
気づけば、足が動いていた。
微かに聞こえる
聞きなれた――歓声の方へ。
ゆっくりと歩く。
ふらつきながらも
不思議と足取りは軽い。
広い敷地。
色とりどりのユニフォームが
行き交っている。
立ち止まり、
周囲を見回す。
「おい、廉!Eコート行くぞ!
はぁっ……はぁっ……」
息を切らした廉が走ってきた。
肩が大きく上下している。
「Eコート?」
「急ごう!
とっくに始まってる!」
腕を引かれるようにして
足早に移動する。
着いた頃には、
後半戦となっていた。
どこだ?
――どこにいる?
注意深く、見渡す。
……いない。
あの足音の主が、
見つからない。
グラウンドを走る選手を
一人ずつ追う。
違う。
違う。
いない。
――どこだ?
「選手交代!」
ベンチから声が飛ぶ。
同時に――
タッタッタッ……
軽やかだけど、
踏みしめる音。
――居た!
どこだ!?
振り返る。
1人の選手が
フィールドへ駆け込む。
音の主は
間違いなくそいつだった。
「え……嘘だろ?
ベンチ、だったのか?」
思わず
口をついて出る。
もう、後半も終盤だ。
しかも負け試合じゃないか。
プレーを見る。
やっぱり。
無駄がない。
受ける前の視線。
踏み込み。
力強く切れがある。
……こんな使い方をするなんて。
「……指導者、バカだな。」
自然に出た言葉だった。
その背中から、
目が離せなかった。
残りわずか。
ライン際でボールを受ける。
一瞬、
体を沈める。
内側へ切り込む。
相手が寄る。
そこで、
外へ。
タイミングのいいクロス。
「――うまい!」
いいボールだ。
ゴール前へ味方が飛び込む。
行け!
……外した。
思わず息を止める。
「……は?」
こぼれた声は、
自分でも驚くほど低かった。
まだ終わらない。
アディショナルタイム。
再びボールを受け
今度は中央へ。
切り込む角度が、
鋭い。
スペースが開く。
出せる。
でも――
出さない。
いや、
出せないんだ。
味方の動きが遅い。
パスコースが消える。
潰される。
思わず眉を寄せる。
「何やってんだ。
……ムカつく。」
こんなに見えてるのに。
こんなに動いてるのに。
周りが、
活かせてない。
――ピーッ。
ホイッスルが虚しく響く。
その選手は、
仲間を労う仕草をすると
ベンチへ戻って行った。
背中が、
やけに静かだった。
「お前……怒れよ……。」
胸の奥が、
ざらつく。
もったいない。
その感情が、
はっきりと形になっていた。
「……今、お前、
指導者がバカって言った?」
隣で廉が身を乗り出す。
少し楽しそうな顔。
「涼、いい顔してるじゃん。」
「後半で出てきた選手、
すっげーいいのに。
このチーム、飼い殺してる。」
ムスッとしたまま言う。
「あ、快のことか。」
「――快。」
「さっき言ってた『アイツ』。
それが、快だよ。」
唇を噛む。
「その選手は、
――今のままだと報われない。」
廉が真面目な声になる。
「……うん。快も分かってる。
だけど、アイツ、
必死に抗おうとしてんだよ。」
快の背中に、
もう一度、視線が吸い寄せられる。
「だから俺、いつも応援に来てる。
俺はサッカーできないからな。
でも、
心は親友と共にある!」
廉の目に力が入る。
「――快か……」
名前を、
口の中で転がす。
「なぁ廉、俺さ、
快って選手が気になるんだ。」
廉がニヤッと笑う。
「さすがお目が高いな。
まだしばらくうちにいるだろ?
練習、観に来りゃいーじゃん。」
さっきの背中が焼き付いてる。
静かに歩いていく、
――あの背中。
胸の奥が、またざらつく。
