「そのことはもう断っただろ」
「人形使って構図とか考えるより、俺を使った方がいいと思うんだけど」
「それは、そうかもしれないけど……でも柊木に迷惑かけるわけにはいかないから」
「迷惑じゃないから」
俺の逃げ道を塞ぐようにドアに手をかけ、柊木が顔を近づけてくる。目元に前髪の影が落ちて、薄い唇がわずかに上がった。その姿に生唾をのむ。
……この表情めちゃくちゃ書きたい。
指先が動きそうになり、手をきつく握りしめた。ダメだダメだ。自分を必死に律して、柊木を睨む。流されるわけにはいかない。
「俺に恋を教えてよ」
そんなもの俺が知りたいくらいだ。現実の人間に恋なんてしたことない。ただ俺は、空想上の恋愛を描いているBL漫画家でしかないのだ。
「漫画の手伝いしてあげるからさ。俺と疑似恋愛ごっこしよ」
甘い誘惑は、一気に俺の心をかき乱す。
柊木が手伝ってくれたら、このスランプから抜け出せるかもしれない。
「三崎が一年くらい前に載せてた二ページの漫画、面白かった」
「え? ……まさかSNS遡って読んだ?」
「うん」
「な、なんで!」
ぎょっとして大きな声をあげる。漫画家のリリとしてなら恥ずかしくないけど、三崎理玖として漫画について触れられると恥ずかしくてたまらなくなる。
「なんでって、読んだ方が理解度深まるじゃん」
「柊木はその……抵抗とかないの。男同士の恋愛漫画なのに」
「んー、俺は別に。性別とかそういうの、あんま考えたことねーな」
「そう、なんだ」
秘密がバレた俺にとっては、よかったと思うけれど俺が描いた漫画を読まれたと思うと落ち着かない。柊木はどんな感想を抱いたんだろう。
「俺、漫画の知識とか全然ないけど、三崎の絵って綺麗だなって思った」
柊木の長い指先が俺の首筋にそっと触れる。
「特に喉のあたり」
喉仏をなぞられて、息をのむ。俺が特に好きな部分を当てられたことと、柊木に触れられていることに頭が混乱した。
