ノストラダムスとジュリエット

 エマが部長になって新体制になった漫研の目標は来年度の部員の確保だった。部費が減らされるのは死活問題だ。元より私は漫画が部室にたくさんあるから、それだけの理由で漫研に入った。部費が減って新しい漫画が減ったら新入部員の獲得にも差し障るだろう。
「というわけで、新歓用の作品は一作品でも多い方がいいね! 強制じゃないけど、絵が描けない人とか話を作るのが苦手な人は共作するのもありだと思うから考えてみてね」
 漫画は読む方専門で、話を考えるのは得意ではない。ただ、絵を描くのはそこそこ得意なので、文化祭ではイラストを何枚か提出した。
 エマの呼びかけの後、岩崎に声をかけられた。
「お前どうすんの」
「エマが言うなら描こうかなー、っていってもストーリー考えるセンス全然ないんだよねー。普通に話してても、美和ちゃんの話つまんないとか言われるしさ。ひどくない? って、この話はいいや。岩崎君は?」
「保留。元々漫研入ったのって漫画読めるからで、描く方は興味ねえし。うち今時漫画禁止なんだよ」
「え、うちもおんなじ! 親が漫画に偏見あるしお小遣いも少ないから全然漫画買えないや。てか、よく親漫研入るの許してくれたね。入部するとき文句言われて大変だった!」
「部活はどこか入らないといけないけど、勉強に一番影響でない暇な部活だから幽霊部員って嘘ついてる。部活ある日は図書室で自習してることにしてる」
「うえー、毒親じゃん」
 岩崎が親との関係に悩んでいることを初めて知った。親に隠れて女遊びをする不良の印象だったけれど、親から過度に抑圧されればそうなってしまうのも仕方のないことなのだろう。
「そう。兄貴を見習え勉強しろしか言わねえよあいつら」
 いや、ストーカー見習っちゃだめでしょ。と心の中でひっそり思った。
「わかるわかる。上と比較されるのって、ほんと最悪だよね! うちのお母さんもお姉ちゃんはできるのにどうしてできないのとか言ってくんの!」
 私も美人で要領のいい姉と何かと比較されることが多かった。姉のことは好きだけれど、姉がもっとブスで馬鹿だったらよかったのにと思った回数は数えきれない。親の過干渉にもうんざりしていた。女の子なんだから、としつこく言われることに辟易していた。私たちはここぞとばかりに親の愚痴を言い合った。
「なんか、お前も色々悩んだりするんだな。なんか意外だわ」
「えー、私ってどういうイメージなのよ」
「いつもテンション高い感じでエマに懐いてる妹分」
「もー、否定できないこというのやめてよー」
 岩崎とお互いの家の愚痴を言い合うことも、軽口を叩き合うことも文化祭前には想像がつかなかった。