眠れぬ夜は、君のせいにしたいのに



 無垢な天使の翼を手折って、羽をむしり取るならこんな触り心地なのだろうか。

 自分の首を括るためのシーツを裂きながら、ふとそんなことを思った。


 俺は人生で二度「天使」に会ったことがある。
 1人は、俺の全てを肯定する慈愛の眼差しを持っていた。
 2人目は1人目の天使に酷くよく似ていたが、怯えた瞳をしていた。
 家族も、立場も、友人も
 その全てを引き換えにしてでも、自分だけのものにしたかった。
 歪な独占欲に突き動かされ、組み敷いて、鳴かせて、汚してでも手に入れようとした。

 そんな俺に、遂に罰が下ったのだ。

 割いたシーツを捻り、繋ぎ、そうしてできた無機質な白い輪を首にかける。
 柔くて冷たいそれは天使の輪のようにすら思えて、また1人目の彼のことを思い出した。
 泣かせた回数の方が圧倒的に多かったはずなのに。それなのに、意識が遠のくこの瀬戸際でさえ都合よく思い出すのは、俺だけに向けられた陽だまりのような眩しい笑顔ばかりだ。
 あの四角い箱の中、陽だまりのような午後の光の中で彼と触れ合っている時だけは、自分がようやく「人間」になれたような錯覚に浸ることができたんだ。

 全て失って死後行き場すら失った俺に、せめてかつての友人が念仏の一つでも上げてくれたら…そんな、叶いもしない贅沢を願わずにはいられない。
 あいつの事だから、もう俺の事なんかとっくに忘れているだろうが。

 本当に俺は、最後まで自分勝手で救いようがない。

 …もう、疲れた
 望むものを壊すことでしか愛せない、この不自由な欠陥だらけの肉体に縛られ続けるのは。

 視界が白く爆ぜ、肺から酸素が失われていく。
 苦しみと共に、魂を繋ぎ止めていた重い鎖が、音を立てて崩れ落ちていった。

 (あぁ……体が軽い)

 ようやく。
 ようやく、どこにでも行けそうだ。
 あの懐かしい、日の当たる場所へ。
 光の差す、あの子のところへ。