だから、恋を教えて



翌日、俺は頭を抱えていた。
結局アイディアは浮かばず、岩井さんにはもう少しだけ待ってほしいとメールを送った。

色気ってなんだ?
ぐるぐると頭の中で考えていると、ふと柊木の顔が浮かぶ。

柊木だったらため息をつくだけで色気を纏っている。だけど、物語の中の色気の演出となると難しい。さらにはそこに胸キュンも必要なのだ。

スマホに思いつく限りのシチュエーションを書き殴る。この中から、漫画に活かすことができそうなものはあるだろうか。

昼休みは柊木と弁当交換をする予定だったけれど、漫画のことを考えたいので断りのメッセージを入れておこう。
昨日連絡先を交換したばかりで、まだスタンプのやり取りしかしていない。

【ごめん、今日の昼は漫画のこと考えたいから、弁当交換はまた違う日でもいい?】

送信すると、すぐに【わかった】と短い返事が来た。

ドタキャンをしてしまったことに申し訳なさを感じながらも、俺は目の前のネームと向き合うために、必死に頭を動かした。

授業に集中できず、気がついたときには放課後だった。
西日が差し込んだ教室で、俺はひとり席に座ってぼんやりとしながらため息をつく。

考えをまとめるために、シチュエーションを書き出した紙を眺める。
案は絞れたものの、まだピンとこない。表現の仕方が悩ましい。

「まだ残ってたんだ」
声がして振り返ると、気だるげに壁に寄りかかっている柊木がいた。

「もう帰るとこだよ」
「それ、アイディア?」
「……ただ頭の中を整理していただけ」

机に置いていた紙をカバンの中に押し込む。根掘り葉掘り聞かれる前に、俺は席を立った。家に帰って何パターンか練らないと。

「なあ、リリ先生」
「……その名前で呼ぶのやめろって。誰かに聞かれたら困る」

万が一廊下に人がいたら最悪だ。


「昨日の話、考えてくれた?」

なんとなく柊木の雰囲気が昨日と違う気がした。普段の憂いを帯びた雰囲気はどこへいったのか、涼やかな双眸が獲物を狙う獣のように、鋭く俺を射抜く。本能的に逃げるべきだと感じた。


「俺に手伝わせてよ」