だから、恋を教えて



「あと、泣きそうな顔もすげぇ上手かった」
「な……っ」

主人公が涙を我慢するシーンのことを言っているのだろう。あのシーンも俺は気合を入れて描いていた。
困惑している間に柊木はドアを閉めて、俺の腕を掴む。

「座って」
そのままドアを背に座らされた。

「こんな感じか?」
「え、なにが」
「一話目のさ、ふたりが並んで座ったシーンあるじゃん」

柊木の腕が俺の腕にぴったりとくっつく。

「触れた腕から体温が伝わってくるってやつ」
「……ああ」
「こういうの実際に試してみたら、いいインスピレーションになるんじゃない?」

俺としては、それどころじゃない。喉のあたりには柊木の指先の感触が残っていて、やけに熱い。

「なあ、脱いで」
「は?」
「ブレザー着てるとよくわかんねーじゃん。漫画の中でもシャツだったし」

柊木は気だるげに自分のブレザーを脱ぐと、シャツだけになる。ネクタイを緩めながら、小首を傾げた。


「脱がねぇの?」

たったそれだけの仕草が、妙に色っぽくて一瞬も逃さぬように俺は観察した。そうか、色気って特別ななにかをするっていうよりも、表情や仕草から表現すればいいのか。

「それとも俺に脱がされたい?」
「ち、ちが!」
「じっとしてて」

耳元で囁かれるように言われ、柊木が俺のブレザーに手をかける。俺はマネキンにでもなった気分で硬直していた。
ブレザーを脱ぐだけで、シャツ越しにひんやりとした外気を感じる。

「三崎ってネクタイ、いつも上まで締めてて苦しくねーの?」

結び目が緩み、首周りにわずかな隙間ができる。喉を鳴らすことすらためらわれた。
柊木は相変わらずなにを考えているかわからない。光を吸い込む黒い瞳が、じっと俺の動揺を観察しているようだった。


……やばい。この距離、近すぎる。