまう。
 俺は動揺を隠すように、買ってきた惣菜に手を伸ばした。
 「これまた食べたいな〜」
 また食べたいなんて、これからもうちに食べにくるような言い方に、ピザが喉につかえそうになった。
 「…気が向いたらな」
 俺は無言で惣菜を口に詰め込み、さっさと食べ終えて食器を片付けた。
 (俺は何をこんなに動揺してるんだ…)
 熱くなってしまった顔を、洗い物で冷えた手で冷ましていると陽生が花火を持って近づいてきた。
 目をキラキラさせて、待ちきれない子どもみたいな姿に思わず口元が緩んだ。
 「花火の準備するから、ちょっと座って待っててくれ」
 リビングの横の襖を開け、仏壇の前に置いてある蝋燭とマッチを取ってバケツに水を汲み、玄関へ向かった。
 庭に出ると外はもうすっかり陽が落ちて、スマホの灯りを頼りにマッチを擦って蝋燭を灯した。
 待ちきれずに既に花火セットをバラしていた陽生は、早速一本引き抜いた花火を蝋燭の火にかざした。
 シュッ、と小気味よい音を立てて激しい火花が噴き出す。
 「うわ、すっげ! 見て依真、これめっちゃ光る!」
 「おい、振り回すな。危ないぞ」
 「いいから依真も早く! ほら、火あげるから!」
 急かされるまま、手渡された一本を陽生の花火に重ねた。パチパチと火の粉が爆ぜ、二人の顔を交互に白く照らし出す。
 「依真のやつめっちゃ強いじゃん!俺次それやりたいんだけど!」
 「強いって何だよ…陽生のも色すごい変わるな」
 危ないとわかりつつ、チャンバラみたいなことしたり二本持って振り回してみたり、子供の頃ぶりの花火にはしゃいでいたら、あっという間に花火は残りわずかになってしまった。
 「あと残り線香花火だけだ〜。依真、どっちが長く続くか勝負な!」
 「負ける気がしないな」
 蝋燭を中心に囲み、同時に線香花火に火をつけた。ジリジリと先端の火の玉が膨らみ、次第にパチパチと火花を散らして揺れ始めた。
 「子どもの頃は地味だしつまんないと思ってたけどさ…綺麗だよな、線香花火も」
 「…そうだな」
 返事をしながら、俺の視線は手元の火花から、陽生の顔へと吸い寄せられていた。
 揺れるオレンジ色の灯りに照らされた、長いまつ毛と瞳から目が離せない。

 ーー綺麗だ、と思った。

 心臓の鼓動が、花火の爆ぜる音より大きく響いた。
 (あぁ、俺って、陽生のことが…)

 その瞬間、線香花火がぽとりと落ちた。
 「あっ」
 視線を落とすと、既に両方の花火が消えていた。
 「今の絶対俺の方が長かったよな?!」
 「え?あぁ…」
 「えー?ちゃんと見てなかったの?じゃあ俺の勝ちなー!」
 喜ぶ陽生を横目にバケツと蝋燭を片付けた。
 玄関を開ける前にふと昼間のことを思い出して郵便受けを確認したが、中は空だった。
 (…昼間のは、陽生の気のせいだったのか)

 家の中に入るなり、陽生が自分の服の匂いを嗅いで「めっちゃ火薬臭いかも」と顔を顰めた。
 「風呂沸かしてあるから、先入ってこいよ」
 「え、いいの?じゃあ一番風呂貰っちゃおっかな〜」
 廊下の突き当たりにある洗面所へ案内し、俺は努めて事務的にタオルと着替えを並べた。
 だが、背後では陽生が迷いなく服を脱ぎ始めており、衣類が擦れる音が狭い空間にやけに生々しく響く。
 視界に入れないよう、早々にリビングへ退散しようとしたその時、「ま、待って依真」と裾を掴まれた。
 「なんだよ」
 「いやー、やっぱ風呂場ってちょっと怖いかも…依真も一緒に入らない?」
 「…風呂ぐらい一人で入れよ」
 ついさっき気持ちを自覚してしまった今の俺にとって、それは酷な提案だった。
 さっさと洗面所から出ようとしたら腕を掴まれ、不意に振り返った拍子に陽生の身体を真正面から視界に入れてしまった。
 「頼むよ〜、今日だけだから…」
 潤んだ目で縋るように見つめられ、俺の理性は脆くも崩れ去った。
 「…ったく、わかったよ入れば良いんだろ」
 俺はやけになって、雑に服を脱ぎ捨てて風呂場の扉を乱暴に開けた。
 「うわっ風呂でか!銭湯みたい」
 「流石にそれは盛りすぎだろ」
 「だって洗い場二つあるじゃん!」
 陽生がシャワーを捻ると、足元にかかった冷たい水に驚いて飛び上がった。
 「うわ!冷た!」
 陽生がこちらに近づいてきて、不意に肌と肌が一瞬触れ合った。
 「ちょ、離れろよ」
 「ごめんごめん」
 悪びれもなく笑う声に、自分だけが意識してるのが滑稽に思えてくる。俺は冷水が出ているシャワーを奪い取り、そのまま浴びて頭を冷やした。
 「それ冷たくね?」
 「…暑いから丁度いい」
 ふーん、と言って陽生は身体を洗い、さっさと湯船に浸かった。
 「ふぃ〜…やっぱ広いね、余裕で二人入れるじゃん。依真も一緒に入ろうよ〜」
 「いい、お前一人で入れよ」
 「そういうのつまんないって!いいからいいから」
 結局、陽生に言われるがままに湯船に引き摺り込まれた。確かに普通の風呂よりは広いが、それでも170cm越えた男が二人で入ったら水面下で身体のどこかは常に触れた状態になってしまう。
 「依真何でずっと壁の方見てんの?」
 「別に、何でもない」
 「こっち見てよ」
 不自然に顔を背ける俺を、陽生が覗き込んできた。
 観念して向き直るが、濡れた前髪がぺったりと赤らんだ頬に張り付いている陽生の姿は、まさに目に毒だった。
 「ねぇ、依真って彼女いないの?」
 「…いない、いたこともない」
 「うそだぁ!こんなイケメンなのに?」
 「い、イケメンて…」
 陽生が近づいてきて、ちゃぷちゃぷと水面が揺れる
 「依真ってさ、いつもおでこ出てるじゃん。センターパートっていうの?だから前髪あるの新鮮だな」
 陽生は俺の前髪に手を伸ばして触れた。
 「この髪型も、結構かっこいいよ」
 俺は目を合わせたら気持ちがバレてしまうような気がして、視線を逸らした。
 きっと顔がめちゃくちゃ赤くなってるだろうけど、全部風呂の熱さのせいにしたかった。
 (本当にやばい、このままだと、心臓が)
 頭に血が上って限界が来て、ザバっと浴槽から立ち上がり浴槽から出た。
 「え〜もう上がるの?」
 と後ろから聞こえたが無視して、風呂場から逃げ出した。洗面所で鏡を見ると、本当に茹で蛸のように真っ赤だった。
 (本当にやばい…。このままだと、俺の方がおかしくなる)
 水道を捻り冷たい水を出して何度も顔を洗ったが、一向に治る気配はなかった。

 着替えて髪を乾かしていると、ホカホカと湯気を纏い、もうそのまま寝てしまいそうな顔で陽生が風呂から上がってきた。
 「今寝たら絶対きもちいい…もうこのまま寝たい…」
 「風邪引くから髪は乾かせよ」
 「んー…めんどくさい…依真やって…」
 「はぁ?じゃあ座れ」
 仕方なくドライヤーでうねった癖っ毛を乾かしてやると、いつものふわふわとした髪の毛に戻っていった。
 「もうリビングのソファで寝たい」と愚図る陽生の腕を引っ張って自室に戻り、陽生は俺のベッドに寝かせて俺は床に布団を敷いた。
 電気を消して布団に入ると、陽生はしばらくゴロゴロと寝返りを打ちベットの上からとろんとした熱っぽい眼差しでこちらをじっと見つめていた。
 「…どうした、寝れないのか」
 「んー、あのさ、依真の布団行っていい?」
 「…布団の方が寝やすいならベッドと変わるか?」
 「そうじゃなくて…
 寂しいから依真と寝たいなーって」
 「なっ…」
 俺が動揺して言葉に詰まってるうちに、陽生は俺の布団にするりと潜り込んできた。
 「ちょ、お前…!」
 「うーん、やっぱ男2人で寝るには狭いな〜」
 どうしたって肩がぶつかり、足が触れてしまう。
 陽生がモゾモゾと動くたびに自分と同じシャンプーの香りが鼻を掠め、心臓が破裂しそうになる。
 (こんなに近かったら、陽生に鼓動がバレてしまうかも…)
 俺は多少布団からはみ出してでも距離を置くが、陽生は温もりを求めて近づいてくる。
 「何でそっち行くんだよ〜」
 「男同士でこんなにひっついて寝てたら暑苦しいだろ普通に!」
 「え〜?」
 陽生は眠そうに目を細めて笑った。心臓に悪すぎる。
 「依真、足超冷えてるじゃん。ちゃんと布団被りなよ」
 陽生は俺に掛け布団を掛け直し、自分のホカホカの足を、俺の足に絡めてきた。
 普通男が友達同士でこんな事しないだろ。
 何でこいつはこんなに距離が近いんだ、俺の気も知らないで。
 陽生はもう半分夢の中なのか、俺の腕に額を擦り寄せてくる。
 俺はこのままだと朝まで眠れない。
 「…おい、やっぱりベッドに戻って寝ろ。これじゃ俺が寝付けない」
 「んぅ〜…俺もう寝れそうだったのに…」
 そう言って陽生はさらに足を絡めてきて、陽生の柔らかな前腿が、俺の昂りに触れた。
 その瞬間目が覚めた陽生は「えっ」という顔でこちらを凝視した。
 「い、依真…なんで勃っ…」
 「黙れ」
 俺はそれに腹が立って、陽生を足で蹴って布団の外に押し出した。
 「…ただの生理現象だ、もうさっさと寝ろ」
 「ごめん…でもそんな怒んなくてもいいじゃん…」
 「怒ってない、寝ろ」
 「わ…わかったよ…」
 陽生はおずおずとベッドに戻り、俺に背を向けて布団を被った。