永遠のワルツ



  ***


「……んっ」
 気がつくと、時斗は自室で眠っていた。見慣れた天井をぼんやりと見て、記憶を辿る。
 曖昧ではあるが、どうやら自力で病院から帰ってきたらしかった。両親は目の前で友人を失った息子のことを思ってか、あえて何も問いただすことなく一人にしてくれているようだった。
(玲人……)
 思い浮かべた人物の笑った顔が鮮明に瞼の裏に映し出される。
 『ずっと一緒に居たい』そう聞こえた言葉とは裏腹に、自殺を計った玲人のことを意図が掴めない。
 いったいどうして、何故、そんなことが頭を巡っていると、コンコンと部屋の扉が叩かれる音がした。
「時斗、目覚めたかしら?」
 心配そうに問いかけてくる母親の声に反応し、返事をする。
「……うん」
「その……玲人くんのお葬式なんだけど、行けそう?」
 葬式という言葉を聞いて、泣き出しそうになる両目を腕で覆い、ゆっくりと呼吸を整えてから言葉を吐く。
「大丈夫……行ってくるよ」
 そう返すと、母親は喪服を用意しておくと言って階段を下りて行った。
 どうやら、自分は長い間の記憶が曖昧になっているらしい。少なくとも、数日は上手く思い出せないほどに。
(玲人……どうして?)
 そう問いかけたくとも、玲人がもう居ないことを知らせるように、数日前に送ったくだらない内容のメッセージに既読が付いていないのを見て、時斗は静かに涙を流した。


 葬式会場にはクラスメイト達や教師達の姿が多々あった。皆、玲人の死因に驚いているばかりで心から悔やんでいる者は親族くらいのように見えた。
 出先に覚えたばかりの作法をなんとかこなし、棺を見つめる。
 玲人の死体は損傷が激しいという理由から棺の小窓は閉じられたままとなっていて、それのせいかまるで今この場に玲人が居ないかのようだった。
(そこにいるのに……)
 そう思いはするも、実際に玲人が居ないことに変わりはなく時斗はたまらない空虚感を抱いた。
 早急に頭を下げて次の人に移ろうとしたところで、漸く一人だけ涙を流している参列者を見つけた。意外にもそれは担任の杉田透だった。
 杉田は、玲人の親族に深々と頭を下げると一通りの礼儀作法を済ませて棺の前へと静かに立ち尽くした。
「どうして……と、聞くのは野暮なのだろうな」
 吐き出された言葉が震えているのが分かる。杉田は頬に涙を伝わせて、玲人の入った棺を見下ろしていた。教え子を自殺で亡くすのはきっと初めてだったのだろう。当たり前だと言えばそうなのだろうが。
「犬飼、お前は成績は申し分ないし、とても良い生徒だったな。だがな……」
 杉田の肩が大きく揺れた。次の瞬間、時斗だけでなくその場に居た参列者であるクラスメイト達も驚くほどの大粒の涙を流して玲人の死を悔やむ杉田の姿が見えた。
「このような最期を、私は認められないよ……っ」
 恐らく、相当に堪えていたのだろう涙は一気に溢れると杉田の顔をぐっしょりと濡らしてその場の誰もが言葉を失っていた。
(杉田先生……)
 そんな姿を見ていると、時斗はやるせない気持ちがどんどんと増幅されていき、なんとなくこれ以上はこの場に居てはいけないと思い、足早に葬式会場を出ていった。
 杉田につられて泣き出すクラスメイト達の波をかき分けて帰路につく。
 残酷なほど美しい夜空を見上げて、ぽつりと呟く。
「玲人……」
 その声は誰にも届くことなく消えていき、時斗は家に着くと、早々にベッドに身を預けた。そして、疲れた身体を沈めて泥のように眠りについた。


  ***


「――と、時斗っ!」
「……んっ」
 聞き馴染みのある声で目を覚ます。
 男にしては少しだけ高く美しい、クリスタルボイスだ。女子が聞いたらそれこそ大いに喜びそうな、そんな声。
「……誰?」
「酷いなぁ……もう忘れちゃったの?」
「……れいと?」
 茶化すような言葉に目を見開いて上体を起こす。
 二度と聞くことのない、聞けないと思っていた声がした先を見やると、そこには学生服姿でいつものように笑う玲人の姿があった。
「どう、して……」
「時斗を迎えに……ね」
「俺を? 迎え? いや、そんなことよりっ!」
 ポリポリと頬を掻く玲人を真っ直ぐに見つめて口を開く。
「どうしてっ、あんなこと……っ!」
「ああ……ビックリさせたよね? ごめんよ」
「ごめんで済むかっ! お前は……死んじゃったんだぞ……っ」
「うん。そうだね」
「そうだね、って……」
「時斗には難しいかもしれないけど、ああしないと俺の願いは叶わなかったんだ」
「願い?」
 そう問うと、玲人はコクリと頷いて見せた。
「俺の願いを叶えるには、身体が邪魔でね……死ぬしかなかったんだ」
「どういう……っていうか、お前本当に玲人なのか? 死んでるなら俺に見えるはずがない……」
 一瞬、都合のいい妄想かと疑い、そう問いかける。すると、玲人は困ったように笑って時斗を見つめて口を開いた。
「驚かせちゃうけど……仕方ないよね」
 そして、そう呟くと同時に目を伏せて自身の身体をなぞった。
「……っ⁉」
 玲人がそうすると、普通だった身体は一瞬で真っ二つに千切れて内臓を垂らしたものへと変わっていった。頭も脳みそがチラつくほど損傷していて、片目はない状態だった。
 血がポタポタと垂れ、強い鉄の臭いが部屋中に充満していく。
「うっ……」
 その光景に、時斗は反射的に口元を押さえると、こみ上げてくる熱をなんとか飲み込んで耐える。
「この通り。俺は電車にひかれて死んだ」
「……っ」
 見たくないのに、嫌でも見てしまう玲人の身体は時斗にとって酷以外の何ものでもない。
 今すぐ元に戻ってくれと願うと、玲人はそれを察したのかスッと先程のように身体をなぞって元の姿へと戻った。
「驚かせてごめんね。でも……これでやっと叶うんだ。俺の願いが」
 じっとりとした声色で言い、玲人はうっとりとした瞳で時斗を見つめた。
「死なないと叶わない願いって、なんなんだよっ!」
 怒りを混ぜ合わせた、自分でもよく分からない言葉を吐き、時斗はキツく玲人を睨む。
 すると、玲人は元に戻したばかりの身体で時斗を優しく抱きしめて、そっと耳元で囁いた。
「これで……ずっと時斗と一緒に居られる」
 それが己の願いなのだと言いたげに、玲人は囁いて時斗のぬくもりを感じる。
「意味……分かんねぇよっ」
「分からなくいいよ。ただの俺のエゴだから」
 玲人の本気の声にじんわりと汗が浮かび上がった。それが首筋を伝う前に舐め取られ、時斗はビクンと肩を揺らす。
「意地悪してごめんね。でも、これが俺の夢みたいなものだったから」
「お前……おかしいよ」
「うん。自覚してる」
 そう言った玲人の顔に文字が浮かび上がった。死人でも読めるのかと少しだけ驚いてから、それ読んでみるとそこには玲人の本音だけが羅列していた。
 【時斗と永遠を共にしたい】
 それだけ書かれた心を読み、時斗は観念するように玲人の身体をそっと抱き返す。
「お前って……いや、なんでもない」
「ふふっ、時斗は話が速くて助かるよ」
 呆れたような声で言う時斗の言葉を聞いて玲人はやんわりと笑うと、幸せそうに伝わってくるぬくもりを感じとっていた。
 その日を境に、玲人との非日常的な生活は始まるのだった。


   ***


 翌朝、時斗はいつもと変わらぬ様子で登校した。
 行きがけに、母親が今日くらいは休んだらどうかと聞いてきたが、大丈夫だと答えて普段通りの通学路へと足を進めた。
 確かに、恋人であり、良き友人であった玲人は死んだ。けれど、自分にだけ姿を見せたそれは今も時斗の隣に立って微笑ましくしているのだ。それを見たら寧ろ家の中に籠っている方が頭がおかしくなるような気がして、心配してくれることには感謝しつつ、いつも通りを装うことにしたのだった。
 学校に着いて、自分のクラスに入ると、中は少しだけ暗く静かに思えた。
 恐らく、玲人の自殺のせいだろう。
 しかし、皆自分なりに気を持ち直して他愛ない話をしては時折笑っている声が聞こえ、時斗はホッと胸を撫で下ろす。
「時斗、おはよう」
 席に着くと、真っ先に声をかけてきたのは幼馴染の高畑光だった。シャツの胸元を大きく開いて着崩し、好物の棒付きキャンディーを舐めながらやって来たその人物は、普段と変わらぬ素振りで挨拶をしてから少しだけ曇った表情をして話しかけてくる。
「その、さ……大丈夫?」
 聞かれて、時斗は一瞬だけポカンと口を開けた。なんのことだろうと思ったからだ。
 けれど、心配そうにこちらを見つめてくる光の丸い瞳を見て、それが何を指した言葉なのかを理解した。
「うん」
 玲人の死に対しての言葉だと思ったと同時にすぐに短い言葉が出てきた。
「そっか」
 それを聞くと、光も一安心したようでキャンディーを咥え込むと、すぐに笑って時斗の頭をくしゃくしゃと撫でた。
 そんな光に子供扱いをするなと言いたくなったが、光の顔を覆うように浮かび上がった文字を見て、そんな気持ちは薄れていった。
 光は本気で心配していたのだと分かり、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。
(玲人は……)
 今も此処に居るのだ、と告げたら光はどんな反応をするだろうか。きっと、余計に心配をかけてしまう気がする。それに、玲人も光には存在を知られたくないのか、どこかムッとした表情をしていてとても言い出せるような雰囲気ではなかった。
「昨日、俺時斗のこと呼び止めたんだよ?」
「そうだったの? 気がつかなかった」
「すごく暗い顔してたから……心配でさ。今日も登校してこないんじゃないかって思ってった」
「ごめん、心配かけて」
「いや、全然。時斗が大丈夫なら、それでいいから」
「ありがとう、光」
 咥えていたキャンディーを取り出して、そう話してきた光に礼を言うと、光はわざと視線を逸らして言いづらそうに話を続けた。
「犬飼……なんで自殺なんかしたんだろうな……」
 そう零し、ハッと目を見開くと光は申し訳なさそうに時斗の顔の前でブンブンと掌を振る。
「ごめん! 無神経過ぎた……」
「大丈夫。気にしてないから」
「本当、ごめん……」
 光なりに玲人のことを考えて、時斗に気を遣っていたのだろうがポロっと出てしまう言葉には仕方がないと思った。
 現に、光以外にも玲人の自殺を不思議がっている者は多い。耳を澄ませれば、どこからかその話題が出ては小さく消えていっている。
 誰もが優等生の犬飼玲人の自殺を謎に思っているのだろう。この調子でいくと、その内根も葉もない噂となりそうだと時斗は思った。
 当事者である玲人はというと、時斗の隣でニコニコと笑みを浮かべていて、なんとも緊張感のない状況に時斗はふぅーと息を吐く。
「そういえばさ、駅前に新しいゲーセンできたの知ってる?」
「そうなの?」
「うん! かなりゲーム数多いらしいよ。今日の帰りにでも行ってみない?」
「いいよ」
 光の提案に二つ返事で返す。すると、隣からひやりとした何かが伝わってきた。
 思わずそちらを見やれば、今までニコニコと笑んでいた玲人が冷たい瞳で光を睨んでいるのが分かった。
 どうしたのかと聞こうとも思ったが、光の手前不審な行動もできないと思い、時斗はジッと玲人を見つめる。
 すると、玲人の顔を覆い隠すように文字が現れ、時斗はそれを目で追っていく。
 【許さない】とだけ書かれた文字を見て、ぞくりと肌が粟立つ。玲人は光に嫉妬しているのだ。玲人亡き今、光は時斗にとって唯一の理解者と言える。恐らく、それが癇に障ったのだろう。
「あー……やっぱり、今日はやめとこうかな」
「えっ? なんで?」
「いや、ちょっとやりたい事があってさ。早めに家帰りたいんだよね」
「やりたい事?」
「……うん」
 玲人から視線を逸らし、光にそう言うと時斗は煮え切らない思いで頷いた。それを見て、光はとても不思議そうにしていたが、すぐににっこりと笑って返事をした。
「分かった。じゃあ、また今度行こう」
 毒気のない笑顔で言い、光はそろそろ開始する授業のために自分の席へと向かった。
「玲人」
 光の背を目で追いながら、小声で玲人を呼ぶ。
「どうして、あんな態度取ったの」
 ぼそぼそと呟けば、玲人はさも当たり前といった様子で時斗の方へ笑みを浮かべた。
「だって、時斗はずっと俺と一緒なんだから……邪魔者はいらないだろう?」
「邪魔者って……光はただの幼馴染だよ?」
「だからこそだよ。近しい間柄だからこそ、油断できない」
「……」
 何が油断できないのか、時斗には皆目見当もつかないが、玲人にとっては重要な問題なのだろう。それほどに、玲人が時斗に向けた想いは強いようだった。
 そんな玲人に溜息を吐き、なるべく周りに不信感を与えない程度に玲人と会話をして一日を過ごす。


「ふぅ~」
 大きく伸びをして、昼を告げる鐘の音を聞く。漸く授業の半分が終わったことに喜びを得ながら、時斗は昼食用に持ってきたパンと飲料を持って屋上へと向かおうとした。
 そこに光がやって来て引き止めるように時斗の腕を掴む。
「昼飯、一緒に食べよう?」
 笑顔で言う光を見て、時斗は目を丸くした。
 光とは幼い頃からの仲ではあるが、昼食に誘われたのは小学校以来初めてだ。
 いつも玲人と一緒に居たせいか、遠慮して声をかけずにいたのだろうか、それは最中ではないが、光から誘ってくるというのは珍しく驚きに目をパチクリとさせてしまう。
「あっ、ダメだった?」
「いや、ダメじゃない……けど」
「なら、一緒に屋上いこ!」
 腕を引かれて、二人で屋上に向かう。
 光のこういった強引な面は昔から変わらない。けれど、そこにはいつも時斗への気遣いがあり、今回も玲人の居ない状況に気を遣っての行為であろうことが分かる。
 それがなんだか無性に嬉しく感じて、時斗は誘われるまま屋上へ向かうと、バン!と開けられた扉を抜けて晴天の広がる屋上で昼食を摂ることにした。
「時斗とご飯食べるの、久しぶりだね」
「そうだね。小っちゃい時はよく一緒に食べてたけど」
「そうそう、時斗いつも食べるの遅いから、遊ぶ時間なくなっちゃってベソかいてたよね」
「そうだったかなぁ」
「そうだよ。時斗、泣き虫だったもん」
「えー」
 そんな他愛ない話をしながら食事をする。数日前の鬱屈した感情がまるで溶けて消えていくかのように楽な気持ちになっていく。
 光は、いつだって時斗の世話を焼くのが好きだった。長男ということもあるのか、そういった扱いに慣れていて、一人っ子の時斗を丁度良く構うのが得意なようだった。
「覚えてる? 時斗、初めての席替えした時に犬飼の隣怖いよ~って言ってたの」
「あー、なんか言ってた気がする……」
「犬飼ってさ、優等生だけどなんか近寄りがたかったっていうか、人を寄せ付けないオーラ? みたいなのあったよね」
「そうだね……」
 言われてみれば、玲人は優等生として有名な反面、時斗以外と親密な会話をしている場面はそうなかったように思えた。それ故に、時斗は一時期クラスメイト達から変わり者として扱われていたくらいほど、玲人には親しい人間と呼べる者はいなかった。
「隣になってみたら、案外普通の奴だったから拍子抜けしたんだよね」
「そうなんだ? なんか、今さらだけどさ……俺ももっと犬飼と話したりしとけば良かったな」
「……」
 空を見上げて言った光はとても悲し気な表情をしていて、時斗は隣に居る玲人の存在が光にも共有できたら良いのに、と静かに思った。
 当の玲人は未だ気に入らないといった様子で光を睨んでいたが、本音を曝け出せるようになった今、再会することができたら何か変わっていたのではないだろうかと思う。
 しかし、それは時斗のエゴにすぎず、玲人が今自分の隣に居ることを明かすことはできなかった。
 そもそも、明かしたところで光が信じてくれるかは微妙なラインだ。
「時斗? どうしたの?」
「えっ……?」
「さっきから俺の顔ジッと見て。なんか付いてる?」
「あっ、いや……ごめん。なんでもない」
「そう? なら、そろそろ戻ろうか」
「うん」
 食べ終えたものたちを片付けて、光と一緒に教室へ戻る。
 道中、玲人は黙ったままひたすら光を睨んでいたがあえて見ないように時斗は視線を逸らして歩みを進めた。


 授業終わりの鐘が鳴る。今日は短縮授業のため、いつもより一時間だけ早く帰宅することができそうだった。
「とーきと」
 教材を鞄に詰めていると、不意に背後から目を覆われて話しかけられる。
「どうしたの? 光」
「あっ、バレた」
 声でバレバレだというのに、光は楽し気に言うと笑って手を離すと時斗を覗き込むように話を始める。
「ねぇねぇ、駅ビルに美味いバーガー屋ができたんだって! 知ってた?」
「知らない。っていうか、今日は用事あるからって言ったよね?」
 ゲームセンタ―に誘ってくれた際に断ったのを思い出して、悪いと思いながらも冷たく言い放つ。
「うん。だからさ、明日行かない?」
「明日?」
 そう聞き返してから玲人を見やる。すると、どういうわけか玲人はニコニコと笑っているだけで、これといって怒っている様子はなかった。
 それを見て安堵すると、時斗はフッと笑って光に返事をする。
「明日ならいいよ。ついでに洋服とかも見に行きたいし」
「んじゃ、決定ね! 俺、あのデッカイバーガー食べちゃお~」
「無理しない程度にね」
「大丈夫。俺の胃袋は底なしだから!」
 そう意気込む光に手を振って、席を立つ。
「それじゃあ、また明日ね」
「うん! またね~」
 元気な声を聞いて、帰路を歩く。周りに人気がないのを確認して、ぼそりと玲人に話しかける。
「玲人……怒ってたの?」
 光に今日ゲームセンターに誘われた時のことを問いかけると、玲人は少しだけ悩んだ末に口を開いた。
「怒ってなどいないよ。ただ……高畑にムカついただけ」
「それを怒ってるって言うんじゃないの」
「べつに、時斗に怒ってるわけじゃないからなぁ」
「光にだって怒らないでほしいよ。アイツは俺のこと気にかけてくれてるんだから」
「……時斗は高畑がそんなに好きなの?」
「はぁ?」
 突然の問いかけに時斗から間の抜けた声が漏れた。何故、そんな話になるのか。
 不思議に思って頭を傾けると、玲人は冷ややかに時斗を見下ろして再度口を開いた。
「ねぇ、答えて……時斗は高畑が好きなの?」
「好きは……好きだけど。でも、この好きは友達としての好きであって……玲人と同じものじゃないよ」
「本当に?」
「嘘吐いてどうなるんだよ」
「だって、時斗はいつも隠すから。俺がどれだけ時斗を想っていても、時斗は自分から俺を好きだなんて言わなかったし」
「それは……俺にだって恥ずかしいって気持ちがあるんだよ」
「俺のこと、好きなのが恥ずかしかったの?」
「いや、そうじゃなくて。言うのがって……なんでそんなややこしくすんの?」
「不安なんだ……時斗が他所を向くのが」
 目を伏せて、そう言った玲人を見て時斗は心底自分は愛されていたのだと実感した。
 けれど、それと光に抱く感情を結びつけるのは違う。
 玲人はただ、嫉妬をしている。それだけだ。だからこそ誤解を解きたいが、これ以上光の話を出すのは悪手だと思い、時斗はそれから話すのを止めた。
 すると、玲人も時斗の気持ちが理解できたのか、それ以上は何も口出しすることなく二人は何事もないまま家へ戻った。
 それからは少しだけ長くなった自分の時間を堪能し、時斗は夕飯と風呂を済ませると自室で本を読んで就寝までの時間を潰していた。
「ねぇ、時斗」
 そんなことをしていると、玲人が読んでいた本を捲る手を遮るように覗き込んで話しかけてくる。
「なに? 今いいところなんだけど」
「たくさん考えたんだだけれど……やっぱり、こんな世界に居るのがいけないと思うんだ」
「……なんの話?」
 あまりにも突拍子のない話をされて、一拍置いてから問いかける。
「こんな世界がダメって話」
「だから、それが意味分かんないんだってば」
「この世界には邪魔が多すぎる。だから……ね?」
 玲人が真っ直ぐに時斗の瞳を捕らえて言う。
「いい所へ行こう? 時斗」
「いい所? 急になに言って……」
 そう返した時、目の前を真白い光が包み、時斗は一瞬だけ目を閉じた。
 そして、再び開くと淡い光の中でこちらに手を伸ばす玲人の姿が見えた。
「行こう……大丈夫、きっと気に入るよ」
 甘い声で誘う玲人に、時斗は固まった身体から無意識に手を伸ばしてそれを掴んでいた。
 しかし、握った手は冷たく、一気に不安な気持ちが押し寄せてくる。それと同時に、助けを求めるかのように頭の中である人物を思い浮かべた。
「あっ……今、余計なこと考えたでしょ。まあ……いいけど」
 玲人がまるでこちらの心を読んだかのように呟く。けれど、多少の面倒臭さといった様子で終わり、握った時斗の手に力を込めて足早に光の中を歩いた。
「どこ、行くの……?」
「とっても素敵なところだよ」
 そう言って、手を引かれるまま時斗は夢遊病者のようにその中を歩くのだった。