四月になって新生活が始まった。宙には毎日メッセージを送った。ちゃんと連絡を取っていれば疎遠になったりしない。エマとは定期的に連絡を取っているからまだ交流がある。だから、ずっと連絡を取り合っていれば、色壁ホセは永遠だと信じていた。
「サークルはインカレのフットサルサークルと学内の旅行サークルに入ることにしたんだ。あと、ガイダンスで席が隣だった子と仲良くなって、日曜日に一緒に遊びに行くの」
「随分と楽しそうだな」
「うん。そっちは漫画のネタになりそうなことあった?」
「そんなことしてる余裕ない。ダブスクで忙しい」
そんなこと、というフレーズにやたら棘を感じた。穏便に返信しようと思ったら、さらに追撃してきた。
「前々から思ってたけど、こっちが余裕ない時に漫画の話されるのすごいプレッシャー」
この時、リアルで顔を合わせていて、宙が泣きそうな顔をしていたら私は迷わず宙を抱きしめて頑張らなくていいよと言ったと思う。でも、メッセージベースのコミュニケーションでは細かいニュアンスは伝わらず、どんどん悪い方に解釈してしまった。
わざわざ書かなかっただけで、私も楽しいサークルライフへの期待以上に女子大という女社会にちゃんと馴染めるか、いじめられないか。そういう不安があった。ここには宙もエマもいないのだから。結局のところ私にも余裕がなかった。
「何でそう言う言い方するの」
「別に悪口行ってるわけじゃないだろ」
「悪口じゃないけど、きつい」
私と仲良くしてくれるような人は、大体エマみたいに優しくてまともだ。だから、友達との喧嘩の経験はほとんどなかった。ましてや、ラインできつい言葉の応酬なんてしたことがなかった。
「なんで俺のこと悪者にしようとするわけ」
「そんなこと言ってない」
「言ってないにしてもさ、お前泣き虫だし空気読めないしこっちが余裕あるときはいいけど余裕ないときは相手してて疲れる」
宙の言葉は私の逆鱗に触れた。スマホを投げそうになるのは抑えたけれど、返信する手は止められなかった。
「嘘つき。いてくれるだけでいいって言ってくれたじゃん」
嘘つき、とさらに二回追撃した。
「お前、今ここにいないじゃん」
「じゃあどうすればよかったの」
全部捨てて一緒に大阪に行けばよかったの。でも、偏差値が足りないのだからどうやったって無理だ。
「距離を置きたい」
それは事実上の色壁ホセに対する死刑宣告だった。遠距離恋愛で破綻しないために恋人にならないことを選んだのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
「嘘つき。恋愛しなければ関係破綻しないって言ったくせに」
「あんなのほぼ恋愛だろ」
じゃあ、なんでキスしようとしたくせに付き合うとは言わなかったの。適当に遊んで捨てるつもりだったの。そこまで打って、あまりにみじめで全部消した。
「宙は色壁ホセをどうしたいの」
「もう何も考えたくない。疲れた」
終わらせたくないから恋はしない。そう言ったくせに、宙が終わりを選ぶなんてこんなの契約違反だ。
「うそつき」
もう漢字変換する余力すら残っていなかった。
「だいきらい」
勢いのまま、ラインをブロックした。今思えば、あの時の私は頭に血が上っていた。
でも、恋愛か友情かなんて些細な問題だった。どちらにせよ、物理的な距離が離れた状態で心理的な距離まで離れれば、仲直りをするのは至難の業だ。ましてや、まともな仲直りの仕方を私は知らなかったのだから。
この後の私はだいぶ荒れた。宙を忘れるために、インカレの先輩と付き合った。先輩は宙に顔は似ていなかったけれど、カラオケの選曲とか筆跡とかが宙に似ていた。身長もちょうど宙と同じくらいだった。
でも、夏になっても宙のことを忘れられなかった。ずっと、世界なんて滅べばいいと思っていた。色壁ホセは世界が終わるか、どちらかが死ぬまで続くはずだった。ふざけんな死ね、と心の中で何度も毒づいたけれど、私の好きだった宙は死んだのだと思うことにした。
大学近くの商店街の七夕の短冊は誰でも自由に願い事を書いてよかった。母の目に触れる心配は万に一つもない。それどころか、宙を知る人に見られることもない。でも、復縁を願うのは何かに負けた気がして癪だった。
世界が滅ぶこと、私を捨てた宙が不幸になること、私はそのどちらも望まなかった。ただ、もしもこの先何か宙に嫌なことが会った時、あるいはふと思い出した時に、私を捨てたことを「ちょっとだけ後悔してほしい」名前も主語も書かずにそれだけを書いた。
「サークルはインカレのフットサルサークルと学内の旅行サークルに入ることにしたんだ。あと、ガイダンスで席が隣だった子と仲良くなって、日曜日に一緒に遊びに行くの」
「随分と楽しそうだな」
「うん。そっちは漫画のネタになりそうなことあった?」
「そんなことしてる余裕ない。ダブスクで忙しい」
そんなこと、というフレーズにやたら棘を感じた。穏便に返信しようと思ったら、さらに追撃してきた。
「前々から思ってたけど、こっちが余裕ない時に漫画の話されるのすごいプレッシャー」
この時、リアルで顔を合わせていて、宙が泣きそうな顔をしていたら私は迷わず宙を抱きしめて頑張らなくていいよと言ったと思う。でも、メッセージベースのコミュニケーションでは細かいニュアンスは伝わらず、どんどん悪い方に解釈してしまった。
わざわざ書かなかっただけで、私も楽しいサークルライフへの期待以上に女子大という女社会にちゃんと馴染めるか、いじめられないか。そういう不安があった。ここには宙もエマもいないのだから。結局のところ私にも余裕がなかった。
「何でそう言う言い方するの」
「別に悪口行ってるわけじゃないだろ」
「悪口じゃないけど、きつい」
私と仲良くしてくれるような人は、大体エマみたいに優しくてまともだ。だから、友達との喧嘩の経験はほとんどなかった。ましてや、ラインできつい言葉の応酬なんてしたことがなかった。
「なんで俺のこと悪者にしようとするわけ」
「そんなこと言ってない」
「言ってないにしてもさ、お前泣き虫だし空気読めないしこっちが余裕あるときはいいけど余裕ないときは相手してて疲れる」
宙の言葉は私の逆鱗に触れた。スマホを投げそうになるのは抑えたけれど、返信する手は止められなかった。
「嘘つき。いてくれるだけでいいって言ってくれたじゃん」
嘘つき、とさらに二回追撃した。
「お前、今ここにいないじゃん」
「じゃあどうすればよかったの」
全部捨てて一緒に大阪に行けばよかったの。でも、偏差値が足りないのだからどうやったって無理だ。
「距離を置きたい」
それは事実上の色壁ホセに対する死刑宣告だった。遠距離恋愛で破綻しないために恋人にならないことを選んだのに、どうしてそんなことを言うのだろう。
「嘘つき。恋愛しなければ関係破綻しないって言ったくせに」
「あんなのほぼ恋愛だろ」
じゃあ、なんでキスしようとしたくせに付き合うとは言わなかったの。適当に遊んで捨てるつもりだったの。そこまで打って、あまりにみじめで全部消した。
「宙は色壁ホセをどうしたいの」
「もう何も考えたくない。疲れた」
終わらせたくないから恋はしない。そう言ったくせに、宙が終わりを選ぶなんてこんなの契約違反だ。
「うそつき」
もう漢字変換する余力すら残っていなかった。
「だいきらい」
勢いのまま、ラインをブロックした。今思えば、あの時の私は頭に血が上っていた。
でも、恋愛か友情かなんて些細な問題だった。どちらにせよ、物理的な距離が離れた状態で心理的な距離まで離れれば、仲直りをするのは至難の業だ。ましてや、まともな仲直りの仕方を私は知らなかったのだから。
この後の私はだいぶ荒れた。宙を忘れるために、インカレの先輩と付き合った。先輩は宙に顔は似ていなかったけれど、カラオケの選曲とか筆跡とかが宙に似ていた。身長もちょうど宙と同じくらいだった。
でも、夏になっても宙のことを忘れられなかった。ずっと、世界なんて滅べばいいと思っていた。色壁ホセは世界が終わるか、どちらかが死ぬまで続くはずだった。ふざけんな死ね、と心の中で何度も毒づいたけれど、私の好きだった宙は死んだのだと思うことにした。
大学近くの商店街の七夕の短冊は誰でも自由に願い事を書いてよかった。母の目に触れる心配は万に一つもない。それどころか、宙を知る人に見られることもない。でも、復縁を願うのは何かに負けた気がして癪だった。
世界が滅ぶこと、私を捨てた宙が不幸になること、私はそのどちらも望まなかった。ただ、もしもこの先何か宙に嫌なことが会った時、あるいはふと思い出した時に、私を捨てたことを「ちょっとだけ後悔してほしい」名前も主語も書かずにそれだけを書いた。



